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ベイマックスをほめちぎるブログにいちゃもんをつける

      2020/03/08

ベイマックスについて、ちょっと話題になったブログがあります。
http://anond.hatelabo.jp/20150104012559
「『ベイマックス』を見て日本のクリエイティブは完全に死んだと思った」
というタイトルのこのブログ。
なんか読んでいると、少し反論したくなる内容だったので、思いついた意見とか反論なんかをこのエントリで書いていきたいと思います。
何かに対する反論や意義って書きやすいですよね。
大学の卒論を準備している時、児童ポルノを規制しようとする日本の政府への反論をテーマにしようとしていたんですけど、ゼミの先生も「反論で書く方がやりやすいよね」って言ってたことを思い出しました。

まずこのタイトルが人目を引いたから、話題を呼んだり2ちゃんのまとめでとりあげられたりしてるんですかね。
ベイマックスは戦隊モノやロボットアニメに近い要素が多く、日本のアニメファンからの評価が高いような印象です。(もちろん、ディズニーファンも観ていると思いますが)
岡田斗司夫さんが「タツノコプロのアニメみたい」と形容していましたが、それが一番近いのかもしれません。
ベイマックスの制作者側も日本のアニメや特撮のメソッドを応用して作っているのだとも思いますし。
だから、「日本のクリエイティブ」と比較する事自体は自然なことだと思います。

で、まず一つ目の疑問なんですけど、「日本のクリエイティブ」って書いてあるのに、なんで日本のアニメーションの話に限定されているのかわからない。
さらに、挙げられる例が「劇場アニメ」のみで、「テレビアニメ」には触れられずに話が進んでいるのかもわからない。
まぁその辺はテキストを短くまとめるために説明を省いているのかもしれないです。
しかし、それは問題提起するにあたって、話の前提条件の提示の仕方がずさんと言わざるを得ない。
なんかこの人のやり方って、建設的な議論をしようという気持ちがあるんじゃなくって、バズを起こしてレビュー数を増やしたがっているだけのように思える。
どちらが書いた人の本意なのかはわからないですが、二つのことを一つの記事でやろうとしているから、論旨が散漫になっているというか何を言いたいのか他人に伝わらない状態になっている。
少なくとも、「あなたはどう思いますか」なんて問いかけで文を締めくくれるほど、まともな論理の展開はできていない。
まぁ、論理に穴がある≒ツッコミ所が多いからバズを呼んだっていうことなんですかね……。
穴だらけなくせに、自信満々にドデカいことを言っているひとを、人は笑わずにはいられない。

なんか僕の言っていることもだんだん散漫になってきた気がする。
一つ一つ、違和感を持った部分に茶々入れていきます。
まず、
「ベイマックスのスタッフに天才は一人もいない。秀才の集団が努力に努力を重ねてチーム主義で物凄い物を作ってしまった。スタッフロールには脚本家が20人もいる。それに比べて日本は作家主義で、一人のカリスマクリエイターのために手足となるチームを作る」
というところ。
「一本の映画に20人も脚本家が関わっている」なんて体制が、どこのスタジオでもとれるものでしょうか?
まず日本のクリエイティブの現場と、ハリウッド映画では資本力に違いがありすぎるんです。
岡田斗司夫さんが「スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーや宮崎駿監督だって、プール付きの豪邸には住んでないんだよ!」って言ってたなぁ。
対して、今のディズニーのアニメーションづくりの現場を統括しているジョン・ラセターは当然豪邸に住んでいるようなんですけど、それがすごい。
庭にプールがあるどころじゃない。
SLが走っているんですって。
ジョン・ラセターがいくつもの作品に並行してかかわっているからそれだけの報酬が入ってきているのかもしれないけど、それにしても日本と向こうとでは資本の規模が違いすぎる。
英語圏全てがマーケットになる作品と、日本しか市場がない作品とでは、製作に掛けられる費用も、望むことができる利益も違いすぎる。
僕が書いているこの文章も、「なぜ日本の作品は海外市場を想定した作品づくりをしないのか」っていう視点で書けたら面白いんでしょうね。
知識が少ないので、そんなに厚みのある文を書くことはできないのですが……。

この資本の違いから、日本は作家主義的、ハリウッドはチーム主義となっているのではないでしょうか。
クリエイターを志している人間で、「作品の中で表現したいこと」がない人ってあまりいないと思います。
宮崎駿さんでいえば「自然は大事にするべきだ」というような、岡村靖幸さんでいえば「不純なセックスはしちゃいけない」というような、要するにメッセージ性と呼ばれるものです。
もちろん、高収入や、人から注目されたいという理由でクリエイターを目指す人もたくさんいるとは思うのですが、ここでは無視して話します。
ベイマックスにおけるシナリオライター20人という巨大なチームを維持するためにいったいどれだけの費用が発生しているのか、考えるだけでも気が遠くなってしまいますよね。
↑のエントリでは、日本のおける作家主義っていうのが、「これが面白い作品を作るただ一つの道」として採用されてきた手法であるかのように書かれていますけど、そうではない。
教養のある優秀で高給取りなクリエイターを、数百人規模で集めて製作チームを組織することができるのなんて、世界でもごく限られた場所でしか実現できませんよ。
日本はそうではなかった。
能力の差がピンからキリまでの玉石混合のチームでアニメーションを制作をしなければいけない。
そんな組織でよいものを作るには、現場から才能のある人間を生え抜きで選んで、徐々に重要な仕事を任せていくというやり方しかない。
↑のエントリで例に挙げられている宮崎駿さんや細田守さん、庵野秀明さんだってはじめからカリスマとして扱われていたわけではないですよ。
最初は一緒に製作をした人たちから注目されて、アニメファンの間で噂になって、一般人の間でも名前が知られるようになって……と、徐々に認知されてきたはずです。

伝え聞いた話ですけれど、アメリカのテレビアニメ『ザ・シンプソンズ』。
この作品でもやはり、脚本家はチームが組まれていて、一つのエピソードに対しても複数の脚本家たちが意見を出し合う。
結果的に、全盛期は、信じられないほどのクオリティの高さを誇っていました。
で、伝え聞いたというのはここから先なのですが、その当時のシンプソンズに参加していた脚本家たちは全員がハーバード大学の出身だったという話。
ハーバードと言ったら世界最高の大学ではないですか。
世界最高の大学に入れる頭脳を持っていた人たちが、世界最高の教育を受けてきたと。
で、束になってアニメーションシリーズの脚本にかかると。
そもそも向こうの「テレビシリーズ」って、通年で放送しているのではなくて、一年のうち三か月か半年放送して、また一年後の同じ時期に三か月か半年放送する……ということを繰り返している作品が多いです。
だから「シーズン」という数え方をしています。
日本のテレビシリーズのように、断続的に放映することによってクオイリティが低下したりすることが少ないのはそれが理由かも。

あと、最後に、「どうして日本のアニメーションは世界市場に打って出れないのか」って書いてあるけど、流通ルートの話とかも全然してないよね……?
海外の会社が配給なり、現地に紹介してくれないと作品を売り出すことなんてできないわけで……。
日本の会社が海外に支部なんて作っても当たるかどうかわからないわけで……。

締めくくりとして、「この人の話のどこがおかしいか」ってことを要点だけ箇条書きにしようかと思ったんだけど、おかしいところが多すぎてまとめになりません!
今回のブログで書きたいことは以上になります!

ところで、こうやって他人のブログとかにツッコみを入れるエントリを書くのって、倫理的にどうなんでしょうね。
今回取り上げたこのブログに関しては、コメント欄なんかもある(多分)なので、意見があればそこに書けばよかったのかもしれない。
まぁこれだけ長い文章をコメントの欄なんかに書くのだったら、こうして自分が書いた文章として自分のブログに載せた方が書いた後の達成感も違うのでしょうけど。
なんというか、自分が書いたブログに対してどこか自分の知らないところで反論の文章を書かれたりしたら、ちょっと嫌な気持ちになるかもなぁ、と思ったのでした。

なんかベイマックスそのものに対して少し物申したいという気持ちが強まっていたので、こんなエントリを書いてしまったのだと思います。
僕自身がベイマックスを観たのは、公開から三日目くらいだったので、まだあんまり噂が広まっていない頃でした。
というより、多分ツイッターとかでベイマックスの感想を呟く人とかが出てくるだろうなぁと思っていたので、人の意見が目に入ってくる前に観ちゃおうという感覚でいました。
観ている最中は面白かったし、感動して泣いてしまったりもしたんですけど、映画館から出てきてしまったら大して思うところも無かったというか。
良く出来ているなぁと。
工業製品としては非常に優秀ではあるけれど、芸術作品ではないんですよね、多分。
「アートじゃない」って言い方はそしりにも使われますけれど、多分製作している人たちもはなからアートを目指しているわけではないだろうし、結果的に大ヒットもしているので、ベイマックスは制作者が目指したところに真っ直ぐ届いていった作品なのではないかと思いました。

ベイマックスの凄いところっていうのは、踏み石になるような(踏み石って言い方会ってるっけ?)実験作や失敗作を一つも作らずに、いきなり日本のアニメや戦隊モノメソッドを取り入れてしまい、成功させてしまっているところにもあると思います。
「あーぁ、なんか日本に取り入ろうとしてるのはわかるけど、これはやりすぎだよ」みたいな状態になっていない。

しかし、そこを喜びたくはなかったんです。
「おれのことわかってくれてるじゃん」ってだけで相手のことを好きになってしまうのって、すごくモテてない人の発想っぽいなって思ってしまったんですよね。

 - ディズニー・ピクサー, 映画

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