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ドライブマイカーに見る寝取り ~ 寝取りは正攻法で闘えないバカが頼る戦法

      2022/05/03

ネタバレご免ではあるのですが、ドライブマイカーは「寝取り・寝取られ」をきっちりと描いた作品だと思うのです。
寝取り寝取られについて思ったことを書きます。

まず結論から言いますと、寝取り者と寝取られ者の攻防においては、「寝取る側のほうが有利」だということです。
というか寝取られ者は、寝取られが発覚するまでは、寝取り寝取られの合戦が始まっていることに気付くことすらありません。
しかし、寝取る側は「自分の実力や魅力によって相手は陥落したのだ」と思い込むし、寝取られた側はそんなことを冷静に考えられる精神状態ではなくアイデンティティクライシスを引き起こします。
そんな歪な寝取り寝取られについて、寝取りと寝取られ両方の当事者である自分の考えを書きます。

一言に「寝取り」と言っても、どのようなシチュエーションであるか、また何を目標として寝取るのかによって細分化して語るべきではあるのですが、その多くは「パートナーのいる相手に一発かます」もしくは「短期間の性的もしくは恋愛関係」を指すと思います
ただ、性的な関係を継続させるのではなく、一度限り(もしくは短期的な)の関係に対して使われることが多いように思われます。
相手を、現行のパートナーと別れさせて自分だけに関係を絞らせる場合は「略奪」となるでしょう。
つまり「寝取り」は、「取る」とはいいつつ、すぐに「返す」「手放す」といったリリースするまでの形式も含んでいるように思われます。

ただし、寝取り者が寝取りを行う際に、「略奪」であることを対象者ににおわせながら寝取りの合意を得ることも多い、というのが私の所感です。
つまり、本心では一発(あるいは短期)限りの関係にしようとしているにもかかわらず、「俺の方が幸せにできるぜ」「あいつと一緒にいる将来を想像できっか?」等など、その先も関係を継続させるかのようなスタンスで接するということです。
寝取り者も、自身の目的である一発あるいは短期の関係を申し込んでも、相手が了承しないことをわかっているので、このような策に出ることが多いものと思われます。

ここで、「寝取り者は有利である」という話になるのですが、その最大の理由は、「情報の非対称性」にあります。
多くの被寝取られ者は、意識的にせよ無意識にせよ、現在のパートナーに満足していない状態です。
「特に現在の彼に不満を持っていない」「むしろパートナーとの関係によって幸福感を得ている」状態の人であれば、寝取り者は優位に動けず、ターゲットにはしないでしょう。
もちろん、そういった状態の人を陥落させることにやりがいを見出す人もいなくはないでしょうが、非常に稀ではあるはず。

現行パートナーに不満を持った状態の女性に寝取り者が接触すると、「現在の彼」についての情報を得ていく中で不満も語られるので、女性が理想とするパートナー像の輪郭が浮かび上がっていきます。
「電話で話す機会が少ない」という不満があるのであれば、自分は電話で話す機会を多めにすればよいということがわかる。
「仕事の愚痴が多い」ことに不満があれば、自分は仕事に対して前向きな姿勢を見せることにすればよいということがわかる。
「清潔感に欠け、身だしなみを気にしない」という不満があれば、自分は身だしなみについてこだわりがあることをアピールする。
「家事をあまりやらずずぼらだ」という不満があれば、自分は家事をてきぱきこなすということをアピールする。

女性にとって「理想的」とまではいかなくとも、女性がパートナーに求めることを把握したうえで接することができます。

また、寝取り者は現在のパートナーへの不満を受け止めたり、一緒になって現在のパートナーを批難することで、女性の信頼を得ることができます。
時に、「俺だったらそんな想いさせねぇぜ……」的なことをささやくでしょう。
「彼氏はこうこうこうしてくれたらいいよね」と、彼女が望むような行動を口にすることで、「この人は女心をわかってくれているわ……」と思い込ませることができる。

また、女性が「現在の彼」に対する不満をどこかでこぼすや否や、自分であればそのような不満を抱かせることがないということを暗に伝えたり、もしくは明確に言葉にしたりします。
ここでポイントになるのが、寝取り者は「実際に付き合ったらどうなるか」を示す必要がなく、言葉で「こんなことできるっすよ」と言っておけばいいので、かなり楽です。実行が伴わなくてもよいのですから。
被寝取られ者が抱くパートナーへの不満は「付き合う中で出てくる不満」なわけですが、寝取り者は自分と付き合ったら不満に思われるであろう要素(マイナスになるポイント)を隠した状態で闘えるわけですから、これをフェアな状況と捉えることはできないでしょう。

本来人は、パートナーを探すにあたっては、相手がどんな言葉で何を語るかよりも、実際にどんな行動を取るか見ることで信頼に値するかを判断するはず。
けれどパートナーと離別するかどうかを悩んでいる状態だと、そのような、実際の行動をじっくりと観察するような時間的および心理的な余裕がなかったりするでしょう。
そうなると「言葉だけで判断してしまう」といったことになってしまう。
女性も、すでにパートナーがいる状態に慣れきってしまっていると、「パートナーがいない状態」を想定できない場合があります。
これは非常に寝取りやすい状況です。
パートナーに不満を抱えているけれど、別れを選択できずにいる状態の女性に寝取り者が近づいて上記のようなアプローチを掛けると「渡りに船!」とばかりに乗り込んできてくれるわけですから。

仕事について悩んでいる時なんかでもよくあることですね。
「今の会社への不満」が募り、求人情報なんかを眺めていると、外の会社のいいところばかり目に入ってきますから。
実際に転職してみたら、転職先でも当然嫌なところは見えてくるという。

概してわがままな現代人ですから、何かに対する「期待の水準」は常に高い。
そんなわけで、いつも心のどこかで「渡りに船」を探してしまっている人が多いのかも知れません。
揺れ動きやすい≒安定していない人ほど、何か新しいものに飛びついてしまいがち。
もちろん僕もそうです。僕は卑怯で欲深い。
寝取ろうとする側も、普通に考えたら悪徳とされる行為に手を染めているのだから、やはり何か今の自分にないものを求めている不安定者なのだろうなと思います。

このような寝取り・寝取られの闘いを「フェアなもの」と捉えるのは無理があります。
なぜなら、被寝取られ者の現行パートナーは、闘いが始まっていることにすら気付いていないのですから。(まぁ、そもそもパートナーとの関係を維持するための努力は関係が継続する限り続くという意識を持てていない時点で負けなのかもしれませんが……普段から、相手に不満が生まれないようにする、不満が生じたらそれをすくいとるといった努力は常にしなければならないことなわけですが……)

愚劣な寝取り好きが起こす勘違いの一つに、「俺は別の男から寝取ることに成功しているのだから、そいつよりも方が魅力的なのだ」というものがあります。
ですが、これは多くの場合、誤った認識です。
実際に、それぞれの人間性や、付き合ったときの態度や言動を全てつまびらかにした上で天秤にかけられているわけでもなく、判断をする人間も判断を下すために必要な情報を精査したわけでもないわけですから。
しかし寝取り者は「俺の方が上……寝取りの快楽たまんね~!」と、脳内で快楽物質をドバドバ分泌してしまうという状況です。
歪だ。

・なんで寝取り好きな人がいるか

寝取り好みって、「優越感を得るのが大好き」な人が持ちやすい指向です。
なぜなら、シンプルな話ですが、寝取りに成功したということは、現行のパートナーよりも自分の方が「男として上」と思い込めるからです。
しかし上記してきたように、「寝取り」の作戦は常に有利な状態から始まり、有利な状態で進めることができます。
また、寝取りに失敗したとしても、「もともと勝てる見込みは少なかったのだから仕方がない」と言い訳ができる。
フェアではないこと尽くしの営みですよね。

寝取り好きが愚劣だというのは、フェアではない勝負(勝負と言う言葉もよくないが)であるにもかかわらず、自分が勝利を収めた気になっているからです。
本当に勝利したいのであれば、正々堂々、寝取られ者のパートナーに「お前の女を寝取るぜ」と宣言するなり、寝取られ者に対しても「とりあえずエッチだけさせてほしいから俺の魅力だけ伝えてるけど、本当は酒癖めちゃくちゃ悪いし寝取り好きなだけだし、とりあえず一発限りもしくはセックスに飽きるまでの付き合いで考えてるぜぇ」と欠点も曝け出してアプローチを掛けるべきです。

このように、寝取りは、関係への発展に際し有利な状況からスタートできるわけですが、
「自分が現在の彼よりも魅力で勝っているからこの人は俺に寝取られるのだ」というさもしい勘違いを起こしてしまいます。
そのような勘違いをこじらせてしまっているくらいなので、もともと自分を客観的に見ることができないような、脳みそが機能不全を起こしている輩の好む営みです。
そもそも異性と性愛関係を結ぶことで同性に対し自分を誇示したがるという精神性も、非常に拗くれた顕示欲求を併発していて、けっこう取り返しが付かない状態ですね。
能力が欠如しているものと考えられます。
まぁ、裏でごちょごちょやるのが好きな陰湿人間のやりがたることです。

あと、身近でそのような寝取り寝取られが発生していたり、自分の近親者が(親など)が離別や関係の悪化を隠さないような状態だったことがあると、そのような寝取り寝取られに関する性癖がインストールされがちな気がします。
自分自身の経験も踏まえて考えると、そんな気はします。

ドライブマイカーでの寝取り寝取られについて考えると、「身体の繋がり」を得たことで、自分は現行パートナーを上回ったのだと思い込んでいた人物が、結局のところ、自分は肉体関係は許されたけれども心の繋がりは現行パートナーに勝ることができなかったことに打ちひしがれるといった展開だったと思います。
思います、というのは、そういう解釈でよいかどうかが、あまり説明されないから、僕はそう思うのだよ、としか言いようがないのです。
それがあの映画の面白さだったとも思います。
良い映画です、ドライブマイカー。
恋愛や結婚の関係において、性的な繋がりが最も重要であるかというとそうではないはずですが、やはり、関係性の一つの指標として、性的な繋がり方は大きいです。
相手が性的な関係を許すのは自分だけであって欲しい、自分だけであるはずだと思い込んでいたい。
他者とも交わるのであれば、相手が自分を特別な存在だと思っているかどうか確信が持てなくなってしまう。
それが一番大事ではないけれど、それが失われてしまったら、関係性そのものが、自分が強固で特別だと勝手に思い込んでいただけなのではないかと、これまで一緒に過ごした全ての時間がまやかしだったのではないかと思われてしまう。
つらいことです……。一生立ち直れませんよね。
あの映画では「セックスは他の人間にも開放されたが、もっと深いところでの繋がりはあなただけに開かれていた」という、絶望の向こう側にある一筋の光のような事実と出会ったように思います。

続き→既婚男性と未婚女性の不倫関係あるある

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