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ヒプノシスマイクについて(3) 日本でもヒップホップが面白くなってきているので……

      2020/04/02

ヒプノシスマイクについてのエントリ、第三回目です。

前→ヒプノシスマイクについて(2) ヒップホップとしてどうなのか

・ファンからの投票によって勝敗が決まるシステム
ヒプノシスマイクに限った話ではないのですが、「投票によって勝敗を決定する」というシステムがすげー嫌です……。
AKBに端を発しているものかとは思うのですが、金を巻き上げるための悪徳商法やんって想いがずっとあるんですよね。
その商法を醜悪に感じているのは僕だけではないはず。
特にヒプノシスマイクについて思うのは、作り手たちが曲の優劣を決める気がないというところが嫌なんです。
作ったものに対して責任を持つ気がないっていうところ。
もちろんヒプノシスマイクはプロジェクトであって、曲一つ一つやキャラクター一人一人コンセプトが違います。
曲ごとに制作するクリエイターも違うので、そこをプロジェクトの責任者(シナリオライターなのかディレクターなのかわからないですけど)がどちらを勝者にするのか決めると角が立つし、敗者のファンからも恨まれそうですよね。
けど、作ってる人間が責任持てよ。
AKBの選挙は純粋に人気投票だから、メンバー一人一人が「どれだけ人気を得ることができたか」で決まります。
けどヒプノシスマイクは、キャラクターを作るのも曲を作るのも、制作者がいるわけですから、作った人間が責任を持つべきではありませんか?

まぁ、ファンから金を巻き上げて推しを勝たせるというシステムが純粋に好きではなかったのです(笑)。
日本って「客に買ってもらう」ために、売り方を工夫するのではなくて、ものづくりの方法論自体を寄せていっているように思います。
狭い市場で食ってくために頑張らないといけないんで、大変なんでしょうけどねぇ……。
それが日本のクリエイトの現場に感じる嫌悪感の源なのですけど……。

まぁ、「クリエイターは作ったものに責任を持て」っていうのも、僕がクリエイター至上主義みたいな考えを持ってるから思うことなんでしょうね。
今の日本のエンタメって、一人のクリエイターの個性を際立たせるよりも、二次創作や・複数のクリエイターが参加しやすく(薄く)作るようにしているのだろうし。

・ポップミュージックの中心はR&B・ヒップホップに移行している
ここからは音楽シーン全体の中で見たヒップホップの現象と、そんな中でのヒプノシスマイクについて書きます。

海外ではヒップホップとR&Bが音楽市場で最も多く聴かれているジャンルになりました。
それは売り上げの数字にハッキリと表れています。
もう、ロックの時代ではないんですよ。
すごい話です……僕はこんな未来が来ること、想像できませんでした。
音楽表現も新しいものがどんどん出てきていて 海外の音楽を追いかけていると、まったく飽きない状況です。
それどころか、ずっと興奮していられるくらいです。
そこに対して、ヒプノシスマイクの曲の、フツーさ……。
有名なクリエイターも参加しているようなので、クオリティ自体は低くはないんですけど、音がキンキンしてて「アニソン寄り」な感じになっているのがちょっと……好きじゃないんです……。
声の良い男性声優が攻撃的なこと言ってればいいんでしょ? とか思っちゃいます。
トレイラーを流し見しただけなので、あんまりちゃんと聴いていないんですけど。へへへ。

海外でヒップホップやR&Bなどの黒人がけん引する音楽がメインストリームとなってきた時代だからこそ、こういう、ヒップホップの『ガワ』だけ持って来たような商品が出回っていることに嫌悪感があるんです……。
ケンドリック・ラマ―はピューリッツァー賞の音楽部門を受賞しているし、チャンス・ザ・ラッパーはメジャー流通をしないままグラミーを受賞しているという……こんな時代が来るなんて想像できませんでしたでしょ。
近年では、社会的なメッセージを持つヒップホップは再び増えてきています。
「黒人差別はなくなってきた」と思われていたにもかかわらず、全然なくなっていなかったということが社会の共通認識になっているからです。
白人警官による、一般の黒人への暴行や殺害などの実態も露わになっています。
これらは以前から慣習的に行われていたと思われることですが、スマホの普及によって一般人がSNS等で広めることで発覚してきたのです。恐ろしい話です……。
日本では、ソロ曲の『ハッピー』で知られるファレル・ウイリアムスですが、自身の幼なじみと活動しているN.E.R.Dというバンドでこのことに対する怒りの曲を発表しています。

この『Don’t Don’t Do It!』は実際に起こった事件にインスパイアされて作られた曲です。
タイトルは、無実の旦那さんが目の前で射殺されようとしている時の奥さんがあげた悲鳴です。
ここでもケンドリック・ラマーが客演で参加して、素晴らしいラップを披露しています。
ヒップホップがメインストリームとなったことと、社会的な意義が見直され始めていることは、おそらくリンクしているはずです。
……という機運が興る中でも、日本では音楽を「文化」として扱わない商品が多くて嫌なんです。
ヒップホップに関しては特にそう感じます。
僕にとってはブルーハーブの初期作品が聖典みたいなものなので、ヒップホップが軽く扱われているとイラッときてしまうのです。(我ながら、めんどくさい奴だとは思いますけど……)

・日本のヒップホップが面白くなってきている
そんな世界の時流と同調するようにして、日本のヒップホップシーンもとても面白くなってきています。
ラップやラッパーにスポットライトが当たりがちですが、本当は、日本ではヒップホップ全体がこれまでにないくらい盛り上がっているんです。

僕がKOHHのファンだということは軽く触れましたが、彼の活躍はまさに快進撃といえます。
参加した曲が海外でバズっていたことはもちろん、フランク・オーシャンの楽曲に客演で呼ばれたりしましたね。

噂によると、本格的な海外進出の計画も進んでいるとか……。
日本で、宇多田ヒカルとフィーチャリングしたことが話題になっていましたが、全然そこに留まらない人ですよ。

あとSKY_HIがいいんですよ。
僕は彼のことは長年存在を認知していたけど「どうせアイドルの副業でしょ」と高を括って全然聴いていなかったんです。
それが去年、田中宗一郎さんがツイッターで彼の名前を挙げていたので、曲を聴いてみたんです。
そうしたらめっちゃ良かったです……いろんな意味で本当にすごいです。

僕はこの二人のカリスマ性ってとんでもないものがあると思います。
コアなヒップホップファンからしたら、他にももっとすごい人がいそうですけど……。
ゆるふわギャングとかバッドホップも、非常に面白い存在だと思います。

KOHHもSKY_HIも、それぞれめちゃくちゃ語りたいところのあるアーティストではあるんですが、それはまた別のところで書くとします……。
こういう風に、日本のヒップホップシーンって、かなり面白くなってきています。
そんな中で、ヒップホップの文化を踏みにじりつつオイシイとこ取りをしてお金を儲ける人がいるのが嫌なんですよね。

そうそう、「ヒップホップでお金を儲けるのは悪いことか?」という点についても少し書きたいと思います。
ヒップホップは金持ちになるための手段でもありますからね。

・メイクマネー
海外ではヒップホップは金のこと歌いまくりますけど、日本だとどうでしょう?
もちろんちゃんとしたヒップホップではお金のことをちゃんと歌いますが、メジャーというか一般リスナーウケしているグループではお金のモチーフが少ないと思います。
(一般リスナーって言葉が2018年現在有効か? と考えたらそうでもないですけどね)
ヒップホップにつきものの「メイクマネー」がない。
(まぁ僕はよくわからないんですけど、このヒプノシスマイクの世界観はちょっと特殊な感じなんですよね? そこに関してはマジで興味がないんですけど……)

ただここ日本だと、貧しい出の人間が音楽を生業にするということがあんまりなかったと思うんです。
それこそ90年代に日本語ラップが興り始めた頃なんて日本は金持ちだったわけで……。
ブルーハーブなんかは全然お金がない生活を歌ったりしていましたが、それは夢を叶えるための代償として金を払い続けていたというニュアンスです。
貧困ではありません。

ですが近年、日本でも、貧乏だった幼少期を歌うラッパーが増えてきました。
一番象徴的だと思うのはKOHHです。
もちろん彼が登場する前にも、そういったモチーフをラップする人はいましたが、本当に面白いと思うのは、彼が東京出身だということですね。
KOHHは貧乏だったこと、父がオーバードーズで亡くなったこと(とKOHH自身は勘ぐっている)、母親が精神科通い&ドラッグの依存症だったことなど、かなり過酷な環境から出てきたことを頻繁に歌っています。
そんな出自を持ちつつも、彼の曲はそんなにドープなものではなくて、ラップするのはチャラくて軽いチョイ悪お兄さんの日常が多いです。
しかしそんなチャラいヤリチンの彼がたまに歌うシリアスな曲が本当に良いのです……。(アルバムが一枚まるまる重たいテーマなこともありますね)
(KOHHの場合、自分の出自を提示するやり方が本当にうまい。彼は構成力と、自分の立ち位置を把握しつつ見せていく演出の能力が本当に高いと思います)
彼を見ていると、自分をリプレゼントすることの本当の素晴らしさを感じさせられます。
KOHHの「貧乏なんて気にしない」という曲なんて、美しすぎるでしょう……。

彼がただチャラいのではなく、様々なトラウマを抱えながらも、前を向いて進もうという強い意志を持って生きていることがわかります。
これって日本の格差社会の先駆け的な出自を持っていたということだと思うんですね。
彼が過去に経験した悲しい出来事は、貧困に端を発している部分が見てとれるからです。
で、日本が「一億総中流社会」と言われていたのがはるか過去のことだと証明してもいると思います。

日本でラップが興隆してきた90年代初頭から半ばって、言ってもまだまだバブルの残滓があって金があった時代だと思うんです。
その頃のヒップホッパー達って、金がないわけでもないのに、スタイルだけヒップホップをやっていたって側面があると思うんです。
(良くも悪くもジブラってそういう人だったと思いますし。ジブラのやってることって、何につけても「良くも悪くも」な側面がありますよね……今回みたいなフリースタイルダンジョンによるラップブームとかもまさにそう)

ただ同時に、ヒップホップって、売れるにしても「自分を曲げずにやりたいことをやる」ということが求められるジャンルのように思うんですね。
「セルアウト」という言葉が最も多く使われる音楽業界はヒップホップだと思うし、みんな「セルアウト」する奴らへ目を光らせているんですね。(足の引っ張り合いが多い、という言い方もできますが……)

・ やっぱり「キャラソン」が好きじゃない
これはヒプノシスマイクに限った話ではないんですけど……。
僕はそんなに詳しく探っていませんが、フリースタイルダンジョンって、ラッパーたちの「キャラ」を含めて楽しいみたいなファンが多いですよね?(多分…)
私も、映画や音楽を鑑賞するときに、製作者の人となりと併せて考えながら楽しむことがあります。
製作者のこういう個人的な経験が、作品のこういうところに反映されているな……って考えたりとか。
けど、「人」として掘り下げるのか「キャラ」として親しむのかではちょっと違うような気もするんですよね。
「キャラ」って平面的で人工的で計算されたものですけど、人間って変化するし、捉えきれないくらい深いし、複雑で多様ですよねぇ。
キャラってわかりやすく一面的に作られているものが多くてなんかあんまり好きではない感じがあります…。(ギャップとか意外性は入れているとしても)
なんか、「私の方が深みのある楽しみ方をしています」って感じの書き方になっちゃって嫌なんですけど……まぁ思ったことを率直に表すと、こういうことになります。
ただのキャラソンであれば別にその程度でもいいのでしょうけど、深い表現を追求し続けている人たちが使っている「ラップ」でそれをやろうとしているのがちょっと嫌なんすね……。
僕はファンキーモンキーベイビーズが嫌いなんですけど、ああいう、潔く「ポップ」としてやろうとしているならわかるんです。
けどヒプノシスマイクの嫌なところは、ラッパーたちが築き上げてきた「カッコイイ」イメージを流用する形でやっているところなんですよね。

ヒプノシスマイクの紹介記事とトレイラーを見て思ったことは、だいたいこんなところですね。

・おわり

まぁヒップホップに何も関わりのない僕みたいなのが、「キモいヒップホップファン増えたら嫌だなー」なんて思っててもしょうがないんですけどね。ははは。

もちろん、わざわざ首を突っ込んで文句を垂れるのって、嫌がられることだとは思います。
ヒプマイを好きな人からすれば「じゃあ見に来なきゃいいじゃん!」って感じですよね。
言うても私自身がここで書いてることも理論がガタガタで、ヒプマイに詳しい人からの突込みとか、ヒップホップに詳しい人からの突込みとか入ってきそうですね。。。
けどご意見をいただいたとして、その意見から勉強させてもらえれば、自分自身が成長できるし、思想の強度を高めることもできますね。
ファッキューメーン!

……ヒプノシスマイクのテイザー映像を見ただけの知識だけでこのブログを書き終えてしまいましたけど、スポティファイに曲があがってるんですね……知らなかった……。
一応そのうち音源も聴いてみることにします!
音源が超カッコよくて掌返したくなったら、また別のエントリを書きますね!
ファッキューメーン!!

次→ヒプノシスマイクについて(4) 実際聴いてみての感想

 - ヒプノシスマイク, 音楽

Comment

  1. アヤ より:

    コメント失礼いたします。
    ヒプマイのある一曲がLimpにちょっと似ているなあと思って検索をかけたら田中さん (間違っていたら申し訳ありません~_~; ) のブログを見つけました。
    ヒプノシスマイクをご自身の音楽的知識を駆使してここまで深く考察なさっている方がいるとは!! 驚きました。色々と勉強になりましたし、興味深い内容で楽しく読ませていただきました! ありがとうございます。

    • gntnk より:

      アヤさん
      コメントありがとうございます!
      やっぱり、Limpに似てるやつありますよねぇ(笑)。
      僕が書いたものが少しでもお役に立てたなら幸いです。
      またぜひ読みに来てください~

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