21世紀の「達郎クワイ」Suchmos(サチモス)
2020/03/07
サチモスというバンドは2013年に結成、デビューシングルを15年の4月に、1stアルバムを同年7月にリリースした若いバンドです。
ルイ・アームストロングが『サッチモ』と呼ばれていたことから、バンド名が来ているそうです。
このバンドは「和製ジャミロクワイ」と称されることも多いようで、アシッド・ジャズやファンク、R&B、もしくはここ数年日本で流行っている感のあるシティ・ポップからの影響を指摘されることが多いようですね。
僕がこのバンドを知ったのは、前述のくいしんさんがブログで「Suchmos(サチモス)はなぜ文科系インテリ女子を魅了するのか。」
という文章を書いていたからです。
そのページで、彼らが今年の1月にリリースしたEP『LOVE&VICE』に収録されている『STAY TUNE』を聴いたのですが、これが非常にかっこよかったのでした。
実際、ラジオでパワープッシュにされたり、itunesストアでダウンロードランキング1位になったりと、かなり売れているもようです。
ボーカルの顔が、これまでJロックシーンにあんまりいない感じのイケメンなのにまず驚きですよね。
僕は最近、意識して「今」の音楽を聴いていきたいなと思っていた頃にこの曲と出会いました。
まだ若いのにアダルトな夜の雰囲気を感じるし、背伸びしている感じがまったくなく、すごくかっこよいと思いました!
じゃあもっと聴いてみようかなーと思い、1stアルバム『THE BAY』を買いました。
このバンドについて、いろいろ語りたい視点があるので、2回に分けて書こうと思います。
まずこのエントリで、1stと、『STAY TUNE』を聴いた限りで抱いたバンドへの印象をかきます。主に音楽的な面について。
次に歌詞を読んで思ったことと、このバンドが前面に押し出す「地元ラブと東京に対する軽蔑」感について書こうと思っています。
最後のところが一番気になるポイントです。
ボーカルのYONCEさんは神奈川県の茅ヶ崎出身で、少し前に実家に戻ってきているとのこと。
また他のメンバーは横浜出身だそう。
アルバムの一曲目『YMM』は、メンバーがよく遊んでいた「横浜みなとみらい」の略語らしいです。DAIGOみたいで素晴らしい言語センスですね!
このへんの地域柄ってサチモスを語るうえでは見逃せない要素なので、先に書いておきました。
アルバムの一曲目『YMM』なのですが、僕は聴いた瞬間に山下達郎っぽいなと思いました。
ベースラインが、山下さんのアルバム『RIDE ON TIME』の一曲目『いつか』にすごく似ているように聴こえるんです。
サチモスを聴く前に、彼らがシティ・ポップの文脈で括られている印象だったので、なおさらそう聴こえてしまうのかもしれませんが……。
近年のシティ・ポップブームに関連して、山下達郎さんが再評価されていると思います。
もちろんこの30年くらいの間、音楽通に山下さんが注目されていない時期はほとんどなかったと思うのですが、ここ数年はとにかく若いファンが増え続けているそうです。
なので、多分サチモスのメンバーも山下さんのことは好きなのではないでしょうか……影響を受けていると感じるのは、曲の中での「ブレイク」の作り方にも当てはまるんです。
聴いていて、「あ、これ山下さんの曲っぽい」と感じる部分がけっこうあります。
具体的に「山下さんのこの曲のこの部分」とあげるのは難しいのですが……(山下さん聴き直してみて、ピックアップできたらあらためて描きます)
しかし、後述しますが、サチモスはシティ・ポップというジャンル分けをされることをよく思っていないようです。
インタビューで「今はシティポップってくくりが便利」「自分たちもそこに入れられてしまって「それだけじゃねぇんだけどな」と思ってた」というようなことを語っています。
でもですよ!
山下さんも、80年代はサーフィン文化の中でこぞって聴かれていたミュージシャンでもあるのです。
84年に、サーフィンのドキュメンタリー映画のサウンドトラック『BIG WAVE』を製作していることは象徴的です。
今ではポップスの大御所、元祖シティ・ポップアーティストという語られ方をすることが多いとは思うのですが、山下さんも海に縁のある人なのです。
そういうわけで、サチモスも山下さんも、シティというよりは、海のフィーリングを持っているという点で共通しているとは言えないでしょうか。
とにかく言いたいことは、80年代半ばまでの山下さんの音楽とサチモスはちょっと似ている気がするということです。とくにドラムとベースが似ている気がします。
サチモスが山下さんから直接の影響を受けたということではなく、どちらも共通したルーツを持っているということなのかもしれませんね。
また、すでに書きましたが、「和製ジャミロクワイ」と呼ばれていたくらいなので、ジャミロクワイに似ています。
YONCE君が最近の写真だと、アディダスの服ばかり着ているのも、ジャミロクワイのボーカルであるジェイ・ケイへのリスペクトではないかと思います。
また他のメンバーが「毎日聴く曲」として、ジャミロクワイの『ブロウ・ユア・マインド』を挙げていますね。
1stアルバム収録の、アシッド・ジャズの名曲です。
日本でのジャミロクワイのパブリック・イメージって、96年の『ヴァーチュアル・インサニティ』からの、もっとクラブミュージックよりというか、頭より先に腰にクるようなグルーヴを得てからの音楽のような気がします。
サチモスがジャミロクワイの影響を受けている部分、具体的に言うと、『Arlight』という曲の途中に入るロックっぽいラウドな演奏に入る辺りが、ジャミロクワイの『Soul Education』という曲のイントロに似ていると思います。
僕もどっちかと言うと、ディスコやファンクのダイナミズムを取り入れ始めた頃のジャミロクワイの方が好きだったりします。
しかしこの老練のスローなジャズのうまみを愛する人が多いのもまた事実だと思います。
サチモスの面々は、「97年のジャミロクワイは最強」「目標はジャミロクワイ」とインタビューで答えていました。
しかし、こうして公言しているところが、このバンドのかっこいいところですよね。
カラッとしてて気持ちがいい。
ジェイ・ケイだって、「俺はスティーヴィー・ファッキン・ワンダーって呼ばれてんだぜ」と自虐していたこともあるくらいなんです。
偉大な先人たちと比較されてしまうことはあるかもしれませんけど、自分たちが「そこは通り過ぎていく地点だ」ってことがしっかりわかっているみたいですし、サチモスは今後が本当に楽しみなバンドです。
岡村靖幸さんも「和製プリンス」と呼ばれていたりしましたし、才能ある若いミュージシャンが登場すると「和製○○」「○○年代の○○」なんて呼ばれるのはもはや日本の通例と言えましょう。
しかし「和製」って言葉、ちょっとダサくないですか……?
ここで僕は、サチモスのキャッチコピーとして「達郎クワイ」を提唱したいと思います。
もちろん山下達郎さんとジャミロクワイを混ぜた言葉です。
ジャミロクワイって言葉がそもそも、「イロコイ族」というアメリカ先住民と、「JAM」という言葉を掛け合わせたものなので、意味的に通るものにするなら「ジャムワ下達郎」とかになるのでしょうけど、それだといかんせん語呂が悪い。
それに対して「達郎クワイ(タツロクワイ)」の、何と言いやすく意味のわかりやすいことでしょう!
タワレコかヴィレヴァンのスタッフさん!
「達郎クワイ」使ってもいいですよ!
気になったと言えば気になったところがあります。
それはソングライターが「直感的に」捉えた言葉しか書かれていないところ。
サチモスの曲は主に、ボーカルのヨンスさんと、ベースのSHUさんが作詞をしています。
どちらが書いた曲も違和感なくアルバムの中に同居している……逆に言えば、「この曲はこっちが書いたな」と分かるような個性がまだ確立されていないとも言えます。
サチモスの曲って今のところ「イイ女と仲良くなりたい」「東京の人間の生活ってバカみたいだ」「地元サイコー、仲間サイコー」ってことばっかり歌っています!
これは、今のところ最新作である『STAY TUNE』でも共通している部分なのですが、東京(に代表される都会的な生活)を揶揄する歌詞が多いです。
それも、かなり直接的な言葉が使われています。
要するに、彼らが生活している中で感じた言葉をそのまま歌詞にしているんだと思います。
直感的に書いているように見えるというか。
サチモスに退屈さを覚えるのは、こういうところです。
SNSで流れてくる友だちの日常みたいなもので、それ以上の感動がありません。
音楽そのものも、バンドのメンバーの好きなものをそのまま作っているようだし、今のところ「自分たちが気持ち良いこと」をそのまま表現しているんだと思います。
ですが本人たちも「今の自分には、みんなが共感できる歌詞はまだ書けない」と発言していて、自覚はあるようです。
ということはこれからもっと歳を重ねて、経験を積み、深い考えを持つようになってくれば、書く歌詞ももっと変わっていくはずです。
それが僕には楽しみです。
とりあえず今日はこんなところ……。
次回、サチモスがどんなことを歌っているのか、具体的に書きます。
そしてその中から自分の感じた、「マイルドヤンキーとしてのサチモス」「神奈川県茅ヶ崎市という場所」「10年代後半からのバンドマンの在り方」について書きたいと思います。
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Comment
サチモスの色々な記事を読み漁っていますが、一番しっくりきました。
こんな風に分析できるなんて、素晴らしいです。
だいぶ日が経っているようですが、予告された記事をいつか読めることを楽しみにしています。