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2分の1の魔法が楽しみ

      2020/03/15

アナ雪2を観に行ったら、2分の1の魔法の予告編が流れたんですよ。
ディズニー側ではなく、ピクサーの最新作ですね。

ざざっと説明すると、かつて魔法が存在していたけど、現在ではなくなってしまっている世界が舞台。
社会は発展していて、人々は車を使っているし、高層ビルが建ち並んでいるし、我々が暮らす社会と同じような世界観のようですね。
そこで、主人公の自分に自信が無い気弱そうな少年がいて、彼は物心つく前の父を亡くしている。
16歳の誕生日に、亡き父が生前に残してくれていたプレゼントを受け取る。
それは魔法を使うための道具だった。
それを使って、父を蘇らせようとするも、身体の下半身しか現出されなかった。
兄から「24時間以内に魔法を完成させればお父さんをちゃんと蘇らせることが出来る」とアドバイスを受けて、兄と二人で旅に出ることになる……という話。
あらすじだけでも、泣ける感動巨編になることは間違いなさそうです。

監督のダン・スキャンロンは2001年にピクサーに入社した人です。
ピクサー史的にはモンスターズ・インクが公開された年ですね。
その後、キャリアを積んでモンスターズ・ユニバーシティで監督としてデビューしているようです。
モンスターズ・ユニバーシティも高く評価されましたよね。
「自分に自信がない少年」が主人公になっているところなど、今作とも似ているかも。
事前に告知されていたヴィジュアルやタイトルを知った時は「そんなに面白くなさそう」というのが正直な感想だったのですが、予告編を観て、俄然興味が湧きました!
なので、予告編を観た感想を書きます!

・ラセターの話ちゃうんか

このブログで何度か書いてきましたが、近年のピクサー映画では「父性の不在(もしくは喪失)」がメインテーマになることが多いです。
それは、ピクサーの創設者であるジョン・ラセターが、ディズニー側の作品の製作にも携わるようになったことで、ピクサーとの関わりが薄くなってしまったことが原因だと推測してきました。

リメンバー・ミーから見る、ピクサーのラセター批判(カーズ+トイ・ストーリー2)

そしてジョン・ラセターはセクハラを告発されたことでディズニーの仕事を休職……からの流れで、2018年末でディズニーを退職しました。
そしてすぐに映画製作会社のスカイダンスが立ち上げたアニメーション部門に入りました。
もはやピクサーにとって、産みの親であるラセターはライバルになってしまったのです。
そんな状況で公開される今作では「父親の死」と「蘇生」が作品のど真ん中に据えられています。

本作の監督自身が父親を亡くした経験がベースになっているそうなのですが、それにそしても、モロにラセターのことを描いてはいないでしょうか……。
ピクサーは脚本開発に何年も時間をかけますし、この規模の作品は製作決定から公開までかなり長い年月を費やすわけで、「ラセター退社」を見据えた作品ではないことは僕もわかっています。
しかし、ちょっと、タイミングがジャスト過ぎでは。
この監督は、設立メンバーとは違い、ラセターとの親交も深くはないはず。
ラセターが監督を務めた『カーズ』でストーリーボード・アーティストとしてクレジットされているので、彼との共同作業の経験はあるようですね。
そんな彼とラセターの距離感が、父のことを知らない主人公に似ている気がします。
多分、映画では、兄と母親ら周囲の人間からパパの話をよく聞かされたりしているんじゃないですかね。

・かつて魔法があった世界

魔法が昔はあったという世界観も、ピクサーやディズニーを表しているのではないかと思いました。
かつてのピクサーはオリジナリティの塊のような作品を作り、しかも大ヒットしていました。
そのうえ批評家からの評価も高い。
カールじいさんやウォーリーなんて、今観ても発想の源がわからないです……。
それが設立メンバーの多くが亡くなったり会社を抜けたりしていって、過去作品の続編作りばかりさせられている、という状況を指しているのではないでしょうか。(『インクレディブル・ファミリー』はすごく面白いし、売れたみたいですけど)
アナ雪2でも、「魔法」の話がありましたね。
強欲で傲慢なアングロサクソンの化身のような国王が、魔法を信じる民族を見下し、信用できずにいる。
これって、ディズニーが「夢と魔法の国」を築くことを夢見ていたのに、ビジネス志向が強まっていったディズニー社のことを暗喩しているように思うんですね、
ここ最近のディズニーおよびピクサー作品は、自己言及の度合いが強まっている気がする。

ピクサー創立メンバーで、ピクサーの製作に携わっている人って、実はほとんどいないはず。
クリエイターではありませんが、CG技術者のエド・キャットマルさんは2019年でピクサーとディズニーから離れて、映画業界を引退することになっているのだそうです。
ラセターに続き……。
94年に入社して、トイストーリー3やリメンバー・ミーを監督したリー・アンクリッチも、2019年初頭にピクサーを退社しています。
稀代の製作会社だったピクサーも、その礎を築いた人々は去って行っているのです。
かつて、ディズニーという世界最大級のエンターテインメント企業を救ったピクサーの行く末は自分たちにかかっている。
魔法を再び作り出すことができるのか、売れそうな映画を作ってそれなりの仕事をこなしていくのか……。
スタジオがどうなるかは、自分たちがどんなものを作れるかにかかっている……という責任をそのまま映画にしたのではナイかなと思います。

そう考えると、当時大学生だったアニメオタクたちが、『DAICONFILM』を作ったことと同じことが起きているのかもしれないですね。
「バトンを渡された自分たちはどうするのか」
「バトンを預かることで、自分たちは成長していく」
というお話。

・お父さんは蘇る?

「お父さんに会いたい」という純粋な願いが出発点にはなっていますが、これ、オチは大体読めてしまうではないですか。
言わずと知れた『鋼の錬金術師』は海外でもすごい人気があるみたいですけど、この映画はあの漫画と同じようなことをしていると思うんですね。
(ハガレンの海外での人気って本当にすごいので、もしかしたら1/2の魔法の元ネタの一つかもしれませんね)
ヒトが命を作ろうとすると、良い結果にはならない。
特にキリスト教圏では、生命の創造は神のみわざであって、それを人がまねようとすることは許されない。
だから、お父さんを生き返らせることは出来ないと思います。
そう考えると、主人公がかわいそうすぎるんですけど……。
でも、多分、「一度でいいから会いたかった」って台詞もあるから、物語の終盤で一度だけ会えるんでしょうね。
そのくらいの夢なら叶ってくれてもいいはず。
ドラゴンボールで、悟天が悟空に抱っこしてもらいたがるシーンがありましたが、あんな感じで、多分ハグと、短い会話を交わすことは出来るのでは無いかと思います。

『アーロと少年』でもありましたけど、既にこの世にいない父のトラウマに引きずられ続けてさまよう男の子というモチーフは切ないですよね。
ディズニー作品で言えば、『ライオンキング』もそうです。
でもそれら二作品とは異なる点として、本作の主人公彼は、パパの死を知らないわけだから、「トラウマ」ではないんですよね。
ライオンキングとアーロの少年は、パパが死んでしまったのは自分のせいだという負い目が重く圧し掛かっていたから。
本作では、主人公は父性の不在によってなのか、自分に自信を持てない頼りない少年になっている。
「僕にはできないよ」なんてセリフからも、それがうかがえます。
だから多分、パパと会って自信を持たせてもらえるような展開になるんじゃないですかね。
そこら辺は『アーロと少年』と一緒なのかもしれない。
そして、それって、創立メンバーがいなくなってしまった今、ピクサーを背負っていかなければならないというピクサー社員たちの想いとも重なるのではないでしょうか。
パパ≒ラセターがいないという現実を受け止めなければいけない自分たちの環境と、主人公の状況を重ねている。

とにかく楽しみなんです!
ただ、しかし気になったのは、予告編で流れるパンクロック調の楽曲。
男の子の青春に、もはやパンクロックって流れていないのでは。
まだ海外のティーンは、ロックとかパンクって聴くんですかね?
既にロックよりも、R&Bとヒップホップの方が「聴かれている」音楽になってしまっているんですよね。
ロックにどっぷりつかって生きてきた私には信じられない話ですが……。
ピクサーではなぜか、「ちょっと変わった人」は「ハードロック/メタル」を聴いているのです。
「ハードロック/メタル」がちょっと変わった人が好む音楽……というお決まりも、もはや通用しなくなるのでは。
私は好きですけど。

 - ディズニー・ピクサー, 映画

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