『君の名前で僕を呼んで』の好きなシーン
すでに公開から一年ほど経った映画ではありますが、感想を書きます。
「ミラノ、愛に生きる」「胸騒ぎのシチリア」と、イタリアの夏のバカンス映画を撮ってきたルカ・グアダニーノ監督による映画です。
もともと同名の小説作品があり、『ハワーズ・エンド』『日の名残り』『モーリス』を監督したことで知られるジェームス・アイヴォリー氏が映画化権を入手し、脚本を執筆しました。
その脚本をもとにして、ルカ監督がメガホンを取ったというのが制作の経緯のようです。
この映画は撮影も完ぺきでしたね……。
タイ出身のサムヨプー・ムックディプロームさんが撮影監督をしたとのことですが、彼はタイの湿気の多いじめじめした空気と比べると、イタリアのカラッとした空気だと光の具合がとても美しいと語っていました。
場所によって、画面の色あいって違うんですねぇ……。
この映画を観ていて一番トキめいたのって、月明かりに照らされた部屋で二人が語らうところでした。
二人が出会ったばかりの頃に、オリヴァーはエリオの身体に触れたことを「あの時から気になっていたんだ」と明かします。
こういうの!
めっちゃいいじゃないですか!
晴れて恋人同士になることができると、こんな風に、
「あの時は〇〇って思ってた」
「この時は●●のつもりだった」
「あなたを意識し出したのはいついつだった」みたいな答え合わせっぽいやりとりができるじゃないですか。
これってめっちゃ楽しいし、複線回収みたいですがすがしい気持ちになりますよね……。
当然のことですが、恋愛が成就しなければ、こんなやりとりはできません。
「あの時のあれはどういうつもりだったの?」
「僕のことどう思っていたんだ」
みたいなもやもやを永久に抱え続けなければならないのです。
もちろん劇中の二人もこのシーンの後には別れが訪れるわけで、彼らも互いに「どうしてこうなるんだ」と悶々とすることになります。
しかし、恋愛のきらめきを上手く捉えることに成功しているからこそ、この映画は高い評価を得ているのだと思います!
あと、あのシーンは親にバレないようにこそこそしながら語り合ってるのも良かったですね。
それとエリオの『童貞っぽさ』も、とてもいいと思います。
童貞恋愛映画ってあると思うのですが、そのジャンルの中でも非常に優れた描写が目立ちます。
二人が初キスしたあと、河辺で語り合う場面。
エリオが迫るも、オリヴァーは「こんな関係、よくねぇっすよ……」とかわします。
そうは言いつつもキッスは拒まないオリヴァー……。
エリオは業を煮やしたように、オリヴァーのペニスを握ります。
そんなエリオを振り払うでもなく、オリヴァーはにこやかな笑みを浮かべるのみ。
トーキングヘッズのTシャツを着ながら、オリヴァーのタートルヘッド(亀頭)の具合を確かめているんですよ。
デイヴィッドバーンもびっくりしたことでしょうね。
原作を読んでいないので詳しいことはわからないのですが、これってすけべな童貞にありがちな、相手が欲情しているかどうかの確認作業ではないでしょうか。
エリオはここで、オリヴァーのペニスが勃起しているか確認をしていたのだと思うのです。
僕は同性愛者ではありませんが、自分も童貞だった頃、これに近しいことはしていた記憶があります……。
なぜこんな感じのことをしていたのか、考察してみます。
そもそも、相手に対して性的なアプローチを行う動機として、「相手がどれだけ自分を受け入れてくれているか」を確認する意味合いがあると思います。
性的な行為や肉体の接触といった行為は、一般的には恋愛感情や愛情を抱いている相手にしか許さないものという認識があります。
そういった共通認識を持っている人たちが、アプローチを受け入れてくれるということは、自分の欲求を肯定してくれるということは、自分を承認してくれていると捉えることができます。
もちろん、アプローチに対して否定的な感情を抱きつつも、それを表出することができないというパターンもあるとは思います。
性愛って難しいですね。
それと、自分を「性欲が強い」と思っていると、相手の性欲について知りたいと思うことはないでしょうか。
自分は相手に性的な関心を抱いているのに、相手が性に関心がない……そんな事態は避けたいはず。
それを確認するために、相手に触れて反応を確かめてしまう、というような。
エリオが自慰をしているところを見つけたオリヴァーが「みんなが君のようだったらいい」と言うシーンもありましたが、おそらくこの映画は、自分が人と少し違っていることに困惑している少年を描いているはず。
だから、エリオがオリヴァーのペニスを掴むところには、「君も興奮してるんだよね? 僕と同じだよね?」という確認だったのではないかと思うのです。
あと、この映画と関係なさそうな部分で言うと、自分のアブノーマルな経験を持ち出してみると、相手が「エロい娘だといいな」と思ってたフシもあるかもしれないですね。
アダルトゲームやアダルトビデオを見まくる思春期を送った僕としては、「現実の女の子も、アダルトコンテンツに登場する女の子と同じようにエロエロなんですよね?」という妄想が頭の中でパンパンに膨れ上がっていたのです。
悲劇ですね……。
ほか、僕の場合で言うと、女性を支配しようという欲求もあったのかなって思います。
マインドコントロールの手段として、「恥ずかしいことをさせる」というのもよくある話ですよね。
性的な行為を通して、相手を支配しようという振舞いは、どの世代にも見られることとも思います。
「コントロールされたい」と願う人もいるわけで……むずかしいですね。
性愛が難しいことというだけではなく、人の難しい面が性愛を通して表出してしまいやすいということなんですかね。
ともあれ、君の名前で僕を呼んではとても素晴らしい作品でした!
しかしこの映画が、BLの文脈で消費されてしまっているのはちょっと残念です……。
公開時から、ソッチ方面で人気のある男性声優を起用した吹き替え版を推していたり……。
公開初日に観に行ったのに、限定版パンフレットが完売していたのは良い思い出です。
で、同じ監督の新作『サスペリア』は全然お客さんが来なかったっぽいですね。
地元の映画館で上映されていたのは嬉しいのですが、客が入らなかったのか2週間で上映が打ち切りになっていました。
観に行った回も、お客さんはめっちゃ少なかったですね……。
もちろん作品のテイストが異なっているから、興味を持ちつつも劇場に来なかった人って多いんだとは思うんですけどね。
それにしても、これだけ熱狂的な支持を得た作品の次回作なのだから、もーちょっと話題になってもよかったのでは……。
BL好きな人って、男性同士のキスがないと作品に興味持たないんですかね。
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