てやんでい!!こちとら湘南ボーイでい!!

映画音楽本ごはんの話を、面白く書けるようにがんばります

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【syrup16g全曲の考察と感想】delayedead

      2019/07/17

『delayedead』6thアルバム。


2004年9月22日リリース。
『delayed』の時と同様、デビュー前に溜めていた楽曲をレコーディングしたもの。
『Free Throw』と楽曲の重複があり、音には大きな違いがあるけれど歌詞は同じなので、歌詞の考察については以下のエントリで書いたものはこちらでは省略する。

【syrup16g全曲の考察と感想】Free Throw

『Mouth To Mouse』からおよそ半年でのリリースとなった。
シロップは『coup d’Etat』でメジャーデビューしていたが、本作ではインディーズレーベルからのリリースとなった。
これは五十嵐さんの意向によるものらしい。
そして、このアルバムのリリースが、バンドサイドからは「シロップ第一期完結」とされていた。
その辺りは、インタビューの文字起こしのエントリを参考にしてもらいたい。

デビュー前の楽曲ということで、粗削りな部分もあるものの、やはりそこはシロップ。
シンプルながらも、凝った音響や変わったアレンジなど、あの手この手でしっかり聴かせてくれる。
ミックスが『コピー』と同じ岩田純也さんなので、ギターロックを処理することに秀でた方だということがよくわかりますね。すげー。
特に面白いのは歌詞面で、今回のレコーディングに当たって大幅に書き換えられた部分はないのに、『マウス・トゥ・マウス』から繋がっているかのような展開になっている。
まぁ、ここに収録されなかった中でも、楽曲のストックは膨大にあるようなので、『マウス・トゥ・マウス以降』の流れにおいても違和感のない選曲がなされたということなのかもしれない。
あと、五十嵐さんは後に白状することになるけれど、「変わらない」人なので、良くも悪くも楽曲の……というか五十嵐さんの世界観は一貫しているということなのかも。
メジャーデビュー以降が、変わっていこう、飛び立っていこうと必死にもがいていただけの話であって。
音楽性の面では、『ディレイデッド』がメロウで遅い曲が多かったこともあり、アグレッシヴな曲を中心に収録しているとのこと。
僕はうるさくて早い曲が好きなので、このアルバムはかなり好きです。
『明日を落としても』も入っているし。

本作リリース後、シロップ16gは音源のリリースが途絶えます。
インタビューを受けたり、ライブ活動をしたりと、バンドとして止まっていたわけではないものの、これまでハイペースなリリースを続けていただけに、ファンからは不安な声が上がりまくりました。
結局は、3年半後にラスト・アルバムをリリースして、武道館でさよならライヴを行うことになります。
僕がシロップを好きになったのは音源リリースのない時期なので、その辺りに見たことなどは、『syrup16g』と『Hurt』の考察の間に「シロップの活動後期導入編」的なエントリを作るので、そちらに書きます。
まぁあんまり書くこと無いけど。

・アートワークについて
ジャケットには
「Warning:It’s too late listen to this compactdisc/digital audio of syrup16g」
という文言の記載が。
直訳すると「警告:シロップ16gのデジタル音源/CDを聴くには遅すぎる」になるかな……?
アメリカでは、青少年にとって有害と思われる歌詞が入っているCDは、ジャケットにレーティング済のロゴを入れなきゃいけないので、そこから着想を得ているのかもしれません。
あと、日本独自の文化として「コピーコントロールCD」というものも存在していて、PCに音源を取り込めない特殊仕様になっていたのですが、それらはジャケットにロゴが入っていました。
ソニーとエイベックスが推し進めたものなので、アジカンの2nd辺りのシングルはそんな仕様になっています。
言葉の内容は、穿った見方にはなるけれど、違法ダウンロードによって音楽コンテンツの売り上げの減少が危惧されていた時代の事なので、そこをチクりと刺したかったのかもしれないですね。
今となっては懐かしい話ですけど、「CDの売り上げによる音楽市場の規模縮小」が00年代は騒がれまくっていたのでした……。
というか、考えてみると日本でiTunes storeが音源のダウンロード販売を開始したのは2005年の事なので、『ディレイデッド』期のシロップってダウンロード販売に参入していないのでは……?
もしそうなのだとしたら、この文言は、違法ダウンロードや、データの交換などを含む、「CDを購入せずに聴いている人」に毒づいていると取れますね。わお。
あとは、このCDからシロップに入門してくる人に向けての牽制でもあるのかなぁ……。
もっと早くシロップ聴き始めて欲しかった、っていう。
「お前らがもっと聴いてくれてれば俺もメジャーを離脱するようなことにはならなかった」とか、「もっと応援/評価してくれてれば俺も心穏やかに音楽を作り続けていられるよ!」とか……?
何せよ、ポジティヴな言葉ではないですよね、これ……。
わざわざこんな文言をパッケージに掲載しなきゃいけないくらいには、五十嵐さんの中でいろいろ「終わってた」ってことになりますよね……。むざん。
まさか、この後音源リリースが3年半も滞ることになるとは、さすがに予想していなかっただろうけど。

ジャケットや歌詞カードには、ドラムの中畑さんが作った(作るよう指示された)飛行機の模型が使われています。
『ディレイド』では、空港や、離陸前の飛行機を撮影した写真が使われていました。
これには、シロップが離陸(音源リリース)する前の曲をあらためて出すというニュアンスがあったのだと思います。
対して、『ディレイデッド』では、「ジャケットだけ見ると本物の飛行機のように見える」ように撮った写真が使われています。
「本物の飛行機だと思っていたら、おもちゃだった」っていうのは、メジャーに移って、寝ても覚めても音楽活動に励んでいたのに、思っていたようには「受け入れられなかった」「売れなかった」「突き抜けられなかった」という自分達を、「おもちゃの飛行機≒飛ぶ力が備わっていなかった存在」と揶揄しているのではないだろうか。
しかも、歌詞カードの一番最後では、この飛行機を地面に置いて燃やしている写真が使われています。
墜落して炎上している……って、五十嵐さんはこの時どれほど死にたがっていたんでしょう……(笑)。
そして歌詞カードの中では、(多分五十嵐さんが)ライブの観客の前におもちゃの飛行機を掲げている写真も掲載されています。
意味を読み取るなら、客に対して「あなたたちが観に来ているこのバンドはしょせんはおもちゃの飛行機みたいなもんだよ」という皮肉として撮られた写真ではないでしょうか……(笑)。
五十嵐さん、マジで病んでんな。
まぁ、シロップファンが好きじゃないシロップリスナーの僕としては、面白いんですけど……(笑)。
シロップファンが検索で辿り着くかもしれないページにこんなことを書いてごめんなさい……。
でも僕は僕自身のことも好きじゃないので、安心してください。

この「意味深なジャケット写真」は『delaidback』にもあります。
ただし僕は再結成以降のシロップのCDを持っていないので、ジャケット写真しか考察できませんが……。

1.クロール

ちょっとダークでマイナーな音から始まるカッコ良い曲。
ドラムの音いいですよね?
なんか後処理で色々重ねているのではないでしょうか。
ドドダン。

“She was a lonely face ただ空虚なままじゃ辛いでしょう”

“She was beautiful”と歌っていた、デビューアルバムとは対照的。
しかもここで「was」と過去形で歌っているのは、彼女はもうこの世にいないか、孤独ではなくなったか……なんとなく、前者のような気はします。
「ただ空虚なままじゃ辛い」から、音楽をやることにしたんだぜって意味合いにも聴こえますが……。

“動物的本能 君だけに真実を話そう 誰でもできそう”

この「本能」というのは、DNAを残すために繁殖しようとすることなのかなぁ……『メリモ』の解説でも書きましたけど。
でも「君だけに真実を話そう」っていいですよね。
こりゃあ、こんな詞を自然に書けちゃうんだから、承認欲求に飢え飢えの女子に支持されるわけですよ……。
でも「誰でもできそう」というのは、自分の思っていることをぶっちゃけるって作詞法は「誰でもできるでしょ」って思ってるってことですよね。
セルフタイトルアルバム以降、「誰でもできることなんだよ」って歌をよく作りますが……。
でも「ありのままをやる」って、実際はあんまり出来ないことだと思うんですけどね。
恥ずかしくて隠したり、カッコつけたり、そもそも自分が何を歌うかに自覚的でない人も多い。
五十嵐さん、自分が卑下するほど無価値な曲は作ってないと思うんですけどね……。
とはいえ、熱烈なシロップファン程にはシロップを支持できていない僕もいる。
歌詞とメロディはすごいけど、「音楽」として聴くと、そんなに……面白くはないです……。
「変わらない」ことが魅力でもあるのかもしれないけど……いや、でも、アレンジの面でも、やっぱり『コピー』から『ディレイデッド』までの方がいいっすよね。
強い感情があるからこそ、音もそれに追いつかせるために凝りまくるんだと思うですけど、これ以降は音楽を作って発表するという行為自体にそこまで熱が入っていないのでは……と感じる。
なんか、僕、「じっくり聞くと分かる良さ」みたいなのにそんなに惹かれなくて、強烈な衝動で作られている音楽とか、天才が作ってる音楽が好きなのです……。
映画でも本でもゲームでもアニメでもそうだけど。
まぁ、わがままな顧客なんですよね。

“赤い血は僕に似合うでしょうか 瞬間で振り切った”

なんか“両手はとっくに血まみれのままさ”みたいなニュアンスのセンテンスだと思っていたんですが、「人でなし」に向けて「お前の血は何色だ」と問うことがありますが、それを自問しているんですね、ここ。
つまり「僕には赤い血が通っているの?」と自問するくらい、五十嵐さんは自分のことを「人でなしでは?」と思うってことですよね。
瞬間で振り切る、の意味は不明……謎。

“引っかいたら軽傷”

あんまり深い意味はない詞だと思うんですけど、“救いの無い言葉で胸を引っかいた”って詞もあったように、音楽で人をひっかくってことに対しては意識的なんですね。
あと、「crawl」と、爪の「claw」が似てるから引っかけたのかなって気もします。
引っかくは「scratch」なのですけど。

“静かに She was cying その間に crawl  弧を描いてcrawl”

シロップのもともとのバンド名は、クロールだかスイムだか……そんな単語が入っていたらしいです。
クロールって言葉から最初に思い浮かぶのは、水泳の代表的な泳法かと思うのですが、他にも這いつくばるとか、虫がうじゃうじゃしている状態のことをも指すそうです。

“飽きちゃうのは僕が悪いんでしょうか”

なんかこれは男女関係のことを指すのかと思ったんですけど、『マウス・トゥ・マウス』での音楽をやる気をなくしている様を考えてみると、シロップとか音楽制作に「飽きてる」のかなって気もします。
あとは、シロップに共通するテーゼとしては、宮台真司さんが告発していた「終わりなき日常」といった社会のの在り方に「飽きてしまう」「適合できない」自分に疑問があるってことですよね。

“一回なら有効”

シロップがやってきた「ぶっちゃける」歌詞について、インパクトはあるけど、ずっと続けていくことはできない……って意味かなぁと。
でも、『ニセモノ』で、00年代のロックバンドとリスナーの共依存関係を暴露したのはすさまじいけれど、それ以降「新しい」テーマの提示などはできずにいますね。

“10階から転倒”

“齋藤君コケた”“土のないアスファルト 転んで笑ってた”みたいな、転んだ人シリーズ……。
しかし10階から落ちたら、まぁ死にますからね。

2.Inside out

いい感じの明るい感じの曲ですね。
タイトルは「頭の中」、という意味ですね。
僕は「中」「出る」という直訳で考えてしまったので、セックスにおけるピストン運動みたいなものか、あるいは膣内射精のことかと思いました。英語力持たなきゃだめですね。
『Inside out』というタイトルの映画が、日本では『インサイド・ヘッド』という微妙に変えた邦題で公開されたことも、まぁまぁ記憶に新しいはず。

“世界は君のもんで 多大なる意味を持って”

まぁ、嘘ですよね……(笑)。
まぁ、自分にとっての世界は自分のものかもしれないけれど、人と共生するということはそれぞれの「世界」をすり合わせながら生きていくしかないので、自分の世界に多大なる意味を持たせて大切に大切にしたがる人は、他の多くの人の世界からは鼻つまみ者にされちゃいますよね。
あと、やたらと「意味」を持たせてしまうというのも、自分の中身が空っぽだということから目を背けたがる人がやりがちなことですよね。
別に意味なんかなくていいし、意味がない事こそが強さにもなるし。
「意味」という言葉については、宮台真司さんが、自説の中核として扱っているものなのですが、具体的な説明ができるほどは覚えてないんです……。
読み直してちゃんと理解したら、「意味」について追記するかもしれません。
そのやる気が起きない可能性もあるので、気になる方は、是非宮台真司さんの著作を読んでみてください。
「意味より強度へ」という言葉が非常に印象的なのですが……。
損得ばっかり気にしたり、意味ばっかり求めたりする生き方はダサイとか、辛いって話だった気がするんですが……。
だから多分、ここで「多大なる意味」っていうのは、いい意味で言われていないです。
明るい曲調に騙されかけますが、多分、半分は皮肉で歌われてます。

“そのまんまでいていいんだよ 君なんだろ からっぽのまんまでいいんだよ”

安心感を与える言葉のようではあるのですが、「お前は変化できないもんな?」といったアイロニーもあるように思います。
でも、空っぽさを許容できるのはいいですね。
でも、ここ、「多大なる意味を持って」とちょっと相反する意味合いになる気がするけど……。
前半で歌われた「多大なる意味を持って」いると思い込んでいる五十嵐さん自身に、さりげなく、「まぁからっぽですけどね」って否定を入れているんですかね。謎。

“Inside out さあ Inside out でしょ?”

頭の中にある自分の世界を大事にしている人の歌っぽいですね。これ。

“必要なのはきっと愛で それでも人を憎んで”

嗚呼、やっぱり、宮台さんの言説をそのまま歌にしている気がします。
やたらと人(に限らず世の中)を憎んでいる人って、自分の人生が充実していない(愛し愛されていない)ことが多いってことは、宮台さんは何度も言っていましたね。
でもこの歌詞で言えば、人を憎んでしまっているから、人を愛せないし、そんな状態だから人に愛してもらえる機会も少ない……って話になりますよね。

“そんなの必要ない 見つからない一切doubt”

「愛」のことなのか「意味」のことなのか、謎ですが……。
あらゆる言説を、一切嘘と言い切ってしまうあたり、他の人の思想に正当性を感じても「それは違うでしょ」と否定的な態度で受け入れを拒否したり、「でも俺はそうは生きられない」と思ってしまっているのかもしれませんね。
五十嵐さんは「どんなことも受け入れる」人みたいなのですが……受け入れたうえで、否定するってことはありそう。

“世界が今日も君を無視続けても からっぽのまんまでいいんだよ”

やっぱり、最初に歌われた歌詞は皮肉だったんですね。
からっぽだから無視されるというより、自分の世界を頑固に守り続けてしまうから、人が近寄らないってことなのだろうとは思いますけどね。

3.Sonic Disorder

中畑さんのドラムがめちゃくちゃ上手くなっていることがわかりますね。
音の処理もいいのだろうけど、叩き方の緩急の付け方とか、パワーのマシ具合が如実にわかる。
間奏部分のギターの音もたまらんのう……。
歌詞については省略します、

4.前頭葉

曲調がめっちゃ変わる曲の筆頭。

“あせるな そこで突っ立ってりゃいいよ”

なんかこのアルバム、主人公が「傍観者」「はみ出しもの」なものが多いですね……デビュー後は当事者性を持った曲が増えてきますけど、それ以前となると、どこにも属していない感覚が強かったのかもしれません。
あと「何もしなくていいよ」と言われている曲。

“冷たい風が 頭をヒューとすり抜けてくのを”

「頭がからっぽ」のモチーフの曲が二つ続くのも、面白いですね(笑)。
いったんメジャーを離れて、ちょっと活動のペースを緩めていこうって気持ちがあったのかなぁ。
ところで僕は、頭の中に風が吹いているような感覚って経験したことが無いのですが、五十嵐さんや他の人たちはしているものなのでしょうか。謎。

“貴方の笑顔が”

「あなた」を漢字で「貴方」と書いているのは、この曲が初めてのもよう。
使い分けには何か意味があるのだろうか。
僕は無いと思いますが……(笑)。

5.Heaven

マイナーでゴリゴリした音の曲。
これもドラムの音がすごいな……キックがドムドム鳴ってる。
「いん せきが」とか「しつ めいした」とか、言葉の区切り方が面白いです。
歌の終わりの「ひかりーに」のところの声の掠れかかり具合がいいですね。

“失明した俺の 瞳はただの色を 光に変えるだろうか”

色っていうのは、光の反射の仕方が見え方が決まるものなのだそうですが……。
この歌詞わかんないです!
周りにあるものに光を感じられるかどうか、ってことなんですかね……。
周りに光を感じられる人であれば、特別な行動を起こさなくても幸せであろう的な。

“隕石が俺の 頭をかすめても 他人事みたいな顔さ”

直撃じゃなければ気にしないぜ、ってことですかね。
『テイレベル』でも近い状況は歌われてましたね……友だちが先輩にボコられるっていう。

“すべてわかっても無駄だぜ すべて忘れるよ 今だって”

なんか“正論なんて諭んないで”って歌詞もありましたけど、何かを理解することを「無駄」と捉える言説がたまに出てきますよね。
まぁ、理屈ばっかりで頭でっかちになってしまうのはよくないって意味なのかもしれませんが。
まぁ、理屈ばっかりで頭でっかちなのはよくないって言う人のほとんどは、理論を全く知らないことが多いと思いますが……。
五十嵐さんの内面を勘ぐるなら、宮台さんの本をたくさん読んで社会のことを理解できるようになったけれど、結局自分の心の苦しさは晴れないし、社会に順応できないし、いわんや社会を変えることなんてできないって想いがあるのでは。

“Key違うまで俺の 心臓は加速しろ 生きてるのさえ微妙さ”

「Key」って「気」のことですよね……つまり気狂いって言いたいのでは。
あっ、もしかして若い人って、「きちがい」って言葉を知りませんか……?
あたまがおかしくなった人のことを言うのですが、90年代頃から言葉狩りが横行して、この言葉も規制されるようになってしまったのです。
僕の育った家庭では家族げんかの中でこの言葉がしょっちゅう飛び交っていたので、慣れ親しんだ言葉なのですけどね……。
心臓がドキドキするのは、『メリモ』のようにライブ前にアガリ症で緊張しちゃうのか、薬を飲んでて心拍数が上がっちゃっているのか。

“この道を照らせ 闇を切り裂いて 足跡が付いて どっかの誰かがそれを踏む”

ここのところが分かんないんですけど……。
「道」は闇に包まれているけど、光で照らしたい。
誰かに照らしてほしいのか、自分に対して「照らせ」って言っているのか不明……。
でも自分に対してかな。
で、自分が歩いて行った道には足跡が付いていく。
すると自分の足跡を付いてくる人がいるだろう、と未来を想像する。
自分の音楽について言っているのかな……音楽性云々ではなく、歌の世界観について、シロップは新しい事をやっていると自負している。
でも、新しい事が新しいのはほんの一瞬の話であって、だいたいの新しい事は他の人たちも後に続いてくるから、どんどん同じもので溢れてくるという。
まぁ、実際、シロップっぽい歌って増えましたしね。
それは多分、みんなが思っていたけど言えなかったことだったり、感じていたけど具体的な思念になっていなかったものを、五十嵐さんがはっきりと言葉にしたから、他の人たちに見えるようになったからなんでしょうね。

6.これで終わり

いつも以上に詩的で、「月」がモチーフとして出てきて、「君」との距離に思い悩む主人公……『月になって』とかなり近い路線ですね。
ギターの音も『月になって』に近い気がしないでもないように思えてくる……。

“冷たいのは僕で 夕暮れはもっと寂しくて 月の真実 置き去りさ”

『月になって』みたいじゃないですか……?
五十嵐さんの「月」モチーフって、デビュー前からあったものなんだなぁ。
「月の真実」が何なのかはわからないのですが……。
あと人間性を「冷たい」と表現するあたり、『ホノルル★ロック』とも共通している。
「君の太陽」になろうとしていたけど、その努力は彼女には評価してもらえない。
という意味では、あの曲での主人公は「太陽」ではないわけで……「月」のような熱源を持たない天体だって言いたいのでは。
『月になって』という曲もあるくらいなので、五十嵐さんは、月にどこかしら自分を重ね合わせているんじゃないかな。
となると、この曲は『ホノルル★ロック』と同じように、「君」に「背中向け」られた後の心境を歌っているのでは。
振られた後、彼女への思いを抱えながら一人で歩く寂しい夕暮れ……って情景を歌っているのかな。

“世界がもっと溶けて 想いが滲んでかすれても しかたないさ これで終わり”

「世界が溶ける」って、涙で視界が滲むってことでは。
「泣く」「涙」といった直接的な表現を避けているけど。
「僕が泣いても君は離れていくんだね」っていう諦念を歌っているのではないかと思います。
でも、やっぱり、ここでも受け入れるんですね。
もっと、こう……「別れたくないっす!」って言ったりしてもいいんじゃないですかね。
どうしても必要な存在なのであれば、カッコ悪くてもアピールしてもいいのでは。

でも、両親が離婚したり、不仲だったりするところを見ていると、「人にすがり付く」っていうことがどれだけみじめか思い知らされますよね。
自分はそうなりたくないと思う。
ウチの両親もそんな感じで、父は母に依存していたけれど、母は父ととっとと別れたがっているのを隠そうともしなかったんです。
僕も、自分が恋愛をするようになってから、心のどっかで「それってみじめじゃね?」「親父と一緒じゃね?」と冷静に俯瞰している自分がいることに気付くんですよね……。
辛いっす。
宮台さんも、学生に恋愛についてのアンケートを取って、「両親の仲がいい生徒は恋愛が長続きする。両親が不仲だった生徒は恋愛が長続きしにくい」傾向があると書いていましたね。
いやー……仲の良い両親を持っているって、それだけで恵まれていると思いますよ。
仲良すぎてもよくないかもしれないですけど。

“罪や希望と交換に 僕は新しい傘を買う 使えなくて無理をする”

五十嵐さん、「傘」のことをよく歌うなぁ。
『I’m劣性』でもありましたけど、あちらでは、アメリカの核の傘の下で守られているってたとえでもありました。
ここでも、そのニュアンスはある気がします。
けど、使えないってなんなんだろう……「無理をする」も意味が分からんしな。
あ、核という傘を手に入れたものの、核兵器を使用することは世界中から非難を浴びることになるから結局使えないって意味ですかね。
核もアメリカだけが持っているものではなくて、大国は保有しているものなので、勢力を伸ばすためにはあまり効果発揮しない。
そんなわけで冷戦体制崩壊後も、あの手この手で、非難を浴びながら途上国を戦場に変えて利権を獲得していく……という状況を揶揄しているのか。
別の曲でも書いた気はしますけど、日本はアメリカの傘下なので、湾岸戦争への参戦を求められた時に、自衛隊派遣ではなく物資援助という形で協力してしまった。
そんな風に、その傘を手に入れる=何かの庇護下に入るということを、希望を売り渡して罪を背負うことととの等価交換=貿易と見据える視線は、やっぱり五十嵐さん流石ですよね。
表現のセンスがマジで鋭いわ。
五十嵐さんの思考の根底には、やっぱり、感情を等価交換・貿易するものだという考えがありますよね。
僕も実際、世の中には「感情」にも絶対量があって、常にそれが流動しているものだと思っているんですけど、この考え方って疲れますよね……。

“汗ばむ手を拭いて 大げさに深呼吸して 歩き出すよ 君の方へ”

五十嵐さん、アガリ症みたいですからね。
君の方へ行くだけでも緊張しまくるんでしょうね。
けど、そんな自分を、「大げさに深呼吸してんなー」って見下ろしている自分もいる。
わかります……自意識過剰な人間って、自分の行動を客観視しようとする自分がいるんですよね。
そういえばこのセンテンス、五十嵐さんにしては珍しく、行動に移ってますね。
とはいえ、「君」にまた巡り合えたのかはわからないのですが……。
ささやかでも、行動できたのは良い事なのでは。

“悲しい物語を 読み終えた頃に聞こえてくる In Your Last Days”

なんかここは『センチメンタル』の“センチメンタルな恋はどうしようもなく破綻していく”に近い気がします。
でも、「あなたの最後の日々」ってなんなんだろう。
振られた話をするのであれば、「あなたといた最後の日々」って意味に成る言葉がくると思うんですけど……。
「あなたの最後の日々」ってことは、あなたがこの世を去った人として設定されているんでしょうか……。
であるとしたら、君の方へ歩き出すっていうのは、死に向かっていくってニュアンスになるなぁ。

“背中をそっと抱いて 君は優しく語りかける”

抱き締められるの大好きやんね五十嵐さん。
君との最後の日々の記憶ってことなんですかね。
最後の日々の甘い記憶?

“光と影を受け止めて 疲れた顔で微笑んで”

なんで疲れてるんでしょうか……。
五十嵐さん史実としては、専門学校を卒業してからバイトしつつバンドをやっていて就職しなかったそうなのですが、そんな自分に愛想をつかして彼女は去って行ったと語っていたので……。
彼女さんは就職して、すごく疲れてたってことなのか。
しかし光と影ってなんだ……音楽系の専門学校で知り合ったっていうから、彼女さんは照明のお仕事をしてたとか?
謎。
良い事も悪い事も受け止める人だったってこと?
であれば『来週のヒーロー』で“仕事は楽しいよ 大変だけど”という詞は、彼女さんが言っていたことをそのまま使っているって可能性もあるのかもしれないっすね。

“Oh! Last Summer!”

今回歌詞カードを読んで初めて知りました!
彼女と過ごした最後の夏を想い返しているんでしょうか。
文字だけでみると、ゴキゲンなEDMチューンのタイトルに見えなくもないっすね。

7.翌日

速度が上がって明るくなった気がします。
あと五十嵐さんのボーカルが上手くなっているような気がする。
五十嵐さん、歌が上手くないって言われることがよくあるけど、歌のうまさなんて別にウリじゃなくて全然いいですからねぇ。
その意見を出す人が、普段から、調整されまくりの歌うま音楽しか聴いてないって証拠では……。
歌詞については割愛ですね!

8.I Hate Music

ネタっぽい曲ですよね。
間奏で「アーーーッ」って甲高いシャウトが入っているけど、誰の声なんだろう。
女性っぽく聴こえるけれど、男性っぽい気もする。謎。

“いつだって同じことばっかりやっていて ハピネス ハピネス”

CDを出す前のシロップは、何年もの間「練習大好きバンド」だったらしいので、その状態を指しているのかも。
「終わりなき日常」ですよね。
まぁ、「同じことの繰り返し」こそが幸せだと思う人も世の中にはたくさんいるし、五十嵐さんもそこに幸せを感じなかったのかと言えば、そうではないだろうし。
あとは、音楽のブームもぐるっと一周するだけで、本当に新しいことなんてないだろって気分もあるかもしれないですね。

“飽きてる 飽きてる”

それでも音楽を続けているのは、まだ、今よりも凄い物が作れるようになりたいからでしょう。
この曲、全然書くことがありませんでした……。

9.もういいって

やっぱりシロップの初期って、イントロと、曲に入ってからで曲調が違うものが多いですね。
このアルバム以降、こんな風に、言葉を曲にギチギチに詰め込むようなものがなくなりますよね……。
やっぱり、作られる曲のテンションと、創作者のモチベーションは比例するものなんですよね。
早口の曲が大好きな僕としては寂しいところ……。

“つまんないけどパラダイス バカになる程平和な毎日”

日本の状況とか、五十嵐さんの生活そのものですよね……。
「退屈」「変わらない」「平和」な日常に自分が殺されていくような感覚がずっとある人なんだろうなぁ。

“どっかの街で爆発 どうせ俺には関係ないけど”

そのまんまですね……。
こういう歌多いっすね!

“夢は叶えるもの 人は信じ合うもの 愛はすばらしいもの もういいって”

綺麗ごとが嫌いなんですね……。
でも、「もういいって」と、この曲でここまでに歌われたものを、一言だけで全否定してみせるのって、めちゃくちゃうまいですよね。
でも、これらを否定した後に世界に何が残るのかというと……どうなっちゃうんでしょうね。
「無」「死」になっちゃいそうな気もしますけど。
この言葉には自己否定も含んでいるよなぁ。
それにしても「夢」「愛」については前作『マウス・トゥ・マウス』で、五十嵐さんの二十代の総決算みたいな歌を作り上げていたのに、それを丸々否定してしまうような曲を収録する……。
五十嵐さん、否定を否定して、また否定して……と、無限退行的に繰り返し続けていきますね。
難儀な人だ……。

“生まれついての出不精 バカになるまで眠ってたいだけ”

自分のことめっちゃわかっているやん(笑)。
なんなら母の胎内からも出てきたくなかったって感じですかね。
しかし五十嵐さん、自分のことをどれだけ「バカになっていく」って感覚に苛まれているんだろう。
辛そうだよなぁ。

“時間通りに起きて やっているのは誰かの代わり”

「私が死んでも代わりはいるもの」ですよねぇ。
でも、他の誰かが出来るのだとしても、自分がそこに居る意味って必ずあるとは思うんですけどね。
「置かれた場所で咲きなさい」じゃないけど。
うーん、でも、代替可能だというのは不安ですよね。

10.真空

割愛。
けど、ほんとにかっこよくなりましたね、真空。

“長距離走るの嫌い”
って、飽き性の自分のことを指しているのかもしれないですね。
五十嵐さん、小学校からずっとスポーツ系の部活をやっていたみたいなので、体力ないことないのだろうし。

11.エビセン

この曲のドラムの音もほんといいよなー。
ほんとに、雨の朝に聴いていたい、メロウで心地よい曲。

洋楽を聴いていると、「everything」の発音が「エビセン」に聴こえるというのはあうあるですね。
『生活』でオマージュを捧げられたと思われるマニック・ストリート・プリーチャーズの大名曲『エヴリシング・マスト・ゴー』もそんな感じ。
あとレディオヘッドの衝撃作『KID A』の一曲目『エヴリシング・イン・イッツ・ライト・プレイス』も、えびせんと聴こえる。
「すべてはあるべき場所に在る」という言葉ですが、五十嵐さんはどんな思いでこの曲を聴いたのだろう。

“手りゅう弾 小脇に抱え飛び出した”

アルバム毎に一曲ぐらい入る、戦場を思わせる歌。
『実弾』と同じで、手りゅう弾を抱えているけど、爆発させずに歌が終わる。

“雨の朝 冷たい子供の手を引く老人を 見ていた”

「手」が「冷たい」のって、この先『冷たい掌』でも出てきますが……なんでこの子どもの手は冷たいんだろう。
子どもって温かいですよね。
雨に濡れて体温が上がっているんでしょうか……。
「冷たい」のは「手」じゃなくて、「子供」自体なのかもしれないですよね。
既に死んでいるとか。
雨が降っているのに、手を繋いでいるっていうことは、老人と子どもは傘をさしていないんでしょうか。
物資に乏しく傘なんてない場所の歌なのかな。
それを見て、傘を差しだしてあげられないというのも少し辛い状態だろうな……。
父か母ではなく「老人」なのはなぜなんだろう。
子供たちが冷たくなっていてもお構いなしに連れ回しているって様を、日本のような「上の世代が既得権益でオイシイ想いをして、若い人間をこき使う」という構図として描いているのでしょうか。謎。

“セブンスターの隣のエビセンはもう タイムマシーンの上でしけっちまったぜ”

五十嵐さんってタバコ吸うんでしたっけ……。
吸ってるところ見たこと無いけど、吸いそうな気もする。
タイムマシーンっていうのもわかんないっす。
タイムマシーンがあるけど、使ってないってことなんですかね。
ていうか五十嵐さん、エビセン食べるんか。
プリン食べるのは知ってましたけど、しょっぱいお菓子も買うんですね。

“こぼれだすビーロウズ 先人達の教え 汚れなき 至上の調べ”

ずっと「ピーロウズ」って聴こえてました……。
枕が破けてしまったのかなと……。
今回歌詞カードを読んでみたら「ビーロウズ」ではないですか。
ビーロウズの意味が分からないからググってみたのですが、シロップのこの歌詞しか出てきませんでした。
そこで「ビートルズ」を英語で発音すると「ビーローズ」になるので、ビートルズのことだ……と書いているのをみかけて、合点がいきました!
「ピロウズ」というバンドのことだ……的なことも見かけたのですが、「ビーロウズ」なので違うっすね。
ビートルズであれば、「先人たちの教え」というのも分かる気がします。
エビセン食いながら、なんとなくビートルズのメロディが口からこぼれてくるっていうシチュエーションなのでは。
五十嵐さんが歌を口ずさむのって寂しい時が多いようなので、この曲の寂しそう感ともけっこう分かる気がしました。
なんか、私、ここで一人で延々歌詞の考察何かしていますけど、2ちゃんねるのスレッドとか読んでいれば、歌詞の考察なんて全部のピースが揃っているんじゃないかって気もしてきました。
もう10年以上2ちゃんを見ずにツイッターとか使っていたから、その辺のことをわかっていなかったんですね。私。
まぁ、ここまで来たので、書くんですけど……。

12.Breezing

「意味なし歌」ですね。
小泉今日子のアルバムにも同名のものがあるようです。
頭の中に風が吹いている、というシチュエーション、コピー時代もそうですけど、たくさん出て来ますね。
“You were there”と過去形で歌われているので、「You」は去ってしまったあとなんですね。
一度「Breathing」という言葉が出てくるけど、深い意味はなさそう。

13.Good-bye myself

この曲もドラムがすごくいいですよねぇ……。
「うへあー」みたいなスキャットも好きですよ。
このアルバムは五十嵐さんがいろんな声の使い方をしてて面白いです。
ポップであること、歌詞を伝えることへの縛りからけっこう解き放たれてる感じがします。

“腐乱死体みたいな気分でうずくまってても だけど 置きっぱなしにされる気がして薄目開いてるよ だけど”

置いてけぼりにされるのは嫌なんですね……。
かまってちゃんだったのかなぁ……。
まぁ、でも、周りの動向

“当ててみるね 存在の意味ね 言いたくないね 意外と地味ね”

存在の意味を言いたくないってことなんですかね。謎。
「意外と地味」ってなんなんだろう。
五十嵐さん、格好がチンピラみたいだから、オラオラ好き女子からモテてしまうけど、ちゃんと喋ってみたら家事好きだし一人で音楽聴いてるの大好きだし、「意外と地味」って言われがちだったのかなぁ……。
「そういうギャップも素敵ね」なんて言われないんだろうか。
五十嵐さんの曲、主人公が褒められている部分皆無だな……。

“端っこに座って白い雲眺めてても”

おお、歌詞に「雲」が出てきた。
五十嵐さん空見上げるの好きですね……。

“外に飛び出すくらい勇気がありゃいいよ”

外に出てきているだけでもマシって意味?
もしくは、「端っこ」は集団の端という意味だろうから、その集団から飛び出す勇気を持ちたいって意味でしょうか。
この曲ではまだ、集団の端っこに属しているって意識があるんですね。
だから、うずくまっていても、みんなの動向は気にしている。

“I’m waiting for the sun”

まぁ、経済的な繁栄が訪れたり、「光」が差し込んだりする日を待望しているのでしょうね……。
関係あるかはわからないのですが、ザ・ドアーズのアルバムに『waiting for the sun(太陽を待ちながら)』というものがありますね。
『waiting for the sun』という曲はこのアルバムには入らず、『モリソン・ホテル』という別のアルバムに入ったという、変な経緯があります。

ドアーズのボーカルとして有名なジム・モリソンも27歳で死去しているので、「27歳クラブ」の代表的な人物といえます。

“Good-bye myself Hello,my friend そんなん見せかけさ”

「友だちに挨拶する」行為が見せかけなんですかね。
“友好的なのは 心の奥に本当の事を隠すから”みたいなニュアンスっぽい。

“Good-bye myself by myself”

俺が俺と別れなきゃいけないのは、俺のせい、って意味になるのかな。
自分の個性にこだわって、何も変化しないできたから、「外に飛び出す」にしても、集団に溶け込んでいくにしても、自分のアイデンティティの多くを手放さなければいけないって意味でしょうか。

ところで、後でまた詳しく描きますが、五十嵐さんは解散発表ライブで「こうなったのは全部俺のせいだったので、ライブ中は『All by myself』って何度も叫んでいました」と言っていました。
何言ってんのあんた……? ナルシシズム強っ。
それが率直な感想でした……。
まぁ、よくわかんないですけど、全部俺のせいらしいです。

14.明日を落としても

ちょっと暗くなってる。
アルバムの構成として、次の『きこえるかい』がいい感じだから、ちょっとトーンを落としたということなのだろうけど明るめのアレンジで発表していた曲を、暗くするというのは、五十嵐さん、この時すごく「サゲ」のモードだったんだろうなぁ……。
でも、『きこえるかい』がより際立っているし、アルバムの構成としてはほんとにいい。
きこえてるよ、五十嵐―っ! 五十嵐の明日、私達が確かに受け取ったから!(シロップ大ファン女性のツイート風感想)
歌詞の考察については省略。

15.きこえるかい

めっちゃ好き……。
解散ライブで、一番印象に残ってるかも。
解散ライブのDVD、売り飛ばしてしまったから確認できないんだけど……。
このギターの音、なんなんだろう。
トンネルの向こうから響いてきているみたいな、記憶の中にあるすごく好きな曲の脳内再生みたいな、現実で鳴っている音ではないような音が好きだわ。
なんかこれは、本当に音が良いですよ。
記憶の中を引っかき回される。
五十嵐さんはミニマルな構成で徐々に盛り上がっていく曲が好きだって話していましたけど、この曲などは最高峰では。
最初に歌われた歌詞が、後半に音楽がめちゃくちゃ盛り上がっているところに乗せられると、もう、たまんなくなります。
ひええ……。
最後のシャウトもほんとに好きだわ……。
もう好き。
アウトロも最高。
きこえるよーっ! 五十嵐―っ!

“いつのまにか ここはどこだ 君は何をしてる”

いやもう、ただただ好きです。
なんなのこれ。
「何をしてる?」って、ふと気にしてしまう人がたくさんいます。
ネットが普及してもこれは変わらないでしょう。
死力を尽くして探し出してなんとかして再会しようとするほどではないけれど、またあの頃みたいに顔を合わせて、喋ってみたい人がいるではないですか。
いつか、「その人が何をしているか」が完璧に分かるような時代がくるのかな……それか、自分の記憶の中の「君」を再構成して、「君」ほほとんど差分のないAIとコミュニケーションを取るようになったりするんでしょうか。

“乾かぬまま 白いシャツは 風に揺られ飛ぼうとする 大空へ”

五十嵐さん、黒い服ばっかり来ているイメージがあるけど、白いシャツ持ってるのかな……。
「乾く」という言葉から連想していくと、『これで終わり』で買った傘が使えないという歌詞がありましたけど、「君」と別れた後に雨に降られてずぶ濡れになった経験がおありなのでしょうか。
岡村靖幸さんの『Lion Heart』でも“実はさ この僕も あの日から傘さえも開けない”って歌詞もあるし、雨でずぶ濡れっていうのは失恋男の定番シチュエーションなのでしょうか……。
僕は傘がないとイライラして死にそうになってしまうタイプなので、何度も傘を手放せないタイプなのですが……。
このセンテンス、具体的な意味はわからないけど、何かが自分の手から離れていってしまう切なさがめちゃくちゃ出ていて私は好きです。
『変態』で蝶が太陽に吸い込まれていくところにも似ている気がする。

“歩道の上 うつぶせでも寝れる ひんやりしてる”

いや、歩道で寝ちゃだめだよ……。
これも後で書きますけど、五十嵐さん、シロップが音源を出さない時期のバンドのビジュアルを「血まみれで歩道に倒れている五十嵐の周りに白線が引いてある」でしたからね。
自殺現場を模しているわけですよ。性質悪いわぁ……。
まぁ、ひんやりしているところに寝そべるのって気持ちいいですけどね。

“渦の中 覗き込めば見える 恥ずかしい気持ちが それとなく”

恥ずかしい気持ちって何なんだろう……。
意味が全然分からないんですけど、恥ずかしい気持ちを、「君」には知らせようとしているんでしょうか。
謎。

“いいさ どんな言葉でも 受けるよ”

五十嵐さんは何でも受け入れるマンらしいですけど、なんかこれをあえて歌にしているのは若干不穏というか……。
相手が言いづらいことを抱えていそうだから、あえて「どんな言葉でも受けるよ」と伝えるわけだもんなぁ。
常日頃から「どんな言葉でも受けるよ」なんて言わないですもんね。
振られそうだったのかなぁ……。

“知らせるさ 君には きこえるかい”

なんか、五十嵐さんは音楽活動を通して、どこにいるかわからない「君」に自分の言葉を届けたがっているのかなって気がする歌です。
前も書きましたけど、山崎まさよしさんとかウーバーワールドのタクヤ∞さんとか、フジファブリックの志村さんとか、昔の恋人に届いてほしくてメジャーデビューしたやろって音楽家がいますからね。
(彼らの中には、恋人を亡くした経験があるのか?って人もいますけど……)
で、『ヘルシー』の『吐く血』で考察したように、『ディレイド』以降に女性との離別があったのではないかと思うのですが、その人にも「きこえるかい」と言っているようにも聞こえます。
それに、元ベーシストの佐藤さんとのこともあるし……。
そんなこんなでこの曲、なんか、五十嵐さんは渾身の想いで「きこえるかい」って叫んでいるようにも思うんです。
あぁ……シロップの考察で、一か月以上シロップの音源に浸っているけど、この曲が一番きますね……。
こんなに良い曲だったんだ……。
ところで、シロップからはあんまり感じないことなんですけど、ここ何年か、「昔自分たちのファンだったけど今は聴いてくれてない人達」に向けた曲がけっこう多い気がします。
フジファブリックの『シャリー』は、三人体制になってからのフジを聴かない志村正彦ファンに向けた曲だなぁと思ったり……。
関係ない話でした。
もしかしたら、『マウス・トゥ・マウス』を否定的に受け取ったファンに向けていう気持ちもあるのかもしれませんね。
いい歌やでぇ……。
そうそう、十代の頃の鋭敏な感性から生まれる面白さもあるけど、こういう、年を重ねたからこそ書ける名曲もあるわけじゃないですか。
よかったでぇ……。

考察終わり。
『syrup16g』の考察に続きます。

 - Syrup16g, 音楽

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