てやんでい!!こちとら湘南ボーイでい!!

映画音楽本ごはんの話を、面白く書けるようにがんばります

*

姉妹関係の機微を緻密にスケッチした、となりのトトロ 

      2020/08/14

※となりのトトロについて、ネタバレをしまくります。
 もしもトトロを観たことがない人がいたら、ご注意ください。

となりのトトロが好きなんです。
今まで観てきた映画の中でもトップ10には入ります。
十回以上観返しているし、観るたびにめちゃくちゃ泣いてしまうくらい好きです。

僕が泣くシーンというのは、お母さんがお家に帰って来れるはずだったのに、体調が優れないためにそれが延期になってしまうくだり。
そこでメイちゃんもサツキちゃんも泣いてしまうところで、僕も泣いてしまいます。

そのことを人に話すと、意外に思われることが多いです。
考えてみるとトトロは、トトロや猫バスというキャラクターの良さを語られることが多いですね。
あとは、失われた昭和の風景とか。
ですが僕が好きなのはがぜん、メイちゃんとサツキちゃんが起こす一連の流れなのです。

何度か観た中で、自分がそのシーンに涙する理由がある程度言語化できてきたので、解説してみます。

・ストーリー概略
僕の好きなシーンにかかわるところだけ、掻いつまんで書いてみます!

まず、サツキちゃんとメイちゃんが大家のおばあちゃんと一緒に、畑でとれたばかりの野菜をかじっています。
子ども達は、新鮮な野菜を頬張り、美味しいと言います。

おばあちゃん「そうかい お天道様もいっぱいあびてるからね 身体にもいいんだよ」

サツキちゃん「お母さんの病気にも?」

おばあちゃん「もちろんさ ばあちゃんの 畑のものを食べりゃ すぐ元気になっちゃうよ」

といった会話が交わされます。
そして最後に

メイちゃん「メイがとったトウモロコシ お母さんにあげるの」

という台詞が入ります。
おそらくお姉ちゃんとおばあちゃんの会話を聞いていたメイちゃんは、おばあちゃんの畑の野菜を食べたら、お母さんの病気は治る。元気になると思い込んでいるんですよね。
これが、後々の展開に繋がってきます。
ここが泣けるポイントなんですよ……。

その後、お母さんの病院から電報が来て、サツキちゃんはカンタくんと一緒に、電話のあるお家まで走っていきます。
メイちゃんも、二人の後をついて行ってしまいます。
メイちゃんの脚では二人に追いつけず、あげく途中でずっこけてしまい、はぐれて迷子になってしまいます。
このシーンの絵コンテを見ると宮崎監督は
「トウモロコシをしっかりかかえて走っていき」
「トウモロコシを持ったまま」
と、トウモロコシに関する演技メモを多数書き込んでいます。
それだけ、トウモロコシの印象付けを行おうとしていることが伺えます。
トウモコロシって言い方も激烈にかわいいですよね……。
そしてメイちゃんはヤギに遭遇して、ヤギにメイメイ鳴かれます。
そして
「メイ 一寸下がり 山羊の目線がトウモロコシにあることに気付く」
と、メイちゃんはヤギからトウモロコシを必死に守ります。
この時のメイちゃんの顔はとても真剣で、
「お母さんにあげるんだもん」
と叫びます。
メイちゃんがこのトウモロコシを、お母さんにあげるために、大事に抱えていることがわかります。
もう、ほんとに健気じゃないですか……!
話の筋とは逸れますが、このシーンの、子どもの頃に迷子になっちゃった時の心細さを喚起する力の強さって、尋常ではないと思いませんか?
大人になった今観てみても、心細くなります……。

電話が終わって、消沈した様子で歩いているサツキちゃんとカンタくんを見つけるメイちゃん。
明日一時帰宅するはずだったお母さんが、体調がすぐれずに帰ってこれなくなったことを伝えるサツキちゃん。
サツキちゃんにわがままを言ってもどうしようもないことなのに、メイちゃんは「ヤダ」を繰り返します。
この言い回しの変え方、本当にいいと思います……。
そんなメイちゃんに、サツキちゃんは
「メイのばか! もう知らない」
と言い放って駆けだしてしまいます。
取り残されて、どうしてよいのかわからないカンタくん……ちょっと笑えますね。
メイちゃんは
「お姉ちゃんのバカ」
と泣き出してしまいます。
二人とも、かわいそうです。

場面は、夕暮れ時の二人の家に切り替わります。
二人とも、別々の部屋で寝転がっています。
宮崎さんの映画で、登場人物が身じろぎもせずに寝転がっているシーンは、魂が死んでいる状態です。
千と千尋の冒頭のシーンとか、風立ちぬの二郎や魔女の宅急便のキキなども、気分が最低の時はごろごろ寝ていますね。
で、おばあちゃんがやって来て、洗濯物の取り込みを手伝ってくれます。
このおばあちゃん、ほんとに良いキャラですよね……しゃべり方もほんとに良いです。
おばあちゃんと話していて、サツキちゃんは感情が溢れてきて、
「お母さん 死んじゃったらどうしよう!!」
「もしかしたら お母さん……」
と、泣きだしてしまいます。
この時の泣き顔、すごく不細工になりますよね……すごくリアルな表情。
おばあちゃんは
「こんなかわいい子達おいて、どこの誰が死ねるかね」
「泣くんでね 泣くんでね」
と慰めます。
この慰めの台詞も最高……話し方も最高です。
ただ、ここで演出メモに「サツキ泣きやまない」と書かれているように、お祖母ちゃんが慰めてくれていても、サツキちゃんの不安は解消されていないんです。
それはそうですよね……自分のお母さんが死んでしまうかもしれない悲しみを、子どもが耐えられるはずがありません。

ここでカットが切り替わって、そんな二人の様子をポカンとした表情で見つめるメイちゃんの姿が映されます。
そしてメイちゃんはサンダルを履いて、外に出て行きます。
(ここで三和土に、メイちゃん作の猫バスのイラストがあるのもいいですよね)
メイちゃんは土手に行き、向こう側に広がる景色を眺めます。
そして「トウモロコシをギュッとだきしめて」走り出します。
田んぼに囲まれた田舎道を、メイちゃんは振り返らずにズンズン走っていきます。
この場面も、一枚の広大な背景絵の中をメイちゃんがぽつんと小さく描かれているので、彼女が一人で病院まで行くのがどれだけ困難なことかが絵で示されています。
そら無理ですわ。

僕は、子どもの頃に観ていた時の記憶だと、この後の展開も、メイちゃんがお母さんに会いたくなって勝手に家を出てって迷子になる……つまり、メイちゃんがアホアホでみんなに迷惑をかけたドタバタ劇だと思っていたんですよ。
しかし大人になり、場面の連なりを冷静に見てみると、そうではないんです。
まず第一に、メイちゃんはここでトウモロコシを抱えて出かけていきます。
それは、前述のように、おばあちゃんの畑でとれた野菜を、お母さんに食べてもらうためです。
そして、なぜそれをお母さんに食べてもらいたいかと言えば、ただ「美味しいものをおすそ分けしたい」ということではなく、トウモロコシを食べたらお母さんが元気になれると本気で信じているからです。
子どもって純粋だから、大人から聞いた話を信じてしまうでしょう。
大人の頭で考えたら「そんなことないでしょ」って思うようなことでも、子どもって信じてたりするじゃないですか。
メイちゃんにとっては、トウモロコシは、そんな魔法のアイテムなんです。
で、なぜメイちゃんが一人で病院まで行こうとするかというと、お姉ちゃんが泣いているからなんですよ。
これはカットの繋げ方からもわかるはずです。
多分、メイちゃんにとっては、サツキちゃんって絶対的な存在なんですよ。
お留守番の寂しさに耐えきれずに、サツキちゃんの学校にやって来ちゃうところからもわかります。
そのあと、無言のままサツキちゃんにしがみついて離れないメイちゃん。
この時のおばあちゃんの台詞、最高……。
「ずっとイイ子にしてたんだよ ねぇ……」
こんなにいいおばあちゃんが世話をしてくれてるのに、わがままか!
と思ってしまうんですけど、子どもってわがままですよ。しょうがない。
それに、こんなにいいおばあちゃんが世話をしてくれているのに、それでもケアしきれない寂しさやつらさを彼女たちが抱えてしまっているということでもあるはず。
話が少しそれましたが、メイちゃんは自分にとって絶対的な存在だったサツキちゃんが、お母さんが死んでしまうかもしれないことに心を痛めていたことを知るんです。
僕には兄がいます。
サツキちゃんみたいに甲斐甲斐しいタイプではなく、むしろ乱暴だったのですが、幼い頃の僕はそんな兄のことを頼もしく思っていました(多分)。
ですがそんな兄の泣いている姿を見て、えらくショックを受けた記憶があります。
おそらく、弟や妹の立場からすると、上の兄弟ってすごく頼れる存在なんですよね。
でも兄や姉だって子どもなのだから、悲しかったら当然泣くこともあるんですよ。
そういう、長男や長女にはわからない、下の兄弟だけが経験するアイデンティティ・クライシスめいたものを、ここでは描いていると思います。
宮崎監督は四人兄弟の次男なので、多分、上の気持ちも下に気持ちも知っているのだろうなぁ……。

・サツキちゃんは「お姉ちゃんらしさ」を押しつけられていた

これは岡田斗司夫さんが解説していたことなのですが、サツキちゃんは、お父さんとメイちゃんと一緒にお母さんのお見舞いに行ったところで、「お姉さんらしくしなきゃ」という使命感を抱くようになるのです。
考えてみると、このシーンの前のサツキちゃんって、かなりお転婆なんですよね。
でもこの次の日になると、みんなのごはんとお弁当を用意していて、お母さんが不在のお家で、お母さんの代わりを務めるようになっている。
子どもの頃から何度も観ている映画なので、僕の頭の中では「サツキちゃん=お姉ちゃんキャラ」という図式が出来上がっていたんですよね。
岡田斗司夫、本当に観察と分析と、説明が上手いと思いました!
僕は岡田斗司夫のことが大好きです。
「お兄ちゃん」とか「お姉ちゃん」って、家族がそういう役割を与えただけであって、元来人に備わっている性質ではありません。
たまたまお兄ちゃんになったからって、いわゆる「お兄ちゃんらしい」振舞いを求められるのって、少し理不尽な話でもあるのかもしれませんよね。

多分サツキちゃんは、お姉ちゃんらしくしなきゃいけない、お母さんに甘えすぎちゃいけない、お母さんの代わりに家事やメイちゃんの世話をこなさなきゃいけない……そんな風に、無理をしていたのだと思います。
それが、メイちゃんのわがままを「メイのバカ!」と言って放ってしまうところにも出ていたのだと思います。

また、サツキちゃんは、ちょいちょいメイちゃんの子どもっぽさを嗜める場面があります。
それは、怒ったりすねたりといったわかりやすい描写ではなく、メイちゃんをからかったりいじったりすることで表現されているので、わかりにくくはあるのですが……。
それはこのお見舞いの一連のシーンでも出ています。
お母さんがサツキちゃんの髪をすいてあげているところに、メイちゃんが「メイも!」と身を乗り出してきます。
サツキちゃんは、ここでは少し怒って「順番!」と言います。
その次に、自転車で三人乗りをして帰路についているところで、メイちゃんが
「お母さん メイのおふとんでいっしょに寝たいって」
と言うと、サツキちゃんは
「アレ? メイは大きくなったからひとりで寝るんじゃなかったの?」
とからかいます。
これは多分、サツキちゃんも、本当はお母さんに甘えたがっているんですよ。
でもメイちゃんという、自分より小さい子がいるから、その気持ちを出すことができずにいる。
これはお見舞いに来たシーンの最初の方で、少し照れながらおずおずとしていることからもわかります。

そんな風に、自分を抑え込んでいたサツキちゃんの感情が爆発するのが、この不細工顔で泣いてしまうシーンです。

・メイちゃんはなぜ一人で病院へ行くのか

メイちゃんも、そんなお姉ちゃんを見て、いろいろ察するものがあったのでしょう。
この辺は演出メモにはあまり書かれていないので推測するしかないのですが、その前のシーンで、お姉ちゃんに好き勝手感情をぶつけてしまっているので、それを悔やむ気持ちはあるのではないかと思います。
それで、お姉ちゃんが泣いている原因であるお母さんの病気を治そう! と思って、トウモロコシを食べてもらおうと思い立つ。
この時、メイちゃんがサンダルを履くところがしっかり描かれるのですが、宮崎さんの作品で登場人物が靴を履くシーンは、その人物が強い意思を抱いて行動しようとすることを示します。
千と千尋で、千尋が、仕舞われていた靴を探し出すシーンなども、同じような象徴を持つシーンであるはず。
メイちゃんは、「お母さんに会いたいな」といった軽い気持ちではなく、はっきりとした意思を持って出て行くんですよ。
家を出た後、土手から病院へ続く道を眺めて、トウモロコシをギュッと抱き直します。
メイちゃんはここで、次のシーンで見える景色と同じ「広くて遠い道のり」を見据えているはずなんです。
本当はメイちゃんの背中越しに、遠く遠く続いていく道のりを見せた方がわかりやすいっちゃわかりやすいのですが、そうはしないのは作家としての矜持なのだと思います。
メイちゃんも、困難な道のりになることはわかるはず。
一人であんなに遠くまで行くのは怖いはず。
だけど、だからこそ、トウモロコシをギュッと抱いて、「お姉ちゃんが泣かなくていいように、悲しまなくていいように」、お母さんの病気を治すために走り出すんですよ。
ここで走ってるメイちゃんの顔も最高……思い出すだけで泣きます。
「トウモロコシをしっかりだきしめている。もう決めちゃったのです」の演出メモが。
そう、振り返らずに往くということが、どれだけ大事なことかは、ジブリアニメが好きな人ならわかるはず。

・メイちゃんは物語を通して成長する唯一の人物

トトロって、メイちゃんが成長するお話として解釈できるんですよ。
物語は、メイちゃんとサツキちゃんとおばあちゃんが手を繋いで夜道を往くところで終わりますが、エンドクレジットで出てくるイラストからも物語性を読み取れます。
よく言われるのは、トトロや猫バスと、人間が同じイラストに出ていないので、多分この後、メイちゃんもサツキちゃんも、不思議ないきものたちと会うことはなかったという話。
ただ、ここで、メイちゃんが小さい子どものお世話をしている絵が出てくるんですね。
この子は多分近所の子どもだと思うのですが、メイちゃんは自分より小さい子と接することで、お姉ちゃん的な役割も引き受けるようになる。
だからトトロのストーリーは、寂しがり屋でわがままだったメイちゃんが、お姉ちゃんだっていろんな感情を持った一人の子どもだということを知って、ちょっとだけしっかり自立するというお話なんですね。

メイちゃん!!!!!
あんたって子は!!!!!
大好きだ!!!!!

サツキちゃんがメイちゃんを見つけて駆け寄る時にも、
「バカメイ!」
と言いますが、今度はメイちゃんは言い返さずに
「ごめんなさい」
と謝るんです。
メイちゃん、自分がお姉ちゃんに迷惑をかけた時には、ちゃんと謝れる女の子に成長しているんですよ。
ちゃんと謝れることって大事ですよね。ほんとに。

あとここのシーン、サツキちゃんはメイちゃんのことを抱きしめています。
メイちゃんが学校に来ちゃった時も、泣いている時におばあちゃんが抱きしめてくれた時も、サツキちゃんは抱き返していないんですよね。
サツキちゃんも、メイちゃんの大切さを再認識したっていうことなのかな。
いいお話やで。

・終わり
僕がトトロの中で一番好きなシーンについての解説は、特にもうありません。
大好きな映画です。

僕は80年代後半の生まれなので、幼少期からジブリ作品はテレビで放映されていたんですね。
トトロとかラピュタとか、兄弟でTVの前でかじりつくように観たのを覚えています。
夜遅くまで起きていられることなんてなかなかなかったし、そんな高揚感も含めて、幸せな想い出として心に残っています。
それが、大人になっても楽しく観ることができるなんて……最高の作品じゃないですか。
最高。

 - ジブリ作品, 映画

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