Syrup16g 『Coup d’Tat』発売時のインタビュー
2019/07/04
『Coup d’Tat』発売時の、SNOOZER誌初登場のインタビューです。
これ以降の五十嵐さんのインタビューは、編集長の田中さんが行いますが、この回では䑓さんが喋っています。
䑓さんは五十嵐さん歳も近く、ほぼ同世代。
五十嵐さんの言葉に深くシンパシーを覚えている様子がうかがえます。
五十嵐さんのインタビューってすごく面白くて、ここで話していることがほとんどそのまま曲になっているんですよ。
使う言葉まで共通していたりして……自分の頭の中にあることを、本当にそのまま曲にのせているんですね。
SNOOZER#32 2002年8月号 䑓次郎氏によるインタビューより抜粋
“”内が五十嵐さんの発言、「」がインタビュアーの発言です。
面白いところのみを抜粋しました。
“自分の中で、『普通の人間でいたい』っていう感覚は強いんですよ。普通の人間として、普通の状況に対応出来ないとか、成長出来なかった自分をそのまま出すっていうのは、やり方として、一番正解な気がしてるんですよね。初期レディオヘッドがやっていた、自分との格闘、みたいなところはやっていきたいな。『これ歌詞かよ? ただの愚痴じゃん』ってもんでもいいから、その時感じてることを出す。次の瞬間に違うことを思っても、それはしょうがないことだから。これ(アルバムの曲)じゃライヴで歌ったりはしますけど、これをもって僕か、と言えば、また次は違う感情がある。だから、それに共感云々と言われても、別に同情することも、恐怖もない”
“この世知辛い世の中で、音楽やるっていうことがもう、ロマンだから。そこを追及していくと、答えはこれだったんです。『通じ合えるかもしれない』っていうロマン。嘘くさく聞こえるかもしれないけど。”
「レコードの聴き手なり、ライヴで目の前にいるお客さんに対してのロマンというのは、同時に、「ある時期の自分に向けてのロマンだ」、というところもありますか?
“ああ。過去にロマンを求めるのって、男の性癖というか(笑)。ただ、原体験というんですかね、一生引きずってるものに対する、いかんともしがたい、淡いんだけど強烈な気持ち、みたいなのは、27ぐらいで、もう、摩耗して、なくなってくるんですよね。『過去にしかそういう気持ちがない』っていうのはすごく寂しいんだけど、その時の気持ちはたまに思い出すことがあるんですよ。そういうものを誘発出来る音楽がいいなと、自分では思ってて。それは、ノスタルジーの近いものかもしれない。かつて思った気持ちと、今との距離感みたいなところ、『こんなはずじゃなかったのに』っていう気持ちだと思うんです”
“循環コードも大好きで。80年代の、繰り返しの中にある、だんだん気持ちが高揚していくようなのはすごく好きで。で……ロックを司る神は、やっぱり感情だと思うんです。キュン、だと思うんですよ。僕、ポリス大好きなんですけど、3ピースであれだけキュンとくる。『キング・オブ・ペイン』って曲、あんなのずーっと循環じゃないですか(笑)。でも物語があってね。あれはすごい。だけど、このアルバム、技巧的には単純ですよ。『生きたいよ』なんてベースがメロディで、ギターがタンタンタンってあってるだけなんだけど、絡みあうだけでグッとくる。それのずっと繰り返しなんです。そういう意味では、あんまり、時代性とかは、今回はないです。『最新鋭のテクニックを使って、音響的に仕上げてみました』っていうんじゃなくて、3ピースでやれる範囲内で刺さるものを、という”
“僕、ほんとに80年代が根っこにあって。U2も好きだし、ポリスも好きだし。で、シューゲイザーなり、レディオヘッドとか、その辺のUKの流れがあって、そこで青春を送ったんです。ニルヴァーナもいたし。これは、そんな流れの作品ではあるんですよね。”
“カート・コバーンなんですよね、やっぱり、悲しいふりじゃなくて、『本当に悲しい』っていうのを、ちゃんと……いや、かっこよかっただけかもしれないですけどね、実際は。まぁ、『死ぬこたぇねえな』っていう実感なんですけど。でも、表現に携わる人間は、現実っていうのを表現しえ、ちゃんと苦痛と背中合わせでやっていかないとダメだなって思わせてくれた。ただ僕、ニルヴァーナ聴いてると、逆に気持ちいいんですよね。中後半端にぐじゃぐじゃしたのが一番気持ち悪いんですよ。(中略)でも、僕はジェフ・バックリィが死んだ時の方がキたんですよね。無性に悲しかったですよね。レコード屋のコーナーを見たら、『死んだ』って書いてあって、その後、1時間ぐらい、ボーっとしちゃった。今は健康時代で、『こうやれば長生き出来る』っていう錯覚にみんなすがって生きてますけど(ジェフ・バックリィみたいに)ポックリ逝かれちゃうとキツいっていうか。『死ってほんと、容赦ねえんだ』っていう、そこの刹那。ジェフ・バックリィなんて、多分もう、二度と出ないですよ、あんな人は”
“一瞬にして消えてなくなる恐怖。死はそういう風に捉えてますね。表現というのが、最終的に死に繋がっているとすればね、『その恐怖の中で生きる』ってことに焦点を絞れれば、考え方によっては幸せに生きられるんだけど……安直ですけどね、最終的には孤独も、『寂しい』とか『恐い』とか、全部、死に繋がってるんですよね。だから、強い表現をしようとすると、やっぱりそこになっちゃう。(中略。自分で喋りながら自分で悩みだす)うーん……逃げてるのかな、まあ、逃げてもいいと思うんですよね。逃げることは悪くないから。(中略)仲間欲しくなる感じがするんで、こういうのを書いちゃうんですよ。反面教師でもいいから、前向きになってくれればいいな、とか”
“遡れば、黒人の方がブルースを作ったのは、圧倒的な力の抑圧に対する、頼れるものというか、神への信仰だったわけじゃないですか。今回、『神』とか、いろんな宗教的な言葉を使ってますけど、でもね、自分ではこれ、ブルースなんじゃないかな、と思うことがあるんですよ。ちょっと今、思いつきで言ってますけど(笑)。だからつまり、『白人の方がブルースマンに憧れて物真似しても、何か違う』っていうのは、物質的に豊かな人が真似ても、届かない何かがあるんだと思う。僕は、宗教的な神との関係が必要なぐらい、日本は今ヤバいんじゃないかっていう気がするんです”
“日本は一応、平等社会ってなってるし。僕は学歴もないですしね、いま社会に出たら抑圧される側ですけど、でも、普通に生活してる人、みんな、それぞれ何かを信じてるんですよね。そうじゃないと、やっぱりおかしくなっちゃうと思うんですよ。でも、そういうことを否定するのが正しくなってる。『ひとつの価値を信じることはダサい』、みたいに。でも何か、信じてると思うんです。僕は、『過去に神がいる』感じがするんですよね。そこに司るものがあって、そこを無視して、『忘れよう、忘れよう』……じゃなくて、なんだろ? ……そんな意識して作ったわけじゃないけど、でも何かあるんじゃないかな。そこから逃げたい。でもどうにもならない。『じゃあどこに行くか』って言ったら、神というか、信仰。神にすがることが必要なくらい辛い生を送っている人にも、希望になるようなことがあるんじゃないかって。それが、『頑張ろうよ』じゃなくて、それ以外にあればいいなと”
「五十嵐さんは、今の日本に、精神的な抑圧を生む土壌がある、とお感じになってる。それは何だと思いますか?」
“(前略)ただ、元凶は過去ですよね。日本は独特のメンタリティを持ってると思うんです。こんなにわけわかんない、屈折した、変な抑圧感を抱えてう生物って、日本人だけじゃないかと思うんですよね。(中略)『みんな幸せになる権利がありますよ』っていう状態で居続けなきゃならないのは、すごい抑圧じゃないかと思うんですよね。勿論、意味のない差別はよくないと思うんですけど。『幸せにならなきゃいけない』、『前向いて歩かなきゃ、人生を切り開いて行くんだよ』、って。そんなのは、言われなくても自分が本来やるべきことであって、別に説教されるもんでもないと思うんです”
“普通に今の日本に暮らしてて、メディアが発信しているものに浸ってると、見えなくなってしまう、その外側には、残酷な世界が広がっていると思うんです。それは、日本の中でも確実に芽が出て、花が咲いちゃうよ、ぐらいのところまで来てる。(中略)大人にならなきゃいけないことは重々わかってるんで、とりあえず、言いたいことは言っとくぞと。だから今回は、悔いないんですよね。基本的には、僕は気弱ですからね、あんまりいい度胸してないんですよ。でも、とりあえず、俺みたいな人間でも、ガーッと言ってみる。だから、頑張って、僕もロマンをちゃんと演じたいなと”
“もっと下世話っていうか、ポップ・フィールド……アホな感じに見られたい。今回はテンパってやってみたんで、次は……これで受け入れられなかったら、違う感じになっちゃうかな。『やってられない感』をより増した感じっていうか。ピッコピッコピッコピッコ、みたいな。自分の中では、もっとキャパシティがあるつもりなんで、いろんなことをやりたい。これを続けるのはちょっと辛いんで……。ただほんとに、その辺のバックボーンを率直に出したら、かなり売れると思うんですよね。あれ? 今、笑うとこなんですけどね(苦笑)。でも、当時の音楽やってみたいっすね。ハワード・ジョーンズとか、リック・アストリーとかね。何か、バカっぽいの”
「個人的な表現こそが普遍的なんだっていう感覚はありますか?」
“まさに。それが言いたかったんですよ。一番よくないのは、それを自分の中で、ギュッと(小さく)しちゃうんですよ。もう、言いたいことを言えばいいしね。僕もよく電車の中でキレちゃうんですけど(笑)。それとか、スタジオの隣にいたどっかのヴォーカルに殴りかかったりしちゃうわけですよ。絶対勝つんですけど。でも、それをやっていくことによって、純化されていく感じがするんですよ。ちゃんと届けようとしている人が、届けようと言葉を発するなら、ディスでも何でもいいですよ”
“そこで逃げちゃったら、別に、わかりやすいポップをやった方がいいですよ。キャッチーなリフもいっぱい書きますよ。……うん、本当の虚しさみたいのを味わったら、そういうのをやりたいな。ピッコピッコピッコピッコって。『あしたのジョー』の最後みたいに、本当に真っ白に。コミュニケーションがなくなったら、この世は闇じゃないですか。だから、これは問うたアルバムだと思ってるんですよ。(中略)きほんてきににんげんはきらいじゃないんですよ。コミュニケーションは取りたい。それは、最近感じますね。昔は大嫌いだと思ってたから、人間は。でも、わかってくれる人達はいるんだな。だから、頑張っちゃおうかなっていう。で、出来た作品はちょっと攻撃的になっちゃう。”
以上。
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