近年のプランBエンターテインメントは作中で解決しきれない社会問題を扱う
前回のビール・ストリートの恋人たちやムーンライトについて書いていて気付いたのですが、プランB製作の映画って、作中で提示された問題が解決されないことが多いですね……。
ネタバレしまくります!
ビール・ストリートの恋人たち、ムーンライト、ビューティフル・ボーイについてはそれぞれちょろっと解説をしたので割愛。
・それでも夜は明けるは、主人公以外の奴隷は地獄に取り残される
アカデミー賞も受賞した、奴隷制時代の黒人奴隷経験を描いた『それでも夜は明ける』。
この映画では、それまで普通の生活を送っていたにもかかわらず、突然拉致されて黒人奴隷として生きることを強いられた男性の経験譚が生々しく描かれます。
最後、主人公は解放されて元の生活に戻ることになるのですが、一緒に捕らえられていた他の奴隷たちを救うことはできません。
主人公がまっすぐに前を向きながら馬車に運ばれて行きますが、その背後では、彼と親しくしていた女性がショックで倒れてしまいます。
主人公は元も生活に戻ることができますが、奴隷制は解決されていない。
奴隷解放後も、黒人差別問題は根深く残されています。
実は奴隷制を敷いていたということはアメリカ人にとっても暗部となっているようで、奴隷制を扱ったハリウッド映画はごくわずかしか存在しないのだそうです。
私の知る限りだと、『マンディンゴ』『ジャンゴ』、あとはモキュメンタリーの『ヤコペッティの残酷大陸』ですかね。
どれも壮絶な映画で、非常に面白いのでおすすめですね。
その流れに連なる形で、バリー・ジェンキンス監督のムーンライトと、ビールストリートの恋人たちがあるように思われます。
・政治とコメディどっちも! アダム・マッケイ
それでも夜は明けるが2013年の映画ですが、その後に製作されたアダム・マッケイ監督の『マネー・ショート』、『ヴァイス』も、作中で提示された問題が解決されない映画でした。
どちらも実話をベースにした作品なので、当然といえば当然なのかもしれませんが。
アダム・マッケイ監督はプランBでは政治的な色の濃い作品を製作していますが、『俺たちニュースキャスター』という映画はザ・アメリカン下ネタコメディの様相を呈しております。
ここ十年で最も面白いコメディ映画ですよ、これは、
1も2も必見です。
どちらも、さりげなく報道の在り方については示唆に富んでいるので、マッケイさんは政治とコメディをどっちもやるのが大好きな作家なのですね。
・マネー・ショート
マネー・ショートはリーマンショックを描いた作品で、作中ではリーマンショックを予見していた投資家たちの動きが描かれます。
当然、作中でリーマンショックを迎えるわけで、物語的にはオチがつくわけですが、リーマンショックによって生活を狂わされた人は現実に大勢いるわけですし、リーマンショックックが起こるような現代の経済の在り方の問題は根本的には改善されていない。
・ヴァイス
ヴァイスは、ブッシュジュニア時代に副大統領を務めたチェイニー氏の自伝的映画で、本人の許可をとらずに作られています。
アフガン侵攻やイラク戦争を裏で指揮していたのはこの男だった、という告発の映画です。
また、現在のトランプ政権が執っているような、「一元的執政府論」を推し進めたのがこの人だとも指摘しています。
わたし、政治に疎いので、この一元的執政府論について気になったら是非ググってみてください。
いや、法的にアリなのかわかりませんが、ヴァイスのパンフレットに乗っていた解説を引用します。
政治学者・北海道大学准教授で、本作の字幕監修を務められた渡辺将人氏によるものです。
「大統領に執政の主導権があり、議会の鑑賞を受けずに、様々な行政判断を大統領が行うことができるという理論。合衆国憲法第2条が根拠になっている。アメリカの法学者の間でも、この権限を「強く」認めるか、「弱く」しか認めないか解釈が割れている。ブッシュ政権期に対テロ戦争とネオコンの発言権拡大のなか、外交・安保分野に適応が拡大された。政府の権限の肥大化に懐疑的な保守派内にも、適用への警戒論がある。推進派の頭脳にはのちに最高裁判事になるアントニン・スカリア、韓国系弁護士のジョン・ユーなどがいた。」
要するに、法の目をくぐるようにして、政権のトップによる独裁に近い体制を作ろうとしてきたということです。
そしてそれは現在のトランプ政権にも応用されています。
その意味で、トランプ政権を問題視する人が多い今、その根源を作ったチェイニー氏にスポットを当てた映画と作ったということです。
当然ながら作中で提示された問題は解決されません。
そうなると、観客にはカタルシスが訪れません。
ブラッド・ピットは社会問題への関心が強いようで、慈善活動も活発に行っています。
彼は南部の出身なので、奴隷制や黒人差別を明確に批判することにはリスクが強そうですが、プランBでは率先してそう言った作品に投資します。
それでも夜は明けるを作るにあたって、資金集めは困難を極めたそうですが、それでも彼は映画を作る体制をサポートし続け、結果としてアカデミー賞も受賞しました。
偉い人やで……。
社会問題を本気で扱おうとしたら、解決されていないことが山積みなのだというオチにならざるを得ないのかもしれないですよね。
一つの綺麗なオチで締めるために、どんどんと削っていってしまうことが重要視されることも多いですが、現実を矮小化することにもつながってしまいかねない。
表現することは難しいですが、映画の尺に収められそうな問題を題材にする人しかいなかったら、誰も社会問題を取り上げなくなってしまいますよね。
そんな中であえて、答えを出せない問題をテーマに採用しているプランB、かっこいいっす。
よく言う話が、観客が「あぁよかった」と言って映画館を出るのが娯楽で、観終わったあとも頭を抱えてしまうような/映画を観るまでと同じ日常を過ごせなくなってしまうのが芸術という違い。
その意味ではアート寄りの作品を選んでいるのかもしれません。
しかし社名にはエンターテインメントと入っているのは、面白いところ。
ただその問題を、映画というアートフォームで作るにあたっての工夫は怠らない。
バリー・ジェンキンス監督のように、映像美や音響へのこだわりを持って、ラブストーリーの中で問題を提示していくという手法。
アダム・マッケイ監督のように、圧倒的な情報量をコメディで表現するという手法。
僕は観ていないけど、『グローリー/明日への行進』もそういう映画なのかな。
黒人女性監督の作品らしいです。
珍しいですよね。
観てみたいっす。
良い会社っすね、プランB!
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