【君の名は。】てっしーが頑張らないことへのムカつきと、中中中の下女子
2020/03/07
君の名は、大ヒットしていますね。
僕ももちろん観ました。一回だけですが。
いきなり本題に入りますが、この映画ですごく気になった点があるんです。
(いや、気になるところを挙げていくとキリがない映画ではあるのですが……)
それは勅使河原(通称てっしー)という少年キャラクターの扱い方でした。
物語のオチにあたる部分に触れるので、ネタバレされると困るという人は読まないほうがいいと思います。
僕がすごく気になったのは、このキャラクターが『頑張らない』というところでした。
具体的に言います。
物語の終盤で、町を災害から救うために作戦を立てるパートがあります。
そこで彼は、町に電力を供給している変電所をダイナマイトで爆破するという役割を買って出ます。
(このシーン自体、話がトントン進み過ぎていて突っ込みたくなるのですが、その気持ちは堪えます)
ここのシーンで、彼はとても楽しそうにその作戦の計画を立てているんですよ。
彼の父親が土建屋なので、ダイナマイトも調達できると自分から言い出します。
ダイナマイトを盗んで、変電所を爆破するという計画に、非常に乗り気なんですね。
普通に考えたら大犯罪ですし、ダイナマイトを管理していた父親にも迷惑をかけます。
迷惑っていうか父親も土建屋は廃業しなきゃならないし、なにかの罪に問われる可能性が高いと思うのですが……てっしーははしゃいだ様子で作戦会議をしている。
ここまででも問題(ていうか突っ込みたいポイント)は山積みなのですが、初めに言った『頑張らない』というのはこの先の話です。
変電所を爆破し、災害が起こる場所から住民を避難させようとするが、なかなかうまくいかないてっしー。
そこへ、てっしーの父が部下を引き連れてやってきます。
てっしーからは少し離れたところから、
「おまえ、なにをやっているんだ!」
と父が声を張り上げる。
てっしーは父親の顔を見ただけで
「すまん……俺はここまでだ……」
と言って俯き、行動を止めてしまいます。
このシーンを最後に、てっしーは一切行動を起こさなかったと思います……(すみません、鑑賞から4か月経過しているので記憶があいまいではあります)
僕が言いたいのはここのところです。
ここで父親が
「なんてことをしてくれたんだ」
など、息子がダイナマイトを盗んだことを知っているとか、この騒動を引き起こした張本人だと思っているような台詞を言っていたならわかりますが、この時の父親の様子ではそこまでのことを知っているようには思えません。
僕の記憶では
「なにやってんだ?」
という、非常にあいまいな台詞だったはずです。
ちなみこの時点でのてっしーと父親の物理的な距離は、ふつうに、けっこう離れているんです。
走って親父を振り切って、住民の避難を続けることもできるような距離はあったんです。
これが親父がいきなり近くまで来ていた、ということならまだわかりはするのですが……。
(建物の陰から急に出てくるとか、やりかたはありますよ)
てっしーは、『父親に見つかってしまった』というだけの理由で、町の人々を救うという役目から降りてしまうのです。
(シナリオとしては、この時点でてっしーの『人々を避難させる』という役割は大して重要ではない(遂行されなくても大きな支障はない)ようにできてはいるんですけど。この辺は計算されたうえでてっしーは挫折してるのかもしれないです)
この、てっしーの頑張らなさについてはいろんな人に話しているのですが、賛同してもらえない……というか、否定を受けるのでした。
否定の意見として言われるのは
「楽しみながら頑張ったんでしょ」
ってことでした。
僕の意見に反対の人の話を聞くと、異口同音にこう言っています。
楽しみながら頑張った、という見方は僕は全くできなかったので、その意見には蒙を啓いてもらったような気持ちです。
人生でとても大事なことですよね。
楽しみながら頑張るっていうこと。
です、が。
それって映画のシナリオでも同じことが言えるかというと、そうではないです。
もちろん、自分を苦境に追い込む選択をすることが『頑張る』ってことなのだと思い込んでしまっている人物が、『楽しみながら頑張る』という生き方を見つける……というようなストーリーであれば成り立つとは思います。
(そういう、傍から見ていると息苦しそうな人って、いますよね)
ですが、最初から『楽しみながら頑張る』姿しか描かれないのであれば、シナリオを作るのは難しいと思います。すくなくともメリハリのある展開を作ることはできないんじゃないですかね。
つまり僕が言いたいのは、楽しみながら頑張る、という流れになることが納得できる構成にはなってないということです。
これも具体的に気になったところを述べます。
物語のかなり早い段階で役目を終えてしまいましたが、ヤンキー男一人とギャル二人のグループが出てきていましたね。
みつはが彼らに陰口を叩かれてても、てっしーはみつはを助けてやりませんでした。
傍観していましたね。
それに対して、みつはの身体に入った瀧君は、陰口を叩くヤンキーたちを威嚇して黙らせました。(あのヤンキーがヘタレすぎなのはかなり驚かされますが)
てっしーは普通にヘタレ男なんですよ。
また、彼の家で父親が仕事仲間を連れ混んで酒を飲んでいる場面があります。
(あれは談合の一つの姿ですよね)
父親が彼に何かを言って、彼は
「へーい」
みたいな返事をする。
その返事を聞いて父は
「返事はちゃんとしろ」
というようなことを言う。
彼は
「はい!」
と少しふてぶてしいながらも、返事を言い直します。
ここはすごくいい場面だったんです。
非常に抑圧的な父親と、反抗心をくすぶらせながらも従ってしまっている息子という構図がハッキリ表現されています。
ここからわかるのが、シナリオ上で、てっしーを抑圧しているのは父親だということなんです。
楽しみながら頑張った、という意見もありますが、それは好意的に解釈をし過ぎています。
基本的に、映画の中である人物が抑圧されている場合、それは彼が乗り越えるべき壁であるはずなんです。
その人物が抑圧する側にまわるということや、抑圧する存在と和解するということもありますが、今ぶち当たっている壁にどう向き合うかというとことを映画は描くんです。
てっしーは、壁にぶち当たって、驚くほどあっさりとくじけてしまった。
そこに僕はムカつくんですよ。
父が所有するダイナマイトを使って、父が作り上げてきた街の一部を破壊するということが父への反抗の象徴であるかもしれません。
それならば、父親と対峙した時に彼は反抗するなり振り切るなり、説き伏せるなりするべきだった。
なのに俯いて
「すまん……ここまでだ」
ですよ。
アホかよ。
ただ、この件について人と話をする中で気づいたことがあったんです。
それは、サクセスストーリーに失敗する物語も世の中にはあるのだということ。
考えてみればてっしーはサブキャラの一人でしかなく、主役は滝君。
瀧君は頑張りまくって、結果的に、絶対的な不可能性を乗り越えてハッピーエンドを迎える。
瀧君のサクセスストーリーではあるが、てっしーは挫折したキャラクターだったのだということ。
僕も冷静に考えれば良かったのですが、フツーに、主人公が挑戦に失敗して、死んだり何かを失ったり堕落したりする物語なんて古今東西たくさんあるんですね。
君の名はのテイストが青春ジュブナイルものっぽかったので、そういう見方ができなかったのかなぁ。
ただ君の名はで他とは違うところは、てっしーのことも救ってやるような結末になっているというところ。
てっしーの挫折から数年後、瀧君はてっしーたちを東京で目撃します。
名前は忘れてしまいましたが、てっしーと、てっしーの女の子幼なじみがカフェにいるのです。
女の子はケーキをバカバカバカバカ食いまくっていて、
「ダイエットすんじゃなかったのかよ」
「結婚式が終わったら頑張るー」
みたいなことを言い合っている。
てっしーは女の子幼なじみと結婚するようなのです。
高校時代、てっしーはみつはに好意があったように思うのですが、上京してきたりなんだかんだあって、この幼なじみと落ち着くことになったことが想像できます。
ようするに、てっしーにはストーリーへの参加賞として中の下の女をあてがってやった、という話になるんです。
言い方は悪いですが、これが一番ストレートに伝わる表現かと思います。
キャラクターのデザインの話にはなりますが、みつはは正統派の美少女主人公としてかなりかわいくデザインされています。
対してこの幼なじみのほうは、田舎のイモまる出しなデザインなわけですよ。
で、ダイエットもろくにしやがらないという、中中中の下に甘んじているサゲマンなわけですね。
考えてみるとこの子も、住民避難作戦の時に、大人に黙って連行されていったという過去があります。
(この子の場合泣きながら頑張ってたので、てっしーと比べれば頑張っていた感はかなりありましたが)
で、確かこのシーンでのてっしーって、無精ひげ生やしていたと思うんですね。
彼女と会うのにひげ生やしたままって、どうなのかと思いました。
けど、それも、それだけ心を許し合っているから平気なのかなとも思いました。
二人の関係は恋愛というよりも、もう家族のように、お互いのだめなところも許し合えるようなものなんだなぁと。(最初からときめくような恋愛は経ていないかもしれないですね)
それも関係としては全然アリだと思うので、この辺は受け入れられました。
てっしーの顛末は、瀧君と対比されるために描かれていたのかなぁと、今では思います。
成功者と敗北者の対比。
そういうわけで僕が思ったのは、
「てっしーが頑張らないのがムカつく」
「けど挫折した人間なりの落ち着き方もある」
ってことですかね。
蛇足。
てっしーに対して、瀧君というキャラクターを象徴するシーンって、実際はありません。
新海さん、脚本書くのめちゃくちゃうまくなったなー……と思えたシーンとして、前述の、てっしーの家の中での父とのやり取りがあったんですよ。
なのに、主人公の側の瀧君がどういう人間なのか全然わからない。
瀧君はストーリーの中で頑張ったと思いますが、どうして頑張ったのか全然わからない。
結局かわいい女の子が大好きだからがんばったんだね、ということにしかならないような気がします。
このヘンに、新海監督の手グセというか性癖が表れているように思います……新海さん、多分、かわいい女の子大好きですよね。
あと、住民避難先導作戦の時、もっと大きなミスが起こってほしかった。
映画でなにかしらのミッションがある場合、だいたい計画になかったこととかトラブルが起こらないといけないんですよ……じゃないと予想通りに進み過ぎてつまらないから。
てっしーがヘタレるっていうのがある意味トラブルなのかもしれないですけど、もっと大きな障害が発生してくれないとハラハラできんがなー。
と思いました。
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