てやんでい!!こちとら湘南ボーイでい!!

映画音楽本ごはんの話を、面白く書けるようにがんばります

*

思い出を食う 221008

   

冷蔵庫は完全に死んだと判断するしかなかった。
早急に新しい冷蔵庫を買わなければならない。
死んだ冷蔵庫の中で保存している食物がどんどん傷んでいく。

仕事の昼休みに横浜の家電量販店に行く。
どの冷蔵庫も「売約済み」の札が張られていた。
すごい勢いで話しかけてきた店員さんに話を聞くと、冷蔵庫は新型モデルが発売を控えている時期らしく、在庫の数が少なくなっているとのことだった。
なんて時期に壊れてしまったんだろう、僕の家の冷蔵庫。

なんでこの時期に新モデルが出るんだろう。
おそらく夏の暑さにやられて家電が故障は頻発するんじゃないかと思うが、そういった需要がひと段落した秋がちょうどいいってことなのだろうか。冬のボーナスでの家電買い替えを検討する人が多いってことなのかな。新生活を始める人が多い時期に合わせてるわけでもないだろうし。謎。

この家電量販店でも店員さんは、「売りたいもの」があからさま過ぎてちょっと不快感だった。
「家のネット環境をソフトバンクさんに変更する場合はお値下げができますよ」って話を始めるのが早い。
ゴリゴリきよる。嫌。

横浜のような大きな駅に近いから在庫が少ないのかもしれないと思った。
しかし、地元の家電量販店では、先日冷蔵庫が仮死状態に陥った際に、冷蔵庫を注文して、翌日注文をキャンセルした経緯がある。
注文をキャンセルした時に、「一時的に直っていても、また不具合が出ることはありますから、もうちょっと様子を見ていてもいいと思う」といったことを言われたが、冷蔵庫が壊れるなんて出来事を認めたくなさ過ぎた僕は「いや、いいです、キャンセルさせてもらいます」と押し切ったのであった。
これでは、また冷蔵庫を買いに行けば、「ハッ、やっぱり冷蔵庫は壊れてたんじゃねーか…プロの言うことをおとなしく聴けない素人が一番タチ悪いんだっつうの」と嘲笑われかねない。
そういうわけで地元の家電量販店に足を向けることはためらわれた。謎のプライド。自分の失敗を認めたくないのだろう。

でも家電量販店って、いろんなチェーンのお店があるけれど、基本的に販売価格が大きく変わることってないと思うので、まぁ、どこで買っても同じだろうという思いだった。

その日、藤沢にある好きなラーメン屋さんが、限定的のラーメンを提供するとのツイートを見かけた。
お店の開店時間が、僕の仕事が終わる時間と大体同じ。
藤沢にも大きめの家電量販店がある。
仕事が終わってからラーメン屋に行けば、大体開店から一時間以内に到着できる。
限定のラーメンが品切れになっている可能性は低いんじゃないだろうか。
ラーメンを食い終わってから家電量販店を覗きに行けばちょうどいい感じになりそうな気がした。

仕事が終わる時間が少し遅れた。

藤沢に着いて、店まで歩く。
店は小田急江ノ島線で一駅移動したところにあるのだけど、江ノ島線は本数が少ないので待ち時間が生まれやすい。
あと僕は、駅と駅の感覚が近い路線で、電車に乗って短距離を運ばれるのが好きじゃない。
藤沢駅から歩いても20分くらいなので、いつも歩いていくことにしてる。
この日もそうした。
歩きながら音楽を聴くのが好きだということも、歩く時間を作る理由の一つ。
大体、音楽を聴いている時でも、ネットサーフィンしてたりスマホでゲームをしてたり本を読んでいたりするので、「他の作業をせずに音楽を聴く」時間ってあんまりないものである。
30分以上歩く予定であれば、アルバムを通しで聴くことができるけど、それができなさそうな時は、集中して聴きたい単独の楽曲をシャッフルで流したりする。
日本語の音楽がだいたいそれにあたるのだけど、最近、あんまり日本語の音楽を聴きたいという欲求がないので、あんまり聴かない。
この時はモロダーにハマっていたので、モロダーの曲を聴きながら歩いた。

店に到着すると、10人ぐらい並んでいた。
6人以上並んでいたらあきらめて帰ろうと思っていたけど、「せっかくここまで来たのだし食って帰ろう」という考えに変わった。
「多分お客さんもさっさと出ていくであろう」「列が速く進むであろう」「大好きな限定ラーメンにありつける貴重な機会を逃す手はない」「列に並んでる間も本を読む時間に充てれば決して無駄にはならない」といったことを決断の根拠とした。
投資の元を何とか回収したいという、頭の悪い投資家の手本のような行動。
そもそも投資するのであれば、引き上げるラインをあらかじめ決めておくべきであろうなと思った。

結局入店できるまでは20分ぐらい要した。
並んでいる客の話し声がうるさく、読書への集中力は40%程度減じていた。
そうなることは事前にうっすらとわかっていたことである。
嗚呼…。

入店したが、限定のラーメンは完売していた。
限定のご飯メニューも完売していた。
普段食べられるラーメンを、20分待って食べた。
俺は完全に選択を誤った。
せめてと思って、ポテトサラダを前菜として注文した。
あとちょっと空気が冷たかったので、アジアンスパイステイストのラーメンをトッピング全乗せ大盛りで注文した。

ラーメンは美味しかったけど、途中からちょっと胃にもたれてきた。

20代終盤頃、このお店には週に二回から四回通っていた。
食べるすべてのラーメンが死ぬほどおいしかった。

多分味が落ちたということではないのだけど、俺の味覚や消化器官が弱ったのだと思う。
全盛期はラーメン二杯にご飯ものを二食いけたのだ。
はっきりと老いを感じる。つらい。

一か月に一回ぐらいはここのラーメンを食べにくる。
しかしながら、「もっと昔は美味しく感じたかもしれない」と途中から感じ始めてくる始末。
すごく美味しいな、と思いながら食べていたころの思い出に浸りに来てるのかもしれないと思う。
思い出を食うために、時間をかけて店に行き、自分が普段一食にかける費用の倍近い値を支払って、満腹になり一抹の罪悪感と後悔を抱えて帰る。

あんまり言いたくないというか、思いたくないことではあるのだけど、「限定食」が消えるのが早くないかな…と思ったりする…。
もちろん、「限定」とあるからには、それにありつけない者が出るのは必然。
ただ、けっこう早い時間帯に行っても「ない」ってことは、もともと少ないのではないかと思う。
だいたいどれくらいの人数がそれを求めてやってくるかとか、事前に想定して作る量を調整したりするもんじゃないのかな、と思ってしまったり。
お店の人とは親しくさせてもらっているので、限られた広さの厨房で複数のバリエーションを提供しようとすると、鍋の数が足りないという話を聞く。
でも、とはいえ、もともと人気があるメニューを今日だけ限定で提供するのであれば、それを多くしておいてほしくはある…そのために、わりと早い時間に到着できるようにしたので…。
あと、並んでいる間に、完売になったメニューがわかれば有難い…。
お店に入って、
まぁ、オペレーションの人数が限られているので難しいという話もあるかもしれないけど、限定メニューを目当てに来ている人間からすると、やっと入れたお店でそのことを聴かされるのとかつらすぎるので。

昔、このお店の近辺で仕事をしていたことがあるのだけど、昼休みにお店に行ってラーメンを食って会社に帰り、歯を磨いて仕事に戻るということがあった。
5人くらい並んでいて、10分程度待ってお店に入れたのだけど、目当てにしていたまぜそばが品切れになっていた。
自分は猫舌なので、時間がない時にはラーメンが冷めるのを待てず、まぜそばやつけ麺など、適温にしやすいものを注文したいのだった。
その時にブチッときて、店員さんに「まぜそばってもうないんですか?」と聞いた。
「終わっちゃったんですよ」との返答だった。
「僕ちょっと今食べれないなー。終わっちゃってるメニューがあるんだったらわかるようにしといてほしいっすね!」って半ギレで告げて店を出て帰ってしまった。
多分その前にも、このお店に行ったら、「本日スタッフ旅行のため臨時休業です」と休業の札が出ていたことがあって、店に来るまでの時間を無駄に過ごしてしまったという嫌な経験があったので、「もうちょい客に使いやすいやり方を考えてよ…」って思いも積もっていたのだと思う。

お店の人と仲良くなる前の記憶。
二年に一度ぐらい、公共の場で、人にキレてしまうことがある。
キレた時のことは自分でも結構覚えてしまっているもので、たまに思い出しては、自分と言う人間の有害性を噛みしめることとなる。
けれど繰り返す。
どうしようもないな。
当時は知らなかったけど、まぜそばとかつけ麺とかって、ゆで時間がラーメンよりも長いらしい。なので、多分まぜそばとラーメンでは、注文から完食までに要する時間はあんまり変わらないと思う。

「臨時休業」が多いことは、やはり今でも気になっている。
これは以前から思っている、ラーメン店がオーナーシェフ一人に権限と責務が集中してしまっている構造からくる、一種の「歪み」に起因することでもあるとは思うのだが。
でもこのお店ほどの有名店だと、「遠くからこのお店のために来る」という人もいるレベルなので、近場の自分はいつでも他の機会を作れるけど、まぁ、辛い目に遭う人もいますよねぇ…。

ラーメンを食った後に藤沢駅近くの電気店に行ったが、冷蔵庫コーナーが狭かったし、「売約済み」が多かった。
完全なる無駄足だった。

仕方ないことなので、地元に帰って、地元の家電量販店に出戻りすることにした。
もうこれは、多分、神が、俺に「失敗を認めよ」と告げているのだと思った。

家電量販店の冷蔵庫コーナーを目指し、エスカレーターで4階まで上がる。
エスカレーターを囲む壁は鏡張りになっていたのだが、自分の腹が醜く突き出ていることが気になった。
また、自分の姿を横から見ようと思って首をひねっていたのだが、首が脂肪でブヨブヨしている。
それをねじったものだから、脂肪で細かく波打っていた。
なんなんだこの醜い生き物は…。
幸先悪い。

地元家電量販店にの冷蔵庫コーナーでは、「決算セール」が行われていた。
自分が前に購入しようとした冷蔵庫も、自分が購入した価格よりも10%オフになっていたし、破棄したい冷蔵庫のリサイクル料金が無料になっていた。
なんてこった。

しかも店員さんは、俺のことを全く覚えていないようであった。
そりゃ毎日何十人も相手にしてたら、3週間ぐらい前に接客した人間の顔なんて覚えていられないですよね。
神に感謝するしかなかった。

前に買った冷蔵庫よりと、半額以上の割引になっている良い感じの冷蔵庫とで悩んだ。
良い感じの冷蔵庫は、前に買ったものよりも年間の電気代が3000円ぐらい安かった。
年間の消費電力…意外と大事だなと思った。
前に買った冷蔵庫について店員さんは「こっちは扉が両開きなんですよ!」とやたら押していた。
店員さん的にはこっちを買わせたいのだろう。
でも「扉両開き」って、そんなにセールスポイントになるか…?
結果的には、金額面を決め手として前に買った冷蔵庫を買った。

なんかいろいろ無駄をして嫌な日だったけど、冷蔵庫を前回よりも1万3千円ぐらい安く変えたので、結果としてはトントンぐらいだと思うことにした。

・今日聴いた曲
ラーメン屋へ行く道すがら歩きながら、また聴いた。
この曲いいなと思う。
何度も、ちゃんとこのアルバムを聴かなきゃいけないと思う。
学生の頃は、この世界で起っている全てのつらい悲しい出来事から目をそらしてはいけないと思っていた。
大人になると、考えている時間がないし、生活の糧を得るために考えなければいけないことが増える。
「ずっとずっと思ってたことが 考えるのをやめたせいで わからなくなっちゃった それでいいと諦めた」
自分と、自分の環境を失わないための考え事が優先されるようになる。
自分が考えることを放棄した事象から逃げずに向き合っている人の表現に触れることができなくなる。
罪悪感を覚えてしまうから。
「考えないやつら」を心底見下していた頃の僕は、今の僕を見たらどう思うだろう。と思う。
七尾旅人さんの音楽をちゃんと聴かなきゃなと思う。

そう、ラーメン屋さんの店主も七尾旅人さんのことが好きなようなので、「七尾旅人さんのアルバムを聴いた次の日に、ラーメン屋さんに行きそうな機会があるってことは、神が行けと告げているのだな」とも思ったな。

 - 日記, 食べもの

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