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宇多田ヒカルとエヴァ

   

シンエヴァ本編についてはこちら

シン・エヴァンゲリオン劇場版を観て思ったこと全て 序

新劇場版シリーズの主題歌を4作品すべて手掛けた宇多田ヒカルさんと、庵野さんには共通項がいくつかあるので、おまけとしてちょっと書いてみたいと思います!

彼女が明かしたところによると、これまでエヴァに提供してきた楽曲は脚本などを読まずに制作してきたけれど、One Last Kissだけは脚本を読んだうえで制作にのぞんだとのこと。
すでに多くの人が指摘していますが、ユイを想うゲンドウの視点である、との見方ができますね。
かなり直接的に、エヴァに沿った歌詞なので、ここでは特に考察や解説はしません!(笑)

また、先日、宇多田さんのインスタライブに庵野監督が出演するという、皆が待ち望んでいたウルトラビッグイベントがありました。
が、30分に満たないまぁまぁ短い対話でした…。
しかしそこで語られた内容はやはり貴重なもの。
・庵野監督は現行のポップスはほぼ聴かないが、宇多田ヒカルの楽曲は自分に飛び込んできた。
・エヴァをDVDリリースする際に、各話エンディングの『Fly Me To The Moon』を全て差し替える構想があり、そこに宇多田ヒカルがすでに発表していたバージョンを使いたかった。しかしレコード会社から許可が下りず、断念。
・宇多田ヒカルと庵野さんが直接会ったのは、制作オファー後の居酒屋で、ちょっと挨拶したのみ。
・宇多田さんの息子(5~6歳)が綾波のことをいたく気に入っており、なぜか「ママに似てる」と話している。
などなど。
また、One Last KissのPVは庵野さんが一応「監督」したものとなっていますが、撮影は宇多田さんが住むロンドンで行われており、当然庵野さんは渡航できない。
なので現地のスタッフが撮影した素材を組み合わせるようなのですが、庵野さんからの依頼で、宇多田さんのお子さんが宇多田さんを撮った動画も用意されたそう。
ちょっとこれが意味深ですよね…(笑)。
曲はゲンドウ視点っぽいけど、映像はシンジと一緒にいるユイのような雰囲気を出したかったのかな。

そして二人の作品似共通するのは、「喪失感」というキーワードではないかと思うんです。
何かの「目的・願望が達成される」ことがあまりない。
庵野さんの手がけた作品を見てみると、主人公が何か大きな目標を抱いて、夢を叶えるために奮闘する! というものはないです。
みんな何かを喪失したり奪われたりして、それらを取り戻したり現状に回復できるように必死になる、といった内容。

宇多田さんも、恋愛の歌とかはアッパーな物も多いですけど、対照的にネガティヴな恋愛があったり、日常の歌でも落ち込んだような内容も多いようなイメージ。
宇多田ヒカルの表現において、もっとも重要なファクターって、「母親との関係」ではないかと思うんです。
もちろんそれだけではないんですけど、彼女の最初の2枚のアルバムは恋愛の歌がメインだったように思うのですが、それ以降は恋愛についての曲が減り、母との関係を思わせるような曲が増えてきたと思うんですよね。
宇多田ヒカルさんの母、藤圭子さんもとんでもない才能をもった歌手でした。
しかし、2013年に自死を遂げています。
その後、宇多田さんの作る曲には、明確にお母さんのことを歌っているであろうものが増えてきました。
また、藤さんは精神的に安定しない状態が続いていたようなので、もしかしたらそれ以前に作られた曲でも藤さんとの関係をモチーフにしたものがあるのかもしれませんね。
↓は、PJハーベイという女性ミュージシャンについて音楽評論家のお二人が話したものなのですが、宇多田さんはこの人に影響を受けているとのこと。
そこで語られた内容に、藤さんと宇多田さんの関係を暗示しているようなものがあります。
面白いのでぜひ読んでみてほしいです。

https://ynos.tv/hostessclub/special/pjharvey2017/taidan01-02.html

ところで、エヴァの最終回の案として、それぞれエヴァに搭乗したシンジとゲンドウが月面でバトルを繰り広げるといったものがあったそうですね…。
エンディングの曲も『Fly Me To The Moon(私を月につれてって)』だし、ユイとゲンドウが同衾するシーンでも「月」が印象的に描かれているし、エヴァにおいては「月」って重要な場所なはずなんですよね。
私が理解できる範囲では、具体的に重要なものと描かれているようには感じませんでしたが…。
でも、マーク6とカヲルが月にいたようだし、やはり大事なんですよね。
よくわからんけど…。
(またの別の機会を設けて、じっくりどっしり語り合ってほしいですわ…)

そんなわけでここから、宇多田さんの楽曲から、エヴァみを感じる歌詞をちょっと紹介したいです。

『DISTANCE』
人との距離に悩むさまは、補完計画を完遂すべきか、相補性のある世界を望むべきかを悩むシンジ君の心象に近いのではないでしょうか。
2ndアルバムに収録された曲。
3rdアルバムではアレンジを換えたバージョンが制作されています。
まだこれは、恋愛の曲のようには思うのですが、相補性のある世界で生きることに悩むシンジくんの心境と被るような気がします……。

I wanna be with you now
二人でdistance縮めて
今なら間に合うから

We can start over
ひとつにはなれない
いつの日かdistanceも
抱きしめられるようになれるよ

ひとことでこんなにも傷つく君は
孤独を教えてくれる

一人で生きるより
永久に傷つきたい
そう思えなきゃ楽しくないじゃん

『Beautiful World』
言わずと知れた、新劇場版に提供された楽曲なので、特に説明の必要はないと思うのですが……(笑)。
ただ、新劇場版が公開される前に、宇多田さんの曲がテーマ曲として使われると発表された際、けっこうブーイングもあったんですね。
当時は今と比べてもまだオタク業界が閉鎖的だったので、高橋洋子さんの曲を使わんとは何事だ! みたいな意見も散見されました。
また、互いに知名度を上げるための安易なタイアップではないか? という疑問もあったに違いありません。
しかし宇多田さんは、そんなバッシングを受けても、「私はエヴァが好きだから受けたんだ!」と真っ向からコメントを出しておられました。
強いお人。

また、序のパンフレットには、宇多田さんがこの曲についてのコメントをインタビューに答える形で出しています。
以下、面白いところを引用。

生きる、ってほんと耐え難いものじゃない? 何かそれに耐えうる拠り所っていうか、これがあるから生きていようとか、これがあるから居られるなここに、みたいなものがあるから、と言えるっていう。どんな場所でも、だれか深く思える人がいるとか、存在してるとか、そういうことで、そこに居るに耐えうる場所になるんでしょ、って思って。
シンジが、お母さんの何か、魂に一瞬だけ会うシーンがあるのね、エヴァンゲリオンの長いストーリーの中で。その時に、「あ、何だ、ただもう1度会いたかっただけだったんだ」って彼は言うの。彼自身そんな願いがあったなんてわかってなかったんだけど、結局そういうことを思ってたんだってその時に気づく。だから「そうそう。そんなもんだよね」みたいなね。
(中略)
アスカみたいに、どれだけ自分で「もうだれも要らない」とか、「もう私は自立してて誰にも負けない!」って言ってても、結局はママに愛されたいだけ、みたいな。「この木はもう目の前にあるってことは認めなきゃいけねえのか」ぐらいの、根本的な願いっていうのは誰しもあるわけで、人の子である限りそうなわけで。ま、それは親じゃなくても、人は何かしらそういうものがあるわけだから、「しょうがないよね、それはねぇ」って思う。
(中略)
エヴァンゲリオンの絵とか雰囲気とかと一緒にこの歌が鳴ってて、あんまり変じゃないようにって、いろんな考慮をした上で出来た曲なのね。ただテーマ的に考慮したとはいえ、結局エヴァンゲリオンのテーマも、私自身がいつも歌ってるようなことと共通点が多いストーリーだから、私らしさみたいなものは結局あるんだけど。

もしも願い一つだけ叶うなら
君の側で眠らせて どんな場所でもいいよ
迷わず君だけを見つめている
自分の美しさまだ知らないの
寝ても覚めても少年マンガ
夢見てばっか 自分が好きじゃないの
何が欲しいか分からなくて
ただ欲しがって ぬるい涙が頬を伝う
言いたいことなんか無い
ただもう一度会いたい

『道』
活動休止後、『Fantôme』アルバムの一曲目。
アルバム自体が母の死と向き合うことがコンセプトのように作られたものだそうですが、この曲など直接的に「あなた」として母に語りかけるように作られています。
当然それは、シンジとゲンドウの心境にも重ねてみることができるはず。
とても大きな喪失と、それと向き合い、その喪失が自分のアイデンティティの大きな一部を成していることを受け入れる曲だと思います。

黒い波の向こうに朝の気配がする
消えない星が私の胸に輝き出す
悲しい歌もいつか懐かしい歌になる
見えない傷が私の魂彩る
転んでも起き上がる
迷ったら立ち止まる
そして問う あなたなら
こんなときどうする
わたしの心の中にあなたがいる
いつ如何なる時も
一人で歩いたつもりの道でも
始まりはあなただった
どんなことをして誰といても
この身はあなたと共にある
一人で歩まねばならぬ道でも
あなたの声が聞こえる

『桜流し』
Qのエンディング曲です。
この時期、宇多田さんは音楽活動を休止していたのですが、にもかかわらずエヴァへの歌曲提供はしっかりとこなしているあたり、宇多田さんのエヴァへの思いの強さが伝わりますね。
曲は自体、エヴァに対応するように書かれている部分が見て取れます。
大切な人を失った過去を持つ人物が語り部に据えられているので、シンジやゲンドウの心境に重なる。
宇多田さんのお母さんはこの曲の制作時点では亡くなってはいませんが、お母さんを亡くした後の宇多田さんの心境にも思えてくるので、不思議なもの。
存命だったけれど、後年どんどん精神状態が平常から外れていってしまったそうなので、どこか、自分が知っている愛する母でいてほしいという願いを諦めていたということなんですかね…。

もし今の私を見れたなら どう思うでしょう あなた無しで生きてる私を
あなたが守った街のどこかで今日も響く 健やかな産声を聞けたなら きっと喜ぶでしょう 私たちの続きの足音

※ここのところですが、「あなたが守った街」は作品の序盤でミサトがシンジに告げる台詞。また、「場を守る」というのはシンエヴァで二度にわたって使われる台詞。「健やかな産声」も、松方さんの奥さんの出産時と、ゲンドウのモノローグで使われています。ここはもしかしたら、この曲のセンテンスから触発された庵野さんが盛り込んだ要素なのかもしれませんね。

もう二度と会えない なんて信じられない まだ何も伝えてない まだ何も伝えてない
どんなに怖くたって 目を逸らさないよ 全ての終わりに愛があるなら

『真夏の通り雨』


揺れる若葉に手を伸ばし
あなたに思い馳せる時
いつになったら悲しくなくなる 教えてほしい
勝てぬ戦に息切らし
あなたに身を焦がした日々
忘れちゃったら私じゃなくなる
教えて 正しいサヨナラの仕方を
誰かに手を伸ばし
あなたに思い馳せる時
今あなたに聞きたいことがいっぱい
溢れて 溢れて

『忘却』
この楽曲は、ラッパーのKOHHとフィーチャリングしています。
KOHHは幼少期に父親を亡くしており、一緒に過ごした記憶はないといいます。
父の死後、母は精神病院に入ったり、幼いKOHHを置いて外出することが多かったそうです。
KOHHは団地のベランダから、自分を置いて出かけていく母の背に向かった「お母さん」と泣き叫んでいた記憶があるそうです。
KOHHと宇多田さんは、コラボする前からお互いのことを認知しており、オファー成立後の初対面時にはKOHHは「あ、俺だ。俺がいる」と彼女とシンクロするものを直感的に感じたそうです。
その後、宇多田さんのロンドンの自宅にお邪魔して「これ、何すか?」と図々しくも物色しはじめたのだとか。
二人の生い立ちに共通項を求めるならば、「母親との適切な関係性を構築できなかった」という喪失感ではないでしょうか。
KOHHの場合、母親の状態が落ち着いてきてからはわりと平常的な関係にシフトしたのではないかと思うのですが、父を亡くしていることは彼の人格形成に大きな影響を及ぼしています。
父と過ごした記憶はないけれど、父が映ったビデオテープを何度も何度も見ていたそうです。
「会ったことないけど、パパ大好きみたいな(笑)」と、彼を映すインタビュアーの前であっけらかんと語っていたことがあります。
自分の弱さをさらけ出すことを全く臆さない姿勢が見て取れますが、そうできる人ってなかなかいません。
ほんとにすごい人なんですよ、KOHH。

好きな人はいないもう 天国か地獄 誰にも見えないところ 3歳の記憶 23年前のいい思い出も 思い出せないけど 忘れられないこと
汚いものでも 美しく見える 懐かしい声 俺から離れ 誰かのとこへ
二度と戻らない できればもう一回 飲んだ唾を吐きたい 男にも二言あり 大好きだから嫌い 会えるんなら会いたい 幸せなのに辛い 俺たちは欲張り またないものねだり 何もないお願い

なんか思っていたよりも語られることがありませんでした!
宇多田ヒカルと庵野秀明の両名のコラボはこれで最後なのでしょうか……なんかもっと色々一緒にやってほしいですけどね。

 - エヴァンゲリオン, 映画, 音楽

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