てやんでい!!こちとら湘南ボーイでい!!

映画音楽本ごはんの話を、面白く書けるようにがんばります

*

アンチアイドル声優としての夏川椎菜ソロ

      2020/08/06

そういうわけで、前回のエントリで、Trysailにハマった経緯を書きました。
そんなTrysailのメンバーのソロ作の中でも、夏川椎菜さんの作品にいたく感銘を受けたので、どこが良かったのかを書いていこうと思います。
まずはこのエントリでは、アルバムとEPをそれぞれ一枚ずつ発表している夏川さんの、アーティストとしての印象を書きます!
その後、1stアルバムの『ログライン』と、『Ep01』のことを1エントリかけて書きます!
そう、私は、歌詞の意味を考察するのが大好きなタイプのキモオタなのです……。

そしておまけとして、夏川さんがフェイバリットとして挙げた、欧州で絶大な人気を誇るポップシンガー「MIKA」と夏川さんを紐付けるエントリがさらに五つあります……。

・声優らしくなさの詰まった夏川椎菜ソロ

前回のエントリにも書きましたが、まず前提として、「声優さんの歌ってこんな感じっすよね」っていう偏見を持っていた僕は、夏川さんのソロ作も「そんな感じだろうな」と思いつつ聴いたんです。(失礼ではあるのですが、これが本音です……失礼ですみません)
そもそも実際に曲を聴く前に僕が夏川さんに抱いていたイメージは
・アイドル声優グループのオーディションを受けて業界に入った
・アイドルゲームコンテンツで声優と歌唱を務めている
といったところです。
なので、歌っている内容も、「やたらキラキラした青春」だったり「甘酸っぱい恋愛」ばかりで、(僕からしたら)リアリティ感じられないようなものなんだろうと思っていました。
アニメやゲームで描かれがちな、快楽的でぬるま湯のような害のないコーティングが施されてるようなイメージ。
しかし実際は、夏川さん自身のリアルでネガティヴな感情を内包していると思われる曲が多かったので、意表を突かれたんですよ。
具体的に言うと、
・ネガティヴな感情をネガティヴなまま歌う(曲の中で答えを出したり解決させない)
・おためごかしやはぐらかし、無根拠なポジティヴィティを歌わない
・自分を取り巻く環境に対する疑問をさらけ出す
といったところでしょうか。
具体的にはアルバムの解説のエントリで書きますが、そんな夏川さんのアルバムからは、「かわいくあれ」「いい子であれ」「ニコニコしていろ」という女性にのしかかる暗黙の責務の残酷さも感じます。
また、そんな「空気」に苦手意識を感じながらも順応している夏川さんの健気な奮闘ぶりなどもいじらしいところ。(そこを「いじらしい」と感じる男がいる、ということが彼女をまた苦しめることにもなりそうですが……)

では、次に、記念すべきファーストアルバムの感想を書きます。

・「不安な気分と不安定な自我」をそのまま表現した1st

EPでは曲の幅が広がりますが、アルバムの曲調はアコースティックな質感を持つものはほとんどなく、デジタルっぽい触感のポップロックが基調になっています。
テクノやエレクトロニカ寄りの音の作りになっていて、聴きやすいです。(悪く言えばサウンド面は特徴がほぼない)
私が苦手な「ハードロックアニソン」が無いのも、好印象の要因ですね……(笑)。
あと、今のところの夏川さんの全ての曲で、鳴っているドラムの音がめちゃくちゃいいんですよね……これはなぜ、こんな音になっているのだろう。
プロデュースをしている方の趣向なのか、夏川さんのリクエストでこうなっているのかはわかりませんが、音自体がすごくよいです。
アニソンっぽくない。
トライセールからは雨宮さんと麻倉さんが先んじてデビューしており、前者がハードロックやシンフォニックなアニソンをやっていて、後者が松田聖子さんのテイストを基調にしたアイドル歌謡をやっていたので、そこと被らないようにした結果がこういった音楽性なのかなぁ。
(そう、前のエントリで麻倉ももさんを批判的に書きましたが、麻倉さんのソロ2nd『アガパンサス』めちゃくちゃよかったです……アガパンサス褒めブログも書くかもしれません……)

あとはいわゆる「バラード」的なものもない。
これは面白い特徴ですね。
おまけエントリでミーカのインタビューを文字起こししましたが、彼の創作法のように、「暗い歌詞が多いから楽曲は暗くしない」ことを努めた結果なのでしょうか。
そんな「泣かせチューン」が無い代わりに、明るい曲でこそネガティヴなエモーションが表現されているんです。
これは夏川さんの曲の面白い特徴で、自分の抱く感情を、その感情のベクトルとは異なる方向を向いた作品に乗せて表現するということは、ポップ・ミュージックをはじめとして様々なアートフォームでみられる手法です。
しかしアニソンとかオタク系のコンテンツではあまり見られない……というより、日本で「コンテンツ」として流通するものは「わかりやすさ」を強要されるために、あんまりそういう表現はありませんねぇ……。

10年ぶりでも悲しい気持を悲しい曲で表現しなければいけないわけではないのですが、どうにも「悲しい気持は悲しい曲に乗せる」作品が多すぎる気がするので、そんな環境の中では夏川さんの特徴はユニークに思えますね。
逆に言うと、The女性声優歌唱アニソンを求めてしまうと、ちょっと期待外れ感を覚えてしまう可能性もありますね……けど普通に曲がいいのでぜひ聴いてみてほしいもの。

こんな風に、ストレートではない感情表現をしているのは、夏川さん自身が「良い子であろうとする」「本音を言えない」という性格だったからこそ出てきた表現なのではないでしょうか。
なんというか、アルバム全体のベースにあるのが「自信のない女の子」の心象風景なんですよね。
そんな夏川さんに惹かれるあたり、「自信がない女の子が好き」という自分のミソジニー気質が見えてしまうのが嫌ですが……。
そこのところも、楽曲の考察で詳しく書いてみたいと思います。

ただ、アルバム全体としてはちょっと統一感に欠ける印象があります。
というのも、夏川さんが初めて作詞を手がけた『チアミーチアユー』と、それ以前に書かれた曲とがちょっと毛色が違うので、一枚のアルバムの中であんまりうまく混ざり合えていない。
曲の濃度が違うと言えばいいでしょうか。
前者は夏川さんが「自分の言葉」を持ち始めたことが明確に表われているのですが、それ以前の楽曲というのがちょっと正直、軸がないというか、何を表現しようとしているのかよくわかんないというか、「誰が歌っても一緒な感じ」がしちゃうんですよね……。
よくあるJポップとかアニソンの、曲数を埋めるためだけに作られたようなアルバム曲というか……雰囲気だけで作りました感がにじみ出てる感じがするというか……。
まぁ、もちろん、製作を続ければ続けるほど面白くなっていくアーティストという人種もいるので、夏川さんも今後もっと面白くなっていくかもしれません!

では続いて、EPの感想です!

・「不機嫌さ」を露わにし始めたEP

アルバムリリースから約5ヶ月後に発表されたEPでは、早くも音楽面・歌詞面どちらにも変化が起こりました。
音楽面では、収録されている5曲すべてがまったく異なるジャンルになっていて、「なんとなくロックっぽい」曲がなくなっており、それぞれの曲が強い個性を持っています。
リードトラック的な扱いの一曲目『ワルモノウィル』はV系寄りのハードロックっぽい音作りで、PVの衣装とセットもゴシックな感じで撮られていました。
ほか、メロコアっぽいパンクチューンの『キタイダイ』ではこれまでよりも太い歌声が披露されており、5曲中2曲がアグレッシヴなロック色を打ち出しています。
そんな曲調が、夏川さんが攻めの姿勢に転じていることを如実に反映させているように思います。
そう、「攻めの姿勢」というのは歌詞の面でも見られる変化です。
ここでも夏川さんの曲の特徴となる、「歌詞と曲の相互効果のうまさ」が見て取れる。
夏川さんもしくはプロデュースしている人物が、頭のいい人なんでしょうね。

EPの歌詞面の傾向を一言で言うと「不機嫌な態度」が全面に表出しているところに尽きるでしょう。
『グルグルオブラート』なんて曲も作られていますが、アルバムでは、いろんなことが「オブラート」に包まれている状態なのですが、こちらでは「夏川椎菜」というオブラートを内包物が突き破りつつあるのです。
うっすらと中身が開陳されつつある。
アルバムでは「不満」「不安」を抱えながらも、「良い子」だと思ってもらえるように取り繕っているのですが、ここではもう「不機嫌さ」を隠さず、「良い子」としての振る舞い放棄しているような印象を受けます。
もちろん夏川さんの人生ですから、自身が思うままに振る舞えばいいし、「良い子」であろうとする必要なんて全くありません。
しかし、EPを聴いていると「良い子でいさせようとする存在」への反発があるのか、歌詞でも強気で攻め攻めな言葉が増えているんですね。
僕からすると「ちょっと攻めすぎ・攻撃力高い表現に突き進みすぎでは」と感じるのですが、僕が思っている以上に夏川さんを抑圧する力が強いから、その反動も強い形で表出してきているってことなのかなぁ……この辺りは考察でも、推測を超えることは書けそうにないです。
抑圧されてきた経験から、抵抗することに決めた際に過剰に強気に振る舞う女性像というと、トイストーリー4でのボー・ピープを思い起こしますね。

詳しくはEP考察のエントリで書きますが、アルバムのリリースからわずか八ヶ月の間に起こった変化としてはだいぶ大きいとは思うのですが……どうなってるのだろう。
ちょっと心配になってしまうぐらいには、変わってしまっている気がします。
ただ、こんな風に、「不機嫌さ」を前面に押し出した作品を女性声優がリリースするというのはちょっと面白い現象なんじゃないかと思いました。ええやん。

ここから、僕の知っている音楽から、夏川椎菜さんと共通項のあるものについて書きます。

・グラミー賞主要部門独占の天才ビリー・アイリッシュに似てる気がする

僕はこの「不機嫌さ」を隠さないところは、夏川椎菜さんがビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)に似たところだと感じました。
彼女は17歳でリリースした1stアルバムで、グラミー賞で主要の4部門を独占したアーティストです。
2016年から実の兄とともに楽曲を発表し始めており、アルバムをリリースする前から彼女の作品は大きな話題を呼んでいました。
ビリーはアメリカで生まれ育ちましたが、今、アメリカのティーンの間でメンタルに問題を抱える子が多く、半ば社会問題と化しているようなのです。
日本でもひっそりと問題になっていますが、アメリカは医師が処方する薬の中毒になる人も多く「合法ドラッグ」問題とメンタルヘルス問題は隣り合わせでもありますね……。
ただ、アメリカではそれが何年も前から大きな問題となっています。

音楽評論家の田中宗一郎さんが、ビリー・アイリッシュが若い人の間で受け入れられている理由として挙げたのは
「学校に行っても先生はデタラメなことを話している。環境問題は後数年のウチに答えを出さなければ間に合わないかもしれない。ボーイフレンドが出来たと思ったらひどい男だった。けれど虐待された子どもが、本当は親が悪いのに「私が悪いから虐待されるんだ」と思い込んでしまうように、若い子たちは自分を責める結果になっている」
といった話でした。(曖昧にしか覚えていないのですが……)

ビリーがアルバムリリース前に発表したEPのタイトルは『ドント・スマイル・アット・ミー(Don’t Smile at Me)』……「にやけた顔でこっちみんな」。
夏川さんも「笑顔」というワードが歌詞に出てくることが多いですよね。

このEPについても田中宗一郎さんが素晴らしいレビューを書いてらっしゃるのでちょっと引用します。

フラジャイルな自分自身に正直であるがゆえに、不機嫌な表情と反抗的な眼差し、辛辣極まりない言葉を投げかけ、これ見よがしに全身ハイファッションに身を包む新世代のアンチ・ヒーロー。それがビリー・アイリッシュだ。
悲しみや怒り、精神の退廃や乱れを少しも隠そうとしない剥き出しの言葉と生身の声。
彼女はこんな風に歌っている。
「私は誰のものでもない/でも誰もが私の名前を知ることになるはず」。
本作のタイトルは「にやけた顔でこっち見んな」。
馬鹿相手に無理やり笑顔を浮かべる必要などない。
抗うつ剤やドラッグの力を借りなくてもいい。
病める時も健やかな時もただ自分自身をさらけ出し、それを外界のすべてに認めさせればいいだけ。
2018年後半になって、翌年以降のポジティブなヴァイブスを決定づけたアリアナ・グランデという存在のコインの裏側、それがビリー・アイリッシュだった。

やっぱり田中さんの書く文章って完璧ですね……。

あとこれは口にするのがはばかられる事情だとは思うのですが、ビリーはすごく綺麗な顔立ちなんですよ。
で、最近彼女が衣服を脱いで腹を露わにする動画が公開されましたが、彼女が大きな服を着ていたのはおそらくグラマラスな身体を隠すためだったのではないかと思うんです(違ったらごめんなさい……)

そんな風にビリーは、「女を値踏みする男の視線」にさらされてうんざりしている女性たちの心情も持ち合わせているのだと思います。
男達は、自覚的であるか無自覚であるかを問わず、女性に対して「男にとって都合の良い振る舞い」を求めますよね。
そしてその価値基準で女性を評価しようとする。
逆もまたしかり……ですが、やはりまだまだ社会は男性に優位な構造を保っていると思います。
夏川さんは「声優」という職業……しかも歌手活動も行う前提のアイドル寄りのオーディションを経て業界に入ってきた人なので、「男性からの視線」に無自覚ではないと思うんです。
彼女がその「男性からの視線」をどう感じているのかわかりませんが……。
ビリーもこれから先、どんな曲を作り、どんな風に生きるのかはわかりませんけどね。

ただ、夏川さんの曲を聴いていると、僕の中には、「じゃあどうして声優をやめないの?」「嫌な仕事をやめないの?」「そもそもどうして声優になろうと思ったの?」「声優になるにしても、もうちょっと楽で素の自分に近い仕事を受ければいいんじゃないの?」という疑問が湧いてくるんです……。
謎。

・夏川さんに近い属性を持つミュージシャンたち

夏川さんの表現って、ビリー・アイリッシュのような「不機嫌さ」と、ずっと真夜中でいいのにのような「同調圧力で潰されかけている自我の悲鳴」が混ざったもののように思います。
音楽の内容的に言うと、「フラストレーションの標的をどこにも定めることができず、自分の内面に向くことしか出来ない」感じは、ずっと真夜中でいいのに(ずとまよ)とかと近い感じがします。
ただしずとまよは具体的に恋愛対象を思わせる「君」がいる曲があるけど、夏川さんは性愛的な表現を避けているといった明確な違いはある。
後述していきますけど、夏川さんが「君」と言う時は、声優としての自分から応援者たるファンに向けての言葉が綴られますね。
「ファンに向けた歌」が多いのは声優が歌う歌の大きな特徴の一つ。
そしてEPになると、「不機嫌さ」が増してビリーっぽい表現に接近していく感じ。
(そうそう、そんな風に「夏川椎菜」の生活を夏川椎菜さんが歌っている感じはするけど、彼女自身のプライベートが反映されていそうな曲が今のところ無い気がするんですよね……)
それにしても、夏川さんは今のところラブソングを全く歌っていないアルバムというのも、本当にすごいですよね。
夏川さん自身が恋愛にあんまり関心が無いのか、恋愛を音楽で表現しないだけなのかはわからないけど、一曲ぐらいそれっぽいものがあってもいい気がするけど……。

で、自省の念がやたらと強いところはsyrup16gのようであったり……(たとえが古くて申し訳ねぇずら……)。

あんまりニュースとかでは聞かないけど、上記のアメリカのティーンの状況についてですが、日本でも近い状況はあるんじゃないかと思うんですよね。
00年代に日本を席巻するメンタルヘルスロックの先駆けであり、未だに最強の金字塔であり続けるシロップ。
ユニークなバンドですよ。

・夏川さんソロ総評

現時点での、アルバム一枚とEP一枚ずつのディスコグラフィを見てみると、歌詞の性質が両極端なんです。
楽曲に込められているエモーションの強さはどちらも同じくらいの質量があると思うのですが、前者ではそれが自信の内面に向かっていて、後者では外面……自分の周囲や環境に向けられています。
僕個人的には前者の表現の方が好きだったんですよね……自虐的な人間の作るアートが好きなのかなぁ。
ただ、時系列で見ると感情の矛先が内から外へと逆転してはいますが、今後の作品ではそれらのバランスが取れてくるのかなという気はします。
一枚の作品の中で、内省的な表現と、周囲を斬り付けるような表現を両立させたり、一曲の中で様々な解釈ができるような表現の手法を身につけたりしていくのではないかと。

あるいはそのどちらもあんまりしなくなり「普通」の表現に留まるようになるのかもしれない。
人間、一度学びを得たら、一生同じ過ちを繰り返さないのかというと、そんなことはないはずです。
「人は成長する」というのは神話でしかなくって、生長したつもりになっていてもまた同じことで間違って、同じように自己嫌悪に陥る……なんてのはよくある話ですね。
宮崎駿さんが『千と千尋の神隠し』を作った時は、「何十年も同じところをぐるぐると廻っていただけな気がする」という想いを語っておりました。

作家だって、過去の作品と矛盾することをやっていいに決まっています。
後述しますが、MIKAというアーティストは「愛」を繰り返し歌っているのですが、愛を信じたり、愛の理不尽さに打ちひしがれたりと振り子のように行ったり来たりしています。
その話は、MIKAのエントリで書きます!

1stの夏川さんって、いい意味で言えば抽象的な表現をして多くの人が感情移入できるようにしていて、悪く言えば、「具体的になんのことを言ってるんだろう」って気になってしまったり……
抽象的な表現がうまいのは確かなのですが、もっと具体的なことを歌っていってもいいような気がするんですよね……いや、これから先そういう曲も増えるのかもしれないけど。
そう、僕が1stを好きになったのって、自分の過去の記憶を遡れば思い当たるような経験があるからです。
こう、夏川さんがもう少し広く受け入れられるようになるにはもう一つ、表現の変化があったほうがいいかなぁとか……。
テクニックの向上もそうだけど、もっと自分の内面をさらけ出せかどうかも重要なポイントだと思うんですよね。
「何を出すか」「どのように出すか」「どの程度出すか」が鍵になるような気はするんですよね。
鍵っていうか、僕が面白がれるかどうかのポイントはそこかもしれない……(笑)
もちろん、「本当の想い」じゃなくてもいいし「実際に自分の身に起こったこと」じゃなくてもいいんですけど、今の夏川さんの表現は「自分の本当の想いや経験した出来事を、隠している(隠さないといけない(と思ってる))けど、全てをさらけ出せない」という葛藤がベースになっていて、そこから抜け出せなくなっている印象を受けます。
そんな様を端から見てると、なんか苦しそうだなぁと思ってしまう。
もっと広いファン層を獲得できたら、夏川さんも今課せられている制約から解かれて、もっといろんな作品を作ってくれそうだし……。
「アニソン」という枠そのものが、今の彼女の枷になっているように僕は思う
もっと、普通の女の子からの支持を得られたら、夏川さん自身も変わるんじゃないかと思います。

まぁ、アーティストってそういう生き物でもありますよね、自分の苦悩を作品に刻み込むような生き方をする人も少なくありません。
僕が彼女を面白がれた大きな要因の一つは、やはり、女性声優がこんなこと歌うの? というカウンター的な衝撃があったのは間違いない。
でも脳内再生する率が高いので、音楽的にも惹かれているんだと思います……具体的に、どう優れているのかを説明するのは難しいんですけど。
同じような存在として、アイドルグループのAAAのメンバーである日高さんのソロプロジェクト「SKY-HI(スカイハイ)」もそんな感じでした。
スカイハイはヒップホップのMCとしての名前で、ラッパーとして活動されています。
当然自身で作詞作曲を手がけ、楽器の演奏とかアレンジもする多彩な人なのですが、僕は「どうせアイドルの副業でしょ」と高をくくっていて敬遠していたのです。
それが実際に音源を聴いてみるとドはまりしてしまいました……。
「ストリートのリアル」みたいなヒップホップの醍醐味を求めようとすると、ちょっと違うのですが、聴きやすいし深いし最高ですよ。
まぁ日高さんの場合、不自然なくらいに作中で本業「AAA」をにおわせないので、それはそれでプロ過ぎて怖くなったりしますが……(笑)。

あと、「むき出しの表現」がまだ出てきそうなのも楽しみなんですよね。
『グルグルオブラート』という曲があるように、夏川さんは、「夏川椎菜」が猫を被って夏川椎菜として振る舞っていることはもはや隠すことをやめていますが、さて一体何を隠しているのか?
ということはまだオブラートに包んだままなんですね。
オブラートがあることは表明しつつ、その中にある物には触れていない(具体的には)。
彼女はそれを、いつか外に解き放つのでしょうか。
解き放ったとして、それを音楽作品や、まぁそれでなくても何かしらの「夏川椎菜」の名前で公表するだろうか。
疑問ではある。
彼女はいったい、何に悩んでいるんだろう……謎。
剥き出し川椎菜。

詮索してはいけない事柄かもしれないけど、性愛に関する問題なのかなぁ……いや、問題って言っていいことではない気がするんですけど。
家族の話とかは普通にしてるから、家族関係に悩んでるって感じはしない。
謎。
アルバム最終曲の『ファーストプロット』を聴くと、なんとなく「家に帰りたくなかったのかな」とか思ったりするんですけど……
もちろん、自分の全てを作品で出す必要はないし、出すにしても「ありのまま」を伝える必要はないです。
ただ、ポップ・ミュージックの歴史を眺めてみると、当然ながら、「自分の全てを言葉にしてしまった大傑作」もあるんですね。

・ポップミュージックにおける「剥き出しの表現」

ポップミュージックでは、一つの曲に「全て」をたたき込むかのような表現が存在します。

これはデビューアルバムに収録された曲ですが、母親と離婚したときはどん底にいた父親が信仰と向き直って再起したこと(しかし自分との関係の再構築をしようとしてくれない)、継父と母親の関係が崩壊したのは自分のせいではないかという呵責に苦しみ続けていること、だれも「君のせいじゃない」といった言葉をかけてはくれず一人で重責を背負っていることなどが一曲の中で歌われます。

andymoriの『teen’s』もそんな感じ……音楽についての全てを歌っていると思います。
詳しくは僕が若かりし頃に解説したものがあります……

般若とkohhが共作した『家族』という曲もそうですね。

シロップの『さくら』もこの系譜だと思います……。

小沢健二さんの『流星ビバップ(流れ星ビバップ)』と『恋しくて』は、具体的なことを歌わず抽象的なのに、全てをさらけ出してしまっているところがすごい……。

ミーカの『ノー・プレース・イン・ヘヴン(No Place In Heaven)』は、同性愛者である彼が、自らの信仰する神が同性愛を否定しているという矛盾に苛まれるものです。
自分が心のままに人を愛すると、自分が信仰する宗教においては罪とされてしまう……辛すぎますよ。
この曲を聴いていると僕は泣きそうになってしまいます。
僕は、軽々しくBLを消費する人のことが嫌い。

ブライト・アイズ (Bright Eyes)英国のフォーク・ロックを基調としたバンドで、長らく活動を休止していましたが、今年奇跡の再始動を果たしました。
3月に来日公演が決定していましたが、コロナウイルスの影響でツアーはキャンセルに……私はチケットを確保していました……10年ぐらいずっと好きだったアーティストを初めて拝む機会だったのに……無念……。

『レッツ・ノット・シット・アワセルヴズ(トゥ・ラヴ・アンド・トゥ・ビー・ラヴド)』(Let’s Not Shit Ourselves (To Love and Be Loved))……直訳すると、「僕らは自分のことをクソみたいに思うべきじゃない(愛し、愛されるために)」というこの曲は、フロントマンのコナー・オバーストが22歳の時にリリースしたアルバムの最終曲です。
彼はその優れた詩情性からインディーのボブ・ディランといった評価を受け、また、美しい歌声と悲痛な叫び声を使い分ける歌唱法から歌声傷ついた天使の歌声の持ち主とも呼ばれました。
彼も10代の頃からバンド活動を行っており、このアルバムでは兄弟同然に育ったいとこの自殺が大きな影を落としています。
そしてこの曲の中では、自殺未遂を図った主人公と、父親のやりとりが描かれます……おそらく本人に起こった事実ではなくフィクションを描いていると思うのですが、後のアルバムでは「両親は敬虔なクリスチャンなのに別居している」という矛盾に苦しんでいることが歌われるので、家庭環境によって自尊心を大きく傷つけられてきたことがうかがえます。嗚呼……。
日本でも熟年離婚なんて言葉はよく聞きますけど、親が愛し合っていないのってキツいですよね。
僕の家の両親も僕が子どもの頃からケンカを繰り返していたし、ケンカしていないところでも母も父も互いの悪口を子どもに吹き込んでいたし、つらかったです……。
30過ぎてもそういう嫌な記憶がフラッシュバックすることがよくあります。
僕もセラピーや宗教を必要としているのだと思う……。

ジョン・レノンがビートルズ脱退直後に作ったソロアルバム『ジョンの魂(John Lennon/Plastic Ono Band)』は、『マザー(Mother)』で幕を開けますが、自分の元を去った父と母に「置いていかないで」とあけすけな言葉を投げかける楽曲です。
ジョン・レノンはプライマル・スクリームという精神療法の実践の一環として、自分のトラウマをそのまま吐き出しました。
そんなわけでこのアルバムは、後期のビートルズの凝ったサウンドプロダクションから一転して、ピアノやギターを主幹に置いた、装飾を剥ぎ取ったシンプルな楽曲で構成されており、歌詞もシンプルで直球なものばかりです。
ポップミュージックの世界で、自分のトラウマを開陳するという手法はジョンが初めてやっとじゃないかなぁと。

なんにせよ、夏川さんもリリースを重ねていくうちに表現が変化していくことは間違いないはずです!
ここからどこまで晒すのか、晒さないのか、今の時点ではわかりませんが楽しみっす。
しかしですね、夏川さん、昨年からゲームの実況をするお仕事もやってらっしゃってるじゃないですか。
最近になって、バイオハザードのプレイ動画を観たんですけど、ここでも、普通の女の子って感じなんですよね。
なんか斜に構えるでもなく、かわい子ぶり過ぎるわけでもなく、普通の子って感じっす。
演技してるって感じが全然しないし、キャラ作ってるような感じがしないんですよね……。

まぁ、そんな風に、自分の内面を隠す術に長けているからこそ、普段の夏川さんに接している人達も、夏川さんが心の中をあんまり見せない人だと気づけなかったりするのかもしれないですしね……。
あるいは、一人でいたり本当に仲のいい人と一緒にいるときは素を出せるけど、知らない人の前だったり仕事として表舞台に立っている時は完璧に夏川椎菜さんとして振る舞えるプロ精神の持ち主なのかもしれません。
謎……。

では、次のエントリで、アルバム『ログライン』の考察を書きます!

あと、おまけとして、下記のミーカ紹介&インタビュー転載エントリを用意しました。

夏川椎菜ソロを考察するフレームとしてMIKAを紹介します 

「愛」を肯定できず悩み続けるMIKA

MIKAインタビュー2007年

MIKAインタビュー2007年(2)

MIKAインタビュー2009年

 - 夏川椎菜とTrysail, 音楽

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