てやんでい!!こちとら湘南ボーイでい!!

映画音楽本ごはんの話を、面白く書けるようにがんばります

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【syrup16g全曲の考察と感想】『delayed』

      2019/09/29

『delayed』3rdアルバム。2002年9月25日リリース。

デビュー前に作っていた曲を集めたアルバム。
前作でオリジナル・メンバーの佐藤さんが脱退し、本作からキタダマキさんが参加。
佐藤さん脱退については、最終的な決断は五十嵐さんによるものみたいだけど、メジャーデビューにあたっての周囲からのプレッシャーもあったのかもしれない。
音楽業界残酷物語。
また、「クーデター失敗」とのことで、黄昏的なアルバムになっているのだそう。
けど「クーデター失敗」ってなんでだろう……セールス的な結果が出てから企画したのでは、わずか3か月のインターバルでリリースすることは出来ないと思うのだけど……。
謎。

ジャケットの、飛行機が滑走路にたたずむ写真のモチーフは、「模型」となって『ディレイデッド』に引き継がれる。
この「ディレイド」というタイトルだが、乗り物が「遅延」していることを知らせる言葉で、空港や駅などでこの言葉が掲示されるもよう。
飛行機の遅延 全然空港を使わないもので、知りませんでした……。
シロップが、メジャーデビューしたかったけど、五十嵐さんが「やらかし」てしまったために、メジャーの話がオジャンになってしまったという経緯もあるため、「その間に作りためていた曲」を収録した本作は「リリースが遅延していた」ということで決まったタイトルなのかもしれない。
そもそも、ここであえてインディーズに作った曲の録音集を出す時点で、過去への異様な執着がすでに見られるわけだしなぁ……。
離陸前のシロップというより、「飛び立つ」ことができずにいた時代を刻んだアルバム。
待望のメジャーデビュー=離陸というイメージで、「やっと離陸できるよー」と待望していたのかと思っていたのですが、こう考えてみると、「甲羅の上で横になって落ち着いている」状態を自ら選んでいたのかもしれない気がします。
ちなみに、「ディレイド」が「遅延」を指すのだということを、先日観た『大災難P.T.A』という映画で知りました。
「ディレイド」は、飛行機が遅延していることで、「キャンセルド」は欠便になることが映画の中で描かれていました。
ディレイドの次は「キャンセルド」なんてのもありえたのでは……。

『大災難~』は80年代に活躍した伝説の映画作家ジョン・ヒューズの作品。
彼の作品で一番有名なのは、脚本と制作を務めた『ホーム・アローン』では。
この人も、90年代半ばになり、突然映画業界から身を引いてしまいます。
その後、熱烈なファンが、彼の今を追うドキュメンタリー映画を作り、本人にも突撃を試みましたが、なしのつぶての門前払い……。
なんだか惜しい話です。

音の所感としては、メランコリックな曲調が多かったり、『センチメンタル』や『リボーン』のように、サビで激情的なノイズがかき鳴らされるような対比で聴かせるものが多いように思う。

正直、あんまり聴き返さないアルバムである。僕は怒りまくってる五十嵐さんのほうがすきなのかもしれない。

1.センチメンタル

ギターの音めっちゃ多いな!
三つは鳴ってる?
しかもそこへコーラスも入ってくる……音ぶ厚いっすよ。
こう考えるとやっぱり五十嵐さん、レディオヘッド好きなんだね……。
けど彼らが三人でギターを鳴らしているのに対して、シロップは五十嵐さん一人で考えて鳴らしてる。
大変ですね……。
この曲と方向性は違うにしても、レディオヘッドは『ウィアード・フィッシュ/アルペッジ』という曲で、トリプルギターを極めたような音を見せつける。
五十嵐さんが、レディオヘッドの「初期」にこだわるのって、シャウトの有無もそうだけど、テクニックを追求する姿勢についていけなくなった部分もあるのでは。

“センチメンタルな恋は どうしようもなく 破綻していくもので 安心したらさようなら”
なんで破綻していくんだろう……(笑)。
まぁ、宮台さんも、何かを埋め合わせるためだけの性愛は長続きしないものだと書いていた気がするので、そういった、欠落を持つ者同士の恋愛を指しているんでしょうか。
そういう関係って、時間が経つにつれ「なんか違う」が積み重なっていきますもんね。
「安心したら」って言うけど、五十嵐さんは安心できていたのかな……?(笑)。
うーん……五十嵐さんはその関係に安心できたのに、別れを告げられてしまったという悲しい話なんですかね。
どうでもいい話なんですけど、ミュージシャンって、振られるじゃないですか。
五十嵐さん、こんなに天才なのに、振る人ってなんなんですかね。
まぁ実生活を共にするようになったら、才能を見るのではなくて、人間性が問われるんですかね……問われるっていうか、相性を見られるというか。
でも五十嵐さんが曲を作ってるところとかを家で観れるわけでしょ?
振るんですかね……?

“通信簿に書かれたよ 協調性に欠けてます なんて 妄想気味なロンリーガイ”
先生からの評価って残酷ですよね……。
システムに疎外される側を歌うシロップの原点が垣間見える歌。

“でも心が痛い たまに届かなくて ひどい時は泣いて いいね もう”
「泣いていいね」って言っているだけで、実際に涙を流してはいない気がする。
五十嵐さん、「泣きそう」みたいなシチュエーションをよく歌いますね。
たまに本当に泣くけど。
なんか、男が作る歌って、「泣きそう」「泣きたい」が多いんですよね。
僕はあんまり女性の作る日本語の曲を聴かないので、比較できませんが……いや、サンプルが少ないにしても、実際に泣いてる曲がけっこう多いですよね? 女性。
男って、子どもの頃から「泣くな!」と躾けられるんですよ。
フィッシュマンズの『BABY BLUE』でも“今にも僕は 泣きそうだよ”です。

ビーチ・ボーイズの『ユー・スティル・ビリーヴ・イン・ミー』でも“I want to cry”ですからね……実際に泣いてはいないわけですよ。
(ところでこの曲、歌の出だしは「僕にはちゃんとわかっているんだ。僕が間違った場所にいるってこと(村上春樹さんが訳したもの)」なんです。五十嵐さん、こういう形のポップは好きじゃないのかな……ビーチ・ボーイズってかんぺきじゃないですか……?)

桑田佳祐さんも、曲の中でしょっちゅう「俺は泣いてる」って唄いますけど、あれも子どもの頃に親が家を留守にしていて、寂しかったのを堪え続けてきた反動のようなものだと思いますし……。
男にとって、「泣く」という感情表現の形式って、特殊なものなんですよね。

“最低な気分を抱いて 方法論だけを磨いた 君に憧れてた”
これは多分、五十嵐さんが音楽へ向かったモチベーションを歌っているのでは……。
インタビューで語っていた「パクり」についてのお話が回答に近いはず。
“方法論をパクってるわけでは決してないから。ニュアンスとか、エッセンスとか、それはいくらでも受け継がれていいものですよね。”
最低な気分だけど、音楽をやることは続けていた。
五十嵐さんの音楽家としてのアイデンティティは「方法論」にある。
それは「憧れてた君」からパクるわけではなく、自分独自で磨いてきたものだとの自負がある、ということでは。
「だけを」って言ってるのは、なんかちょっと面白いですね(笑)。
技術だったり、人脈作りに走ったりはしなかったってことなんですかね。
ところで、憧れる相手のことを「君」という二人称で呼ぶあたり、五十嵐さんの心理的には、そこまで遠い存在ではなかったのかもしれないですね。
なんか、一つの作家の作品に触れ続けると、その作家とコミュニケーションを取っているような感覚になることがありますよね。
五十嵐さんも、「音楽とコミュニケーションを取ってるような感じだった」と語っていたこともあるし……。
ここでいう「君」って誰なんでしょうね。
僕はトム・ヨークかなと思いますが……。
その理由は後々触れます。
ただ、もちろん、好きな異性に「憧れる」という感覚なのかもしれないですね。

“白けた顔して進め 今しかない とか言って”
『神のカルマ』でもあったけど、「タイミング」への言及も多いな。
「今しかない」が、なんで妄想なんでしょうね……。
逆に五十嵐さん、石橋を叩きすぎな印象もありますけど……後悔が怖いのかな。
「今しかない」って言って、結局ダメになってしまうのが怖いのかな。
でも後悔なんて、いくらでもあるもんだと思いますけどね……。
しかし私も慎重にじゃないと行動したくないので、気持ちはすごくわかります……。
「白けた顔」については、前にも書いた「ジェネレーションX」は「白け世代」なんて言い方もあったんです。
ニルヴァーナのカートもそんな世代ですかね。
失敗するのが怖いから、行動する時も「白け」を顔に張り付けたままにして、保険を掛けたような感覚になっているということですかね。
失敗した時も「本気で成功するとは思ってなかったっすよ」って言い訳できるように。
後に「必死なのはかっこ悪くねぇ」と、頑張ってる自分を肯定できるようになるので、よかったですよ。

2.Everything is wonderful

タイトルと曲の内容が全然一致してこない曲……(笑)。
曲の最後のほうで「エエエエエエエエッ」というシャウトも入りますね……。
ピクシーズ
鍵盤の音が入ってくるけれどもノイズーなところは、シロップのでは結構珍しい気がします。

“月より遠いトコを 旅しているんだよ 暫くしたらまた帰る”
薬を飲んでボーっとしてるんですかね……。

“甲羅の上だけが 安らげるんだよ 昨日からこうやってる”
甲羅は身を守るものなのだと思うのですが、一応ひきこもるのはやめて、甲羅から、出てはいるってこと?
でも、そのうえで安らいでいるのは、移行対象から離れられない≒モラトリアムをかましている状態を歌っているのでしょうか。
亀=ペニスの暗喩かと思ったりもしましたけど、そういうわけでもなさそう。

“左手上げて 横断歩道を 渡っているのだあれ”
昔ネットで読んだ感想に「普通は右手を上げて横断歩道を渡るものだけど、左手を上げているのは反骨精神があるからだ」とありました。
そんな感じもしなくはない……。
ただ、一応手を上げて横断歩道を渡る辺りはお利口な気もしますね。
「他のことは違っていて目立つ」というニュアンスではあると思うんですけど、左利きの人って、自然と左手を使ってしまうことも多そうですが……。

3.Reborn
人気が高いし、ライヴでも終盤で演奏される名曲。
楽曲のアレンジについて、僕は長年の間、『クリープ』を基にした構成だと思っていたんです。
けど、いろいろ調べてみたところ、アレンジの引用先を発見しました。

ホリーズという60年代から活躍するイギリスのバンドの『The Air That I Breathe』という楽曲です。
1974年に発表されました。
このアコースティック・ギターの音色は、完全にこの曲からの引用です。
安らぎの世界へ、という邦題も付けられていました。
和訳してくださっているブログを見てみると、歌の内容も近いものがあります。

「君がいて、空気を吸うことができれば、僕は贅沢しなくても平気っす」みたいな歌ではないかと。
これを読んでいくと、主人公は満たされた世界にいることがわかります。
歌の中に「天使」というワードも出てきているように、この曲での「あなた」は「神」の暗喩ではないかとも思います。
リボーンにも近いような気がします……。
リボーンも、そんなにいっぱい幸せじゃなくてもいいけど、ただなんかいいなって思えればいいずら……ってうたですからね。

五十嵐さんがホリーズの愛聴者だったかはわかりませんが、90年代に入って、この曲が再び注目されたと考えられる出来事があります。
それは、レディオヘッドの『クリープ』がヒットしたことです。
この曲が大ヒットを遂げた後、作曲者であるトム・ヨークは、アルバート・ハモンドとマイク・ヘイズルウッドから、『ジ・エアー・ザット・アイ・ブレス』を盗作したと訴えられています。
そして裁判では後者が勝利し、現在では『クリープ』には二人の名前がクレジットされるようになり、印税収入も分配されることとなりました。
たしかに、アレンジがすごく似ている……と考えてみると、歌のメロディや構成も近い感じがしてくる……。
僕はこれらの盗作に関する流れをネットで知りましたが、今のネットの様な機能を90年代の雑誌や口コミなどは持っていました。ラジオとかもそうか。
なので、「『クリープ』が『ジ・エアー・ザット・アイ・ブレス』をパクってる」という噂が駆け巡っていてもおかしくないと思います。
そこで『ジ・エアー・ザット・アイ・ブレス』に出会った五十嵐さんが、この曲をベースに『リボーン』を作ったとしてもおかしくはないと思うんですね。
だってアコギの音、そのまんまだし……(笑)。
ぶっちゃけ、このようなフレーズの引用って、よくあることです。
あと、それに伴う裁判もよく起こります。
日本では、裁判ざたになることはほとんどありませんけど、英語圏の作品だと、世界中が市場になるわけですから、印税収入が半端ではない額になります。
だから「めっちゃ売れまくった曲」は、こういった盗作騒動が起こりやすく、そして裁判も頻繁に行われます。
原告側が勝つこともあるし、負けることもあります。
シロップも、売れまくったら訴えられちゃいますよ!
売れるにしても、そこそこに留まって!

蛇足ですが、ホリーズは作曲者のアルバート・ハモンドがオリジナル曲として発表した『ジ・エアー・ザット・アイ・ブレス』をカバーした形です。
アルバート・ハモンドの息子、アルバート・ハモンドJr.で、彼はストロークスのギタリストです。
ストロークスと言えば、2001年に発表した1stアルバムが英国を起点に大ヒット。
世界中でロックンロールバンドが復権し始めた流れを決定づけた存在です。

僕としてはこの曲、めちゃくちゃ嫌いだったんですよ。
そもそもの話、恋愛している人間全員をひがんでいた時代の僕にとっては、本当に敵だったんですね。
それが、五十嵐さんが、こんなラブソングっぽい曲を書いたことにもむかついたし、その曲がシロップファンに大人気だっていうのも承服しがたし!!!!!
だったんですよ。
そもそも、五十嵐さんが童貞じゃないっていうだけでめちゃくちゃ腹立ちましたし。
なんなんお前!? 結局お前もそっち側なわけ!?
モテない男の振りしてる野郎が一番性質悪いんじゃ!!!!!
セックスしてんじゃねーよ!!!!!
と思ってました。(そもそも五十嵐さんはモテない振りしてないけど、当時の僕には、「モテない同志」だと勝手に思い込んでいた)
笑ってやってくだせぇ……。
そういう歪んだ主観を持つ人間ですが、考察については公正にやるつもりです。

そもそもこのタイトルが妙なもんで、曲の内容自体に「生まれ変わる」という言葉は必要ないんですよ。
文脈的に、ぴたってハマる表現でもないし。
でも、こういう「いびつさ」にこそ、作家の本心が表れていることも多いので、そこは読み解き甲斐があるともいえる。
だって、ただ世に出すだけなら、整えちゃえばいいわけですから。
でも、整えるために削ったり形を変えたりすることを作家が拒むことがあります。
ということは、そのいびつさには、作家の強い想いがあるはずなんですよね。

明るい曲調+いい感じのコーラスがあるから良い曲っぽくなってるけど、歌詞のほとんどはいつものシロップの諦念まみれ感があるっすよ……

「リボーン」は「生まれ変わる」「生まれ直す」ということだと思いますが、キリスト教では、生まれ変わるという概念はないんですね。
仏教ではいわゆる輪廻転生がありますけど、キリスト教では、基本的に輪廻転生という概念はありません。
キリスト教は一つの魂は一回の生を生きる。
それでその一生が終わった時に、自分の行いを死後の世界で見定められて、天国へ行くか地獄に行くかが決まるという。
人生で悪いことをせずに良いことをしていれば、死後、魂が天国に入れるという教え。
仏教では、その生での業(カルマ)が、転生した後にも引き継がれるという考えがある。
今世での行いが来世に関わってくるので、悪いことをせずに生きていくべきだと考える。

歌詞の文脈に忠実にいくならば、生まれ変わらないとたどり着けない世界だ、っていう話なのでは。
つまりこの曲を歌っている五十嵐さんでは、この曲の様な「昨日より今日が素晴らしい日」が「当たり前の事」な世界には、たどり着けないと思っている。
五十嵐さんがたびたび語る「変われない自分」に対して、「生まれ変わるぐらいすれば変われるかも」という自嘲が込められているのかもしれません。
あるいは、「自分達が生きている間にはそんな世界にはならない」と思っているから、「遠回り」や「生まれ変わり」なんて言葉を出しているのかもしれない。

うーん、どうしても偽悪的な見方になってしまっていた気もします。
が、やっぱり、考察は公正にせねばなりますまい……
なるべく褒める方向に頭のスイッチを切り替えつつ、頑張ります。
ただ、シロップのあとあとの曲を見てみると、この曲で使った言葉をネガティヴに歌い直しているものがけっこうあるんですね。
ここでファンタジーを提示してしまったことが、五十嵐さんの中では、あんまりよくなかったのかなと思ったりして……詳しくは後々書きます。

“昨日より今日が 素晴らしい日なんて わかってる そんな事 当たり前のことさ”
他の人にとっては、そうなのかもね、という話では。
だって、五十嵐さんは「明日がどうなってようと、今日は楽したい」人でしょ……。
もちろん、この曲の方が、五十嵐さんの「本音」に近い可能性もなくはないけど、これは「嘘」だと思います……。
これまでさんざん、バブルが弾けた後の日本の辛さを歌いまくってきた人の認識が、これなはずがない。
まぁ、ファンタジーを提供するというポップ・ミュージシャンの仕事のひとつをこなした感覚なのかなぁ……。

“時間は流れて 僕らは歳をとり 汚れて傷ついて 生まれ変わっていくのさ”
「生まれ変わる」は、「全く新たな存在になる」ということではなく、「今の自分とは少し違う」くらいの歌われ方なんですかね。
しかし「汚れて傷つく」ことを、明るい曲の中で許容しているというところは、この曲の秀でている部分なのかもしれませんね。
特に「汚れ」。
「汚れたいだけ」だった自分も、そのうちに、受け入れてもらえるような予感がある。
実際、受け入れられると思う。
ミスチルが「ちょっとぐらいの汚れものならば 残らずに全部食べてやる」って唄ってましたけど、大人になるとけっこう平気だったりしますよね。
自分も汚れているわけだし。
(まぁ、ミスチルのあの歌って、「何上から見てんの」って感じがしなくもないんですけど……そう言うあなたは綺麗なのかっていう)
また、五十嵐さんの曲は一人称が多いけれど、この曲は二人称と三人称っぽくて、リスナーに向けて開かれているように感じます。

“愛する心が どんな色であっても 優しい気持ちだけで 夜は明けていくよ”
色への言及もシロップではまぁまぁ多い。
ここまでで、黄色が「錆びたチャリ」と「奇妙な黄色い糸」と出てきているけど、ここには共通項は見いだせない。
なにか共通項が発見できたら、都度書きます。
でも「優しい気持ちだけで夜は明けていく」というところは、ファンタジーだよなぁ。
あるいは、五十嵐さんは「愛する心」を持っていない、あるいは人から向けてもらえていないということもありえそう。

ちなみに五十嵐さん、“愛してるなんて言ってねぇぜ”というくらいで、「愛してる」というふうに対象が見える形で、歌で愛を捧げたりはしていません。
言っても“愛しかないとか 思っちゃうヤバイ”であって、決して「愛してる」と言ってはいない……(笑)。
あぁ、そう考えてみると、「勇気を出す」ことと同じくらい、「愛してると伝える」ことに対して臆病な人なんですね……

“つじつま合わせる だけで精一杯の 不細工な毎日を 僕らは生きていくのさ”
ここは本音っぽい感じがする……。
不細工って言葉を出すのはいいですよね。
美しくなくていいのです。

“手を取り合って 肌寄せ合って ただなんかいいなあ って空気があって 一度にそんな 幸せなんか 手に入るなんて 思ってない 遠回りしていこう”
ここでは、握る「手」があるんですよね。
五十嵐さん、散々、「手つなぎしたいのに相手がいなくなったっす」と歌っていたのに……。
ここもファンタジーなのではないかなと思うんですよ。
「君」「あなた」が、自分のそばにずっといてくれたら……という予想図なのではないかと。
好きだった人と添い遂げるのって、かなり幸せなことですよね。
自分には無理でした。
けど、ファンタジーなのだと思うんだけど、「遠回りしていこう」という言葉がリアリティを与えている。
あと「ただなんかいいなあ」もいいですよね……やっぱりこの曲は、具体的な言葉を避けて、普遍的で抽象的に歌うポップ・ソングになっていますね。
聴いた誰もが、自分達の頭の中でイメージを当てはめていける。
『イマジン』で歌われるような、昭和の中流家庭のような生き方はできないかもしれないけど、自分達のペースでやっていこうって歌ですよね。
この曲では具体的な言葉は語られませんが、湘南乃風の『曖歌』で歌われる世界観に近いはず。
“今 二人で見ている夢には 届かないのかも それでも俺たちサイズの幸せ 探しに行こうぜ!”
湘南乃風マジで好き。途中まで最高。
マイルドヤンキー界のシロップだと思うんですよね。

“期待して あきらめて それでも臆病で 本当の気持ちだけが 置き去りになっていくよ”
「本当の気持ち」が置き去りなのは良くないのでは……!
ここのところも本音なのではないかな。
臆病だから、自分の本当の気持ちを、出すことができないままになっていくっていう。
でもそれって、この曲の中ではきっといいことであって、「本当の自分」と思っているものを捨てることも、大切な人と共に過ごすためには必要な瞬間もあるということでは。
そもそも「本当の自分」をもう信じていないとも歌っていたくらいですしね。
「本当の自分」にこだわるのをやめたいという五十嵐さんの気持ちが、ここには表れているはず。
ポップ・ソング的には「期待して」「諦めて」を肯定的なニュアンスで歌っているところも素敵。
「成功」よりも「挫折」を真っ向から歌ってくれる曲って、そんなにないですよね。

曲の最後、英語詞が入りますが、
“Will make it better”
“You take it better”
じゃないかな……どちらもYouになってるかな?
「良くなっていくよ」という肯定的なメッセージ。
いや、シロップにおいてはほんとに異色な曲ですね……。
後者は『月になって』の“君に間違ったことはなく”とかなり近い言葉では。
そう考えると、ちょっとまた深みがありますね。

4.水色の風

バンプの藤原さんがコーラスで参加しているそうです!
打ち込みっぽいビート……宅録っぽく聴こえなくもない曲ですね!

“頭は霧の雨 あの娘が気をとがめ”
頭の中にももやがかかったような状態……病気もしくは薬のせいでしょうか。
それを「あの娘」は気が咎めている……罪悪感があるのかな。
五十嵐さんがそのような状態にあるのが、自分のせいだと思っている?

“明日に身をゆだね 体を切り刻め”
「明日」はやはり未来なのだと思うのですが、未来を優先させるのであれば、苦痛に耐えろよという話をしてるのかな。
あるいは「辛い思いをしようが、明日=未来のために耐えろ」って言ってるのかな。

“光は罪の果て 視界の隅は誰”
罪を重ねることによって、ひと時光の中にいた日本を指すのでしょうか……。
あるいは、今現在、多くの罪に等しい行為を働いた人々が富を独占している状態を指す?

“痛みに吸い込まれ 力の無き夢に”
夢が力を持たなくなった時代なのか、五十嵐さんが叶えたい夢は達成することが困難なところにあるという意識何でしょうか。謎。

“それがここに今 届いたとしたら 何を言えばいい?”
水色の風って……「君」のことなんですかね。
君と今また会ったり、連絡が取れたら『何を言えばいい』って思ってるってことなのかな……。

5.Anything for today

テンポ感の上がった曲が入ってきました。
でもドラムのタイム感とか、シロップの曲ではあんまり聴かない感じで面白いですね。
そしてサビ近辺ではまた、轟音ギターが鳴り響きます。

曲の題は「今日のために」となるのでしょうか。
ということなのであれば、未来のために今日を過ごすのではなく、今日楽をするために過ごしているってはなし?

“そこには無くて そこには何も無くて イノセントなんてとっくに 放棄した”
イノセントって、「無垢」とか「純潔」の意味です。
キリスト教でもよくつかわれる言葉で「罪がない」状態を指します。
罪……犯してしまったんですかね。
五十嵐さん、セックスしまくっていた時期とかがあるのかなーとか思ったりします。
詳しくは後で書きますが……。
ただ、「無垢であれ」という教えって、結構きついものだと思うんですよね。
生きていれば、多少なりとも罪を犯すことになったり、「汚れ」ていくことがある。
シロップで歌われる曲の多くは、「汚れ」を肯定しています。
というか汚れざるを得ないということを受け入れている。

6.サイケデリック後遺症

シロップ史上まれに見る、めちゃくちゃ穏やかな曲。
サビでの爆発もなし。
ただし『吐く血』のように、サビで音がガクッと下がって、ちょっと不穏さが増す。

“夢を見せて 土曜日の午後に 舞い降りた天使は 途方に暮れた様に”
土曜の午後にも出かけずにグーグー寝ていたいよ、って意味かなぁ……。
もしくは『土曜日』のように安息日なのであれば、天使が舞い降りたけれど、地上の惨状を見て「あちゃちゃ~」って途方に暮れるんですかね。
世界シンボル辞典の「天使」の項目は以下のとおり。
“《象徴・仲介》 神と世界を仲介する存在で、アッカド、ウガリト、清書その他のテキストにさまざまな形で言及される。純粋に霊的存在で合ったり、「エーテル的な、空気のような」身体をそなえた霊であったりする。しかし人間の形を取ったところで、それは外観にすぎない。神のお使いとして、伝言を運び、番をし、星を動かし、法を執行し、神に選ばれた者を保護したりする。”

なんか、人間を守ったり、幸せを運んでくれる存在なのだと勝手に思い込んでましたけど、別に人間側の存在ではないんですね、決して……。

“子供に還る 君が微笑む 君が欲しいとせがむ”
「君」は「母親」を直接的に連想させます。
あるいは「母」のような役割と、恋人に求めたのでしょうか……。
うーん、五十嵐さんが赤ちゃんプレイとかしてたら、嫌だな……。
でももうやってしまったことがあるとしたら、五十嵐さんの過去を否定するような言葉になってしまう。
気を付けねば……。
あー、でも赤ちゃんプレイとは言わなくても、赤ちゃん言葉で彼女と喋ったりしたこと、あります。
私。
みんな、あるよね……?
一部インターネットで短い間「バブみ」なんて言葉が流行ったくらいだし……あるよね?
私だけじゃないよね?
このライン、赤ちゃん言葉で喋りかけたら、君が全然受け入れてくれたって話ですかね。
バブみがらしたかし。
いや、でも、赤ちゃん言葉で喋ったりして、笑ってくれてた彼女も、心の中では「きもちわり」と思っていたかもしれない……。
「こういうリアクションはしてくれたけど、本当はどう思っていたんだ」って問題は、考え始めるとキリがないから、よしたほうがいいんでしょうけどねぇ……。
リアクションと本音が一致している女性が好きです……。
男性には別にその感じは求めないですけど。

“あの日飾った 特別な虹を サイケデリック後遺症と呼ぶのでしょう”

いや、わからないですね……。
「虹」を世界シンボル辞典で引きます!
“《一般・媒介》 虹は、地上と天井とを結ぶ「道」であり、「媒介」である。神々と英雄たちが、あの世とこの世を行き来するのに使う「橋」である。
《旧約聖書》 聖書はもっとはっきりと虹を「契約」の具体的現れとする。「さらに神はいわれた。「あなたたちなたびにあなたたちと共にいるすべての生き物と、代々とこしえにわたしが立てる契約のしるしはこれである。すなわち、わたしは雲の中にわたしの虹を置く。これはわたしと大地の間に立てた契約のしるしとなる。“

「天使」と同じく、点と地上の仲介となる存在なんですね。

“手を上げて 届こうとして さあ出来たでしょう それだけで”
「手を上げる」の動作は、「左手上げて 横断歩道渡る」とも共通。
でも、「それだけで出来る」ことなんて、そんなにないですよね……。

7.キミのかほり

君がいてもいなくても、俺は変わらないって歌か。
でも、変われないとしても、その人といることで幸せに感じられる瞬間があるなら、「いてもいなくても一緒」ではなくて、一緒にいる意味はあると思うけど……わからん。

“君の番 やめないでいい without with or without”
意味わかんないっす!
ただ“without with or without”は、U2の代表曲『ウィズ・オア・ウィザウト・ユー』だと思うんですね。
ウィズ・オア・ウィザウトというフレーズを口にしながら、この曲を連想しないというのはちょっと考えられない。
なにせ、この曲が収録されているアルバムの一曲目を、解散発表ライブの客ハケのSEにしていたくらいなのだから……。

「君の番」っていうのは、エッチしてて攻守交替するよ、っていう話かなぁ。
あー、僕はここのところセックスしていないけど、挿入している時よりも、お互いを貪るように前戯をしてる時の方が楽しいかもしれない。
「いてもいなくても」という意味なら、君がいなくても一人で思い出してオナニーできるって話?

“知りたいんだ 引き裂いていい”
純潔を引き裂くのかな……。
疑問形でないところを見ると、五十嵐さんが、引き裂くことを容認する形なんでしょうか。

“揺れるまま 暮れるまま いいんだ もう忘れんだ 躍らせんな”
彼女のことを思い出させないでほしい、ってことなのかな……。

“無理なんだ 引き返していい?”
引き裂いていい、とはいったけれど、やっぱり無理だったって話ですかね……。
エッチはしてないけど、寸前までやったことは十代でもあったって話をしていたので、そういう話かな……。

“昼まで 横たわっていい?”
いや勝手にしたらええがな!

8.Are you hollow?
タイトルは、U2のデビューアルバムの一曲目『アイ・ウィル・フォロー』なんじゃないかなぁ……。
十代半ばで母を亡くしたボノにとって重要な曲で、歌詞は母親の視点から、息子と離れることを歌っているもの。
U2は、別れや旅立ちの歌が多いです。
前の曲で「ウィズ・オア・ウィザウト」という引用をしていたから、この二曲を並べたのではないかなと。

ホロウは、空洞なんかを意味する言葉だそうです。
記憶の中にいる彼女に対して「中身は空っぽだろ」と言っているのかなぁ……。
なんかいろんな意味で使われる言葉みたいなので、難しいっすわ。

“落ちない飛行機で 君の街まで飛んで行けたなら”
落ちる前提になってるやん。
しかし、このアルバムのジャケットの「飛行機」モチーフは、『ディレイデッド』のアートワークでは「爆破」されるという悪趣味な趣向が凝らされた。
「君の街まで飛んでいきたい」と願って乗り込んだ飛行機は、無残にも目的を果たせずに散った。

飛行機が落ちるかもしれなくて、怖い。
レインマンを思い出しますよね。個人的に……。
五十嵐さんは観たことある映画なのかな。
自閉症の兄とのロードムービーという題材なので、興味はありそうですが。

そうそう、五十嵐さんってセルビデオ屋さんでバイトしていたことがあるらしいので、映画をよく観てたんじゃないかなと思います。

なんとなく、くるりとアジカンにもこんな感じの曲があったことを思い出す。
くるりの『赤い電車』に「赤い電車は羽田から」という詞があるのですが、僕はそれを「羽だから」と勘違いしていたんです。
で、それを、初めて付き合った女の子に話したら、「私も同じこと思ってました」と言ってくれて、笑いあった記憶がある。
すごく楽しかった。
年をとると、なかなか、「私も!」って言ってもらう機会がなくなる気がします。
僕の感性が摩耗したから感じなくなったのか、彼女との出来事が本当に感動的なことだったのか、今となってはもうわからない。10年も前のことだから。
でも、その子と、音楽のどうでもよい話をして笑い合った時の「感情」って、今でも思い出せるんですよね。
なんか五十嵐さんの「過去にしかロマンがない」っていう感覚って、とてもよく分かる気がする……この歳になってから、やっと分かるようになった。

“無意識の闇から 君の姿を引きずり出せたのに 出せたのに”
無意識の闇から引きずり出して、「捨てたかった」のか、「実体化させて戯れたかった」のか……たぶん、捨てたかったんでしょうね。
結局彼女は無意識の中に住み着いたまま、たまに主人公を躍らせるのでしょう。

“常識の範囲で 君は今でも充分異常だから”
自分に向けていっている気がする……。
その「常識」ってなんなんでしょうね。

“それでも傷つくのは そう 言われて気付くような事 なぜ消えない?”
シロップの曲では、他人からの指摘を受けて、自分が思っていた「自分」とは違う人間性を持つ「自分」に気付かされますね。
ただ、それで「傷つく」のは、自分で自分を客観視できているのだと強く思い込んでいたからでしょう。
“言った記憶ない程度の重症”なんでしょうね。

9.落堕
めっちゃ好きです……。
一時期ウィキには、坂口安吾の『堕落論』から取られたネーミングだと書かれていましたけど、個人の考察なのか、五十嵐さんの発言を基にしたのかわからないんですよね……。
僕は、ニーチェの『ツァラトゥストラかく語りき』(『こう語った』とも)に出てくる「駱駝」なのではないかと思います。

この本の中で、人間には三段の変化があると語られます。
駱駝・獅子・幼子……とあるのですが、駱駝は、重いものを背中に乗せられて立ち上がらない状態です。
(その状態でいろいろ学ぶのだ、というのが論旨のようです)
この曲は、重みに負けてそのまま立ち上がろうとしない駱駝を歌っているのではないかなーと。

“ラクダみたいな顔して 欲望は狂犬みたいで”
『フリー・スロー』のアートワークでは、五十嵐さんは自分の近影をラクダの写真にしていたので、よほどラクダにシンパシーがあるのでしょう。
けど五十嵐さんそんなに欲がないから、ここでは、駱駝みたいな、他の人々を揶揄しているのでは……五十嵐さんの顔、ラクダっぽくないし。

“解り切ったような事言って 一人悦に入ったりして”
「悟ってそうなこと言え」という揶揄は、自分にも向けられていたんですね……。

“ねえ いつ髪切んだ いつでもいいんだ どうでもいいんだ”
どんどん、どうでもよくなっていく歌詞の展開のうまさに脱帽。
マジでカッコイイ。
これは髪だけじゃなくて、いろんなことに言えるんでしょうね……「楽したい」って言い切ってた人だし。
バイト先とかで「髪きれよ」とか言われてたんですかね。90年代、00年代、ロン毛の男性多かったな……

ザ・スミスの楽曲に『ハウ・スーン・イズ・ナウ?』という曲がありますが、タイトルを約すると「『今に』っていうけど、それはいつくるんだ?」といった感じでしょうか。
『落堕』のこのセンテンスは、この曲の影響もあるのかな……と思ったりします。
歌詞のコーラス部分を引用します。
“「今」にそうなるって言うけど
その「今」って正確にはいつなんだい
いいか 僕はもう待ちくたびれたよ
今じゃ希望のかけらもなくなってしまった“

ちなみにこの曲、ロシアのレズビアン・ボーカルユニットのタトゥーがなぜかカバーしていました。(レズビアンの振りをする、っていうやり方、今の時代だったらできませんよね……)

収録されたアルバムのプロデューサーが、イギリス人のトレヴァー・ホーンだったからなのかな……。
シロップに全然関係ないんですけど、トレヴァー・ホーンが作った『ラジオスターの悲劇』という曲、めちゃくちゃ良いので貼っておきます。
天才てれびくんでもカバーされていたので、聴いたことがある人は多いはず。

“明日また熱出そう 熱出そう 寝不足だって言ってんの”
これ、「バイト休む」ってことでしょ……仮病をちゃんと歌うロッカー、なかなかいないです。
ホントに好きだわ……。
「寝不足」って、寝ろよ!
と言いたいけど、睡眠薬を服用して入るっぽいので、あんまり言えないっす。
眠りたいのに寝れないって、つらいですよね。
私は逆に、寝たくないのに、睡眠時間多く取らないと頭が働かないので、逆に辛いです。
仕事中に寝落ちしかけることもあります。

“アブノーマルな事して 吐き気もよおしたりして”
セックスの話だよなぁ……。
宮台真司さんは、ヤリチンだし、いろんなセックスをしまくっていることを本の中に書きまくります。
そんな宮台さんの本を読み漁っていたわけなので、五十嵐さんもいろんなセックスの知識をもっているはず。
それをトライしようとしたけど、できなかったってことなのかな……。
それとも、成功させたけど、あとあと気持ち悪くなっちゃったってことなのかな……。
汚れたいだけ。

アウトロでなにか英語をつぶやいていますが、なんと言っているのか聞き取れません……。

10.愛と理非道
『フリースロウ』の方で語ったので割愛!
キーボードぽろんぽろんのナンバーになっています。
「黄昏ちゃってる」というモードなこのアルバムを象徴するような曲。
ただ、もともとのアレンジが『汚れたいだけ』と酷似しているから、アレンジを変えざるを得なかったんでしょうね。
「アブノーマルなこと」のあとにこの曲が来ると、なんか賢者タイムっぽくなって、いいですね(笑)。
シロップは曲のアルバムの並びも面白いっすよねー。

11.リボーン弾き語り
この時点で弾語り曲が収録されているということは、リリース後に人気に火が付いたことは確かだとして、それ以前からメンバーにとって特別な曲のひとつだったということでは。
五十嵐さんにしては珍しく、歌声にビブラートを効かせている。(僕がちゃんと聞いてないだけで、珍しくないという可能性もある……)
これもやっぱり、トム・ヨークの『クリープ』に近づけようとした結果なんじゃないかなぁ……。
ビブラがらし隆といえよう。

ちなみに、「あまりに素晴らしいアコギ弾語りバージョンをリリース」するところなども、クリープと同じです。(まぁ、よくあるっちゃよくあることだけど)
こうして考えると、やっぱり、リボーンって『クリープ』を下敷きにしたんだろうなって尚更思う。
あの曲も、「お前は素晴らしいよ」「けど俺はキモメンやねん(´;ω;`)(クリープはキモイって意味)」って歌ですからね……。
リボーンで歌われたポジティヴな部分に、五十嵐さんは「でも俺はそこに入れないっす……」とちょっとしょげているのでは。

五十嵐さん、田中宗一郎さんから「日本のスミス」と評された時に「僕にはジョニー・マーのような人はいませんでした」と回答していたけど、ジョニー・グリーンウッドのような人がいなかったともいえるはず。
レディオヘッドのギタリスト(ほかいろいろ)のジョニーが超天才なのは今更語ることでもありませんが、彼はトム・ヨークがアコースティックの美しい曲として作ってきたクリープに「なにこの歌、キモッ……そうだ、ディストーション・ギターでぶち壊してやろう!」と、コーラス部分をあんな感じにしたと言います……。

すごいバンドって、一人の天才によってつくられるにあらずなんですよね……二人以上の才能がせめぎ合うことが多い。
どちらもジョニーですね……。
クリープも、「ニルヴァーナのパクリじゃねーか!」と、リスナー・評論家、はては同世代のミュージシャンからも叩かれまくったバンド、レディオヘッド……今では押しも押されぬ天才音楽集団ですものね。

・おまけ 『ディレイド』が好きな人が気に入るかもしれない作品

レディオヘッド/『イッチ』
日本独自規格盤。デビューから、2ndアルバム『ザ・ベンズ』の直前頃までのライブ版・B面曲などを集めたもの。(あっ……「日本独自企画盤」って言葉を、若い人は知らないですか……? 日本で人気が出た海外のミュージシャンの、国内では入手しにくいテイク等を集めたものがリリースされることがあったんですよ。景気の良かったころは)シロップの方向性を決定づけた『クリープ』のアコギ弾語り版収録。『クリープ』の最もすさまじいテイクは、これでは。天才にしかたどり着けない高みを見せつけられている気分。トム・ヨーク、歌上手すぎ。ちなみに、Spotifyをざっと検索してみたところ、この音源が見当たらず……。なんでや。

ザ・ビーチ・ボーイズ/『サーフズ・アップ』
喪失感漂うアルバムとして。もちろんビーチ・ボーイズを聴き始めるなら、初期の作品をオススメしますよ。いきなり『スマイル』や『ペット・サウンズ』をききはじめるより、初期の軽薄な西海岸ビーチっぽいのから聴いて欲しいです。ブライアン・ウイルソンの死と再生は映画にもなっていますけど、五十嵐さんの道程のような面白いですよ。五十嵐さんにも、こんな人がいたならなぁ……。

チャプター・ハウス/『ワールプール』
シューゲイザーバンド。電子音の導入もけっこうやっていたのはユニークなポイントと思われます。これを入れるか、ライドかハウス・オブ・ラブかで悩みました。私はシューゲイザー、全然知らないのです……。

ベック/『シー・チェンジ』
創作能力のピークと、長年の恋人との別離が重なってしまった奇跡のアルバム。レディオヘッドとの仕事で名をはせたナイジェル・ゴッドリッチのプロデュース。ちょっと聴いたことのない、異次元の音作り。聴けば聴くほど、そこのない悲しみの海に沈み込んでいく。

P-MODEL/『Perspective』
メジャーデビュー以降、相次いでメンバーが抜けていき、最後に残った平沢先生が突然凶暴化したアルバム。ニューウェーブから、ポストパンクへの移行。平沢先生、病んでいます……。歌詞も、猟奇殺人犯の趣があります。

 - Syrup16g, 音楽

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