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【ルッソ兄弟メジャーデビュー作】ウェルカム・トゥ・コリンウッド【ダメ男版オーシャンズ11】

   

ルッソ兄弟のメジャーデビュー作。
日本ではリリースされていない『Pieces』を映画祭で上映していたところ、ジョージ・クルーニーとスティーブン・ソダーバーグの目に留まり、彼らからお声がかかったのだそうです。
二人の観る目がすごいですね……。

・ストーリーあらすじ
田舎町のコリンウッドで起こる犯罪コメディ映画。
車泥棒で捕まった男が、刑務所の中で終身刑の老人と知り合う。
彼は若い頃にアパートの建造に関わり、宝石の倉庫の隣の部屋の壁を一部もろく作って、宝石泥棒に忍び込めるようにしておいた。
しかし口げんかの末に女房を殺したために終身刑……男にその夢を託した。
男は恋人にその計画を伝え、へそくりを使って車泥棒の罪をかぶってくれる人間を探させる。
しかしみんなが首を縦には振らず、しかしアテは紹介してくれる……ということを繰り返して、やっと身代わりになってくれるものを見つけたが、弁舌の場で圧倒的な棒読み演技を披露し、男の釈放は叶わず。
そのうえ身代わりになろうとした男も収監されてきたので、男は彼をボコボコにする。
男は計画の中身を話してしまうが、身代わり男はそれを聞くと牢を出て行く。
彼はすぐに釈放されることになっていて、それを利用して男から計画を聞き出すために演技をしていた。
釈放された身代わりと、収監されている男の恋人と、身代わりの誘いを受けた男たちで、宝石泥棒をすることに……。

というコメディです。
話が予想外の方向に二転三転していくところは心地よさを覚えます。
メジャーデビュー的な作品ではありますが、この時点で全く無駄のない構成力を獲得しています。
これはほんとにすごいですね……。
ずっとストーリーが展開している。
その中で人物像がずっと露わになり続けている。
もちろん映画には様々な方向性があってしかるべきではありますが、この作品を観たら、ルッソ兄弟が「キャラクターを魅せつつ」「スピードを保ちながらストーリーを展開しつつ」「ユーモアを適量に配分できる」という能力に秀でていることは明らかです。
で、けっこうスピーディに話が進んでいくのに、情報過多にもならず、観た人みんなが同じだけ楽しめる。
話の顛末に至るまで、スキなく面白い。
目的のものは手に入らなかったけど、みんなささやかだけれどしっくりくるものを想定外に得る。
そして↑のあらすじではうまく書けていないと思うのですが、登場人物が全員ちょっとおかしいんです。
キレやすい黒人青年、天涯孤独になった気弱な老父、主人公的な存在として負け続きだったボクサーなど。
ストーリーはこのあと、宝石屋に忍び込んで金庫を破りをするという展開になっていくのですが……これって、誰も職能がないオーシャンズ11じゃねーか(笑)。
いや、特殊なスキルを持った者たちが集まって、一つの大仕事を成功させるというお話は古今東西たくさんあります。
七人の侍はそういった映画でよく引用されたりしますね。
しかしこの映画ですごいのは、泥棒計画に参加する者のなかに、特にこれといってスキルを持っているやつがいないということです。
それどころか全員金なし、人望なし、未来への希望もない……。
DVDに収録されている製作者インタビューで、ソダーバーグは「僕らがオーシャンズ11を作っている間に、彼らはこれを作っていた。僕らは派手な犯罪映画として描き、彼らは労働者階級を描いた。このコントラストが面白い」と語っていました。
ソダーバーグも、なにかの犯罪計画のために人々が結集する話を多く手掛けていますよね……ふしぎ。
映画で犯罪計画や作戦が立てられると、必ず失敗するんですよ。
成功するにしても予想外の事態が起こったりして、それを挽回しながら頑張るんです。
この映画でも失敗や予想外の事態の発生は起こるのですが、全然カッコよくなくてほんとに笑えます。

・クリーブランド愛
ルッソ兄弟はクリーブランドへの撮影にこだわったということ。
そして、その田舎町で撮影をすることは、役者やスタッフの移動・宿泊費や撮影準備をするのにお金がかかるので、本来であれば推奨されないよう。
しかしルッソ兄弟は、自分たちが育った環境で撮影することにこだわったようです。
アメリカ郊外の、観光地でもなく産業もない荒廃した陰鬱な土地で起こる犯罪劇をやりたかったのだとか。
言われてみると、街並みも寂れていて味が出ていますね。
「やりたいことを実現できないのであれば意味がないからね」
と語るソダーバーグさんの顔は爽やかでした。
すごい人っすね……。
のちにルッソ兄弟が監督したシヴィル・ウォーでも、ヒドラの残党住んでいるのはクリーブランドでしたね。

ちなみにこれはわりと大きなニュースですが、ルッソ兄弟がこの後に製作することが決まっている『Cherry(チェリー)』はクリーブランドを舞台にした銀行強盗劇です。
これはフィクションの体裁で書かれているものの、実際にクリーブランド近郊で起こった連続銀行強盗の犯人が獄中で執筆した小説が原作となっているそう。
しかも18年の夏に出版されたばかりの小説です。
執筆中から映画化権の獲得バトルがあったのかも……。
その犯人はイラク戦争出兵での苦悩などもあったそうなので、シリアスな作風になる可能性もありますね。
しかもスパイダーマン役のトム・ホランドが出演することに決まっているそう。すげー。
にしても兄弟、クリーブランド好きすぎでは(笑)。
しかし、自分たちが育った環境を描くことを通じて、アメリカの社会における問題を暴こうとしているのだとも思います。
この映画でもギャグにはなっていますが、社会の底辺がありありと描かれているし。
これからルッソ兄弟がなにをやるのか楽しみ。

全員がごちゃごちゃに意見を出しまくって好き勝手動いて計画が全然上手くいかないところなどは、アベンジャーズたちと同じです。
こうして、大勢の意見がぶつかりまくるお話は、一人ではなく二人で監督しているから上手く描けるのかもしれません。
シリーズでも脚本を手掛けているのは脚本家コンビだし……コンビっていいですね。
ルッソ兄弟は不思議な二人で、ソダーバーグは「実際にはそんなことないはずなんだけど、僕の記憶の中で彼らと接する時はいつも二人一緒だった。それぐらい、二人が離れているところを想像できない」と語っていました。
二人一組、という在り方がそれだけ当たり前になっているんですね……欧米だと、音楽にせよ映画にせよ、がっちりタッグを組む兄弟クリエイターっていますよね。
コーエン兄弟、ダルテンヌ兄弟……すごい。(僕は作品を観ていないけどクエイ兄弟とか)

・後進育成
ソダーバーグは製作に乗り出したことについて「誰かにチャンスを与えたい。自分達が手に入れたものを還元したい」と語っていました。
ルッソ兄弟もエンドゲームの製作が終わった段階で近い発言をしていて、「自分達もソダーバーグとクルーニーに見出してもらったから今がある。これからは自分たちも後進の育成をしていくつもりだ」と語っています。
日本はそういうのあんまりないですよね……。
日本はクリエイターが儲けても限界があるし、あんまり地位が得られないから、後進育成の余裕とかないってことなのかな。

・プチ感想
ボクサーがリンゴを食ってる時に知り合った女の子。
彼女とデートをしていると、リンゴ飴をかじっていて、一緒ににかじるように誘惑してきます。
ハリウッド映画では、リンゴを食っているのは悪い人、というのがあるらしい。
暗号というか。
それは知恵の実食べたせいでエデンの園を追放されたことからくるのでしょうか。
なのでこのシーンはわかりやすく、アダムとイブか。
こういう西洋芸術における暗号をもっと勉強したいっす。

コメディ映画だと思っていたんだけど、アクション映画の棚に入っていたので、「なんだ俺の間違いか」と思っていたのですが、やっぱりコメディでした(笑)。
ツタヤのジャンルわけって雑ですよね……。

 - 映画

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