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CGアニメ史上最高傑作ヒックとドラゴンをオススメします

      2019/12/23

『ヒックとドラゴン』というアニメがあります。
これはCGアニメ史上最高傑作と言える、非常に素晴らしい作品です。
シリーズは3まで作られており、1が2010年に、続編である2が2014年に公開されています。
そして2019年、シリーズの最終作となる3が公開されました。

個人的に、思い入れが強すぎて、おいそれと見返すこともできないような作品です。
しかしシリーズが幕を閉じるというタイミングなので、作品について書いてみたいと思います。
まずこのエントリでは、ネタバレなしで、この映画のおすすめポイントを書きます。
その後、1と2のネタバレをそれぞれ書きます。
ついでに監督が手がけた別作品『クルードさんちのはじめての冒険』と『リロ&スティッチ』についても書きます。

・ヒックとドラゴン1概要

現代は『How to train your dragon』。
児童文学シリーズが原作です。
しかし内容はかなり異なっているので、設定や思想を借りてきた別作品と捉えるのがよろしいかと。
原作ではドラゴンが喋るのに対し、映画ではドラゴンと人は共通の言語を持ちません。
原作が、マジで子ども向けなのに対して、映画版は大人が観てもかなり興奮できる物語になっています。

作品の舞台は明かされていませんが、北欧のどこか……っぽいです。
作中で「アイスランド」という地名が出てきたり、音楽がケルト調になっています。
そんな世界で、ドラゴンと戦ったり、ドラゴンと仲良くなったりするのが、ヒックとドラゴンです。

監督はディーン・デュボアとクリス・サンダースが共同で務めています。
二人はディズニーで長くアニメ製作に携わってきたクリエイターで、初タッグを組んで共同で監督した『リロ&スティッチ』が最も有名な作品でしょう。
ディズニーによるピクサー買収と、それによってジョン・ラセターがディズニーアニメの製作を統括することとなった時期に、ディーン氏とクリス氏はディズニー社を追われる形になりました。
その後、ディズニーの元副社長であるジェフリー・カッツェンバーグが設立したドリームワークスアニメーションに合流し、本作を手がけることになりました。
ある意味、二人にとっては起死回生の一作となったわけですね。

・ハリウッド的ストーリーテリングの最高峰

作品の冒頭10分がもう、最高に完璧なんですよ。
ド派手なアクションシーンから始まるのですが、けれど主人公が暮らす世界観がバッチリ提示される。
主人公たちバイキングの暮らす島に、ドラゴンが襲来してきて食料品を奪っていくのが日常茶飯事。
そんなドラゴン達と命がけの戦いを繰り広げる中で、バイキングが好戦的で、村にはドラゴン撃退用の設備が揃っていることが描写されていきます。
そこで、バイキング達の戦闘スタイルや、それぞれの役割も示されていくので、大人たちに自分のことを認めてほしい主人公と、彼を厄介者扱いしている大人たちという図式が完璧に表現されています。
後述しますが、沸き立つような興奮を催す音楽、暗闇と炎の表現が天下一品な映像と、凄まじい出来です。
戦いのシーンもかっこいいし、スリリング。
けれどコミカルな要素もある。
アクションと人物描写が、理想的なバランスで進行していく。
言葉にしてしまうと伝わりにくいとは思うのですが、ちょっとこれ以上に優れた作りのオープニングって、そうそう無いと思います。
ヒックとドラゴンについて、「子ども向けのCGアニメでしょ」というイメージを抱いている人には、ちょっと勇気を出して、冒頭15分だけでも触れてみてほしいです。
オープニングから、とんでもない傑作のにおいがむせ返るほどに漂っていますので……。

少しネタバレになってしまうかもしれませんが、ヒックとドラゴンの日本での宣伝に違和感がある部分なので書きたいことがあります。
この冒頭の戦闘シーンで、ヒックは自作したドラゴン捕獲機を使って、夜の闇を高速で飛び回る伝説のドラゴンを撃ち落とします。
ヒックはそんな活躍を誇りますが、ドラゴンは遠くの森へ墜落していったので、誰にも信じてもらえません。
みんなからの信頼を得るために、ヒックは一人で森に行きます。
そこで、捕獲機から放った網にからめとられて動けなくなっているドラゴンを見つけます。
ヒックはドラゴンを殺そうとしますが、やがて自らの死を受け入れたドラゴンの姿を見て思うところがあり、縄を解いてドラゴンを逃がします。

ヒックがドラゴンと仲良くなるのは「たまたま出会ったから」ではないんです。
ましてや、「傷ついたドラゴンを助けたから」ではありません。
彼がドラゴンを殺そうとして、でも命を奪うことを完遂できなかったからなんです。
ヒックが自分の罪と向き合ったことで、ドラゴンと心を通わせるようになっていくんです。
ヒックとドラゴンが素晴らしい物語になっているのは、冒頭から、人間が「殺そう」という意志を持って行動し、主人公が「殺さない」という決断を下したことで展開していくからなんです。
このときにドラゴンは、身体に欠損を負ってしまいます。
このように冒頭でバイオレンスの描写があると、観ている私達は作中でそれと同等もしくはそれ以上のバイオレンスが発生する可能性があることを覚悟するようになります。
詳しくはネタバレありの解説・考察で書きますが、そして物語では、子ども向けアニメには似つかわしくない痛みも描かれます。
ストーリーテリングの良さについてもそっちで詳しく書きますが、本当に良いんだよヒックとドラゴンのストーリー。

あと、僕は劇場の予告映像でこの作品のことを知ったのですが、その映像にあった「ひとりぼっちから、ふたりぼっちへ」というフレーズに強く惹かれたこともよく覚えています。
このフレーズを考えた人、天才だと思う。

・音楽やばい

本作で音楽を担当している人物は二人います。
まず劇伴を制作しているジョン・パウエル。
映画音楽を手がけていて、ドリームワークスのアニメでの仕事も多い人。
そんな彼の最高傑作は、本作であると断言します。
彼のSpotifyでの再生数のトップ5が、このヒックとドラゴン1の楽曲で締められていることからも、間違いないことでしょう。
楽曲自体が壮大なスケールと、人物の感情の機微を反映した素晴らしいものであることはもちろんなのですが、映画のストーリーの展開と完全にマッチした楽曲の展開が本当にすごいです。
一曲の中で、場面に合わせてどんどん曲調が変わっていくのです。
監督も、ドラゴンと人間が言葉を交わせないという要素が重要なだけあってか、台詞ではなく映像と音楽だけで物語を物語を進めいく場面が複数あります。
そこんとこがもう、本当にいいんですよ……。
ネタバレにならないようにはしてあるので、ぜひ、曲だけでも聴いてみてほしいです。

Forbidden friendship


この曲が、作中で最も印象的な「台詞なしで物語が進んでいく場面」で使われています。
名曲ですね。

Test Drive


↑映像ありですが、ストーリーのネタバレ要素は薄いです。映像と音楽がピッタリ噛み合っている様が楽しめます。
Battling the green death

↑楽曲のみですが、曲の展開によって物語の展開が想像できてしまうかもしれません。その意味でネタバレかも。でも死ぬほど良い曲だし、曲を聴いているだけで映像が目に浮かんでしまいます。

そしてもう一人の人物は、エンディングテーマを提供しているのは、シガー・ロスのボーカルであるヨンシーです。
日本でも絶大な支持を得ているアイスランドのポスト・ロックバンドです。
ディーン・デュボア氏は、なぜかシガー・ロスのライヴ映像を撮ったことがあり、本作の世界観に合うとの判断からヨンシーに楽曲制作を依頼したのだそうです。
(ディーン氏はアイスランドのアニメスタジオで仕事をしていた時期があるようなので、その縁なのかな……)
ヨンシーは、本作を製作中のスタジオを訪れて、二日間でこの曲を完成させたようです。
シガー・ロスは神秘的で沈鬱な曲が多いですが、ヨンシーのソロ作品は祝祭感の強い楽曲も多いです。
この曲の超高速でアッパーなアレンジなど、初期のシガー・ロスからは想像もできませんね。

作品の舞台も北欧なので、ヨンシーとのシンパシーもあったのかもしれませんね。
ヨンシーは、キョンシーのリメイクバージョンの主題歌オファーを蹴ってヒックとドラゴンに歌曲を提供したと言います(嘘)。
2では↑にURLを乗せたテスト・ドライブという楽曲をサンプリングした歌曲を提供しています。
3にも歌曲を提供、一部のインスト曲ではコーラスにも参加しているくらいなので、彼もヒックとドラゴンでの仕事はハマるものを感じているのかもしれないですね。

・キャラクターに演技をさせる

この作品が、子どもだけでなく大人も楽しめるようになっているのは、人物たちが記号的ではない演技を魅せてくれるところです。
人物たち表情の作り方が真に迫っていて、しかもその演技力によって物語に深みが増しています。
日本のアニメは絵が出来上がっているところに声優さんが声の演技を吹き込みますが、海外では声優さんが先に演技をして、そこに絵を当てていくという手法が主流です。
本作でもそうなっていて、声優さんの仕草も参考にしながらキャラクターの動きを付けていったそうなので、リアリティのある動きに仕上がっています。
ピクサーも、人物たちの動きがすべて有機的で、台詞と動きの両方で伝えようとしてくる作りになっていますが、あちらはどこか記号的で「わかりやすく」やるディズニーの伝統がそのまま受け継がれている気がします。
もともとのデザインの段階で、「キャラっぽく」作られていますしね。(そしてもちろん、そこが作品としての魅力にも成っています)
対して、ここでは、「表情だけで感情を伝える」ことに注力されている。
トイストーリー4に来て、「大人のドラマ」になったことから、「ふとした時に垣間見える表情」でキャラクターの本心がにじみ出るというやりかたになってきた気もするのですが、シリーズを通してどんどん大人向けの度合いが強まっていくトイストーリーに対して、ヒックとドラゴンは一作目から、とんでもなく「大人」なのです。
(そう考えると、「キャラクターっぽい記号性」を残しつつ、「表情の演技」を両立させているトイストーリー4って、とんでもない作品なんだな)
ここも詳しくはネタバレの方で書きますが、この映画では母親を亡くした男やもめの家庭で、互いに本心を伝えられずにいる父と子の微妙な関係を描いているのですが、そこで、言葉でのやりとりと、ふとしたときに見せる表情で感情を表現しているのです。
最高ですね。

・映像美

僕は映画における「映像表現」の技法に疎いのですが、そんな僕でもロジャー・ディーキンスという撮影監督の名前は知っています。
アカデミー賞の撮影賞にこれまで13回ノミネートされ、1回の受賞を経験しているベテランです。
コーエン兄弟作品では常連で、近年では007のスカイフォール、ブレードランナー2049などの大作に参加しています。
そんなロジャー氏が、ヒックとドラゴンシリーズにヴィジュアル・コンサルタントとして名を連ねているのです。
彼が参加した作品を観ると、光と影の表現が想像を絶するほどの技巧で計算・配置されているんです。
画面の中で、光が付く場所と影が付く場所をわけることで、絵に奥行きを感じられるようになり、画面にリアリティが出る。
実写作品では、そこにはもともと人も物も在ることがわかりますが、アニメではただ物を置くだけではリアリティを出すことが出来ないので、物の質感や光と影の付き方によって、作品のリアリティの有無が決まってしまいます。
クリス氏とディーン氏も、それがわかっていたから、ロジャー氏を招いてヴィジュアルコンサルタントになってもらったのでしょう。
ロジャー氏の映像で特にすごいのが「闇の中の炎」の表現です。
なぜか彼が参加した作品では、闇の中で炎が燃えさかるシーンが出てくるのですが(笑)、ヒックとドラゴンでは冒頭のシーンから闇と炎のオンパレードです。
画面に映るすべての素材を位置から作っていかなければいけないという点で、アニメ作品のほうが実写作品よりもロジャー氏の仕事を堪能できるかもしれません。
↑にも貼ったテスト・ドライブの映像でも、彼の映像表現の超絶技巧が堪能できるので、ぜひ観てみてください。

・どう考えても泣き所が三カ所ある

いや、何度観ても、この映画には泣き所が三カ所もあるんですよ。
「泣き」をウリにするのとかちょっと低俗な感じがするので嫌なのですが、この映画に関してはちょっとマジで泣きます。
なぜ泣くのかと考えると、物語における「感情のピーク」が三カ所もあるってことなんですよ。
これってちょっと、すごいことだと思うんです。
シナリオの構成力が尋常ではないレベルにあるってことですから。
ヒックとドラゴンの友情、父と息子のままならない関係、バイキングに認められたいヒックの葛藤、ドラゴンを殺してきたバイキングの罪など……様々な要素が、後半に、完璧に回収されていくんですよ。
それもこれ以上ないくらいドラマチックな演出と物語で。
いや、もう、まだ観ていない人は本当に観てください……。

・時代性とがっちり合っている

1が公開されたのが2010年のことなので、2020年を迎えようとしている現在とは少し状況は異なりますが、社会的なテーマもしっかり入っているんです。
一言で言えば、異種族との共生がテーマなので、「相互理解の重要性」を訴える作品です。
そして、物語の冒頭では、主人公が異種族を殺そうとして大けがを負わせているので、テーマに対して「きれい事ではない」答えを出さなければいけないということが明示されています。
詳しくはネタバレで書くのですが、本当に優れたメッセージを持つ作品ですよ。
そしてメッセージが押しつけがましくないんです。

そんなこんなで、ヒックとドラゴンの概要を紹介するエントリでした。
このあと、シリーズすべてを解説・考察するエントリを書いていきます。

 - ヒックとドラゴン, 映画

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