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【歌詞対訳とか無い感想エントリ】ヴァンパイア・ウィークエンドの『花嫁のパパ』

   

ヴァンパイア・ウィークエンドの『ファーザー・オブ・ザ・ブライド』がとても良かったんですよ。
2019年リリースの作品で、唯一CDを買いました。

そもそも、2008年にリリースされた1stから大好きだったのです。
最初は「アフロ・ビートを取り入れたポップバンド」として紹介されていた気がするので、「なんか小難しいことをやってるのかな」と敬遠していたんです。
しかし、その年の年間ベストアルバムには軒並みトップ入りを果たしていて、「嗚呼これはマジで聴かないといけないやつだ」と思って手を伸ばした次第。
今となってはどの辺がアフロなのかあんまりわからないですね……。
その音の緻密さ、構成の大胆さ、コーラスのキャッチーさ、臆面のないほどのポップさなど、もう、一聴して虜になりました。
ここまでポップを志向できる人たち、そうそういないですよ。

くるりも、『everybody feels the same』でイントロのリフをパクっていましたね。

そんなヴァンパイアですが、3rdアルバムをリリース後に長い沈黙に入ります。
そして、バンドでキーボードを担当、エズラと共に作曲をし、サウンドプロダクションで中核を担っていたロスタム・バドマングリ脱退の報が流れました。
正直、「嗚呼、ヴァンパイア、もう終わっちゃったんだなぁ……」という印象でした。
3rdの時点で、キャッチーさ・ポップさが減退していて、妙にシリアスなバンドになっちゃっていて、あんまり好きではなくなってしまっていたので……。

しかし、4thアルバムリリース前に行われた「先行試聴会」みたいなものに応募したら当選して、ソニーのスタジオまで音源を聴きに行くことができたのです。
ラッキー。
最初に聴いたときはそこまですごいとは思わなかったんですけど、Spotifyで配信開始してから何度か聴いてみて、何曲かとても好きになりました。
本作は良くも悪くも楽曲の振り幅が広くて、好きな曲と、そうでもない曲とが分かれますね……。
僕が好きになったのは1曲目の『ホールド・ユー・ナウ』と、3曲目の『バンビーナ』です。
そんなわけで、その2曲についての感想を書きます。

・HOLD YOU NOW

ホールド・ユー・ナウの暖かくて優しい音色は、初めて聴いた瞬間にビビッときました。
そもそもアルバムリリース前に、『ハーモニー・ホール』や『2021』といった楽曲が先行で公開されていたのです。
けっこうエレクトロニカっぽいアプローチに舵を切っている印象があったので、アルバム全編でアコースティックギターがフィーチャーされていることが予想できなかったのです。
だからスタジオで音を聞いたときに、めっちゃ感動したのです……。
歌の内容は、『ファーザー・オブ・ザ・ブライド』のタイトルの引用元とおぼしき映画『花嫁のパパ』のクライマックスシーンなのではないかと思います。
子離れできていない駄目パパが、結婚式の前夜に娘と二人きりで話すシーン。
「ねじれた夜の思い出を大切にするよ」というのは、かなり、このシーンとの関連性を感じさせるところ。
『花嫁のパパ』のリメイク版については別のエントリで紹介しているので、興味のある方は読んでみてください!

【ダメ親父スティーヴ・マーティン映画】花嫁のパパ リメイク版

「君を永遠に支えることはできないけど、今抱きしめることならできるよ」というのは、娘と父が互いに思っていることなのでは。
さらに暗喩として、「地球環境を破壊する文明の在り方」についても言及しているのかな……と思います。
というのも、このアルバムは、気候変動についてのアルバムらしいんですね。
このアルバムのリリース後に、スウェーデンの女子高生で環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんの発言によって、気候変動を食い止めるために環境を破壊をストップさせるべきだという意見がこれまで以上に広く認知されることとなったはず。
さらに『天気の子』もモチーフとしては気候変動があるし、アベンジャーズシリーズ最強の敵として登場したサノスというキャラクターも、実は気候変動のメタファーだったことが監督によって明かされました。
日本ではのほほんとしているけど、環境破壊によって起こる気候変動は重要な社会問題として認知されるようになっているのです。
近年、日本でも「異常気象」が騒がれていますが、その原因が環境破壊による気候変動で有ることが指摘されているそうです。
私もよく知らないので、たいしたことは言えませんが……。
だからこのアルバムのジャケットは、緑に覆われた美しい地球だし、歌詞も一見抽象的なものばかりになっているのです。
私は気候変動に対する知識が薄すぎるので理解できていない部分が大半ですが、繰り返し聞いている中で引っかかるフレーズがいくつかありました。
それらを調べてみると、どうやら気候変動や、気候変動を引き起こすとわかっていて今の暮らしをやめられずにいる僕たちについて歌っているようなのです。
「I Can’t Carry You Forever,But I CAN Hold You Now」
も、僕たちがこれまで頼ってきた電力や化石燃料を消費する社会の在り方についての言及なんじゃないかな、と思いました。
環境を破壊しないことを前提としたエネルギーの生産や利用について考えなければいけないのではないかと。
これまでの科学や文化の在り方を否定したいわけではなく、それらの恩恵によって人類が発展したということは認めながらも、「僕たちは環境破壊をやめなければいけないと気づいてしまったんだ」と言いたいのではないかと思いました。

ところでこの曲の途中で挿入されるコーラス部分ですが、映画『シン・レッド・ライン』のためにハンス・ジマーが作った賛美歌が引用されています。(映画の舞台がガダルカナル島なので、現地の声楽をサンプリングしているのかもしれませんが……真相についてはちょっと調べたものの不明です。すみません)

こちらのバージョンよりもキーが低くなっていますが、新たに録音したものなのか、サンプリングしたものをいじっているのかは、わかりません……。
『シン・レッド・ライン』は大事に大戦中に日本とアメリカが戦っている島が舞台になっています。
監督がテレンス・マリックなので、撮影方法も非常に凝っている作品なのですが、美しい自然描写が秀逸。
戦争映画で、映像が美しいというのは皮肉なものですが、人間の営みとは別に世界はそのまま在るのだという当たり前の現実を思い知らされますね。
中でも夕暮れの高原で、草の中に身を隠しながら戦うシーンの美しさはすさまじいものがありましたね……。
しかし、『花嫁のパパ』というコメディからタイトルを持ってきていて、楽曲の中核には『シン・レッド・ライン』という戦争映画から音楽をサンプリングする……という構造は、とてもねじれていますね(笑)
僕はこれがどんな意味の込められたものなのかは、正直なところ、わからないです。
ヴァンパイア・ウィークエンドというバンド名が、そもそも学生時代に撮ったショートフィルムの名前だし、Netflixでアニメ作品を製作していたりと、エズラは映像作品の造詣が深いんですね。
別の曲では『マルホランド・ドライヴ』と『サンセット大通り』のタイトルも歌詞に出てくるし、映画が好きな人ほど、エズラの歌詞を深く理解できるのかもしれません。
けど、この優しい曲と、「永遠に支え続けることはできないけれど、今抱きしめることはできるよ」という言葉が、僕の心にはグサッと来ました。
なんか、若い頃にしていた、長く続かなかった恋愛を思い出したとき、「付き合わなければよかったのかな」とも思うんですけど、「その時に互いを必要としていた」ことも事実だよなぁ……と思ったりするもので。
短かったかもしれないけど、お互いに慰みになっていたなら、それはそれでそういう機能の関係として、なくてはならなかったのかもなぁと。

・BAMBINA

いやもう、単純に曲とメロディと、エズラの声がめちゃくちゃ好きです。
なんか僕は、泣きそうなファルセット・ボイスに心打たれがちなんですよね……(笑)。
この曲の出だしも

No Time To Discuss It
話し合っている時間はないよ
Can’t Speak When The Waves Reach Our House Upon The Dunes
波が砂丘を越えて僕らの家まで押し寄せて来る時に喋ることなんてできない

なんてパートから始まるんですね。
気候変動は実際に進行していて、人々の生活の脅威として顕在化しているのだから、「気候変動」について話し合っている暇なんてない。
今すぐに環境破壊をやめなければいけないんだ、という意味なんじゃないでしょうか。
実際にこの曲も、矢継ぎ早に言葉が紡がれていって、2分足らずで終わってしまいます。
けれどほんとに好きな曲なんですよ……。
なんか、別れの曲なのに、とても優しいんですよね。
エズラがこんなに素敵なボーカリストだったなんて、ヴァンパイアを聴くようになってから10年近く経って初めて気づきました。
今ちゃんと聴き直してみると、デビュー当初からずっと優しい声色をしているんですけど、彼らがおぼっちゃんという出自もあってか、それは頼りなさやナヨナヨ感として響いてきていたんですね。
僕が色眼鏡をかけて聴いているのがいけないんですけども……(笑)。
そんなこんなで、今ではこの曲が大好きで、聴くといつも泣きそうになります。

コーラスに突入していく時に、息継ぎもせずに、そのまま歌が続いていくところも素敵。
あんまり聴かない構成ですよねぇ。
こうして考えてみると、ヴァンパイア・ウィークエンドは、楽曲の構成そのものが特殊というか実験的なんですねぇ。
曲の構成が面白い、っていうことについて、もう一つエントリを書いてみようと思います。
嗚呼おかしかりけり。

・HARMONY HALL

先行で公開されていた曲ですが、アルバムで何度か聴くうちに好きになりました。

この曲も印象的なラインがあったんです。
曲で何度か繰り返し歌われる部分。

I Don’t wanna Live Like This
こんな風に生きていたくない
But I Don’t wanna Die
でも死にたくないんだ

これってなんか、自分たちよりも上の世代……たとえば親の世代の生き方がすごく嫌で、けれど世の中のシステムを作っているのはそんな世代だから、自分たちもそういう生き方のレールの上に乗せられそうになってしまうってことがあるじゃないですか。
けれどそんな生き方はしたくない。
けれど、システムの外側に出たり、自分の生きやすいシステムを作り上げることができるかもわからない。
これは環境問題や社会の構造以外にも言えることではありますよね。
『千と千尋の神隠し』だって、千尋の親が豚になるのは、金で何でも買えると高をくくって金稼ぎに邁進したバブル世代の暗喩ですものね。
で、千尋は言葉には出さないけど、「あんな風になりたくない」と思ったから、働くことにしたはず。

このアルバムは、環境問題についての解決策を提示するものではありません。
けれど、「今すぐにやめないと大変なことになる」ことを、あらためて知らせてくれるものになっています。
アルバム全体が、環境問題をメインとして、社会の問題をポップソングに乗せて、けれどもいくつかのポイントではハッキリわかる形で問題や事実を突きつけてきます。
おそらく環境問題って、みんなが、「俺が悪いわけじゃないんだ」と思って目を背けている問題だと思います。
エズラもそう思えれば苦しみを感じずにすむかもしれませんが、警鐘を鳴らすためにアルバム一枚作り上げてしまいました。
苦しみや悲しみを感じさせる曲が多く収録されていますが、それはエズラの心情がそのまま反映されているのではないでしょうか。

この曲では、コーラス……日本の曲で言うところの「サビ」が「うーううーうーうー」と、まさに「ハーモニー」なんです。
誰かがこの曲の解説をしていた中で、「いろんな人たちの声がホールに反響している。そのせいで結局何も聞き取れない」というものがありました。
歌詞の内容を読んでみても、まさにそうだと思います。
コーラスに突入する前のパートの歌詞も、いろんな人の感情が表出される過程を歌っているし。
「多様性を認める」ことは必要だと思いますが、それによって相互理解が当たり前な社会ではなく、「分断」が起こってしまっているという現状を的確に表現している。
そして、環境問題と同様に、そんな現状に対する打開策をエズラは得ていない。
けれどその状況を歌うことによって、その状況に気づいていない人にも、気づくきっかけを与えることができる。
なら、歌う意味はありますよね。
ポップソングの一般的な手法としては、コーラス≒サビの部分で、一番強く言いたいメッセージを配置するわけですが、ここでは「うーううーうーうー」なのです。
おそらく、ロックンロールにおける、すべてを吹き飛ばす「YEAH!!」と同じような機能を、この曲における「ハーモニー」は持っているはず。

にしても、アルバムの一曲目と二曲目の「サビ」に言葉がないという構成って、強烈ですね。
だからこそ、三曲目の『バンビーナ』の疾走感があって優しいコーラスが胸を打つのかも。
やっぱりすげぇや……エズラ。
エズラすげぇずら。

・FINGER BACK

ところで、6年前の2013年にリリースされた3rdアルバムの『モダン・ヴァンパイアズ・オブ・ザ・シティ』の歌詞を読み直していたら、『ハーモニー・ホール』の歌詞と同じラインを発見したんです。
『フィンガー・バック』という曲に、

I Don’t wanna Live Like This
こんな風に生きていたくない
But I Don’t wanna Die
でも死にたくないんだ

という部分があったのです。

『モダン・ヴァンパイアズ~』は、一枚目と二枚目から打って変わって、こう……
一言で言うと音楽的には暗くなって、歌詞もシリアスでどことなく黙示録的な世界観が表現されていたんです。
これも国内盤のCDを持っているものの、全然聴き返さない一枚ですね……(笑)。
しかし、『ファーザー~』を経てから歌詞を読み直すと、この「世界の終わり」って、気候変動によって起きるものなのではないかなという気がしてきます。
それに、環境破壊や気候変動について歌っていると取れる部分も多いし、自分たち(アメリカ人)の犯してきた罪や失敗についての暗喩も頻出している。
エズラ、ずいぶん長い間思い悩んできたんですね……。

こうして思うのは、エズラはいろんなことに悩んでいる。
けれど歌の中で自分が「当事者」になることは少なく、自分たちよりも上の世代がしてきたこと、作り上げてきたシステムに対して「自分はこうしたくない」と苦悩するものの、具体的な解決策を見つけることができない、というシチュエーションが多いような気がします。
システムを変えるのって簡単なことではないし、他の人々を説得して動員するとなると大変難しいことですからね……行動に移せずに悩むのも致し方ないこと。
けれど、前作から6年を経て、バンドの音作りの中核を担っていたロスタム・バドマングリが脱退するという事件があったものの、こうして「気候変動」の聴きをヴァンパイア・ウィークエンドのファンに知らせる作品を完成させたわけです。
素晴らしいことでわ……。
答えを見つけたから作品を作るのではなく、作りながら答えを探していくのだ、ということですね!
もしかしたら、答えを打ち出そうとしていたから、リリースの間隔がこれだけ空いてしまったのかもしれないですし。

とくにオチとかはないですね……。
ただ、ヴァンパイア・ウィークエンドがお好きな皆様、好きな曲の歌詞についてググってみると、個人ブログとかで翻訳してくださっている方がたくさんいるのでとても面白いですよ!
それに、歌詞についての補足を書いてくださっている方も多くて勉強になります。
タダで翻訳詞を掲載してくださっている皆様、ありがとうございます……。

そんなわけで、ファーザー・オブ・ザ・ブライドはとても良いアルバムです!
このブログを書くに当たって、過去の曲も聴き直しましたが、ヴァンパイア・ウィークエンドの曲にはサビが無いことが多いことに気づいたので、そのことを書いてみたいと思います!

 - 文化, 映画, 音楽

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