てやんでい!!こちとら湘南ボーイでい!!

映画音楽本ごはんの話を、面白く書けるようにがんばります

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君たちはどう生きるか考察 Bパート

      2024/03/18

『君たちはどう生きるか』のBパートの考察や解説です。
パート分けは絵コンテに準拠しています。
Aパートはこちらです。

・眞人処置
Bパートは屋敷にお医者さんがきて、眞人を処置するところから始まります。
おばあちゃんたちが廊下をバタバタ歩いて、いろんな仕事をこなしていることがわかります。
汚れたタオルの交換など。
灯火管制のため電灯には遮断幕がかけられており、見送りの際も入り口の電灯には明かりがついていません。
お医者さんの隣に着物の見慣れない女性がいますが、先生の奥方とかではなく看護婦さんであるとのことです。
看護婦さんとわかる格好はしていないもんなんですね…先生の奥方兼看護婦であればそう書き添えられると思うので、普通に看護婦さんであるもよう。

おばあちゃん達が「私たちが代わりばんこで看ますから奥様は休んでください」と言っている台詞が入ります…おばあちゃんたちがそうでも言わなければ、夏子は眞人を付きっきりで看病しようとしていたってことですよね…。
これは心配する気持ちはもちろんですが、後の台詞からもわかるように、眞人を姉である久子からの預かりものとして見ていることの表れだと思われます。

・眞人目覚める
眞人が明け方目を覚まし、ベッドの傍らの椅子にはうたこさん(宮崎さんは絵コンテではおばあちゃん達を「う婆」など、名前の頭文字と「婆」をくっつけた愛称を書き添え提案す)が布団を身体に巻き付けて熟睡しています。
映像からはあんまりわかりませんが、椅子の上で正座して眠りこけているようです…バランス感覚に優れたおばあさんです。
眞人は身体を起こしますが、傷が痛んでしまいます。
眞人は近くに置かれている吸いのみ(水が入ったガラスの急須みたいなやつ)に手を伸ばしながら、窓の外を注視します。
絵コンテによると、どうやら、眞人は青鷺の足音がする前から青鷺を警戒しているようなのでした。
まぁ、直前に、部屋に入り込もうとして人語を話している姿を見ているので無理からぬことではある。
ただ、そんな違和感を覚えているのであれば、青鷺が入り込んできた際に、夏子に青鷺の怪について相談してもよさそうではある…けれど、夏子のことを信用していないので、変なことを話しても取り合ってもらえないだろうと判断しているのかもしれませんね。

その後、眞人の頭上から、屋根の上を青鷺が歩く音がします。
眞人は青鷺がいる位置を、足音の移動に合わせてたどります。
この時の青鷺の足音、めちゃくちゃいいですよね…足と、爪が屋根を少しひっかく音とが合わさって、静謐な初夏の朝と、眞人が覚える緊張感とも相まって、印象的なシーンになっていると思います。
流石宮崎さんです…人の印象に残るシーンを作る名手です。
(初見時には、「こんなことに時間を使わないで早くアクションを見せてくれ、宮崎さん!!!」と思ってしまいましたが…)

やがて青鷺は羽ばたいて屋根を離れますが、眞人の警戒は解けず、窓の外に意識を向け続けます。

・眞人池に向かう
青鷺が眞人の部屋にやって来ないと見たのか、眞人はベッドを抜け出してズボンを履き、物入れから木刀を取り出して外に出ます。
この時、眞人が靴を履くシーンがしっかりと描かれますが、宮崎さんは「主人公が主体的に大きな決断をした時」に、靴を履くシーンを挿入します。
となりのトトロで、めいちゃんがお母さんの病院に向かう時や、千と千尋で千尋が銭婆婆のところに向かうことを決めた時には「靴靴ぅ」と釜ジイの前であたふたするシーンがあります。
主人公が行動を起こす時の象徴として「靴を履く」行為を描いていると思われるため、眞人が木刀を持ってカチコミに行こうとしているのは、眞人にとっての大きな決断になるのでしょう。

眞人が池に向かっていくシーンも、これから何が起ころうとしているのか、観客は緊張しながら見守ることになるので、なんか面白いシーンですよね。

眞人は池のほとりにある大きな石(絵コンテでは「クジラ石」と紹介されています)に上って周囲を見渡します。
すると昇り始めた朝日の方から、バタバタと突進してくる青鷺が見えてくる。
この羽音も荒々しくてよいですね…。
金色の望楼の方角でもあるので、望楼には青鷺にちなんだ設定でも容易されていたのでしょうか…。

・木刀よりも強い青鷺
眞人は突進してきた青鷺に向けて躊躇なく木刀を振り払いますが、青鷺は止まらず、眞人の横を飛んでいきます。
木刀はへし折られ、青鷺は先端部分を加えたまま(得意げな表情とのこと)、旋回して、足で勢いを殺しながら眞人の前までやってきます。(この時の青鷺の足音もいいですよね…じゃぽ、じゃぽ)
眞人は木刀が折れたことも気にせず、青鷺に半分ほどになった木の棒を向けます。(いまや完全に日は昇っている、と絵コンテに書き添えられているので、光の描き方などは変化しているかもしれない)

眞人は「お前はただの青鷺ではないだろう」と挑みかかりますが、青鷺は「小ばかにしたような表情」をしている
青鷺はくわえていた木刀を噛みくだき、舌で口の周りを掃除します。(硬いはずのものが、いとも簡単に壊れてしまうのも昔話の定説ですね)
青鷺は「長い間待ち続けた人があらわれたのかもしれない」と言い、身体を膨らませていく。
それに合わせて、青鷺の口の中から人間の口がちらちらと見えてくる。
青鷺は「母君のもとへご案内しましょうぞ」と告げます。

眞人の背後の木立が揺れるような大きな風が吹き始める。
眞人は虚を突かれたように「母君…?」と繰り返しますが、すぐに正気になり「ふざけるな、母さんは死んだんだ!」と語気を荒げる。

青鷺はぺっと池に唾を吐きながら「死んじゃいませんよ。人間のよくやる手だね」「失礼ながらあなたは母君のご遺体を見ていないでしょう」と告げる。
眞人はこの発言で、母が生きている可能性にすがろうとし始めてしまっている気がします。
また、「遺体を見ていない」ことがおそらく事実なのでしょう。
おそらくですが、勝一は久子の焼死体を確認したが、眞人は「子どもだから」と言う理由で見せてもらえなかったのではないでしょうか。
母の生存の可能性を示されたことと、おそらく自分の弱点である「子ども扱いされていること」を突かれたため、眞人は青鷺のペースに飲まれることになったのだと思います。

そしてさらに「母君はあなたの助けを待っておられますぞ」と、助けを求める母を救えない悪夢にも付け込まれる。
池の鯉たちが「おいでくだされ」と加勢しだしますが、絵コンテによると「のろいを送っている」のだそうです…鯉の呪い、嫌だな…。
そしていつの間にか眞人の足元はカエルだらけになっており、カエルは眞人の身体をよじ登ってきています。
カエルの重みで顔とか服が下がっていく様が妙に生々しくて面白い絵ですね。
眞人はどうしたらよいかわからなくなっていると、遠くから、夏子が呼ぶ声が聞こえてきます。
洋館の方から、夏子とおばあちゃん達がこちらに向かってきている。
夏子はすぐにカブラ矢を構えて放ちます。
(この時、すぐそばに、二の矢を携えたおばあちゃんが待機しています。ずいぶんと手慣れているようですが…この時代において、弓矢を活用する機会ってそんなにあるものでしょうか…実戦慣れ感がすごい…)
矢は青鷺のすぐ手前に落ち、青鷺は大慌てになる。
魚たちも姿を消し、眞人を覆っていたカエルたちも退散していきます。
青鷺は「お待ちしておりますぞ」と言い残して飛び去って行きます。(この時、絵コンテでは「歯は見えない」と書き添えられているため、青鷺のトランスフォームには何かしらの条件があるものと思われます。ただし、おそらくは厳密に決められているのではないのだろうなぁとも思います…(笑))

夏子とおばあちゃん達はずんずんとこちらにやってきますが、この時、キリコさんが珍しく、集団の結構前の方にいるんですよね…何か意味があるような気もするのですが、不明です…。
このシーンは眞人の願望交じりの夢だから、キリコさんが自分を積極的に守ろうとしてくれている妄想が反映されているとか…?

ここまでが「序」パートです。
いわゆる、映画の主人公や舞台の設定を見せて、主人公が「新しい世界」に足を踏み入れるシーンが序パートと破パートの転換点となります。
まぁ、母の死を受け入れられない眞人が、母が生きている、もしくは母にもう一度会える可能性を示唆されて、母への思いを募らせていくといった展開と言えます。
テンポ良く見せたいのであれば、「変な世界」に入るのをこの序パートの終わりに持ってくるべきだよな…とは思っちゃいました。
でもおそらくこの映画は、そういうことをする映画ではないのだろうなと私は合点がいってます。

・眞人気を失う
眞人は気を失い、足が身体を支えることができなくなってしまったように倒れ込みます。
地面に倒れるところまでは描かれませんが、夏子とおばあちゃんが彼のことを抱きとめられる位置にはいないので、倒れたと思われる。
その後。水中を浮遊する眞人のイメージに切り替わります…なんかここのところ、エヴァンゲリオンっぽいですよね…。
この映画では、「エヴァっぽい」と感想を持つ人もけっこういるようです。
エヴァとはもちろん、宮崎さんを敬愛し、親交も深い庵野秀明さんの代表的な作品です。
宮崎さんはエヴァを「見ていない」と言い張っているようなのですが、エヴァのTVシリーズを終えた庵野さんに「お前は休め」と進言したり、エヴァについてちょいちょい発言しているので、見ていないということは考えにくいんですよね…。まぁ、誰かが、「エヴァを見たんですか?」と改めて聞けば答えは出るような気はするのですが…。
主人公があんまり何にもしゃべらなくて、変なトラブルに巻き込まれて、あんまり大人が主人公にとりあってくれなくて、よくわからない展開に突入していくところなどが、まぁ確かにエヴァっぽいのかなと思ったりもします。
あとまぁ、エヴァの作画で腕を振るっていた本田さんが参加しているので、アニメーションの面でエヴァっぽさを感じるのは確かにあるかもしれません。

眞人が水面に浮上してきたところで、眞人が実際にベッドの上で眠っているシーンに切り替わります。
ただ、眞人の顔から水…というか若干粘性がある水分が引いていくし、眞人を引きで映した際には床の上にもその水分が残っていて、少しずつ引いていくような映像になっているので、これが夢か現かわからない変な仕上がりなんですよね…不気味…。

・おまるがあるだに
眞人が目覚めたことを、洗面器の水を取り替えてきたであろうおばあちゃんが気づきます。
眞人はおばあちゃんに「青鷺は?」と聞きますが、「夢でも見なされたか?」との返答。
先ほどまでのシーンが完全に眞人の幻想なのか、それとも近い出来事があり眞人の妄想が混じっているのか、本当に何もなく眞人は寝たっきりだったのか、判別できません。
しかし、おばあちゃん達は眞人を子ども扱いし、話をはぐらかす傾向にあるので、眞人に「何もおかしなことは起こらなかったのだ」と刷り込もうとしているようにも思えます。
また、この時おばあちゃんは、濡れ手ぬぐいを眞人の目を覆うように被せて、眞人がそれをどけておばあちゃんの目を見ようとするような芝居が展開されています。
邪推かもしれませんが、この芝居は、おばあちゃんが良くも悪くも眞人のことを想って「何も見ないでいい」と守ろうとし、眞人はそれを逃れて自分の目で起きていることを確かめたがっているように見えます。
この少し後に、勝一がやってくると、眞人は手ぬぐいで自分の顔を隠すしぐさをするけれど、勝一はそれに構わず手ぬぐいをどけて眞人の顔と傷口を見る芝居が入るので、この「手ぬぐい」を動かすことで登場人物の心理描写をしていることは間違いありません。
手ぬぐいの動きから見ると、勝一は眞人が早く「大人の男」になることを望んではいるけれど、眞人は勝一のような大人にはなりたくなく、手ぬぐい(幼児性)を都合よく使って逃れようとしているといったところなのかなぁ…。
わからないふりとか、ばかなふりをすることって、大人でもありますよね。

おばあちゃんと眞人が話をしていると、勝一が「気が付いたか」と部屋に入ってきます。
勝一が画面の外にいるうちから、勝一の足音が鳴っているので、鑑賞者は自然と勝一が接近してくることを感知できます。

・勝一の話すこと
勝一は顔を隠したがっていた眞人にグイっと近づいて、
「安心しろ、犯人はきっとつかまえてやるからな」
「心配するな、学校なんか行かなくていい」
「300円を寄付したら好調のやつびっくりしていた」
「ろうせろくに授業なんかしていないんだ。勤労奉仕ばかりさ」
「ちょっとハゲが残るかもしれんな…髪を伸ばしていればわからないさ」
「夏子のぐらいが良くないんだ。疲れたんだろう多分。あんまり心配をかけるなよ」
「鉄道がまた止まってしまったんだ。事故ばっかりだ」
と矢継ぎ早にまくしたてていきます。
お金で自分の意見を押し通すことを恥と思わず、校長という子どもから見たら立派な教育者を「やつ」呼ばわりしている父親…。
眞人が顔を隠して勝一に観られることを嫌がっているのに、ぐいっと手ぬぐいをどかして傷口を見る勝一。
眞人はハゲが残るかどうかを気にしてほしいわけではないのに、夏子が具合を悪くしたら「心配をかけるなよ」と眞人に告げる残酷さ。
眞人はおそらく、心配をしてほしがっていたのに、夏子は心配してもらおうとしなくても勝一にこんな風に気遣われている。
眞人は勝一にただ頷きますが、おそらく、勝一にとっての優先順位において、自分が夏子の上に就くことができないと悟ってのことでしょう。

勝一はおばあちゃんに眞人を任せて部屋を去っていきます。
ちなみにこのシーンでも、勝一は腕時計を巻いています。

鉄道が止まってしまったというのは、トラブルが続いてくれるおかげで儲けが出るぜ、って意味なのか、勝一の工場で作る機関車やその部品の質が落ちているせいでトラブルが起きていて参った、という意味なのかわかりかねております…。

・夢だけど、夢じゃなかった
勝一はおばあちゃんに「後を頼みます」と浅めの会釈をして、部屋を後にします。
勝一はおばあちゃんをはじめ、労働者にはそれなりに敬意を払っている人物として描かれているんですよね…。
校長先生のことは見下している感が透けて見えるんですけど、決して人を蔑視しているわけではないようなので、どうにも勝一のことを嫌いになりきれないといった印象を持つ人が多いのではないでしょうか。

勝一が去ると、眞人はベッドを降りて「便所」に行こうとします。
おばあちゃんは「おまるがあるだに」と言いますが、これもやはり、おばあちゃん達が眞人を子ども扱いしていることの表れと考えて間違いないでしょう。
眞人が大人たちの「子ども扱い」から逃れようとしていることは、ここで、先述した芝居に使われた手ぬぐいを自発的に取り去ることからも明らかでしょう。
おまるを使うのも眞人の年齢では屈辱だろうし、多分このおばあちゃんはおまるを使うとしても介助しようとするのではないかと思います。
岡田斗司夫さんがハウルを考察した際、ソフィーがマルクルを子ども扱いしようとして、「成長を阻んでいる」ような振る舞いをしていると指摘していました。
なんとなく、子離れできていない異性親が、子どもを子どものままでいさせようとする動きってあるような気がするんですよね…。
『アナと雪の女王2』でも、マスコットキャラクターのオラフが成長しようとしているのに、アナが子ども扱いをしているようにも見受けたりしました。
こちらは純粋には「子ども」ではありませんが、永遠に人気キャラクターで商売をしていたいディズニーとしては、「純粋無垢」なキャラクターに成長されては困ります。
プーさんやミッキーなど、悪意のないかわいいキャラクターでいてほしいというのが資本主義的営利企業ディズニーの思惑ではあるはず。
でもアナ雪の脚本監督を務めている人物が、けっこうあからさまにアンチディズニーっぽいものをスタンスとしているので、そのような挑戦的とも思えるテーマを盛り込んできていたのだと思われます。

話が逸れました!
眞人は一人でトイレに行くと、トイレの中にある物入れから、夢の中で使った木刀を見つけます。
そのため「やっぱり夢だったか」と思うものの、持ち上げた木刀が崩壊してしまいます。
お掃除に来たおばあちゃんも「不思議なことのある屋敷ですから」と言うだけではぐらかしてしまいます。
眞人もそれ以上追求することをしない。
また、木刀の片づけをおばあちゃんに任せてしまっているあたり、やっぱり眞人はまだ「世話をしてもらうことが当たり前」と考えていて、そこが未熟な印象に繋がるのかなとも思います…。

二人が便所を後にすると、窓の外に青鷺がホバリングする姿が映ります。
ここでは、青鷺が初めて「鷺男」の形態になっているそうです。
しかしシルエットしか見えないので、宮崎さんが「青鷺(鷺男)」の情報を段階的に開示していっていることがわかります。
この男の「得体の知れなさ」を表すための手法なのかもしれないですね。
青鷺のモデルは鈴木敏夫さんであるようなのですが、宮崎さんと鈴木さんのファーストコンタクトもこのようなもので、そもそも鈴木さんはアニメに関心がなかったが、アニメージュ創刊の際に声をかけられて、アニメ好きの女子高生に話を聞きに行ったところ、宮崎さんの名前が挙がったとのことでした。
宮崎さんに話を聞きに行ったものの、なしのつぶてでそっけない態度を取られたので、悔しくて宮崎さんのデスクの横に椅子を置いて数日間張り付いたのだとか。
すると数日後に宮崎さんが鈴木さんに、登場人物の言葉遣いについて質問をし、鈴木さんがそれを答えたことから会話が進むようになり、懐に入っていったのだそうです。
このエピソードは鈴木さんが語ったもので、宮崎さんから見たら最初の鈴木さんがどのように映っていたかはわからないのですが、宮崎さんからしたら鈴木さんは青鷺のようにうさんくさい人物として映っていたのかもしれないですね…。

・運び込まれるキャノピー
眞人たちが屋敷にやってきた際に通った道を、馬と大勢の男たちが何かを運んでくるシーンが挿入されます。
これは戦闘機の風防なのですが、決して重いものではないのに、男が四人がかりでかついで屋敷の男坂を上っていきます。
これは決して傷つけてはいけないものなので、男四人がかりで持っているのだそうです。
屋敷の座敷にずらっとキャノピーが置かれています…座敷は誰も使っていないので、物を保管するのにちょうどよいのでしょう。
これは特に作品の伏線になるようなものではないのですが、宮崎さんが実際に、家に戦闘機のパーツが置かれているのを見たことがあるのだとか。とは言え、なぜ長い時間をかけてこのようなシーンを描く必要があるのかは不明です…。
この絵を、ナウシカが王蟲の抜け殻から目のレンズ部分を拝借してきたシーンに似ているとの指摘が多くあるようです。

勝一は眞人に「見事なものだろう」と自慢げに言い、眞人も「美しいですね」と受けます。
この戦闘機は零戦なので、風立ちぬの主人公二郎が「美しいもの」を作ろうと意図して作り上げたものです。
二郎の志が実現したことと、眞人が「美しさ」をわかる人間であることを描こうとしたのかなと…。

勝一は「夏子の具合が良くないから顔を見せてやれ」と眞人に言い、眞人は浮かない顔で返事だけします。
キャノピーを見ている眞人が目を輝かせているところと対比すると、眞人が落ち込んでいる様子なのは一目瞭然です。
もしかしたら、眞人は父のこの仕事についてもっと話を聞きたかったのかもしれないなぁと…。

勝一は、キャノピーを運んできた職員たちに、一休みしたら工場へ戻るように告げます。
おばあちゃん達がふかし芋とお茶を運んできているので、労いのために振舞われるのでしょう。
夏の炎天下で、結構な距離を歩いてきたと思われる状態なので、ふかし芋はあんまり合わなそうな気がしますが…おそらく、他に提供できる食べ物がないのでしょう。

・おばあちゃんたちとご飯を食べる眞人
なぜかよくわからないのですが、眞人が、おばあちゃん達と一緒に食事を摂っています。
ここでおばあちゃん達が食べているのは、大根をたくさん混ぜた「カラ飯」だそうです。
引きで映したショットでは、台所に大根の葉っぱが置かれていることがわかります。
戦時中、白米が不足していたため、代わりに大根を混ぜるといったことがよくあったそうです。
よりによって味の薄い大根なので、まぁ、決して美味しいものではなかったでしょう…。
眞人はご飯を口に入れると「むっ」とした顔になり、隣にいるおばあちゃんは「眞人さんのお口には合わんでしょう」と言うと、「美味しくない」と口にします。
キリコは「はっきり言っちゃってまぁ」とリアクションしますが、眞人の態度を気にしていない様子。
眞人が洋館で家族と食べているのが、麦を混ぜたご飯なので、あちらの方が上等な食事をしていることがわかります。
これは使用人と家主という上下関係があることを示したものだと思いますが、おばあちゃん達がこういった食べ物の違いを気にしていなさそうなのは、夏子がお腹に赤ちゃんを宿していることや、眞人が育ち盛りなのでいいものを食べるべきだという意識が働いているのかもな、とも思いました。
しかし眞人はそんなおばあちゃん達の想いも露知らず、この後ちょっとした無礼を働きます。

キリコさんは背後で、おじいさんがキセルを吹かしていることに気づき、「煙草あるのかい!?」と尋ねる。
おじいさんは「イタドリの葉だよ。吸うかい」と勧めるが、キリコさんは「毛虫じゃあるまいし」と断ります。
イタドリの葉も、煙草が不足していた戦時中などに吸われていたものなのだそうですが、味がまずいといった記述は特に見当たりません…が、現在吸われていないので、まぁ美味しくはないのでしょう…。
キリコさんが「毛虫じゃあるまいし」と言っているのは、毒蛾の幼虫がイタドリの葉を好んで食すことからでしょう。

食料や嗜好品が不足していることがわかる描写が立て続けに挿入されます。

眞人は汁椀から汁をずずっと吸うと、汁椀をご飯が入ったお茶碗の上に重ねて、膳を持って「ごちそうさま」と言います。
絵コンテによると、隣に座っているあいこさんは「もういいの?」という表情で見送ると書いてあります。
完成版でも確かに、ちょっときょとんとしたような表情をしていましたね。
おそらくここで、眞人はご飯を残していると思われます。
完成版をちょっと頑張って目を凝らして見てみたのですが、この時の眞人の茶碗にご飯が残っているようには描かれていなさそうな感じなんですよね…。
ただ、眞人が「美味しくない」と言った時には、お茶碗にご飯はけっこう多めに残っていたので、そこから席を立つまで数秒しか経っていないので、一気にかっこんだとは考えにくいです。
そのため、おそらく眞人はご飯を残しているっぽいと推測できます。
もしかしたらおばあちゃん達は、眞人のために多めにご飯をよそったりとかしていたかもしれないのに、そんな厚意を眞人はむげにします。。。
しかも、普通にご飯を下げればいいのに、わざわざ汁椀を上に乗せているので、残り物をおばあちゃん達が食べるといったこともできません…。
嗚呼…。

・眞人、自分を責めすぎる
廊下に出た眞人はおばあちゃんに呼び止められ、夏子の具合がよくなく、眞人の顔が見たいとしきりに言っているので見舞うように伝えられます。
眞人は「病気は重いの?」と聞くと、つわりの症状であることと、久子が眞人を身ごもっている時もとても苦しんでいたと教えられます。
完成版ではカットされていますが、これを聞いた眞人は絵コンテでは「ぼくのせいで母さんが苦しんだの」と真剣な表情をし、おばあちゃんが「しかたがないものなんです おかげでこんな立派な息子さんをさずかったんですから…」と返しています。
自分がお腹の中にいた時のことにまで申し訳なさを感じているところ、眞人はけっこう行き過ぎた母思いをしているというか、世界で起きている悪いことがすべて自分のせいであるかのような呵責を抱いていることがわかります。
どこかで書いたような気もしますが、宮崎さん自身、幼い頃は身体が弱く病気がちで、「親に面倒をかけてばかりで申し訳ない」と自分を責めるようなことが多かったと語っています。
眞人にも、こういう自分を責めがちな思考をするところを投影しているのかもしれませんね。

また、おばあちゃんが久子のつわりの具合を知っていることから、久子が出産時は里返りしていたことが推察できます。

・眞人見舞う
眞人が夏子の寝室に見舞に行きます。
おばあちゃんが出迎えてくれて、夏子が眠るベッドまで案内します。
もしかしたら眞人が夏子を見舞いたくなかったのは、父と夏子が同衾している空間に入ることに抵抗があったのかもしれないなと思います…
年頃になると、両親も性行為をしているという事実が、気持ち悪く思えたりすることはないでしょうか…。
まぁそこは明示されていないので邪推ですが、午後九時帰宅後即キッス場面を目撃している眞人が悶々としていたことを考えると、まぁありえなくはないかなぁと思われます。

また、夏子と勝一の寝室がずいぶん長い空間になっていることがわかります。
ベッドがあるだけでなくテーブルやソファーもあり、書斎のような役割も担っていそうです。
位置関係的に、眞人の部屋を入って左手に勉強机がありますが、この机の左側が、両親の寝室のベッドがある壁に面しているというつくりのようです。
この後の話ですが、眞人が弓矢を完成させてから試し打ちをしようとする際、机の左側に向けて、思い直してベッドの方に向けるのは、そのまま左側に矢を放って壁に刺さると、夏子のいる寝室にも大きな音が響くと判断したからだと思われます。(あの時実際には夏子はベッドの上にはいませんが)

眞人の部屋とは違い重厚感のある室内。
奥の方でつわりに苦しみながら眠る夏子。
ベッドの側、父の上着がかかっている後ろに、弦を張ったままの弓と矢筒があるのを見つけて眞人ははっとします。
このようにベッドのすぐそばにこの弓矢を置いているのは、これがお守りのような役割を持っているからなのかなと思います。
これがあるため、眞人は、先日発生した出来事が現実だったのではないかとの思いを深めるわけですね。

眞人が夏子のベッドに近寄ると、夏子は寝たまま手を伸ばして、眞人の頭部の傷を撫でます。
(夏子の腕、長くないか…? と思いますが、そこは突っ込みません)
眞人は驚いたような、やや警戒しているような表情をしているように思います…絵コンテには、眞人の心情がどのようなものなのか記載がありません…。
夏子は手を下ろして、「ごめんなさいね、こんな傷をつけてしまって お姉さまに申し訳がにないわ」と泣き出します。
おばあちゃんが「お体にさわります」と言い夏子を気遣いますが、眞人はその言葉には反応せず、「はやくよくなってください」と告げて立ち去っていきます。
このシーンでの眞人の心情の動きがいまいちわかりません…。
夏子が眞人に触れる時、「指輪を付けている」と指示が描かれていることから、夏子が眞人に「左手で触れる」ことがそこそこ大事な要素なのだろうとは思うのですが…。
夏子が第一に、自分の傷のことを心配してくれていることに驚いているのかな…。
夏子が「お姉さまに申し訳がない」と話していることから、夏子もまだ新しいお母さんというより、継母であり叔母であるとの意識が強くあることがわかりますが、それは眞人が壁を作っているからでもあるはずなんですよね…。
また、夏子がどこまでを知っているかはわかりませんが、眞人が傷を負った責任の一端が自分にあると思い、気に病んでいることがわかります。
なので、夏子はもしかしたら眞人の傷が自傷行為であることにも気づいているかもしれない。
眞人もおそらく本心では、自傷行為であることを知ってほしいと願っているはず。(自傷行為はすべからくそのようなものであると私は思う)
眞人は夏子の言葉から、夏子が自傷に気づいているかもしれないと気づいた可能性があります。
けど芝居の順序的に、眞人は夏子に触れられた時点で「はっ」て顔をしているので、眞人の「はっ」は、夏子タッチに起因しているんですよね。
触れ方が優しいとか、母さんに似ているとか、そんな想いがあったんでしょうか…。
耳の近くを触られるのってくすぐったいし、本来であれば、嫌がったりしてよさそうなんですよね。
でも夏子がゆっくりと触れるように描写されているけど、眞人はそれを避けようともしていないんですよね。
だから多分、好意的な感情を持って受け入れたのだと私は思います。
全然考察できなくて申し訳ない…。

・煙草パクリ眞人
眞人は寝室を去る際、さりげない動きでテーブルから煙草を一箱拝借します。
眞人が非行に走っちゃう…! と心配した方も多いのではないでしょうか。
このシーンで、眞人は部屋に入ってきた時に煙草を探すような仕草はしていなかったので、どこでこの「煙草パクリ」を思いついたのかがわからないんですよね。

直前のシーンで、キリコさんとおじいちゃんが本物の煙草を欲していることがわかるので、彼らと何かしらの交渉をする際に使えると判断していた可能性はあります。
ただ、眞人が「弓矢が欲しい」と考えるのは、この場面で夏子の弓矢を見かけたからだと思うんですよね。(そう考えると、夏子が弓矢を側に置いているのは、眞人が持ち出して使うことを危惧したからという可能性もあるかも)
まぁ、弓矢を手に入れるために煙草が何かしらの交渉に使えるかもな、ととっさに判断して盗んだといったところなのでしょうか。

ただ、おばあちゃんに「つわりで夏子が苦しんでいるから見舞ってやれ」と言われたのはお昼時だと思うのですが、眞人が実際に見舞にやってきたのは夕方になってからなんですよね。
なので眞人は煙草を盗むためには寝室に入る必要がある、寝室に入る口実として見舞に行こう…と計画した可能性があるかもな、とも思います。
ところで昔話では、主人公は結末に向けて正しい行動を取ることが多いです。
なので、眞人がここで煙草をくすねたことが、武器作成に繋がることを、眞人はこの時に意識していない可能性があります。
ただ、持っていたものや入手したアイテムが、主人公に有利に働くことは昔話において当然の法則です。

あと気になるのは、勝一が、妊婦である夏子と共有している寝室に煙草を置いているということ。
灰皿に吸い殻があったかは私は確認できていませんが、おばあちゃんが看病をしているので、勝一が夜間に吸っていたとしても、このシーンではおばあちゃんが片付けた後でしょう。
つまり、身重(しかもつわりで苦しんでいる)の夏子に副流煙を吸わせとるやん…というのが懸念事項です。
妊婦さんの前で煙草吸ったらいかんぞ、という現在では常識とされている情報は、この当時にはなかったものなんだろうか……そんなことないよな……。
前作『風立ちぬ』でも、めちゃくちゃ体調が悪い婚約者の菜穂子のすぐそばで二郎が煙草を吸うシーンがありましたが、同様に、勝一は煙草を吸っているのでしょう。
夏子が「勝一さんが側にいてくれなきゃあイヤぁん…💖」とか言っているところが私には想像できないのですが、まぁ普通に勝一が配慮なく寝しなや起床時にスパスパ吸ってるんだろうなぁというのが私の推察です。

・ホバリング青鷺に馬鹿にされる
眞人が寝室を出て自室に向かおうとしていると、背後に気配があり、振り返ると窓の外で青鷺がほばりんぐしています。
この時、青鷺は半分中身のおじさんを露出しています。
眞人は小さなナイフをポケットから取り出し(肥後の守りというものです)、青鷺に向けます。
この時肥後の守りがアップで映されますが、刃は刃こぼれでギザギザしており、黒い錆もついています。
青鷺はそれを見て余裕しゃくしゃくといった感じで、「おまちしておりますぞ」と笑いながら飛び去って行きます。
おそらく眞人も肥後の守りを日ごろから携帯していたわけではなく、青鷺に木刀が通用しなかったことからぽっけに忍ばせていたのではないでしょうか。
しかしここで、肥後の守りも青鷺には効果がなさそうであることがわかる。
なのでこの次の、武器づくりのシーンに繋がるのかなという気がします。

・キリコ視点
屋敷の引きでのショットから、キリコさんが洗濯物を干しているところが映ります。
これはキリコさんがみんなの洗濯物を干してあげているのではなく、「自分のおこしを割り込ませた」ところなのだそうです。
おこしは着物のパーツですね。
つまり、細かいところですが、キリコさんがめんどくさがりで小ずるい性分だということが表現されています。
また、キリコさんのそばにニワトリが放し飼いにされている点にも注目です。
眞人は、矢羽根を作ろうと思えば、このニワトリの羽を収集することもできたのではないかと思われるためです。

庭を歩いていると、キリコさんは眞人がおじいさんに肥後の守りの研ぎ方を習っているところを目撃します。
研石に水を垂らして研ぐことを眞人が教わっています。
別のエントリでも書きましたが、眞人がここで「仕事」を自発的に覚え始めていることは注目すべき点ですし、ここで水を使って刃物への負担を減らす技法が描かれていることと、後にインコが包丁を研ぐ際に火花を散らせながらゴリゴリと研いでいるシーンは対比になっていると思います。
詳細は別項に書いたのでよければ読んでください。

おじいさんは耳にかけていた煙草に火をつけて吸い出します。
それを見たキリコは、「うまくたらしこんじまって!」とうらやましがる。
眞人がおじいさんに煙草をあげたと見抜いているようです。

ここなのですが、眞人が煙草という対価を払わないと、肥後の守りの研ぎ方を教えてもらえないであろうとキリコが認識しているから、煙草を吸っているのを見て、眞人が入手経路だと判断できたのだと思うんですよね。
つまり、おそらく、眞人が何も持たずに刃物の研ぎ方を教えてもらおうとしても、「坊ちゃんにはまだ早いです」「刃物を持つのは危険です」などと言われてしまったのではないかと思うんですよね。
眞人もそれを見越して、煙草という対価を用意していたのではないかと思います。
私はそういった点から、眞人は大人たちの子ども扱いを逃れようとしているのではないかと推察します。

・眞人夏休みの工作
研がれてピカピカになった肥後の守りで、竹のバリを取る手がアップになります。
絵コンテでは「3回はよく切れる」とあるので、研がなければすぐに刃物がダメになることについて意識的に演出されていることがよくわかります。

眞人が竹に弦を張り、石の上にくぎを置いてトンカチで叩いて頭を取るシーンが続きます。
絵コンテでは、一度叩かれるごとにくぎがどのように変形していくかが指定されているのですが、なんか夏休みの工作みたいでワクワクしますよね…。
釘の跡が石に付く絵がめっちゃ好きです。
石にそんな跡がつくのを見たのなんて、もう何十年前だろうと思うのですが、70代後半になっても自然のそんな情景を描けるなんて宮崎さんはすごいですよね…。

眞人は矢は放ちますが、ひゅるんひゅるんと勢いを失っていく
絵コンテでは、矢が当たらなくともがっかりしないと書き添えられているのですが、徐々にうまくいくよう仕上げていけばよいと考えることができているということっぽいですね。
子どもながら冷静で真面目です、眞人…。

・たらしこみキリコ
眞人がそうしているところにキリコがやってきて、眞人をたらしこもうとします。
眞人はつれない様子ですが、キリコは眞人ぐらいの人に向いた立派な弓があることを告げます。
キリコは「こっそりならわかりゃしませんよ」と畳みかける。
眞人は「たばこ?」と条件を確認し、キリコが「ひかり一箱」と提示します。
眞人は「みんなじいにやった」と告げてキリコに背を向けます。
キリコは「あんなもうろくじじいに!」と言います…キリコももうろくしてるように見えますが…。
完成版ではキリコが諦め悪く「ぼっちゃん!」と呼び止めるシーンで終わっていますが、絵コンテでは、この直後に「誰にも見られなかったしょうね」と言うキリコが眞人と一緒に、階段で御殿に上がっていくカットが描かれています。
眞人が初めて屋敷に来た時、夏子と二人で下った階段と思われます。
キリコがいう「眞人ぐらいの人向けの弓矢」は、夏子の部屋からパクッてくるのかと思っていたのですが、それとは別に存在していたっぽいな…と思ったりします。
実際に没になったシーンが採用されていたら、作品の展開がだいぶ違ったものになっていたのだろうなと思わされますね。
宮崎さんの頭の中には、没にしたシーンが大量に詰まっているんでしょうね。

・青鷺の羽ゲット
眞人は矢を構えたままの姿勢で池に行き、くじら石に上って青鷺の姿を探します。
いないことがわかるとくじら石から降りて、草むらの中から青鷺の羽を2枚拾います。
相当近距離まで接近しないと効果を成さないことを知っていて矢を構えているのは、せめてポーズはしっかり取ろうという虚勢なのでしょうか…。
絵コンテによると、眞人はシーン開始時にコテージの陰から顔を出す時点で青鷺を警戒しており、池のほとりまで行った時点ですぐに地面に視線を落としているので、もともと青鷺の羽が落ちていないか探しに行くことが目的だったのかなと思われます。
もちろん矢羽根にするために必要としていたのではないかと思うのですが、

ただ、少し前に書いたように、屋敷ではニワトリが飼われていることがわざわざ描かれています。
このため、やろうと思えば、ニワトリの羽根を集めて矢羽根にすることもできたと思われます。
ネットでささっと調べた限りでは、矢羽根に使われるのはキジ・ワシ・タカといった鳥類の羽根であるもようです。
羽根が長い方がいいだろうし、飛行する能力に長けている鳥のほうがなんかよさそうな気がします。
ただ、やろうと思えばニワトリの羽根を複数使うことで、矢羽根の機能は果たしそうだと思うんですよね…。
しかも、眞人が青鷺の羽を回収しに行く際、だいぶ警戒していることが描かれているので、眞人自身青鷺に接近することが危険だということは重々理解しているはず。
そんなリスクを冒してでも青鷺の羽を欲するあたり、眞人は矢羽根は青鷺の羽でなければならないと確信しているかのようです。

めっちゃくちゃ曖昧な記憶ではあるのですが、昔話では、物事が起こる因果関係として、原因があって結果が起こるのではなく、結果が先にあり原因が後に来ることが許容されるといった話があったと思うんですよね…。
この後のシーンで、青鷺が「なぜ風切りの7番が弱点だと知っていたのか」と問うと、眞人は「今お前が教えてくれたんだ」と答えます。
どう考えても時間軸がおかしいです。
なので、眞人はこの後に「青鷺は風切りの7番が弱点」という情報を得たはずなのに、弓矢を制作している時点で風切りの7番をリスクを冒してでも使おうとしているので、因果関係が崩れています。
しかしそれは昔話なので許容されることなのでしょう。
そして宮崎さんが、こんなにもわかりやすく、そんな法則を引用していることは、やはりこの作品の特徴の一つだと思います。

・青鷺の羽を使う
眞人は自室に戻って、青鷺の羽を肥後の守りで削り取ります。
この後、手でつまんだ米を口に運んで租借し、矢に羽を接着させるために使うのですが、ちゃんと青鷺の羽を触った後には手を洗ったのでしょうか…野鳥の雑菌の保有数を舐めたらいけないと思います…お腹悪くするぞ眞人…。

眞人は接着剤を探しに、階下の食堂に向かいます。
この時の仕草として、絵コンテには「子どもらしいせっかちさ 眞人には珍しい」「椅子に触れたりして、今までになく明るい」と指示が描かれています。
弓矢が完成しそうなので、ワクワクしているんですかね。
ただ、食堂の椅子に触るといった仕草があったかは記憶にないので、今度見るときに注目してみるようにします。
この後のシーンで矢を放った後「マヒト微笑む」といった指示が絵コンテにありますが、、完成版ではそういった表情をしていなかったので、完成版では弓矢作成にワクワクするといった演出にはなっていない可能性もあります。

・夏子が森の中へ
食堂から自室に戻ろうとすると、窓の外に夏子の姿が見えます。
夏子はゆらゆらとした足取りで、庭の隅の木立の切れ目に入っていきます。
眞人が見舞をしてからどれほどの日数が経過したかはわかりませんが、おそらく翌日とかそのあたりかなと。
なのにもう歩けるようになっていて、しかもおばあちゃんが一緒にいないとなると、心配な状況ではある。
しかし眞人はちょっと見送りはするものの、結局自室に帰っていきます。
絵コンテによると、「眞人は夏子への感情移入を拒んでいる」とのことです。

・弓矢完成
眞人はご飯を口で噛んで粘着力を持たせ、青鷺の羽を矢に挟み込みます。
絵コンテによると、この時矢の重しに使われているのが、君たちはどう生きるかの初版本とのことです…完成版でどうなっていたのか未確認なので、今度の鑑賞時に確認します。

矢が完成し、一度引く真似をして、向きを変える芝居が入ります。
この時、最初に矢を向けていたのが、夏子と勝一の寝室に面している壁だったので、向きを変えたのだと思われます。
壁の厚みはわかりませんが、矢が刺さってしまっては、向こうの部屋まで貫通する可能性がありますからね…。

弓を構え直した眞人ですが、矢につけた青鷺の羽根がざわざわとうごめきだして、眞人の手から勝手に離れます。
ここからものすごいアニメーションで矢を追うカメラワークになり、向こう側の壁に突き刺さります。
はっきりとは見えないと思うのですが、一度床すれすれまで下降し、そこから一気にベッドの上まで上昇して壁に突き刺さるという飛行経路になっているようです。
普通の飛び方ではない。
また、ここはもののけ姫でアシタカが放った矢を追う名シーンがありますが、そこに似ていることが多く指摘されていますね。
もののけのアニメーションって、アニメーションでしかできない映像ですごいですよね…アクション映画にCGが普通に用いられるようになってから、マーベルなんかでも飛んでいく武器視点の映像はよく見られるようになりましたが、宮崎さんはそういう映像の先駆けだったのでは…。

矢が壁に突き刺さると、眞人はちょっと驚きながら矢を回収に行きますが、絵コンテでは「この映画はじめての眞人の笑顔」と書き添えられています。
しかし完成版では、眞人はここで笑顔になっていなかったと思うんですよね…記憶違いかもしれませんが。
ただ、私の記憶だと、眞人が笑顔になるのは「ワラワラが昇っていくのを見送るとき」だったので、眞人の笑顔の希少性を高めるためにここでの笑顔はカットされた可能性があると思います。
また、弓矢制作過程が全体的に絵コンテと完成版に演出の相違があるっぽいんですよね。
なので眞人が淡々と職人的に弓矢を作っているってニュアンスが強まっているように思います。

あ、あと、眞人が心を開くのが、この後に来る君どう読書による影響だという見方ができるように演出を変えているって可能性もけっこうあると思います。

・君どうを読む眞人
回収した矢を手に机まで戻ってくる眞人。
絵コンテでは「片膝を椅子に乗せて半座りのまま矢の先を直しにかかる」とありますが、完成版では普通に座っています。
この変化が、眞人が落ち着いた少年であることを崩さないようにしたのか、眞人が弓矢制作に高揚しているという描き方を止めたためなのかは不明です。

眞人は釘をくくるエナメル線を取ろうとして、力を込めすぎて机の上に重ねた本の山を崩してしまいます。

机の横に落ちた本を、眞人は椅子から下りずに拾っていきます。
絵コンテでは「拾いたくない」から椅子から下りないと書き添えられていて、眞人は嫌そうな顔をしています。
完成版では嫌そうな顔はしていないものの、椅子から下りないまま本を拾う芝居は残っています。

眞人が拾う本に『黄金の鹿王』というものがありますが、実在しない書籍であるようです。
表紙のデザインもしっかりされているのですが…。
ここも、『君たちはどう生きるか』と実在の本を出しているのだし、何か出版時期が近い別の本にすればいいと思うのですが、実在しないものと選んでいるのが気になります。
それこそこの直後には、母がメモを書いた明確な時期も書かれているわけですし、実在するもので統一した方がいいはず。
ここで敢えて実在しない書籍を映したのは、「いつ・どこで・だれが」が特定的ないという昔話の特性を残そうとしたからではないかと思います。
やはり私にはこの作品が、意図的に「伝説」と「昔話」という相反する物語の特性を折衷させているように思えます。

眞人は『黄金の鹿王』の下にあった本が開かれた状態になっていて、空白のページに「大きくなった眞人君へ 母 昭和十二年 秋」と書かれているのを見つけます。
このメモが残された時期については別のエントリで考察していますが、出版されたのが昭和十二年の夏なので、久子は出版されてからすぐにこれを読み、眞人のためのメモを残していたことがわかります。
昭和十二年は、眞人が五歳ぐらいの年齢なので、君どうを読ませるにはまだ早いと判断したっぽい感じですね。

ただ、この本の出どころがよくわからないんですよね…。
完成版では残っていませんが、企画構想時は、眞人がいる部屋が確か大叔父の部屋で、大叔父の図書室が隣の部屋だったので本をよく読むようになったといった設定になっていたようです。
また、久子が眞人出産時には里帰りしていたことは確実ですが、夏子が「赤ちゃんの時に眞人にお目にかかった」と言っていることから、久子もそれ以降夏子に会っていない可能性が高く、つまり久子は眞人出産以降は屋敷に帰ってきていない可能性が高いです。
つまり、久子がこの屋敷に眞人へのメモを書き込んだ君どうを置きにくることはできない。
なので、眞人が東京からこの屋敷に持ってきた可能性が濃厚かなという気はします。
しかし疎開先に、数ある本の中からこれまで読んだことがないこの本をたまたま持ってくるのかなー…とは思います。
まぁ、たまたまメモが入っているページが開いているという偶然も発生確率は低いし、昔話の主人公が「その時に必要なものが手に入る」法則が働いたと考えるべきかなと思います。

他のページで考察した内容ですが、こんなメッセージを残していることからも、ひさこは自分の死を予期していた可能性があると思います。
本が出版されたのが、この映画の物語が始まる5年ほど前のことなので、眞人は既に誕生している。
なのでおそらく、この本は眞人が東京から持って来たモノなのでしょう……多分……
ひさこが東京でこの本を読み、眞人の手に渡るようにこの屋敷に送った可能性もあるはあるけど、そう解釈できるような描写はないので、その可能性は捨てます。
ひさこは物語が始まる頃には病院にいる=病気か怪我をしていることがわかるのですが、この本の出版時にも怪我や病気をしていたと判断することはできない。
健康なのであれば、本は眞人が大きくなった時に自分で渡せばよい。
あるいは、「眞人君に読んでほしい本があるのよ」とか一度口頭で伝えておいてから、本棚に入れておくとかもできたかなぁと。
けれどそうはしないということは、眞人が大きくなる頃に、自分は側にいないことを予期していたと考えられる。
それはなぜかと言えば、ひさこは少女時代に眞人と会ったことを覚えていて、「病院の火事で死んじゃうよ」と知らされていたから、眞人が自分と同じくらいの年の頃に母と死別しているとわかっているのでしょう。

・眞人の涙
眞人は椅子に腰を落ち着けて本を読み始めます。
絵コンテでも眞人が開いているページの中身が手書きされています。
眞人は、君どうの主人公のコペル君が友だちと仲直りをするシーンを読んで涙を流します。
(本の君どうがどんな内容なのかはざっくりと別エントリで紹介しました)
この眞人の心情の変化について、君どうの本のほうを読んでいないとよくわからないと思うのですが、コペルくんが自分の弱さを受け入れて友人に詫びを入れ、仲直りするという展開なので、おそらく眞人は「自分の弱さや醜さを受け入れる」「友だちを作ることは大変だが必要」といったことを学んだと思われます。
そしてこの学びがこの後の展開でも生きてきます。
特に「この傷は自分で付けました」「友だちを作ります」という言葉は、君どうから得た知見から出てきたと考えられるほど重要です。

・夏子行方知れず
日の暮れた外では、おばあちゃん達が夏子の名を呼んでいます。
夕暮れで田舎の山で行方不明者捜索をされていると、トトロの終盤を思い出しますね…。

眞人が自室の窓から顔を出すと、そこに「さぼっている」キリコがおり、眞人がどうしたのかと声を掛けます。
キリコは夏子が部屋にいないのだと告げると眞人ははっとして、「自分も行く」と告げる。

眞人は肥後の守とポケットに入れて、弓矢をつかんで部屋を出ていきます。
この時「本は開いたまま」と絵コンテで指示されています。
君どうは、眞人が泣いたページ以降も続くのですが、正直本の物語としてはそこがハイライトになっています。
小説としては尻切れトンボ感があるというか、まぁ、特に最後まで読むべきな本ではない感じです。

・森へ
帽子をかぶって外に出てきた眞人。
すでに青鷺を警戒して弓を構えています。
その場に留まっていたキリコに、夏子が明るい時間帯に森の方へ歩いて行ったと伝えますが、キリコはそんなところに行くはずがないと言います。
キリコは森に入るのを怖がっているそうです。
眞人としては、母の死に目にあえなかったことや、勝一に「眞人は家にいるように」と子ども扱いされていたことが引っかかっていたのだと思いますが、この時の眞人は少し頼もしくなっているように思います。キリコが頼りなさすぎるのかもしれないですが…。
結局、眞人は青鷺が今日はいないという懸念点を告げて、キリコを引き連れて森の中に入っていきます。

森への入り口が、メイちゃんがトトロを追いかけて入る道に似ているとの指摘も多いと思います。
トトロは胎内で、メイちゃんが通る道は子宮へつながる道と考えられると思うのですが、君どうでは子宮ではないように思われます…それとも異世界全体が胎内なんでしょうか…いや違うよな…。

・あたしゃトリ目ですからね
森の中が暗くてキリコが何も見えないと言うのですが、キリコが「トリ目」なのって何か意味があるんですかね…。
あと「若旦那」「坊ちゃん」と、キリコが眞人を呼ぶ呼び方がぶれるのもちょっと気になります。
が、解明できないので放置します!

・塔
森の中の古い道を抜け出ると、崩れた敷石で舗装された空間に出ます。
目の前には四階建てぐらいの大きな塔が見えます…入り口にはダンテの神曲の一説が刻まれています。
しかしわたしはこれに詳しくないので特に何も言えません…。
絵コンテでも、文字が刻まれているのは読み取れるのですが、刻まれているべき文言は指定されていないです。
口頭とかで指示したのかと思われます。
入り口の明かりが点くのを見たキリコはビビりちらかします。
眞人は敷石の上に躍り出て、鷺男を呼びかける。
鷺男の声が響いて「どうぞ」と眞人を招き入れようとします。
眞人はキリコに戻るよう促しますが、キリコは「塔の主の声なんぞあたしらには聞こえねぇ お屋敷の血を引く者にしか聞こえねぇんだ」と言います。
キリコがなぜ急に覚醒したように、塔のことに詳しくなっているのかはわかりません…。
しかし、これまでおばあちゃん達が怪奇現象について眞人に伏せていたことを考えると、キリコさんは眞人をもう一人前の大人扱いをしていると取ってよいと思います。
眞人が「じゃあ僕が行かないと。夏子おばさんを取り戻さなきゃ」と言います。(絵コンテでは「おばさん」と書かれています。絵コンテと本編で台詞の変更がある場合、巻末に変更点が記載されているのですが、この場面には変更点がないようです。でも「夏子さん」とかじゃなかったかな…母として受け入れていないことを台詞でも表現していたら覚えていると思うんですけど…次に見た時に確認してみます)
キリコさんはそれを受けて「あなたは夏子お嬢様がいないほうがいいと思っているでしょう。それなのに行くなんておかしいよ!」と言います。
夏子を疎んでいることに気づいているのはまだしも、夏子を助けに行こうという眞人を阻止するのは使用人としてどうなんだ…とは思いますが、まぁ、仕方ないです…。

その後眞人は、おそらくこちらが本音だったのでしょう、「鷺男が母さんが生きていると言っている。嘘に決まっているけど、確かめなきゃ」と言い、キリコの制止を振り切り塔に歩きだします。

眞人と、眞人に引っ張られるキリコの向こう側に山々が見えます。
こうして見ると、塔自体がそもそも高い場所に建てられているように見えますね。

・塔の内部へ
塔の壁は本棚になっていて、大版の本がたくさん落ちています。
本の上には埃が積もり、埃の上には青鷺の足跡がたくさんついている。

眞人とキリコは何かの気配に振り返ると、塔の入り口の天井から本棚が下りてきて、入り口をふさいでしまいます。
この謎の入り口は、もともと大叔父が建てた時から入り口として機能するように設計されたものなのでしょうか…もし入り口になっているのだとしたら、「本棚が上下して扉の役割を果たす」という変なからくりにするものでしょうか…普通に考えたら、おかしいですよね。
なので私としては、この変な扉の仕組みについて考えたいのですが、「もともとは書庫の一部だったものを、完成後に扉としても機能するように改装した」もしくは、「もともと書庫の一部に見せかけた隠し扉として作っておいた」とかなのかなぁと思います。
ただ、この扉の開閉の動力が何なのかはわからないのですが、相当重たいものを動かしているし、そもそもこんなに古びた建物なのに特に不具合なく機能しているところから考えると、「なんかの魔法のパワー」的なもので動かされているのではないかなと思います。
また、入り口に神曲の一説を引用していることから、教養ある人間が作ったと考えてよいと思うので、大叔父がこの変なからくり入り口を作ったと考えてよいでしょう。
絵コンテではこの本棚が下りてくる場面について、「久しぶりらしく、本やら埃も一緒に落ちる」と指定されています。
「久しぶり」であることが強調されているところを考えると、おそらくですが、眞人以前にもこの入り口を使って塔の中に入ったのだということでしょう。
まず眞人以前に塔の内部に入った可能性が高い人間としては、久子が挙げられるでしょう。
私の見立てだと、大叔父は久子以外の人間も異世界に招き入れている可能性が高いのですが、それらの人物がこの塔を通ったかはわからないです。
でもキリコの話だと、塔には屋敷の主の血を引く者しか呼ばれないっぽいので、まぁ久子だけが塔を通って大叔父のもとに行ったっぽいですね。
ただ、眞人が初日に塔に近づいた際に、おばあちゃんたちが「連れ込まれるぞな」とおびえている様子があるので、塔の中に消えたと思われるのは久子だけではなく、何人かいたんじゃないかな、とも思ったりします。

あと、これ以前のシーンについての補足にもなるのですが、この映画は「扉や窓の開閉」の描写が異様に多いです。
このシーンで、塔の出入り口が勝手に閉まってしまうことは、眞人が後戻りできなくさせられるスリルにも繋がることなので効果はあると思うのですが、扉や窓の開閉だけでも映画の尺の一分近くを使っているのではないかと思います……。
扉が開けっぱなしになるシーンはかなり少ないのですが、その辺りは絵コンテでも指定されていないことが多いので、制作が進んだ段階で、この「扉や窓の開閉を細かく描写する」ことに決まったのではないかと思われます。
そして、それは恐らく、ラストシーンで眞人は塔の扉を閉められないことと、コテージの部屋を外から閉じることを描くために布石として敷かれていたんじゃないかなぁというのが私の見立てです。
詳しくは各シーンで書いていきます。

・ぷくぷくシールみたいな青鷺
扉の上の青鷺レリーフがぽこぽこっと立体化して、青鷺が実体化していきます。
なんかぷくぷくしたシールがありますが、あれみたいでなんか気持ち悪いですね…。

青鷺は眞人達の上をかすめるように飛んで行き、着地すると「ご案内しましょうぞ」と言いゆっくり歩きだします。
眞人は青鷺に弓を向けたままでいましたが、途中で警戒を解いて弓を下ろします。
やはり母に会わせてもらえるのではないかという期待が勝っていることが伺えます。

青鷺が歩く書庫には本がぎっしり置かれており、ほこりもたくさん積もっています。
塔の内部には青鷺のフンが落ちていません。
青鷺も普段はここら辺を使うことがないってことなんですかね…それとも塔の内部、大叔父の目が届く空間ではウンコをしないよう気を付けているのでしょうか。

・広間に到着
青鷺は広間にたどり着くとうらうらしく止まり、「儀仗兵を気取って」ターンして気を付けのポーズを決めます。
どこかで「ぶーん」と電気がつく音が流れると、寝椅子の上に寝そべる女性の姿が見えます。
夏子が森に入っていった時と同じ服装に見えますが、どうやら久子であるもようです。

青鷺は「残忍でずるそう」な仕草で、眞人に「あなたの母上です。もっと近づいて確かめてみては?」と言います。
キリコは「ワナですよワナ!」と言いますが、眞人はもう返事をすることもできず、帽子を取って久子に向かって歩きだします。
キリコは眞人に対して、これまで「ワナですよ」と、3回制止しました。
これまでの2度は眞人もギリギリ平静を保ったふりをしていましたが、3度目の青鷺からの誘いには乗ってしまいました。
確か、昔話では、主人公には3度試練があり、3回とも成功すればよいけど、失敗すると災いが降りかかるという法則があったはずです…本当に曖昧な記憶なのですが…。
そして失敗は3度目に起こることが多いという話だったはず…。

また、昔話では、「同じ言葉を繰り返す」語法が好んで使われる傾向があるとのことなのですが、キリコがワナだと繰り返すのもこれに当てはまるかなと思われました。

いずれにせよ、眞人は母らしき後ろ姿を見て、いてもたってもいられず近寄って行ってしまうのでした。

・母さん
寝椅子に横たわる女性の顔を覗き込むと、紛れもない母の顔でした。
絵コンテでは「夏子と同じというなかれ」と書き添えられています。
自分も初見時は、夏子が寝ているのかと思ったのですが、ここで寝ているのは久子であり、夏子と似てはいるけれど違うみたいなんですねぇ。
何かデザイン上の描き分けとかされているんでしょうか。
ほぼ同一のデザインだけど、眞人にはわかる違いがあるって感じなのでしょうか。

眞人は母と認めると、思わず涙を流しだします。
この映画は主人公がよく泣きますねぇ…。
眞人は思わず母の肩に触れますが、押すと身体の中に手が沈んでしまい、母の身体は液状化していきます。

寝椅子を伝って床に流れた液体は、眞人の足元に近づいていく。
この液は着物や髪の毛の色などを残していて、それがなお気持ち悪いです…。
眞人は後じさりして、液体をよけます。
液体は眞人がいた場所あたりで広がりを止めて、床に染み込むようにして消えていきます。
久子が溶け切ったあたりで、部屋の奥の明かりが消えて暗くなります。
この液状化シーン、不気味さがすごいですよね…しかし顔面は、まだ「見れる」崩れ方をしているところまでしか映らないあたり、どこか描写を加減しているようにも思えるし、宮崎さんが眞人を(あるいは自分自身を)どんぞこまで落とさないために控えめに描写したのかなと思います。

眞人はキリコのところまで後退し、お母さんだった液体は眞人のところまで迫ろうとしますが、絵コンテによると「力つきて」縮んで消えていきます。
力つきて、と書かれているあたり、液状化したお母さんにも意思が働いているものと思われます…しかも、眞人に接触しようとしていたと思われます。
偽お母さんは、液状化していなかったら、眞人を甘やかして誘惑するようなことをしたのかな…。

・青鷺、眞人をあおりまくる
青鷺は眞人に「おしいことをしましたな。いいできだったのに、さわらなきゃもっともったんだ」と挑発します。
眞人は弓を引きながら、「どうしてこんなひどいことをする!」と激昂します。
青鷺はひるむことなく「何ならもう一度作ってあげましょうかね」と続けると、眞人は「母さんを汚すな!」と言う。
眞人の弓を引く手は震えだし、力の限り引き絞っていることがわかります。
青鷺は、眞人がそんなリアクションをとることをわかっていたのか、「起こったかい。おいらの心臓はここだよ。たった一本の矢だ、よく狙いな」と言いながら腰をフリフリして煽り立てます。
この時の青鷺の胸のパンパン具合、なんか見てて面白いですよね…。

青鷺は「そのあとはおいらの番だ。生意気でうそつきのお前の赤く腫れあがった心臓をぷちんとかみ切ってやる」と挑発を続けます。
この時になると、青鷺の中のおじさんがだいぶ露出してきます。
また、青鷺はすでに眞人が嘘つきであることを見抜いているのがこわいですね…おそらく、自傷した傷を「転んだんだ」と主張していることを指しているはず。(「お母さんがいると言っているのはワナだとわかっている」と強がっていることを指している可能性もありますが)
ほか、眞人が夏子を見舞った際に言った「早く良くなってください」も、まぁ多分嘘ですよね……眞人が夏子を見舞った直後に青鷺が姿を現しているので、この嘘も知られている可能性がある。
あと、眞人がキリコに言った、「お母さんが生きているって言うんだ。嘘に決まっているけど確かめなきゃ」も、まぁ、強がってはいるけれど、本当に母が生きていて欲しいという気持ちを強く持っているはずなので、強がりで言った嘘でしょう。
いずれにせよ、眞人は口数が少ない中で、嘘……というより自分の弱さや醜さ、悪意を隠すために事実ではないことを言って、本心を偽っていることが多い人物ですね。
それを青鷺は見抜いている。

・自動追尾機能付きの矢が放たれる
矢は眞人の意志とは関係なく、勝手に発び立っていきます。
青鷺はそれを軽々と避けて、「へたくそめ!」と眞人をコケにしますが、それもつかの間、矢がUターンしてきます。
青鷺もそれに気づいてギョッと驚き、それをジャンプして再度かわします。
矢は眞人達の方に飛んでいくけれど、二人には当たらず、カーテンをぎゅるぎゅるっとしながら上に昇って行きます。
弓矢のアップになると、矢羽根がパタパタと羽ばたいているのが見えます。
青鷺はジャンプしたまま羽ばたいて上の方へ逃げていくのですが、眞人の矢が追いついてきます。
(ちなみに絵コンテでは、「塔の内部を厳密に(描くのは)やめましょう」と宮崎さんが指示しています)

矢に追いつかれた青鷺は「イカン おいらのヌケバネだ」と、矢羽根に自分の羽が使われていることに気づく。
青鷺は欄干の手すりを足で掴んで、ぐるんと前転することで矢の追跡をかわします。
しかし欄干に身体が突っかかってしまい、Uターンしてきた矢にくちばしを射貫かれてしまう。

・落ちる青鷺
青鷺は力を失ったように落下していきます。
それを見て、キリコは「お見事!」と手を叩いているけど、眞人は「矢が勝手に飛んでいったんだよ」と、見ればわかることを説明します。
絵コンテではその言葉へのキリコのリアクションはないのですが、完成版だと「え?」みたいな表情をしています。
そのリアクションが、眞人が喜んでいないことに対してのものなのか、眞人の言う「勝手に読んでいった」状態であることを理解していないからなのかは不明です……なんか変なリアクションに1秒ぐらい使っていたのでちょっと気になります……。

青鷺は地面への衝突を避けようと全力で羽ばたくけれど、ホバリングして落下の衝撃を緩和させることはできたが、飛行することはできないようで床にべちゃっと落っこちてしまう。
その後も「これは風邪切りの7番だ」と矢の種類に気づいて引き抜こうとしたりするも、自分では引っこ抜けません。
キリコはその様子を見て笑い出しますが、眞人は真顔で青鷺に近寄って、青鷺から矢を引っこ抜きます。
青鷺は矢が抜けたことで安堵したのか、気を取り直して羽ばたきますが、結局飛び上がることができず、哀れにもちょっとだけ滑空してすぐに墜落してしまいます。
どうやら飛行能力は失われたようです。
青鷺がバタバタしているシーンは子どもは笑っていた気がする

・青鷺の弱点
落下の衝撃で腰を痛めた青鷺に眞人が近寄り、再度矢を向けます。
眞人は「夏子さんをどこへやった」と青鷺に詰め寄る。
この時点で、青鷺がお母さんにしたことや、お母さんがどこかにいるのかもしれないという期待は打ち砕かれているのでしょう。
青鷺は話を逸らすように、「どうやってオイラの弱点を知ったんだい」と問います。
眞人は「今お前が教えてくれたんだ。風切りの7番」と答えますが、青鷺が自分の弱点を
教えてくれたのはたった今であり、その羽を矢に埋め込んだのはそれよりも前なので、答えが矛盾しているように思われます。
さらに先ほど書いたように、眞人は、元々矢羽根が必要だとわかった時点で、青鷺の羽根を使うために、青鷺に襲われるリスクがある中でわざわざ池の畔に羽を回収しに向かっている。
時系列的に考えれば明らかに矛盾していますが、時間が前後することは昔話では許される、といった話しを見かけたことがある気がするんですよね……。
因果関係の逆転。
主人公がする選択は正しかったと後々証明される。
まぁそういう昔話のセオリーにのっとった描写をしているということだと思います。
だって、別に、ただ話しを進めることが目的なのであれば、このやりとりいらないですものね……。

青鷺は「おいしまった。独り言が多くていけねぇや」と、面白い言い回しをして、とりあえず話しを受け流す。
眞人は最後「夏子さんのところへ案内しろ」と先導させようとしますが、青鷺は「行かねぇ方がいいと思いますぜ」と諦め半分に言います。
青鷺はなんで行かないことを勧めるんでしょう。
別にそんなに危険は無いように見えるが……インコたちという危険な存在もいるけど、「なんであいつらがここにいるんだ」と言っていたので、インコが人間を食い尽くすほど数が増えていることをこの時点では知らなそうではある。
まぁわかんないっす。

・大叔父登場
突然、暗い中空の絵に切り替わり、一輪のバラが落ちてきていることがわかります。
バラが床に接触すると、「キン」と音を立てて崩れます。絵コンテによると、凍っているために砕けるそうです。
そしてシューという音を立てながら煙と共に地面に埋まっていきます。
このバラが何なのか、結局最後まで見てもなぞは溶けません。
バラが凍っている理由も、それが床に溶けて消えていくことも、そもそも大叔父がバラを投げたことも……。
一つのヒントとなりそうなこととしては、ヒミが変な世界で住んでいる家にはバラが咲いているというところ……。
良い意味で考えれば、眞人が探し求めるヒミ=久子が変な世界にいるんだよということを暗示してくれているというもの。
悪い方で考えると、ヒミの処女は大叔父がすでに奪っているという暗示になるなどあるかも……もっと魔術とかアイコンに詳しい方が見れば一発でわかるのかもしれませんが……。

三人(二人+一羽?)がバラの方を見て、バラが落ちてきたと思われる上の方を見ると、ホールの最上階に頭がツンツンした人影がいることがわかります。
人影は「おろかなとりよ お前が案内者となるがよい」と言って、奥に消えていきます。
もちろんこれは大叔父なのですが、大叔父は塔の奥の方に消えていきます。
この消え方も大きな疑問で、大叔父はそもそも異世界とこっちの世界を自在に行き来できるのかよ……というものです。
また、塔の奥にも、異世界とこっちの世界を往来する方法があるのかよ、というものです。
はっきり言いますが、私は大叔父が現れた意味も、奥に消えていく意味もわかりません……。
ただ関連性のあることとして、映画のラストで異世界から帰ってくるためには、どこでもドアみたいな扉を通ってくる必要があるはずなのに、ペリカンだけは普通に現代の塔の窓から出てきます。
なので何か特定の人物であったり、特定の方法を使うと、ドアを使わないでも異世界と行き来できるものなのかもしれないです……。
あるいは、この時に眞人達がいた塔の内部がすでに異世界である可能性もなくはないです。
ただ、はっきりとわかるようには描かれていないと思います。なんやねんこの不親切すぎる映画は!

青鷺は「しょうがねぇなぁ 後悔しても知りませんぜ ご武運を」と諦めたように眞人に告げる。
何を後悔するのかわからないんだよー。
しかし、ここで注目したいのは、青鷺がおっさんモードになってから、眞人を気遣うような性質を見せているところ。
この後のシーンでも、青鷺モードに復帰したら、眞人を突き放すようなことを言い始めるので、おっさんモードの方がお人好しであることがわかります。
このモードの違いのついての考察をすると、思い出すのは宮崎駿さんが『平成たぬき合戦ぽんぽこ』の企画について説明していたときのことです。
曰く、「現代社会はみんなタヌキを被って仕事をしなければいけない。みんなが本心を飲み込んで、要請に従って仕事をこなしている。それで仕方が無い」といったようなこと。
姥皮については以前書いたと思うのですが、この青鷺も、青鷺という皮を被っているときは雇用主である大叔父の命令を従順に守るけれど、本心では「めんどくせぇ」とか「なんで自分の考えとは違うことを実行しないといけないんだ」とか、まぁ他諸々社会人が抱えるような意識を抱えているということなのでしょう。
なので、おっさんモードの時は、本心に近い思いとして面倒くさがったり、眞人を思いやるようなことを言ったりするのでしょう。
恐らくそんな性質は、『もののけ姫』のジコ坊と共通しているものでしょう。(さらに遡れば、ナウシカのクロトワ)
なので、恐らくジコ坊と同じようなデカイ赤鼻のデザインになっているのかと思われます。

・地下へ
青鷺と眞人とキリコはズブズブと地面に沈んでいきます。
眞人は驚きつつもそれを受け入れますが、キリコは嫌がってジタバタします。
でも沈んでいきます。

Bパートはここまでです!
Cパートに続きます。

 - ジブリ作品, 君たちはどう生きるか, 映画

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