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ジブリと「仕事を継ぐ」こと

   

君たちはどう生きるかの作品と直接的には関係ありませんが、日本のアニメーション業界において、ジブリほど「仕事を継ぐ問題」が取り沙汰される会社もないでしょう。
ということで、メタ的な要素とはなりますが、私が思うジブリと継承の問題について書きます。
この辺の文脈をどう読み取るかで、君どうの大叔父と眞人の関係の解釈が変わってくるはずです。

・宮崎吾朗と宮崎駿さんについて
宮崎駿さんは息子が誕生してからもアニメーターとしての仕事に忙殺されて、子どもたちが寝ている頃に帰宅し、起床は子どもが家を出てからという生活を続けていたそう。
子育てよりも仕事を優先していたわけですね。
吾郎さんは乳児期からパパのことが大好きだったようなのですが、パパは家にいません。
ということもあってか、吾郎さんは宮崎さんが作るアニメを子どもの頃からのめり込むように鑑賞していたそう。
社会人になり別の業種で仕事をしていたところ、ジブリ美術館を建設するにあたってジブリと仕事をすることになります。
それ以降、ジブリ美術館の仕事をしたり、ジブリでアニメーションを制作したりしますが、『ゲド戦記』では宮崎駿さんの絵物語『シュナの旅』を下敷きにするようにアドバイスを受けたりします。
また、『コクリコ坂から』では宮崎さんの手がけた脚本を演出する仕事となったのですが、吾郎さんの絵コンテが遅々として進まないことから業を煮やした駿さんがイメージボードを提供したり、絵コンテを切ったりなどしていたようです。
駿さん自身が、キャリアの中で演出を手がけるようになるまで長い下積みを経験していることから考えると、吾郎さんがいきなり映画の監督になるのは駿さん的には認めがたいことだったのではないでしょうか……。
事実、ゲド戦記の試写を観た駿さんは「子どもを観ていた」「気持ちだけで作っちゃいけない」「一本作れてよかったね。それで終わりでいいじゃない」「頑張ってるなんて言葉は演出家にとって褒め言葉ではない」と散々こき下ろしたのでした。
その後駿さんと吾郎さんは、しばらく口を利くことすらなかったと言います。

自身が鑑賞しなかったことで散々な出来になったゲド戦記の反省からか、コクリコ坂の制作時には、吾郎さんに直接かなり辛らつな言葉をぶつけるようになります。
イメージボードを観て「ここに物を置きゃもうちょっと絵になるのに」と突っ込んだり「魂がこもってないんだよ」と元も子もないけれど説得力のあることを告げたりします。
これらは作品のクオリティアップを目的としていることはもちろん、吾郎さんを鍛えようという親心も働いていたんじゃないかなと思ったりします。

その後吾郎さんはジブリの外で『山賊の娘ローニャ』というテレビシリーズの3Dアニメを制作。
その後はジブリに戻り『アーヤと魔女』という3DCG長編アニメを作りました。
これも企画は宮崎駿さんによるもの。
これは劇場公開されましたが、それに先駆けてNHKで放映していたので、純粋な長編映画と言えるかどうかは微妙なところ。
しかしここで宮崎さんは、映画について「面白かった」と、好意的なコメントを公開しています。

吾郎さんは愛知に出来たジブリパークの建設でも大きな役割を担ったりしていました。

そして君たちはどう生きるかで、吾郎さんは「制作」としてクレジットされています。
具体的にどんな仕事をしていたのかわかりませんが、駿さんの作品にこういったクレジットが入っていることは着目すべきですね。

駿さんは吾郎さんに対して、演出家としての力量が不十分、その器ではないと考えていることがわかるし、(仕事に対して能力が伴っていない人間が座に就くのは、苦節の末に自分のやりたい仕事が出来る環境を手にした自分や仲間に対する冒涜に他ならない)ただ、親心として無碍にできないのだろうということもわかります。

映画公開後に、ジブリが日テレの子会社化することが発表されました。
会見で鈴木敏夫さんは、吾郎さんに会社を継ぐことを要請していたが、吾郎さんはその重責を負えないとして辞退していた事が明かされました。
そして駿さんも、吾郎さんがジブリを次ぐことに否定的な姿勢だったと言います。
(ただし、私としては、駿さんはそのことに完全に否定的だったと言うより、何だかんだで吾郎さんが社長に就いたりしたら受け入れたんじゃないかと思ったりします……)

君どうでの眞人と大叔父の関係性について考えるならば、やはり駿さんと吾郎さんの関係性を無視するわけにはいかないんですよね。
自分としては、眞人が「継がない」選択をしたことについて、吾郎さんの動きは「何だかんだ言っても継ぎたがっているし、ヒミのような立場な気がする」と思っていたんですが、吾郎さんがジブリの代表に就かないということで、眞人は吾郎さんなのかなーという思いを強めました。
吾郎さんが社長になることが駿さんの仕事を継ぐことになるのかと言ったらそうではないけど、例えば駿さんが亡くなった後に、駿さんの思想をジブリの経営に反映させるための担保として、宮崎吾朗さんが経営の責任を持つことがあったんじゃないかなーと思ったりはします。

・駿さんともう一人の息子
あんまり言及されることはありませんが、宮崎敬介さんという駿さんの次男も「版画家」です。
敬介さんの作品は、耳をすませばにも使われています……敬介さん作品の起用は誰のアイデアによるものかは不明。
また、『風立ちぬ』の制作過程を追ったドキュメンタリー『夢と狂気の王国』で駿さんのアトリエが映った際に、敬介さんの作品展のフライヤーが壁に貼ってありました。
なので、駿さんは敬介さんの仕事を追っているんだろうなと思います。
宮崎さんの妻にあたる朱美さん元アニメーターですし、朱美さんの父も版画家です。
なので、敬介さんは祖父の「仕事を継いだ」と取れなくはない。

・駿さんと朱美さん
継承とは関係の無いことですけど、上述のように駿さんの妻である朱美さんはアニメーターで、駿さんよりも年上で、職場の先輩でした。
結婚してお子さんを設けてからも共働きをしていましたが、駿さんが「仮定が成り立たなくなるから」として朱美さんに専業主婦になってもらったのだそうです。
多くの場所で語られているのでは、朱美さんはアニメーターとしてとても優秀な人物で、駿さんよりも有望視されていたというもの。
実際のところはわかりませんが、駿さんが「妻には仕事を辞めてもらった」と語っているので、奥さんも不承不承という形だったのではないでしょうか。
そのあたり、大叔父がヒミに仕事を継がせていないってところには思想的に繋がっていそうな気がしたりはします……。

・駿さんとそのお孫さん
映画が公開される前に語られていたこととしては、駿さんには男の子のお孫さんがいて、この作品は彼に向けて作られたというもの。
しかし、映画公開後に、そのお孫さんについての情報は全く出てこなくなりました。
映画製作中に、そのお孫さんがどんな人なのか、また具体的にはどんなところがそのお孫さんに宛てられたものなのかといった情報もほぼ語られていないと思います……。

ただ、宮崎駿さんが語っていたところによると「知り合いの女の子にくるみ割り人形を贈ることにしたところ、妻がウチの孫にもあげてほしいと言うので、くるみ割り人形をいくつも買うことになった(笑)」といったエピソードがあったりするので、孫だから特段かわいがっているということもないのかなー、と思ったりします。

あと、個人的に思うのは、ジブリといえど今の若い人には必ずしも熱狂的に受け入れられているわけでもなく、ジブリを知らないという人も多いはず。
鬼滅の刃が千と千尋の興行収入を超えたという話なんかが象徴的ですよね。
なので、僕は、「孫は多分俺の作品にそんなに関心が無いだろうけど作っておきたい」ってスタンスの作品になるんじゃないかなー、と予想していました。
そんなわけなので、眞人が、大叔父の仕事を受け継がないこととかは、孫が宮崎アニメにそんなに関心を持っていないけど、それを肯定しようとする様なのかなーとか思ったりしました。
ほぼ根拠皆無の妄想です(笑)。

・久石譲さんとその娘さん
君どうに直接関連することで、もう一つ継承と取れなくない事象があります。
今回、麻衣 With リトルキャロルという名前が音楽にクレジットされていましたが、これは全てのジブリ宮崎アニメの音楽を手がけている久石譲さんの娘さんがメインとなっているグループです。
久石さんの娘さんは麻衣の名義で歌手活動をしており、ジブリの楽曲にもちょいちょい声として参加しています。
この娘さんが小さかった頃に、ナウシカの有名な「ランランランララランランラン」を歌ったそうです。
そう考えると、今回の音楽に麻衣さんの声楽が多用されているのは感慨深いものがありますね。
これもまた、「仕事の継承」だよなぁ、と思われる内容なので紹介しておきます。
駿さんの吾郎さんに対する思いはドキュメンタリーで映されていますし、駿さんは歯に衣着せぬ物言いをしているのでわかりやすいですが、久石さんは娘さんと一緒に仕事をすることも多いようですが、その仕事ぶりについてはどう思っているんだろう……。
まぁ、失礼な言い方でしかないのですが、麻衣という音楽家が有名かと言ったら決してそうではないじゃないですか……。
久石さんのように絶え間なく仕事をしていて、どれも高い評価を得ているような人から見て、麻衣さんは自分の仕事を継承させるに値する音楽家なのだろうか……とか、無粋なことを考えてしまったりもします。

・鈴木敏さんとお嬢さん
鈴木敏さんは、耳をすませばでカントリーロードの邦訳をする際、当時実際に女子中学生だった娘さんに訳詞を書かせます。
その出来が良かったことから、そのまま作品に使用しています。そう考えると、耳すまでは宮崎鈴木コンビが子どもに仕事をさせているんですね。
鈴木敏夫さんの娘さんは現在、お父さんと一緒に映画のオンラインサロンをやっていたり、Twitterに敏夫さんをよく登場させていたりするのですが、これは仕事を継いだと取るべきかわかんないっすね……。

・宮崎駿さんのご親類
おまけになるのですが、岡田斗司夫さんが、東京にあるトトロのシュークリーム屋さんについて言及していました。
ジブリでは、暗黙のルールとして、「食品とはコラボしない」というものがあります。
そもそもジブリは外部企業と、商品を共作するコラボをあんまりしてきませんでした……ここ数年、君どうの制作資金調達のためか、アパレル系でよくコラボを見かけますが…しかし、現在でも、食べ物にジブリキャラの絵が使われていることはほぼないはず!
そんな中でトトロのシュークリーム屋さんは特例的に宮崎さん暗黙の了解で公認として販売されており、またこのお店が宮崎さんの親族によって経営されているので、宮崎さんは同族経営的な形態に否定的ではないはずだ、というもの。

このお店は宮崎駿さんの弟さんが作ったお店です。
現在では、その弟さんのご子息(つまり甥)が営まれています。
岡田斗司夫さんの言うように、ある種同族経営になっています。
また、このご子息は、漫画家として活動していたようです。
お店のホームページにあるお名前で検索してみると、それらしき情報がちらほら。
駿さんという、美しくも狂気的な夢に見せられたのは吾郎さんだけじゃなかったのかもな、と思ったりした次第でした。

以上が、君どうにおける「仕事」について私が気づいたことです。
思ったよりも長くなってしまいました……。誰が読むねん……。
振り返ってみて思うのは、仕事について具体的に言及される場面が少ないため、考察しようとするとどうしても言葉を重ねなくてはならなくなるということ……。

この後「君どうと排泄」と「君どうと、種本となった二冊の書籍」についてのエントリを書いて、さらにその後君どう全体の考察をするエントリを書きます。
さようなら、全てのエヴァンゲリオン……。

 - ジブリ作品, 君たちはどう生きるか, 映画

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