ビューティフル・ボーイ【親からの承認不全に悩むアダルトチルドレン御用達映画っぽく宣伝されてしまった】
けっこうな早さで公開終了して言っているもよう……。
公開開始のわりと早い段階で観ました。
が、正直あんまり面白くはなかったです……。
僕の好みで言えば
55/100
くらいですね……。
気になっている人に観るのをやめるよう忠告するレベルではありませんが、もともと知らない人に対して勧めることは全然ないっすね……。
・日本版の予告編が本編の内容とちょっと違うっぽい
実は予告編を観た時から、「親からの承認が不全だったと思い込んでるアダルトチルドレン」に食い散らかされそうな映画だなーと思った。
↑映画館で流れていたバージョンはもうちょっと短かった気がする……気のせいかな。
なんか明るい映像をメインにして、お父さんに自分を受け入れてほしいけれど、どうしたらいいのかわからない気持ちをぶちまける主人公と、穏やかな表情で主人公に子守唄を歌う過去のパパ……という、なんか、あんまり好みじゃない感じがすごくしたのです。
で、BGMにはシガーロスの、神秘的で徐々にアップリフトされるような感覚の曲が使われてる。
僕自身、アダルトチルドレン丸出しクソ野郎ではあるのですが、「アダルトチルドレンはこういうの好きなんやろ?」というのがまる出しな作品とか宣伝だと、なんか観るのが嫌になるんですよ!
そもそもこの主演のティモシー・シャラメくんが日本ではプチブレイクしている状況があります。
それは去年公開された、『君の名前で僕を呼んで』が受けたからですね。
まぁ、あれはBL好きの腐女子さんに食い荒らされてしまったという印象なのですが……。
そう、僕、BL好き腐女子さんのことがあんまり好きじゃないんですね。
いや、好きなんですけど、そういう女性のこと自体は……大好きなんですけど、BLじゃないと観ないとか、BLだと率先して鑑賞する人のことがあんまりよくわかんないんです。
それは百合とか、女の子しか出てこない作品が好きな人に対してもです。
独特の世界観やモチーフのものにはすごい勢いで食いついて行く人のことがわかんない。
動物化するポストモダンなんですかね。
「こういうの好きなんやろ?」とやられると、なんか観るのが嫌になる私がひねくれてるだけな気もするんですが……。
で、観る直前になって、この映画がプランBの製作だと知りました。
プランBはブラッド・ピットが設立した映画製作会社ですが、近年は社会的な問題提起をする映画を多く作っています。
『それでも夜はあける』をはじめ、アカデミー賞受賞の『ムーンライト』、そして『ビールストリートの恋人たち』など、黒人の人種差別の歴史を扱った作品は高い評価を得てきました。
なんでもブラピは先祖が南部の奴隷商で富を築いた人だそう。
それでその罪滅ぼしのように、社会的なメッセージを持つ映画に投資しているのだとか。
そういう流れにあったので、なぜビューティフル・ボーイを制作することになったのかちょっと疑問だったのです。
ですが観終わってみると、ドラッグの恐怖を伝える意味合いが強いのではないかなぁと。
ドラッグはマジで怖いから絶対に辞めといたほうがいいよ、という啓発映画だったんですね。
さすがプランB、ブレないです。
こうなってくると、いくらティモシーくん主演とはいえ、腐女子さんたちは観に行かないのでは……と思っていたら、案の定早期の上映打ち切りですよ!
男同士のセックスが無くても、観に行ってよ!
腐女子のみなさん!
ていうか調べてみたら、君の名前で僕を呼んでとのコラボ予告編なるものがあるんですね……。
なんじゃそりゃ……。
映画の日本語版公式サイトの、業界人からのコメント欄を観ると一旦がわかります。
口当たりの良いコメントのみを太字化していて、ドラッグに関する厳しい描写についてはそのままの字体。
配給会社がどの辺を強調したいのかがよくわかりますね。
とはいえ、僕自身も、この映画をあんまり評価していないので、そんなに推せないです……。
・作品そのものの感想……長い、時系列シャッフルは混乱させられただけ
まず「なげぇな」というのが正直な感想……。
映画は二時間ありますが、もっと短く出来るとこいっぱいあったでしょ。
とは思うんだけど、「長い」と感じるように演出している可能性ってありますよね。
ドラマとして構成していくのではなく、人物たちの苦悩を観客にも追体験させるような演出というか。
直近のプランB作品『ビールストリートの恋人たち』でも、近いものがありました。
黒人が差別がもっと熾烈だった時代を舞台にしていて、社会に生きる苦悩を語る場面はかなり長く撮られていました。
重かった……。
そちらもブログにて紹介しています。
ていうかこのように、映画の中で人物が救われない映画なのに、予告編では「パパと男の子が愛情を取り戻していく映画」みたいに見せちゃったらだめじゃないっすか……(笑)。
もう長い間批判され続けていますよね、日本の配給会社のこういうやり口って……。
「ドラッグ中毒からの再生を描く」と書いているけど、作中では再生しないから……。
宣伝等の気になる点はここまでにするとして、具体的にどこがどう好きじゃないかについて。
なぜ年の離れた弟と妹がいるのかよくわかんないし、義理の母がどんな人なのかあんまりよくわかんなかったです。
というか映画の途中まで、彼女が義理の母なのだということもわからなかった。
思い返してみると、パパが電話をしていたすぐ後に、義理の母に当たる女性に会いに行っていたから、その時点で「あぁ実の母ではない人なのね」と気付けてもよかったんですけど……。
そのシーンのあとも、時系列が行ったり来たりすることが多かったから、その二つのシーンも時間が繋がってはいないのかな? って思っちゃったんですよね。
そう、その、時系列が行ったり来たりする構成が特に効果を上げていない気がする。
もちろん、子ども時代を描くために、いったん過去のシーンに飛ぶとかってことはありだと思うんです。
が、気付いたら数年経ってたりして、どのくらいの時間が経過したのかがわからなかったりするので、そこはつらいものがありました……。
ドラッグのトリップ感を出してるんですかね。
フラッシュバックか。
でもそれにしても、無駄に混乱させられた感はあります……。
主人公パパに対して「すぐに管理しようとする!」と主人公も、元妻も言っているけど、それだったらそれが観客に伝わるようにしないといけないだろ。
なにか行動を通して。
僕としては別に、そんなに管理をしようとしまくる性格とは感じなかったんですよね。
僕の感じ方の問題なのだろうか……。
でも、せっかく幼い頃のエピソードを出すのであれば、主人公が管理されることで窮屈に感じるようなところを魅せた方がシナリオ的には効果的なはず。
僕の主観というか、偏った考えかもしれないですけど、再婚家庭にいることが主人公の心に闇を落としたということはないのかなー、と考えてしまいます。
再婚とかを抜きにしても、年の離れた弟や妹ができると、嫉妬してしまう子どもも多いですよね。
まぁ、そういうところに関連性を見出そうとする僕みたいなのが、ハリウッド映画の作り方に親しみ過ぎているのかもしれないですね。
特に物語の影響を及ぼさない要素やシーンは入れるな、という。
パンフレットによると、この監督はベルギー出身の監督で、本作がハリウッド進出作だとか。
脚本はライオンで実話ベースのストーリーを構成する手腕が評価された人だそうです。
しかもその脚本家もドラッグ依存症を経験しているのだとか。
生々しいぜ……。
もちろん、「ドラッグに手を染める可能性はどんな人にもある」というメッセージを出すことも需要なので、主人公の男の子は心にこんな問題を抱えていたからハマったのだ、という描き方になっていないことは悪くないです。
あとパンフレットに、「父は愛情ゆえに息子を突き放す……」とかいてあったけど、最後は本当に捨てたんだろ。
なんか批判的なことばっかり書いてしまいました!
一つの作品としてはそんなに悪くはなかったです……。
平均点ぐらいですかね。
ただ別に、人に勧めはしないかなぁ……。
配給とか宣伝のやり方が嫌だったのは確かです。
まぁ何年も前からそういう問題は指摘されているし、そういう指摘に対しての業界からの反論も多数見かけているので、業界の問題というか、日本社会のコンテンツ受容の在り方の問題だとは思うんですけどね。
けど日本は客におもねりすぎるし、客も快楽主義的な傾向が強いという問題は根深いものですよね。
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