私の完璧ではない家族をあなたに見せる勇気が欲しい
カーリーレイジェプセンが好きだ。
だが自分の音楽の好みから言えば、このようなタイプの音楽家を、ディスコグラフィーのほとんどを追いかけるということが信じられない。
彼女がセカンドアルバムでシーンに登場した2012年頃、EDMが活況であった。(デビューアルバムはカントリー・フォーク調だったのでそこまで売れていなかったようである)
僕はその頃まだ、ロックンロールこそ唯一にして至高の音楽だと信じ切っていたので、そういうチャラいダンスミュージックのことは小馬鹿にしていた。
ただ、コール・ミー・メイビーは死ぬほど流行ったので、嫌というほど耳にした。
剛力彩芽がめちゃくちゃぱくったことでも有名。
ストリングスが「シュン」って鳴る曲が雨後の筍のようにたくさん出ましたね…。
アウルシティーと一緒に作った『グッドタイム』も爆流行りしていたけど、これなども、EDM仕様のポップソングのお手本になるような出来。
そんな彼女の音楽に僕が明確にハマったのは2016年だった。
この頃になると僕は様々な音楽への偏見がなくなり、メインストリームのポップも普通に聴くようになっていた。
あとサブスクに加入したので、月々定額で音楽を聴き放題になったので、気軽にいろいろ聴きやすくなった。
ここで、カーリーの新曲『カット・トゥ・ザ・フィーリング』を聞いた。(これは3枚目のアルバムリリース後に発表された曲なので、アウトテイク集に収められた)
筋トレの時のBGMとしてなんとなくかけただけだったのだが、打ちのめされた。
面白いと思ったポイントは2つ。
Aメロにあたる部分で、キックがアクセントになるのだが、そこに面白い言葉の載せ方をしているところ。
もう一つはサビがアッパーすぎるところ。
僕はこういう、声の限界のところで歌っているようなボーカルに弱い。
ここまでをやって、はじめてエモと言っていいと思う。
歌詞を読んでみると、まぁ、「恋のドキドキがすごいっす」といったところだった。
この、どうでもいいような歌詞を本気で作って全力で歌っている人間を僕は尊敬っするんです。
「どーでもええがな」を音楽の魔力が超越して、関心を寄せざるを得なくなるような、そーいうすごさがここにはあった。
コール・ミー・メイビーでカーリーの存在を知ってから、この時すでに4年ぐらいが経過している。
調べてみるとカーリーはこの年に、31歳になっていた。
31歳で、こんな「恋のドキドキ!」みたいなことを真っ向から歌っていることにちょっと感動したのだった。
なんかそのぐらいの年齢になると、やっぱり、人って、恋愛や生活に「落ち着き」求められるじゃないですか。
そうなると実際に、「落ち着く」ようになる。
落ち着いてないことを「イタイ」とくさされてしまったり。
けどカーリー、全然落ち着いていない!
それどころか、恋を楽しんでいる自分を楽しんでいる感じすらする。
これってすごいなと思いました。
日本で言えばaikoみたいだなー、と思いました。
まぁ、恋愛感情って一種の狂気だから、社会からしたらそれを抑制しておきたいという感じなのでしょう。
けど、同調圧力に負けて、自分から湧き出る情動を押し殺したり、気づかないフリをした結果として、よろしくないことになってしまうことも往往にしてある。
感情に正直になろう、といったスタンスは、彼女の楽曲に通底するスタンス。
そこでハマったもので、カーリーがヒットを飛ばした最初のアルバム『キッス』と、続けてヒットとなった『エモーション』を聞いた。アルバムタイトルにキッスとつけるセンスはまじでやべーと思う。
エモーションからも『アイム・リアリー・ライク・ユー』という曲がヒットしていた。
この曲の歌詞を読んでみると、多分、ちょっと冷めてきてるカップル。
「夜中にテレビを一緒に見てる 私たちどうしてこうなっちゃったの?」と歌ってからサビに入って、「私はほんとにほんとにほんとにほんとにあなたが好き」「私はあなたが欲しい あなたは私が欲しい?」とアゲて歌う。(彼女の歌はコーラスで爆発的なアゲが生まれる。これがJpopと共通する様式なので日本でも支持されているのかなと思う)
男は恋愛自体に冷めているか、もしくは彼女に愛情を持っているがセックスに旺盛ではない状態になっているものと思われる。
しかし彼女は彼を愛しているし、セックスもしたい。彼女はその問題に気づいているが、おそらく、それを彼に切り出すことができていない。
これってちょっと現実にはあることだけれど、なかなか人に言いづらいことなんだろうなと思う。
こういう情景を恥ずかしげもなく、しかもドポップに歌えるのがこの人の強みだろうなと思う。
ただ、ともすれば、「彼女の恋愛感情や性欲が衰えていないことのほうがおかしいのかもしれない」という考えも僕はこの時抱いた。アルバムでは80年代リバイバルのムーブメントをダイレクトに取り込んでいて、けっこう面白いっす。
その後に出たアルバム『デディケイテッド』は、BPMが全体的に遅めになったアダルトなアルバムとされる。
自分としてはポップのフック満載だったそれまでの二作と比べて、ちょっと落ち着きが強い気がして、そんなに愛聴しなかった。
一曲だけ、アルバムの中で異彩を放つ、これまでのサビでブチアゲる路線のカーリー曲がある。
ちょっと浮いちゃってる気はする…いい曲だが。
この曲は、僕が少し前まで好きだったコロチキのナダルさんが出演しているTV番組でもBGMとして使われていた。
まだカーリーって日本ではこういう使われ方しているんだなぁ…とちょっと嬉しかった。
去年、『ザ・ロンリエスト・タイム』というアルバムを出した。
すごいタイトルである。
日本でプロモーション来日した際に、TV番組で『ビーチ・ハウス』という楽曲を披露した際には、「マッチングアプリで知り合った男が胡散臭くて信用できない』という楽曲の歌詞が話題になったもよう。
彼女は現在30代も後半になっているが、ここでもまた、人にはあんまり言いにくい(ましてやポップソングのモチーフにはしづらい)ことを取り入れる姿勢が見える。
でもこういう、恋愛でうまくいっていない人生があるのも事実なわけだし、いいですよね。
アルバムを聴いていると、一曲目で「パーフェクト・ファミリー」という言葉が聞こえてきた。
僕は英語がわからないので、こういう時は和訳されているサイトを探すのだが、この曲は和訳されていない。
なので英語の歌詞を翻訳のツールに突っ込んで、なんとなく読んでみた。
相手と向き合う勇気についての歌のようだった。
「セラピストに言われた 柔軟になりなさい」といった歌詞があった。
彼女がセラピストにかかっていたことがわかる。
そしてサビに入る前には、「私は私の完璧ではない家族をあなたに見せる勇気が欲しい」と謳われていた。
俺は泣いた。(今調べたらYouTubeで和訳が記載された動画が上がってた)
僕は家族に恋人を会わせたくない。
存命の親は頭がおかしい。
兄は統合失調症だ。いつ何が起きてもおかしくない。
家族のおかしさを、少なからず俺も引き継いでいるのだと思われるのが嫌だった。昔ハプニングで母親と恋人が言葉を交わすことになってしまった状況があった。
その時恋人が「お母さんがちょっと変だって話を前にしてくれたけど、私も変だと思った」と言われたことがあって、嫌だったな…。お前もちょっと変だろと思ったが、俺は何も言葉を返せなかった。
まぁ、見せたくない家族というマイナスを補って余りあるようななにかを持っていれば自信も持てるのかもしれないけど、特にないので、それらが気になるのかもしれない。
初めて付き合った女の人と、後年になってツイッターが繋がったのだが、そのアカウントのツイートで「自分は家族と悲しい関係しか築けなかったので、パートナーを選ぶ際には、家庭関係が平和な人を選んだ。けれど、彼が私の感情に共感してくれないことも多く、隔たりを感じる」と書いてあったことも、家庭環境が劣悪なのってやっぱりこういう恋愛関係において不利だよなーと思うようになったきっかけでもある。(とは言え、「自分の家族はやばくない」とひた隠しにしようとしているが実際にはやべー家族だな、というパターンも多い気はする)
こういう話を人にできたことは一度しかない。
日本発祥の新興仏教を家族で信仰している友人がいる。
彼は20代半ばくらいまでは会合に行くなど熱心な信者であったが、段々と教団から遠ざかるようになった。
けれど家族は信仰しているので、彼女ができたとしても会わせにくい。
「家族を恋人(もしくはそれ以外の他者)に見せたくない」という感情を、映画にしろ音楽にしろ小説にしろ、描かれているのをあまり見かけたことがないので、かなり感動してしまった。
しかもアルバムの一曲目でそれを歌い上げているあたり、かなり大きなモチーフなのだろうなと思う。
ほかにも「あなたは私が愛を確かめようとするのを嫌がってたね」「過去の経験から、悲しい思いをする前に自分から引き下がるようになっていた」なんて歌詞もある。
あー。身に覚えがある。歌詞書くのが上手いですね。
過去のネガティブな恋愛経験から、昔のような恋愛はできなくなっている。そしてそのことを今好きな人やパートナーに打ち明けられない。(キズモノ、と思われたくないという感覚かも。少なくとも僕はそれがある)
自分はデディケイテッドをあまり聞かなかったけれど、最終曲は『パーティ・フォー・ワン』と言い、孤独であることを受け入れるような内容だったようだ。
人はそれぞれ孤独で、一つにはなれない。
けれど一人と一人が寄り添って二人のまま一緒にいることはできる。
彼女には『メルト・ウィズ・ユー』という曲があるが、一つになれないけれどわかりあえるし愛し合える、ということを受け入れたのではないだろうか。
考えてみると彼女の歌はモノローグで、特定の相手への感情やその相手との関係性は謳われるものの、相手の実際の反応はあんまり謳われていない気がする。
歌の内容もコミュニケーションについてのものが多い。コミュニケーションについての観察記録のような。
異常なまでに恋のアッパーな部分を歌うのは、もしかしたら彼女が本当に「異常」だったのかもしれない。狂気と紙一重にある恋愛感情を、そのまま体現していたのではないかと。
最新作での彼女は、先行シングルでもそこまでアッパーではない。
どこか悲痛ささえ感じさせるような歌声を聴かせている。
彼女の楽曲はいつも音があんまり重ねられてないので聴きやすいなと思う。曲の展開はそこそこ多いけどそこまで忙しなくはない。
ちゃんとアルバムや作品ごとに新しい音楽を取り入れていて、音楽家としての矜持がある人なのだろうなと思う。
情動をそのまま曲にぶつけているようで、しっかりと職人気質というかプロフェッショナリズムも感じさせるところが好きなのだと思う。かっこいいアーティストだ。
俺もセラピーに通えば、家族を人に見せる勇気を持とう、と思えるようになるだろうか。
でもセラピーは金がかかる。
俺の経済状況は生活を送るのにやっとだ。
しかし俺は一万円越えのカーリーレイジェプセンのライブのチケットを買った。
カーリーレイジェプセンのライブに行くのを我慢してセラピーに行くべきなのだろうか。
でもセラピーしたとしても治るかわからないし、治したところで別に恋人がいるわけじゃないのだから、それならカーリーのライブに行って、生コール・ミー・メイビー聴きたいよな。
でもセラピーに行って何かしらが改善したら、恋人ができるかもしれない…。
でも恋人を作ろうとするのにもお金がかかるし、いわんや交際が開始してもお金がかかる。
みんなお金と恋愛とセッくすと家族関係にどう取り組んでいるんだろう。
俺には何もわからない…。
でも「歌」を聴きたい人のライブって、ツアーを一度でも逃すと声質が変わってしまって、大好きなあの曲を原曲キーで歌えなくなってしまうなんてことが普通に起こる。
なのでカーリーのライブを見逃すわけにはいかない。
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