てやんでい!!こちとら湘南ボーイでい!!

映画音楽本ごはんの話を、面白く書けるようにがんばります

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syrup16g Mouth To Mouse発売時のインタビュー

      2020/03/08

『Mouthe to Mouse』リリース時に行われたSNOOZER誌のインタヴューを転載します。
こちらは田中宗一郎さんによる序文も含めて、一万五千字近くあるもの。
五十嵐さんはアルバムリリースの最後だったようで、この対話はそのラストスパートのタイミング……のちのインタヴューでは、「泣きつくような感じで(笑)。都会で頑張ってるサラリーマンが、お母さんに電話するみたいな感じになっちゃってね」と語るような、異様な空気感があるテキストです。
田中さんの序文を読むと、『マウス・トゥ・マウス』がある種のねじれを孕んだ作品であることがわかります。
また、そのねじれが何なのかを紐解いていこうとする田中さんと、隠そうとする五十嵐さんの対話も面白いです。

また、「H」誌で、グレープヴァインのフロントマンの田中さんとの対談記事もここに転載します。
『マウス・トゥ・マウス』に触れるような内容ではないものの、五十嵐さんの「創作」に対する向き合い方も伺える内容になっています。

SNOOZER#44(2004年6月)  田中宗一郎さんによるインタヴュー

 初期レディオヘッドやアドラブルなんて、もう誰も覚えてないよね。時代遅れだよね。本当のリアルなんて誰も必要としてないから、すべて圧倒的なウソで固めてしまえ。ウソでいいから、オアシスみたいに、「俺が俺である必要がある」って言っちゃえ。――と思っていたはずだったのに、「『俺が俺である必要がある』とか言ってるけど、俺には何もないんだ」、そんな本当のことまで言っちゃった。「実は、これまで歌ってきた夢も希望も全部ウソでした」と白状してしまった、現在のオアシスの切なさに辿り着いてしまった、逡巡の果ての、本当のリアルの塊、『Mouthe to Mouse』。ポップの虚構性に宿る、切なさと刹那ばかりをひたすら雪崩式にかき集めた、衝撃の70分に触れて下さい。

リアリズムの権化のようなアーティストが、精一杯ウソで固めた美しいファンタジーの世界を作ろうとして、必死に右往左往した結果、リアルともスペクタクルとも言えない、どうにも不思議で不可解なものを作ってしまった――それが、この『Mouthe to Mouse』という作品だ。のっけから、勇壮なストンプ・ビートのガレージ・ロック・チューン『実弾(Nothing’s gonna syrup us now)』に、まずは誰もが驚かされるに違いない。「シロップが明るくなった」そんな反応もあるだろう。だが、実際は、一聴する限りにおいては、誰もが安心して楽しめるポップやロックのクリシェのように見えながら、よく耳をすませば、とんでもない落とし穴が待っているという、理想的なポップ・ミュージックとして成立している。わかりやすい例をひとつ挙げよう。80年代にもっとも売れたシングルとして知られているポリスの『見つめていたい』。この曲は、普通に聴けば、報われない愛を歌うロマンティックなポップ・バラッドだが、じっくり聴くと、実はストーカーの歌だというのがわかるだろう、重層的な構造を持っている。ただ、『Mouthe to Mouse』の場合、こうした構造に対して必ずしも意識的ではなく、曲単位では、リアルとスペクタクルの比率についても、かなりばらつきがある。だが、全体としては、明らかに、あらゆる行間から、リアルがポロリと零れ落ちる――そんな構造を持った作品だ。
ただ、以下のインタヴューを読んでもらえればわかる通り、五十嵐隆としては、諸々の経緯もあって、本作に対しては、心中複雑なようだ。だが、これまでのポップ・ミュージック史を見渡してみても、XTCの『スカイラーキング』、ザ・ラーズの『ザ・ラーズ』といった、アーティスト本人からすれば、自身の表現としては受け入れがたい作品が、期せずしてアーティストの本質をえぐり出してしまったという例は、今も後を絶たない。
そもそもが、ここ最近のシロップ作品にあった「リアルを突き詰める」という言葉自体がかなりの語義矛盾なのは言うまでもない。なぜなら、表象行為における本当のリアルとは、嘘や無理や建て前を含んだ、ありのままの矛盾が、アーティストの預かり知らぬところで不可避的にすくい上げられてしまうものだからだ。だからこそ、五十嵐隆が「本当のリアルはここにある」という言葉が持つ虚構性に戸惑いながら、それでもなお、「本当のリアルはここにある」とヤケクソ気味に叫ぶことは、真の意味においてリアルたりえる。なぜなら、そのことは、「本当のリアルはここにある」と五十嵐が叫ぶに至った、それまでの逡巡のすべてを一瞬にして、表現してしまうからだ。勢いまかせに懸命に生きることの素晴らしさを歌おうとする冒頭の『実弾(Nothing’s gonna syrup us now)』と、愛する人の寝顔に言い知れぬ幸福を感じるというアルバム最終曲『Your eyes closed』。この、明らかに「ありがちなポップのクリシェ」に意識的に取り組んだ2曲に挟まれた69分30秒の間に、我々は、とても複雑に入り組んだ、さまざまな感情の機微を味わうことが出来る。そう、まさに「本当のリアルはここにある」のだ。

XTC『Dear God』

The La’s『There She Goes』(イントロだけでも聴いて!)

●五十嵐くんが、初期レディオヘッドに惹かれた理由っていうのを、改めて訊いていい?
「何なんですかね? 理由って言われると、結構難しいですね。曲はもちろん、好きだったんですけど。何なんですかね? 深みが違うというか。アドラブルとかも、当時、すごく好きだったんですけど」
●ああ、アドラブル。懐かしいねぇ。

アドラブル1stの名曲『ホーム・ボーイ』

「でも、明暗がくっきり分かれた感じが……。1stあたりではそんなに変わらないっていうか。そんなに技術は変わってなかったと思うんですけど。タナソウさんもね、ライナー書いてらっしゃって」
●アドラブル大好きだったもん。なんて言うんだろ、踏みつけられた回数が多い音楽っていうか。
「ね。いまだに好きで。だから、自分の思い出のアルバムに必ず入れたくなるんですよ。その呪縛に未だに捕らわれてる。レディオヘッドぐらいまでいけば、そういうレッテルが貼られちゃうと、反動でああいうパワーが生まれてきて、新しいものが出来たりとかするんだろうなとかって思うんですけど」

レディオヘッド『マイ・アイアン・ラング』

●うん。だから、やっぱり、ファンの過剰な要求とかが、バンドを変えるんじゃないかな。
「自分の場合も、規模は小さいなりに、そういうのがあって、『どうしたもんかな』っていうことはあるんですよね。だから、なんかもう、今回は、いい加減な感じでやりたいなと思ってたんですよね。セックス&ドラッグ&……じゃないけど(笑)、そういうかんじにしようとおもってたんですよ。女とか、案外出てきてないから。だって、私生活顧みると、内省的な感じばっかりでもないやろって思って。そこも出していかないと、『HELL-SEE』みたいなのばっかり出してると、後々修正出来なくなるなって思って。でも、女がどうこうっていう曲も、実はそんなに書けなかったんで、今、言っても意味ないんですけど、最初は、『暗いのさよなら』っていうか。でも、歌詞は、レコーディング後半でギリギリに書いてるから、最終的には、『己とは何ぞや』っていういつも通りの世界にまたなっちゃって(笑)。毎回、シングルでも5曲ぐらい入れて、ちゃんとひとつ筋を通したくなるんですけどね。『今回は無理だなぁ』って思って。曲ごとにばらばらになってますね」
●でも、むしろそれがゆえに、逆に、全体として統一感はあるっていう風に俺は感じるけどね。
「うん、逆に、その方が生々しいっていうか」
●だよね。じゃあ、謎解きからいきましょう。黙秘権はありです。
「はい(笑)」
●アルバム・タイトルの由来から教えて下さい。
「アルバム・タイトル?(笑)。そうだなぁ……なんかね、ネズミみたいだなって思ったのかな(笑)。自分のことを。まあ、もじっただけなんですけど」
●そもそもは、『mouth to mouth』だったんだ?
「うん、『mouth to mouth』っていう言葉がでてきて。スタジオのトイレでウォシュレットしてる時に、なんか出てきて……で、『mouse』にしたら、イメージが広がって。いろんな意味に取れるなぁと。ま、『息も絶え絶え』っていうところから出てきたんだと思うんですけど。で、自分もそうだし、自分に共感してくれる人っていうのは、チューチュー言ってる奴じゃねえかっていう気もして、なんかこう、地下道のところでね、あんまり太陽を浴びないで生きているような人に、もしかしたら支持されているのかなって思って。だったら、そこに向けて、ていうわけじゃないですけどね。で、『mouth』って辞書引いたら、『銃口』っていう意味もあるらしくて。なんかもう、愛と突き放した感を込めて」
●なるほど。どこか、自分の音楽を必要としてくれる人に対して、愛も憎もちょっとあるってことだ。
「そう。愛と憎ですね。今回は、『こんなん言って欲しくないな』ってことを言ってるかもしれんし。やっぱり自分と同じような人間が聴いてるとすれば、自分に対して『ヤダなぁ』っていうことを書いてると、結果的に届くかなって思うから。でも、自分が書いたんだけど、なんかよくわかんないっていうか(笑)。いや、ほんとに難しくて。いろんな気持ちが入り過ぎてて、これ」
●例えば、アルバム1曲目の『実弾(Nothing’s gonna syrup us now)』。
「スターシップ(笑)」

スターシップ『Nothing’s gonna stop us now(愛は止まらない)』

●ね(笑)。80年代のあの辺りのポップもの、ほんとに好きなんだね(笑)。
「そうそうそう(笑)」
●例えば、この曲とかは、ある意味、かなり一般的な意味合いにおいてポジティヴな曲として受け入れられる曲でもあると思うんだけど、これって、ニュートラルに出てきたもの? それとも勢いをつけて書いた?
「うーん、『実弾』は、勢いかなぁ。書いてる時も、行って帰って、行って帰ってっていう感じでしたね。もう自分とかどうでもよくて、『ガーッと突き抜けた感じでいった方が届くな』って思ったんですけど。『いや、でもなぁ……』っていう、その『でもなぁ……』を入れないでおこうとおもったんですけど、『でもなぁ……』が入っちゃってるんで。その『でもなぁ……』から出発して、『行ってこ~い!!』っていう感覚なんですけど。でも、実弾を撃ったならいいんですけど、実際は、撃ってねえなっていう歌詞になってて(笑)。で、曲調がああだから、なんかとりあえず言っとこうかなって思ったんですけどね(苦笑)」
●「けどね」って(笑)。
「いやぁ、今回はあんまり歌詞がよくないからなぁ……」
●ハッハッハ!!
「(笑)ぶっちゃけすぎだよ。難しいなぁ(笑)。うん。すごいなんかね……」
●でも、このアルバム、すごいいいじゃん。
「いいかなぁ?(笑)」
●いいじゃん!!
「いいんすけどね……」
●(笑)
「うーん」
●何で、そう思うの?
「(笑)いいのかな、これ?(笑)。なんかね……あの……うん。これはなんかアレっすよ。恐ろしいな。これ。ほんと(笑)」
●え? 何が恐ろしいの?
「(笑)いや、いろんなことがありすぎて、ここ数ヶ月。それ全部言えば納得してもらえるんでしょうけど、ほぼNGっていう感じで(笑)。なんかね……いやぁ……もうね……ほんとね、こういう作業しちゃいけないなって思いましたね」
●曲を作ること? それとも作詞?
「曲はね、音楽は普通にいっぱい出来るので、楽しいから出来ちゃうんですけど……それに歌詞を付けだしちゃうとね、自分が何考えてたかを考えなくちゃいけなくて、それを書くのがツラくてしょうがなかったですね、今回曲が呼んだ言葉に従ったっていうのが、正直なところで。ここのメロディと譜割には、この言葉がのって欲しいっていう、そういうところがデカかったですね。放棄してるのかもしれないし、わかんないんですけど。でも書き出すと、曖昧な歌詞とかはあんまり好きじゃないから、なんか言い切らないといけないと思っちゃって。なんか……『何言おうかな』っていう」
●書き上げて、一番、「恐ろしいなぁ」、「書いちゃったなぁ」って思う曲はどれですか?
「やっぱり最後の曲かなぁ」
●あ、そうなんだ。
「『ちょっとやっちゃったかな』って思って」
●それはどういう意味で、やっちゃったってこと?
「いやぁ(笑)。あり得ないっていうか……まあ、相当酒が入ってないと書けないですね」
●でも、世間的には、勘違いとか、ウソとして、こういうラヴ・ソングを書く人が多いわけだよね。
「そうそうそう、それになりたかったんですけどね、相当(笑)。なろうとしてたっていうか。オアシスの曲とかって、ほぼウソじゃないですか。でもなんか、『レッツ・オール・メイク・ビリーヴ』でしたっけ? シングルのB面かなんかに入ってた、ほんとなのかウソなのか、わかんないけど、「わかり合ったフリをしよう」っていうみたいな曲。オアシスじゃないような感じの曲なんですけど。それがすごくよくて、でも、基本は、かまし系じゃないですか。世の中、かましで十分っていうか。音楽でどうこうっていうのは、もうあんまり違うかなっていうか、もう求められてないような気がする」

オアシス『レッツ・オール・メイク・ビリーヴ』

↑の歌詞の和訳
http://oasisnet.easter.ne.jp/letsall.html

●じゃあ、本当のことを歌うのは、もう求められてないってこと?
「うん、なんか……音楽を通してのディープなコミュニケーションとか、別れや感覚がどうこうっていうのが、その行為自体が時代から遅れてるから、『どうしたものかなぁ』っていう。でも、自分の思春期を顧みると、アドラブル、レディオヘッドみたいなものを必要としていた自分がいるから。いつも歌詞書く時にそいつが出てきちゃうんですよね。聴きたがってる自分がいるっていうか。でも、実際、そういう人がそんなにいるとも思えないし、ギター・ロックをやってるから、どうしても歌詞を書かなきゃいけないんだけど、自分で打ち込みとかやってると、ほんと楽しいんですよね。洋楽が好きだったのは、歌詞がないから好きだったっていうのもあるし。ほんとはそういうのがやりたいんだけど」
●でも、今の話を聞いてて思ったのは、自分がなんでこのアルバムをいいと思ったかというと、アドラブルや初期レディオヘッドを好きな五十嵐くんと、別なディメンジョンで、『いや、やっぱり初期オアシスみたいなやり方もあるよなぁ』って思う五十嵐くんがいて、必死にオアシス的な表現に跳躍しようとして、跳躍しきれないでいる――それが一番リアルに伝わるところなんじゃないかな。
「へへへ(笑)。そうですね、俺も、それが一番痛いなぁっていうか」
●なんで痛いのさ?(笑)
「(笑)なんかね、中途半端だなぁって」
●ああ、確かに。中途半端っていう見方もあるかもしれないけど、むしろその真ん中のロイヤル・ロードを走ってるっていうことでもあるんじゃないの?
「ロイヤル・ロードね(笑)。かもしれないですけどね」
●だって、どっちつかずの感覚って言うのは、一番人に刺さるんじゃないのかな。
「今までどっちつかずを、計算っていうか、意図的っていうか、バランスとってる感覚があったんですけど、今回は、精一杯やって、バラバラっていう、そこの違いがすごくあって。自分でコントロールした部分が少ないから。自分の中でどういう風に処理してきたかを、あんまり覚えてないっていうか。そういう状況の中で、1曲1曲……うん、かなり追い詰められてはいるので。そこでなんかこう、つまんないものは作りたくないなっていうのはあるんですけど。でも、演じきれてないっていう……そこに欠陥を感じて」
●でも、それは長所でもあるでしょ。
「長所である土壌があればいいんですけど、ないような気がするんですよね。結構ね、かましてインタヴューとかするんですけど。でも、タナソウさんだとね、あんまりかましても意味ないなって思って(笑)」
●いいよ、かましてよ。
「絶対バレてるから。後で足元すくわれるから(笑)」
●すくわねえっちゅーの(笑)。
「危険だなって思って」
●(笑)でもさ、例えば『Mouth to Mouse』の“嘘に酔う元気なくしちゃだめ”ってラインじゃないけど、今回はウソの部分も自分の力として、作品に取り込もうとしたってことでしょ。
「そうですね」
●それ、いいことじゃん。
「いいことか……そうそう、前、アッシュのことをタナソウさんが、「『前のアルバムは、ほんとはよくなかったんだよね』っていうのを、後になって言うのが、頼もしいなと感じた」って言ってたことがあったじゃないですか。あれ、なるほどなって思って。俺ぶっちゃけすぎだなって思って(笑)。もうちょっと大人になろうかなって思って。そうすれば売れるかなぁって」
●(笑)。
「って、思ったんですけど、それやっちゃったら、あんまり意味がないなと、インタヴューやってるうちに思ってきて。なんか、すべてぶっちゃけてなんぼかなっていう。まあ、限界があるんですけど。でも、極限まで……ピーター・ガブルエルの声好きなんですよね。ある意味ですごく突き放してるんですけど、実はメチャメチャ濃いっていうか。結局濃いし、突き抜けてないし。自分そのまんまが丸出しなので、とても恥ずかしいっていうか。ある部分に焦点を当てて、ダーッと出すっていうんだと距離が取れるんですけど。今回なんか……ちょっと」

ピーター・ガブリエル『ショック・ザ・モンキー』

●意図せずして、裸になっちゃったって感じ?
「そうですね(笑)。『結局、こういう風に最後なるんだな』って。最初は、『よりリアルに、よりリアルに』ってなると、にっちもさっちもいかなくなるなって思ってたんで、逃げ道をどっかに作らなきゃって思って、書いてはいるんですけど、実際、書き上げると、思いっきり(本当の部分が)入っちゃってて、『出来ないじゃん』っていう(笑)。そこが唯一の魅力であって欲しいなって思ってるんですけど」
●その通りだよ。でも、そこが魅力であるっていうのも、わかってはいるでしょ?
「いや、そこまでね……それはないですよ。かなりキツイですね、これは」
●今の話でいう、かましの音楽――要するに、アドラブルやレディオヘッドじゃない、オアシスみたいに、あり得ないような理想やあり得ないような夢を歌う音楽は、そもそもダメなんだ?
「ううん、それはやりたくてしょうがなくて。それやれた時に多分、アンセムたり得るっていうかね、『リヴ・フォーエヴァー』じゃないけど、みんなで歌えるような曲が出来るるのかなって思うんですけど。結局、まずみんなで歌えない曲ばっかりになってるから、「おっかしいなぁ」っていうか、「どうやって書いてるの、みんな?」っていう、逆に、そういう風に書ける人ってすごいなぁって思うんですよね」

オアシス『リヴ・フォーエヴァー』

「意味から逃げたいから音楽聴くのに、そこにあんまり意味が入っちゃうから。意味っていうか、自我っていうか、エゴがね。そこはもういいじゃんっていう。いい歳だし。なんかこう、小田和正になろうよと思う自分がいるんですけど。もうちょっと先になりましたね(笑)、今回ね」

オフコース『言葉にできない』
小田さんが率いたバンド。この曲は、「歌詞思いつけねぇ……」ということをそのまま歌詞にしたものだそうです(笑)。小田さんは歌詞を考えるのが苦手っぽいですよね。『キラキラ』とか。
(小田さんの曲は動画サイトからすぐに削除されるので掲載できません!)

●だって、その逆のことを歌ってるんじゃん(笑)。
「そうそう。おかしい、ほんとにおかしい。すんごいね、ビックリした(笑)」
●ただ思うけどね、ポップ・ミュージック・リスナー歴約25年の私が思うにですね、優れたポップ・ミュージックというのは、基本的に両義的な、背中合わせの感情を常に合わせ持っているものだと思うんですね。だって、オアシスが『リヴ・フォーエヴァー』って歌ってる時にも、ある種の全能感と共に、そうじゃない儚さみたいなものを同時に感じてると思うんだよね。それが感動的っていうか。だから、どっちかだけにフォーカスした音楽って、実は、そんなにないと思うんだけど。
「なるほど」
●そんな風に考えると、まさに今回のアルバムはそういう性質を持った作品だと思うよ。
「そっかぁ。バランスとれてるのかな? とれてたらいいですね(笑)。ほんっとね……」
●1曲目の話にしたってさ、言っちゃえばそうじゃない。
「うんうん、そうそうそう。だからね……うん。なんかね、そういうのが歌える人っていうのは、もう相当濃いと思うんですよね。多分、同じこと歌っても、同じ風に聴こえないだろうなって思って。だから、自分の中で強いものを出していかないと、濃くならないっていうのがあって。何とか、濃くならせないといかんっていうか。まあ、ポップスだから……ポップスっていうか、自分の中ではロックなんだけど、産業ロックが俺のロックンロールだし。こういう曲調になっちゃうから、どうしても、それを無理やり自分の中でロックにしないといけないので、そうすると、こんな感じになっちゃったなぁ。ほんとはもう、ポップスでいいと思うんですけどね。俺のポップスは逆説的に、一般的なロックンロールに近いっていうか、結構、いい加減な。そこに近づきたいと思ったんですけどね」
●近づいてるでしょ。
「いや、どうなんですかねぇ?」
●(笑)。
「ほんとにこう……近づいてますかね?」
●と、確実に私は思います。いろんな感情のベクトルが以前よりも遥かに強まっていると思うし。で、相反する感情が互いに反発し合ったりすることで、さらにそれぞれの感情のベクトルが際立ってる。だから、一見、バラバラに見えても、すべてが複雑に絡み合っているというか。それが故の統一感っていう気もするし。
「ほんとねぇ……見てんのが痛々しくてね」
●じゃあ、謎解き、その2。『I.N.M』は、何の略ですか?
「あ、それは、“I need to be myself”かな。でも、あんまり言いたくないんですけど、隠すほどのことでもないので言っちゃうんですけど。なんか、『自分の何もない空っぽさっていうか、そういうものを歌うのはどうなのか?』と、ずっと思ってたんですけど、ついにぶっちゃけやがったなっていう。実は俺は何もなくて、『俺が俺である必要がある』とか言い出さないといけないぐらい、キツイところにいるっていうのを歌っちゃってるっていう、『何かあるよ、実は』っていうところに商品価値とかがもしあったとすれば、『あんましないんで、すいません』っていう(笑)」
●だってさ、空っぽなのは当たり前だぜ。
「当たり前か、そっか」
●(笑)。
「だから、オアシスと言ってることは一緒なんだけど、こもってる意味合いが違うかな。勘違いでも何でも、ノエルだかリアムは、歌ってる時に疑問をはさまないっていうか。それを歌ってる時に……「自分が空っぽだから」って思って歌ってないと思うんですよね。
●いやぁ、そこはわかんないぜ。だって、あいつらのアルバム・タイトルだって、『Definitely Maybe』だぜ。『絶対……かもね』なんだもん(笑)。だから、まったく五十嵐くんが話してくれたシロップの音楽と構造的に一緒だと思う、実は。
「そうなのかぁ……。オアシス、昔はそんなに好きじゃなくて。でも、ライヴ盤出したじゃないですか、『ファミリアー・トゥ・ミリオンズ』のDVDが出て。あの時、最高によくて。なんかね、ちょっと切なくなっちゃって、あれ観てたら。結構、バンド的には終わってるじゃないですか。で、客もさほど過剰な期待を抱いていないっていうか。オアシスがあやって歌ってくれれば、口ずさんで、一緒に盛り上がっちゃう、みたいな(笑)。なんかね……それでオアシスがバリバリ売れてて、客も衝撃を受けに行っているっていう場面だったら、あんまり感激しなかったかもしれないですけど、あそこで『リヴ・フォーエヴァー!!』って歌った時に、切なくなっちゃって。それが、すごくよくて。「そっか、ああなれてたらいいな」っていうのがあったんですよね。どうせ終わっていくものだし、消費されていく運命に、さだめにある行為をしてるっていうのは、最初からわかってるから。だけど、やっぱり言い切りたいっていうか。残したいっていうか。やっぱりインパクトだと思うから。誰かと会った時に、喜びがあるとすれば、イヤな気持ちとかも含めて、インパクトがあるのがいいなって思うんですよ。周り見渡しても、それを意識的にやってる人っていないなぁって思っていて。そこに変なこだわりがあるんですかね」
●なるほど。じゃあ、例えば、このアルバムを聴いて既存のシロップのファンから、「シロップの音楽って明るくなったよね」っていう、すごくストレートな、無邪気な反応があったとしたら、どう感じますか?
「ねえ? それはねぇ……そういう風に思われちゃうかなぁって思ってたんですけど、でも、これ通して聴いて、明るいと思う人はいないんじゃないかなって(笑)。まあ、引く人は引くだろうなとも思うんですけど。血濡れの手紙を送ってくるような人達、自分の病的な部分とかね、そういうところにシンパシーっちゅうか、投影してくれてる人は、引くかもしれないですけどね。でも、実は、『HELL-SEE』の時より……あの時と比べようがないぐらいキツかったので。あん時もあん時で相当キツかったんですけど、『もう死ぬな』っていうぐらいキツかったんで。あんまりそれをストレートに出したくない、だからこそ、越えたいっていう気持ちもあったんですけど。でも、ものすごいヘヴィなアルバムに、結局なったから。明るく聴こえるかもしれないけど、軽くはないので、感性によるかなぁって思うんですけどね」
●僕の感性では、それを理想的なバランスだと思うわけですよ。
「そうそうそう。だから、『暗いからイヤだ』っていう人にも聴いて欲しいなっていうのがあったので、やっぱり。でも、無理して、前向きな感じにするのもおかしな話だから。それに、最初は結構、威勢よく始まるんですけど、だんだんグダグダになってくるっていう(苦笑)。でも、最後、『Your eyes closed』でちょっと救われてる感じがするので。『ハミングバード』で終わってたら、相当悲しいっていうか(笑)。切ないなぁっていうか」
●じゃあ、謎解き、その3。『希望』という曲がありますが、これっていうのは、何に対する希望にフォーカスした曲なんでしょうか?
「あのねぇ、ほんとに今回ね、無意識なんですよ。歌詞がほんとに書けなくて……なんかこう……全部、載せられないようなことばっかりなんだよなぁ(苦笑)。載せられないようなことばっかりあるんですよね」
●(笑)。
「あのね……そうだな……まあ、でも、あの……希望って、無意味だから、『希望』って曲を書こうと思って。で、『希望』って単語をキーワードにして、どれだけ無意味さを表現出来るかなっていうところだと思って。無意味さっていうか……何言ってるんだかわかんないだけど……なんかねぇ……そうだな……」
●もし、無理矢理、話作るのが難しかったら、拒否権でいいんだからね(笑)。
「(笑)うん、なんかね……うん。ま、死にたい人の歌かな。実際、そういう感じですかね。死にたい人の頭の中って感じですかね」
●意地悪に質問を続けるとすると、死にたい人ってでれですか?
「へへへへ(笑)。あ、もう拒否で(笑)。死にたくなってましたね、この時、相当。ま、全然無意識なんですけど、無意識で死にたいって、相当ヤバイなって思って。ちょっと考えないとっていう。『頭を冷やして考えろよ』っていう。『ちょっと待て』っていう」
●ストップありだからね。無理しなくていいからね。
「(笑)いや、でも、ここでストップすると、突破口が何もないので(笑)。まあ、でも……自殺の歌なんですけど……でも、あんまりそういう風に取られて、それが答えになっちゃうとイヤなんですけど。なんかそんな気持ちで書いてた記憶がありますね」
●でも、これも僕流の言い方をすると、やっぱり自殺をモチーフにして、『希望』ってタイトルがついてるのって、理想的なポップ・ミュージックのあり方のひとつだと思うわけです。
「ああ、ステキだな、その流れ。ありがたい(笑)」
●(笑)レディオヘッドの『モーション・ピクチャー・サウンドトラック』とか、自殺の歌だからさ。
「あ、そうなんだ」

レディオヘッド『モーション・ピクチャー・サウンドトラック』
アルバム『KID A』の最終曲。曲がいったん終わりかけてまた続きます。

●でも、すごく穏やかなフィーリングを聴き手に与える曲になってる。だから、常に両義的なもんなんだよ。だって、そもそも、みんな悲しい歌を聴いて、みんな嬉しくなるっていうことでしょ? そういうことじゃない。
「うん、コード的には、サビとかもポップだったり、泣きがかなり入ってるから。なんかこう……そういうのを入れてもいいかなっていう気がしたんですよね。『希望』はすごい好きで……あんまり言葉をつけたくなかったんですよね。だから、すごい悩んだんですけど。とにかくすごく広い宇宙……。宇宙っていう言葉を使っちゃってるけども、なんかそういうものを入れたかったんですよね。それも脳内のね、酔っぱらってなんか……別になんか……『え? それで死にたいの?』っていうような状況なんですけど」
●オッケー。じゃあ、別の質問です。このアルバムで、リアルとウソの比率は何パーセントぐらいでしょう?
「ハハハハハ(笑)」
●あるいは、このアルバムで、赤裸々な部分と隠した部分は、それぞれ何パーセントでしょう?
「ああ、それはすごく難しいなぁ……ああ、難しいな。隠しているつもりではいるんですよ、出来る限り……(笑)……100?(笑)。難しいなぁ。もうね(笑)……比率で言うと難しくて。まあ、これはウソですよね」
●ハッハッハッハッハ!!(笑)。
「コールドでウソなんですけど(笑)」
●しかも、コールドかよ(笑)。
「で、何故か、ホントが、勝ってるっていう感じかな(笑)」
●なるほどね。でも、それこそが、優れたポップ・ミュージックの理想的な在り方っていうか(笑)
「やっぱ、アレかな、タナソウさんの教育を受けてるから、そういうのが染み込んでるのかな?」
●そんなの知らないよ(笑)。
「英才教育を受けてるからかなぁ?」
●イヤミだよねぇ、ホント(笑)。
「(笑)でも、そうですよ。やっぱり、『クリープ』が美しいのは、構造として美しい、様式美として美しいからじゃないですか。だから、歌詞がどうこうとか言う人は的外れだなぁって思ってたんですよ、当時。だって、この曲調で、“I’m a creep”って言われて、『ここにはいない』って最後に言うのは、すごくいいじゃないかって思うので。そこで照れっちゅうか、にごりがないから永遠な感じがするんですよね。で、いつもそれを求めてて、なるべく夢を描こうと思ったら、『夢』っていうタイトルにしちゃうとか、『希望』にしちゃうとか、だから、常に曲の中に宇宙があって欲しいなと思うんですよ。うん、なんかもう……『HELL-SEE』が映画で言ったら、物語的に観れるものだとすると、あれは意図してやってたんですけど、今回はほんとなんか……予告編が映画の前にあるじゃないですか。あれを観せられているような感覚。もしかしたら本編よりいいんじゃないぁっていうことがあるじゃないですか、たまに(笑)。それがポップスかなぁって思うこともあって、要約してあるっていうか、縮図であるっていうのが、限られた楽器と、限られた音楽理論の中で。その中でやるっていうかね。それがこう、好きなんですよね。産業ポップが好きなのはそこで。キャッチーさ命っていうか。ものすごいディープなんですけど、ものすごく快楽的っていうか、刹那的な感じがするところが。自分の中に、すごくそれがあるから。短絡的な感じっつうか、そういうのはすごく好きなんですよね。軽薄な感じっていうの」
●軽薄さ、短絡さに惹かれる理由は?
「うーん。なんかめんどくさいからかなぁ? 世の中が。世の中っていうか、生きてると。すごくめんどくさいから、せめて音楽ぐらいは(笑)、単純であって欲しい。かなぁ?」
●なるほどね。じゃあ。何の話で締めようかな?
「何とかしてください(笑)」
●(笑)じゃあ、これまでの作品の中でも、自分でも解析不能だし、自分からは距離があるってことだ?
「うーん、そうですね。自分が書いた曲だし、歌詞だから、距離はないんですけど、解析不能なのは、すごくありますね。そこの領域にやっと入れたかなぁっていう。早くそこに行きたいなって思ってたから。いつもは何やかんや狙ってたというかね。見え方とか、そういうことに、こだわってきたところがあるんですけど。さっきの話じゃないんですけど、『ほんとにリアルはここにある』とかって歌ってるけど、よくわかんないっていうか(笑)。『ほんとのリアルはここにある』っていう意味がわかんないから、俺も。何も実は言ってないから。それに触れちゃったアルバムっていう締めはどうですかね? なんかこう、人間のっていうか、俺のかな? 俺のわかんなかったところが……わかんなかったっていうか、自分で書いててよくわかんないんだけど、『でも、間違いなく自分なんだろうな、これ』っていうのが……。だから、とても売れて欲しいんですけど、とても怖いっていう、この感覚は初めてですね。『HELL-SEE』の時はぶっちゃけてやったから、ほんとは怖いはずなんだけど、あんまり怖くなかったんです。でも、今回は怖いんですよね」
●逆に、これが受け入れられたら、どうしていいかわからなくなるってこと?
「うーん、これは怖い。そのまんま受け入れられたっていうことになるかもしれんので。解釈次第では、だから嬉しいんですけど、でも、これがまた……そんな苦しい思いをせんといかんのかなぁって思うと……」
●(笑)
「うん……ほぼトランス状態で書いてるので、歌詞は。夜中レコーディングが終わって、朝のデニーズで書くんですけど、次の昼起きてみたら、歌詞が上がってるわけですよ、何故か(笑)。でも、冷静に考えてみると、『ほんとにこれ、俺なの?』って。『あんまり思いたくないなぁ』って、そういう作品になったので(笑)」
●はい(笑)。
「とても困ってますね」

『H』Vol.69 2004年8月号 TALK ABOUT ROCK AND LIFEより
グレープバインの田中さんとの対談

(「最近見た、印象に残っている夢について教えて下さい」のアンケートに対して)
『自分が鉛筆で、鉛筆削りに頭から削られる。で最後がおが屑』
「自分が鉛筆になってるんですよね。なんか鉛筆削り機って今あるのか知らないんですけど、あれにガガガガッて入っていく夢を……。(略)多分本人なんですけど、結構客観的に画として見てる。『あっ、鉛筆になってる、俺』っていう」

――おふたりそれぞれの人生を色でたとえていただいたんですが、五十嵐さんは10代が黒なんですよ。で、20代が黄緑、30代が青。田中さんは10代が新緑、20代が濃紺、30代がエンジ。田中さんはどんどん渋くなり、五十嵐さんはだんだん青春になってきていません?
五十嵐「そうそうそうそう(笑)、逆。(略)学生のときのほうが絶対辛いですよ、暗黒時代ですね。社会人の辛さは別にあるとして、学生の集団生活の辛さはちょっともう……帰りたくないですよね」

――「最近、最も腹が立ったのはいつ、どんなことに対してでしょうか」に対して、五十嵐さんは結構シリアスなことを書いていらっしゃるんですよ、「歌が下手な自分、ロックスターになれない自分」。
五十嵐「ちょうどツアー中で、ホール・ツアーって初めてだったから、しんどいぞこりゃあっていう。みんなどうやってんのかなあ? みたいな。なんか俺、ロック・スターになんなくていいかなあと思ってたんですけど、そういう場所に立たされるとそれを演じなきゃいかんのかなあと思っちゃって」

五十嵐「わかりやすいコンプレックスじゃなくてね、『なんかメンタリティ的に違う』って言われちゃうと、どうしようもないっていうか。一応、学校の集団生活の中でも取り繕えるんだけど、やっぱり家帰ってひとりで音楽聴いてるときが素で。その部分で音楽とコミュニケーションを取っちゃってるから、いかんかもしれない。寂しい、うん。いまだに思います、音楽が友達だなって(笑)。(略)(田中さんに対して)本当に音楽好きで好きでたまらない、ほんとに好きなんだろうなっていうスタンスでもないんですよ。なんなんですかね? 初恋の人みたいな感じですかね……」
田中「ああ~、それはなんか言い得てる気がするなあ(笑)」
五十嵐「たまに思い出して……その感覚が多分消えないんでしょうね」
(略)
――顔がどうだとか実態の話じゃなくて、その対象に対して湧き起こった自分の感情の震えを、なんとか再現したりとか味わいたくてやるっていう?
五十嵐「うん。30までくるとだんだん摩耗してくるっていうか、その感覚がなくなってくるんだけど(笑)」
――でもやっぱり消えるものではない。
五十嵐「うん。ないのかもしれないですね」
田中「多分それを超えることは無いでしょうしね。それも分かっとるんやけどね(笑)」
五十嵐「絶対神な感じだからね、初恋の人って。オギャーッて生まれてお母さんの顔を見てついてくヒナのように、逃れられない(略)だから自分の泣きの部分が……人と全然違うのかもしれないけど、そこは維持したいなあって。それが共有されてないから売れないのかもしれないけど(笑)、そこを突き放して、自分が楽しくないんだったら、あんまり意味もないから。俺が泣けるとこで、歌はやっぱりつくりたいなあって。その初恋の音楽のイメージがあるとしたら、多分いろんな音楽聴いてくうちに自分の中でフィクションがだんだん入ってきてて、美化してんのかもしんないですね、どっかでね」

五十嵐「思春期終わるとねえ、ほんとに『なんであんなに悩んでたのか』っちゅうぐらい……もうここまでくるとね」

五十嵐「あと10年ぐらいはジタバタしてたい気もするし。30代になったらもうちょっと大人だと思ってたんですけど全然子供なので。でもまあ……できるだけハッピーにはなりたいですね。あんまり両手に持ちきれないほどはちょっと大変だなあと思うから、できるだけね」

“最近聴いてるCDは?”のアンケートには『列車に乗った男』という映画のサントラを挙げていました。

書き起こし終わり。

・感想

“オアシスの曲とかって、ほぼウソじゃないですか。でもなんか、『レッツ・オール・メイク・ビリーヴ』でしたっけ? シングルのB面かなんかに入ってた、ほんとなのかウソなのか、わかんないけど、「わかり合ったフリをしよう」っていうみたいな曲。オアシスじゃないような感じの曲なんですけど”

これはいわゆる、ヨーロッパ諸国の交友のムードらしい。
宮台真司さんの著書でも繰り返し述べられているテーマである。
真実の愛なんてものはない。
けれど、それを、あるかのように振舞いながら生きることで、濃密な時間を得ることが出来る。
そういう在り方を体現したのが、マウストゥマウスの終盤に見てとれる流れなのではないのだろうか。
オアシスの曲は、レコード会社や、まだ自分達のもとに残ったファンとの歌? 五十嵐さんもファンに思うことそのまま歌ってもいいのに……。
愛憎があるとは言っても、どこか突き放しきれないっすね。
去って行ったメンバーとの歌とかもあっていいのでは……。

“前、アッシュのことをタナソウさんが、「『前のアルバムは、ほんとはよくなかったんだよね』っていうのを、後になって言うのが、頼もしいなと感じた」って言ってたことがあったじゃないですか。あれ、なるほどなって思って。俺ぶっちゃけすぎだなって思って(笑)。もうちょっと大人になろうかなって思って。そうすれば売れるかなぁって”

批判して欲しがっていませんか……?
ドMやな、五十嵐さん……。
あるいは父性的な存在として見て、去勢される必要性を感じているのだろうか。
田中さんのことを、批判的な事でもはっきり言う人として信頼しているんでしょうねぇ……。
タナソーさんの、『syrup16g』レヴューでのキツイ言葉も、こんなやりとりがあったからこそ書かれたものなんだろうなぁ。

“でも、明暗がくっきり分かれた感じが……。1stあたりではそんなに変わらないっていうか。そんなに技術は変わってなかったと思うんですけど。タナソウさんもね、ライナー書いてらっしゃって”

タナソーさんの文章のファンだったんですね、ほんとに……。
この「明暗がくっきり分かれた」っていうのは、自分たちと同時期にデビューしてきて、年下で、自分たちと好きな音楽が近いバンドたちとのことを言っているのかな……という気もしました。
バンプ、レミオロメン、アジカンとか。

“レディオヘッドぐらいまでいけば、そういうレッテルが貼られちゃうと、反動でああいうパワーが生まれてきて、新しいものが出来たりとかするんだろうなとかって思うんですけど”

レディオヘッドの『マイ・アイアン・ラング』の動画を貼りましたが、これは、ファンや評論家からのプレッシャーで息苦しさを覚えていたけど「鉄の肺があるおかげで呼吸はできたわ!」ってことを歌っています。
『クリープ』のヒットによって、彼らは「一発屋」のレッテルを貼られて、批判されることも多かったのだそうです。
けれど同時にそんな重圧が彼らを「育てた」という側面もあるのだと、田中さんは話しているわけです。

“スターシップ(笑)”

五十嵐さん、かなり自分から話していってますよね……田中さんへの信頼がそれだけ厚かったのだとわかります。

“あり得ないっていうか……まあ、相当酒が入ってないと書けないですね”

『ユア・アイズ・クロズーズド』を、否定しているようで、でも歌の内容を否定しきれていない気がする……。

“「洋楽が好きだったのは、歌詞がないから好きだったっていうのもあるし。ほんとはそういうのがやりたいんだけど」”
“「意味から逃げたいから音楽聴くのに、そこにあんまり意味が入っちゃうから」”

これも、五十嵐さんとリスナーの音楽の享受の仕方の違いが出てますよねぇ。
五十嵐さんは音楽の「音」を純粋に楽しんできたけれど、シロップのファンは音楽の「意味」を重視して受け止めている。
それは音楽って言うより、ただ「言葉」を求めているだけなんじゃないか? って思うことは、僕はたまにあります……。
いや、たまにっていうか、けっこうあるんです。ごめんなさい。
僕自身も、音楽を通していろんな思想に触れられるのは素晴らしい経験だと思っているんですけど、それにしても、もっと「音」を楽しんでもいいんじゃね? って気持ちになることがまぁまぁあります。
音楽を通すことで「意味」が強くなるという面もあると思うんですけどね。
それにシロップの場合、無意識かもしれないけど、五十嵐さん自身も「意味」を打ち出しているなって思いますけどね。

“結構ね、かましてインタヴューとかするんですけど。でも、タナソウさんだとね、あんまりかましても意味ないなって思って(笑)」
●いいよ、かましてよ。
「絶対バレてるから。後で足元すくわれるから(笑)」“

五十嵐さん、こんなことも直接言っちゃうくらいには、タナソーさんを信頼しているんですね……。

“消費されていく運命に、さだめにある行為をしてるっていうのは、最初からわかってるから”

『空をなくす』で使われたのと同じ言葉を使っている。
やっぱりあの曲は、「俺の音楽を邪魔するな」という気持ちを歌っていたんですね。

“誰かと会った時に、喜びがあるとすれば、イヤな気持ちとかも含めて、インパクトがあるのがいいなって思うんですよ。周り見渡しても、それを意識的にやってる人っていないなぁって思っていて”

『リアル』『I.N.M』で歌う「周りに人がいない」っていうセンテンスは、こういった問題意識と直結していたのだとわかりました。

“引く人は引くだろうなとも思うんですけど。血濡れの手紙を送ってくるような人達、自分の病的な部分とかね、そういうところにシンパシーっちゅうか、投影してくれてる人は、引くかもしれないですけどね”

やっぱりファンからの熱烈な……過剰な想いをプレッシャーに感じていたんですね……。
血濡れの手紙ておい。
そんなん送る人はいったい何考えてるんだ……。

 - Syrup16g, 音楽

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