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【ホラー/カルト映画の金字塔】ウィッカーマンと、柏木ハルコさんの『花園メリーゴーランド』

   

ずっと前から気になっていたのですが、やっと観ることができました!
ウィッカーマンのオリジナル版。

なんでもトム・ヨークがたいそう気に入っている映画なのだそうで、そんな関心から彼はサスペリアのリメイク版の音楽を手掛けたのかもしれません。
オリジナル版は1973年に公開されたものですが、2006年にニコラス・ケイジ主演でリメイクされており、多くのレンタルショップでは後者しか置かれていないのです……。
ニコラスケイジ刑事。(刑事ではないらしいですね)
しかもリメイク版はめちゃくちゃ評価が低いのです……。
いや、だめ映画はだめ映画で、観てみたら面白いのですが、オリジナル版のエッセンスが多少なりとも注入されているなら、そっちを先に観てしまうことでオリジナル版の衝撃が薄れてしまいそう。
サスペリアのリメイクは本当に良かったですね。
リメイクと呼んでいいのかわからない指向でしたが(笑)(褒めてる)。

・あらすじ
一人乗りの飛行艇で、男が孤島に降り立つ。
彼は警察官で、「娘が行方不明になっている」という差出人不明の写真と手紙を受けとったことから捜査にやってきた。
行方不明になったとされる娘は存在しているが、主人公が受け取った写真とは別人だった。
島は閉鎖的で、近々行われる祭りの準備で冬眠はあわただしく、捜査は遅々と進まない。
しかし島民たちが夜になると堂々と屋外で性行為に及んでいたり、小学校の教室でも生徒たちに性的な教育が行われていたりと、厳格なクリスチャンである主人公には受け入れがたい環境だった。
徐々に、村人たちが、キリスト教以前のドルイド信仰に支配されていることがわかりはじめる。

というのがおおむねのストーリーです。

・感想(ネタバレそんなにない)
作品の展開も衝撃の連続です……。
しかしなによりも、ラストに登場するウィッカーマンも凄まじい……。
エンディングの絶望感は半端じゃないですね。

ホラー作品っぽい、おどろおどろしい音楽はなく、また画面も基本的に明るい。
島民は主人公にとっては未知の存在ですが、彼らの表情はあっけらかんとしている。
それが空恐ろしかったりするので、演出が上手いなと思いますが……(笑)。
暴力など、主人公のみに危険が迫るという意味での恐怖はほとんどありません。
しかし、現代の常識を生きる人間からすると目を覆いたくなるような性描写がある。
大昔には、これに近い習慣や儀式があったのだと思うと怖いですね……。
ホラーというよりも、現代人の価値観を揺さぶられるという意味で怖い作品になっていました。
この当時のホラーには詳しくないのですが、こういう、人間の持つ本質的な恐ろしさを描いた点で傑出しているのでしょうね。
また、キリスト教を否定するような話もたくさん出てくるので、アメリカでもカルト的な人気があるのもうなずけます。
音楽はフォークソングで、70年代初期という時代性なのかギターの音がきらきらしてますね。
脚本を手掛けた人は、主にサスペンス作品を手掛けてきたキャリアがあるので、情報が開示されていく流れが上手くてお見事です。

・ 柏木ハルコさんによる傑作漫画『花園メリーゴーランド』と似ている。
これはちょっと驚くほど面白い漫画なのですが、この漫画を読んだという人に出会ったことがありません……。
柏木ハルコさんは最近「健康で文化的な最低限度の生活」がドラマ化されて話題になった女性漫画家です。
ポップで観やすい絵柄ながら、内容は鋭く、時に毒の込められたテーマを選ぶという、エンタメとアートの真ん中を往くような作風を持つ方だと思っています。
また、90年代から、女性の「性愛」「性的欲求」をリアルに描くことでも知られています。
花園メリーゴーランドは、柏木さんがそんな内容をモチーフとして取り扱うようになった原体験が反映された作品です。

・花園メリーゴーランド概要
中学を卒業し、高校入学を控えた春休みを送る主人公。
すでに亡き祖父の出生地から、祖父が所有権を持つ小太刀があるので引き取りに来てほしいとの連絡が入る。
両親は興味を示さなかったが、主人公は惹かれるものを感じ、暇にあかせて田舎まで一人で取りに行くことにする。
陸の孤島の集落へ向かう冬の道のりは想像以上に遠く、迷いそうになり心細い思いをしているところ、スクーターに乗った一人の少女に助けてもらう。
彼女は主人公と同じく、ブルーハーツを愛聴していて意気投合する。
集落にたどり着くが、冬の間は男たちは出稼ぎに行っており、女と少年しか残っていなかった。
小太刀を入手する流れに手違いがあり、数日村に留まらなければいけなくなった。
しかし、村の女たちは非常に性に奔放な姿を見せ始め、主人公の育った時とは大いに違う風習があることがわかりはじめる。

以上があらすじです。
全5巻と、読みやすい長さの作品。
連載開始前からほとんど話の構成は出来上がっていたはずなので、話の進み方が見事。
おかしな風習を持つ陸の孤島の集落、雪によって外に出ることができなくなる中で主人公が巻き込まれていく……というお話です。
しかもそれが性的なモチーフ。
15歳という主人公の年齢も、性への目覚めは遂げていて、けれど女性への幻想や貞操観念はまだがっちりとあるという絶妙な設定。
設定というか、実際にあった話を基にしているそうなので、かなりリアリティを持った作品になっているんです。すげぇ。

もともと日本人って性的にはめちゃくちゃ開放的な民族だったみたいですよね。
それが黒船襲来後にキリスト教的な考えが浸透してきて変わってしまったのだそうです。
また、時代設定も、10代の性に乱れなんてことが叫ばるようになっているころなので、そんな時代に思春期を送る主人公たちに共感してしまう。

最後の最後までほんとに面白い……構成が完璧で完成度が高いので、実写になったものとか観てみたいですけど、エロ過ぎて無理だろうな……。

・両作品の似ているところ(ここからけっこうネタバレ)
性的にピュアな男が、集落について何も知らなかったに入っていく。
男が暮らしてきた環境とは比べ物にならないほど、性的に開放的な集落に常識が崩壊しかける。
やがて集落の暗部を知ってしまったことで、主人公に身の危険が迫る。
最後には、集落にとって重要な祭典があり、現代人の価値観から見ると異常な光景が繰り広げられる……。
話の流れはほぼ同じなんですよね。
こういう場合って祝祭の日が出てくることが多いのかな。
特殊な共同体を描こうとする場合、そこの人々の依り代のようなもの、共同体の理念の根底が象徴されるような祭りを見せるというのは確かにめっちゃ有効だな。
花園メリーゴーランドとウィッカーマンで検索すると、二つの作品の共通点を指摘するページがいくつかありますね。
もちろん、パクりだと言うつもりは全然ないです!
描写が同一と感じるところなどはなかったですし、花園メリーゴーランドが著者にとって渾身の作品だということもバキバキに伝わってきますので。
多分、特殊な共同体の特殊性を描くにあたっては、その共同体の祭りを見せるのが一番いいんでしょうね。
もし柏木さんがウィッカーマンを下敷きにしているとしたら、「引用とはこのように行われるべきだ!」と言いたいくらいです。
全然やらしさがない。
ネタバレになるけれど、「少女を連れ出そうとするけれど……」というところは一緒ですね。
花園メリーゴーランド、泣けますね……。
柏木さんのドラマ作りのうまさって、日本の漫画界でもかなり上位にくると思います。
キャラを描くのも上手いんだよなぁ……女性キャラ。
二巻で完結しているコメディ漫画『コジューツ』というものがあるのですが、あれはほんとにすげぇ。
健康で文化的な最低限度の生活も、完結したら読みたい……。

・FGOの元ネタ?
あと、フェイトグランドオーダーというソシャゲがあるのですが、キャラクターに必殺技にウィッカーマンというものがあります。
ウィッカーマンを誕生させた宗教にまつわるキャラクターが、ウィッカーマンを召喚して敵を蹂躙するという技。
で、このゲームに出てくるウィッカーマンって、顔がないものなのですが……。
映画ウィッカーマンのインタビュー映像で語られた内容として、本来のウィッカーマンは顔にちゃんと目と口と鼻がある人の顔を模したものになっているのですが、制作の都合上それができなかったため(できなかった理由も語られてたんですけど、失念しました……)、顔のパーツを何も作らなかったとのことでした。
で、顔のパーツがないことでかえって雰囲気ができてよかったとも。
FGOに出てくるウィッカーマンって、映画のウィッカーマンのデザインを基にしているのかなぁと思いました。
先のインタビューは本当であれば、顔がのっぺらぼうになっているウィッカーマンは映画が初出ということになるので……。
ウィッカーマンでググッて出てきた画像が映画のものだったから、これにした……とかって安易なことでないといいですが。

なんにせよ、ウィッカーマンはすごく面白かったです。
ホラーというよりオカルティックな集団に迫っていくサスペンスだなって感じがしました。
評判通りの、非常に面白い作品です。

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