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ヒプノシスマイクについて(2) ヒップホップとしてどうなのか

      2020/04/02

前回のエントリで、ヒプノシスマイクについてほとんど知らない状態だけどヒプノシスマイクが好きじゃないっぽいということを書きました。
今回からは、僕がなぜヒプノシスマイクを好きじゃないかを考えていきます。
相変わらず、ヒプノシスマイクそのものについてはほとんど調べていません……。

・ヒップホップについての私見
ヒプノシスマイクに限らず、ラップを用いたコンテンツに触れる際に私が感じることを書いておいた方がよいですね。
なので、ヒプノシスマイクそのものに触れる前に、ヒップホップ観を書きますね。
(前のブログにも書きましたが、ヒプノシスマイクはラップバトルではあっても、ヒップホップを標ぼうしているわけではないようです。なので私が書いていることは全て的外れかもしれませんね(笑))

・ラップ=ヒップホップか?
当たり前の話ではあるのですが、ラップバトル=ヒップホップではありません。
ヒップホップという大きな文化の中の一つとしてラップというものがあり、その支流の一つとしてラップバトルやフリースタイルラップというものがあると思うんです。
(ここですでに確証性が薄くて私の印象でしかないかもしれないですけど)
私がヒプノシスマイクについて「嫌だな~」って思うのは、「それはヒップホップとしてどうなの?」という疑問から生じているものです。
なのでヒプノシスマイクが「ヒップホップじゃなくて、ラップでしかない」という思想を基幹としているなら、考えるだけ無駄なものです。(まぁ一見無駄だとしても、自分がどうしても言いたいことならいいますけど……)
なんというか、ロックでいえばギターソロのみを扱った娯楽という話ですかね。

・ヒプノシスマイクのどこに違和感を覚えるか
ラップバトルって基本的に、即興でやるものですよね。(曲の中でディスをするビーフというものももちろんありますが)
電気グルーヴとスチャダラパーのアルバムに、アニとピエール瀧さんが互いにディスり合うという「ラップバトルっぽい」コンセプトの曲がありましたが、それと同じ域にあるというか……。
もちろん電気とスチャダラは、それを「ギャグ」としてやっているので、僕はあの二曲は好きです。

・即興『風』
こういう「即興でやっているように見せながら、実際は綿密に打ち合わせて作っている」ものって難しいですよね……。
漫才とかコントを見てても思うのですが、ツッコミの人がボケを受けて笑いながら突っ込んでいると
「このネタ何十回もやってるじゃねーか」
と思うことがあります。
僕はそれに白けそうになってしまうことがあります。
もちろんそれって、そのネタの面白さを際立てるために「笑う」わけではなくって、リズムを作るためにやってることが多いんですけど。
「こいつのボケがこんなに面白いから、俺が笑うことによって笑いどころですよ感を強調しまんねん~」ということではない。

即興の掛け合いをしている体裁で、実際には綿密に作り込まれている……難しい表現ですよね。
それを表現することは難しいことはわかるので、「即興でやっている体裁で綿密に作り込まれている」ものを一概に批判するわけではない、というのが僕の基本的なスタンスです。

と思うのですが、ヒプノシスマイクには「白けます~~」なんです。。。
やっぱりそもそものフリースタイルのラップバトルというものが、即興でやるものだからなんでしょうねぇ。
もちろんフリースタイルでも、書き溜めていたリリックを当てはめてることもあるはず。
ですが、それにしても、フローはその場で作り上げられるものなので、そこに興奮します。
こうしてヒプノシスマイクという企画が「ラップバトル」を標榜しているあたりにも寒さを感じます。
(ここまで書いて気付きましたが、ラップバトルとは言っているけど、フリースタイルとは言っていないですね……!
まぁそこに気付いてもなお、ラップバトルをライターが書いて、ラップさせるということへの寒さは変わらないんですけど……)

・キャラにラップさせるやりかたって、アリ?
あと、そもそもの話にはなってしまうのですが、他人が書いたラップを歌うラッパーって、ちょっとダサい感があります。
アンダーグラウンドのラッパーが、有名ラッパーのリリックをゴーストライトすることがあるという話はちょいちょい聞きます。
つまりそうまでして、「いいリリックを自分が書いた」という体裁を保とうとしているラッパーが多いということです。
私の好きなブルーハーブのMCボスさんと、KOHHくんは、リリックをゴーストライトして提供した経験があることを曲の中でにおわせていたりしますし。
つまり、ラッパーたるもの、自分の曲のリリックは自分で書くべし……というのは僕の偏見ではなくて、ヒップホップに関わる多くの人の認識なのでしょう。

・ヒップホップとは「俺が最強」を証明する音楽
ボスさんがライブのMCで、「ヒップホップって『俺、最強。以上。』ってことを歌うもの。けどそれだけじゃ表現にならないから、いろんな切り口でラップする」というようなことを話していたんですね。
僕はその説に感銘を受けています。
つまり自分で考えたことを言葉にして、曲に組み込んで、自分でラップするということですよね。
自作自演であることが求められて、かつ、自分自身がカッコイイ(ボスさんはマブいと言いますが)ことを証明しようとする音楽というのがヒップホップの一側面なのでしょう。

・リプレゼント
「カッコよさ」を歌うのでなくとも、ヒップホップって自らの出自を歌うものです。
リプレゼント=レぺゼンってやつですよね。
ボスさんの言う「最強」は「リプレゼント」と言い換えることも出来ると思います。

差別や抑圧を受けていた黒人たちが自分たちをリプレゼントすることからヒップホップは始まっていたはず。
ヒップホップという音楽の起源がそもそもそういった部分にあるので、そこは疑いようがないはず。
もちろん多くの人に広まるにつれ、時間が経つにつれ、様々な形に派生していくものとは理解しています。
(ナタリーの記事を見てみると、その辺の事情にも触れていますね)
というか「最初に録音されたヒップホップ」として有名なシュガーヒル・ギャングのラッパーズ・ディライトも、レコード会社が急ごしらえでバンドを結成させて作らせたものだそうですね。
ヒップホップはその黎明期から、商業利用しようとする人と、カルチャーとしての価値を保持しようとする人の狭間にあるとも言えます。

・「キャラソン」では薄い
抽象的な説明しかできていないかもしれませんが、このようにヒップホップは他の歌曲と比べても『私的』な表現となるものだと思うんですね。
だからこそヒップホップは、アーティストの生き方そのものがカッコよくあることが求められる文化なのだとも思います。
一人の人間がこれまで生きてきた時間のすべてが叩き込まれているかのような表現。
他にSEEDAとかShingo02や般若も好きなのですけど、まさにそういう人たちです。
(もちろんラップを駆使してストーリーテリングする能力に秀でたアーティストも大勢いますね)
ラッパーがどれだけ「濃い」人生を歩んできたのか、その一端を知ることができる『ヒップホップの詩人たち』という本があるので、おすすめです。
著者である都築響一さんがラッパーの取材をした本ですが、都築さんはヒップホップ以外の仕事もたくさんしている人なので、ヒップホップを知らなくても読みやすい作りになっています。
2013年に発行された本ですが、般若・NORIKIYO・THA BLUE HARB・ANARCHY等など……今でも現役バリバリで活躍しているラッパーばかり載っているので、ラップを聴く入り口としても最適です。
何よりシンプルに、彼らが生きてきた濃いドラマの読み応えがすごい。
J-POPの中でしかラップに触れてこなかった人にも知ってほしい、日本にも静かに存在していた貧困や差別が描かれています。
ドラッグディーラーの経験も生々しいこと……。

ヒプノシスマイクの楽曲はまだちゃんと聞いていないけど、ラッパーたちが自分の歩んできた人生を叩き込んだリリックと比べると、ふつうに「キャラソン」でしかないですよね……。
(キャラソンとして楽しんでいる人がいるのだろうし、商業的にはそれで全然いいんでしょうけども)
ヒップホップがこういうジャンルだからこそ、「男がかっこよく自分語りをする」という様式を抜き取って二次元イケメンを張り付けて商売することを思いついた人たちがいるのでしょう。

・「ヒップホップがすごく面白くなっている」に続く
以上が、ヒプノシスマイクというコンテンツに触れた際の感想です。
でも実は思うところがあります。
私はポップ音楽愛好家ではありますが、ヒップホップに集中して触れてきたわけではありません。
しかしそんな私から見ても、ここ数年のヒップホップシーンはとても面白いです。
そんな状況なので、なおさら、ヒプノシスマイクみたいなコンテンツが出て来たことへの嫌悪感があるんですね……。
なので次のエントリでは、その辺りのことを書きます。

次→ヒプノシスマイクについて(3) 日本でもヒップホップが面白くなってきているので……

 - ヒプノシスマイク, 音楽

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