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LOVE【3D】

      2020/03/07

4月2日に、ギャスパー・ノエ監督の最新作『LOVE【3D】』を観てきました。
長編監督としては98年に『カノン』でデビューし、LOVEで4作目という寡作な作家ではあるのですが、全ての作品が暴力やセックス描写が過激なことで知られています。(ある作品では、登場人物がレイプされるシーンを10分近くのワンカットで描写していたりします)
LOVEもタイトル通り3D映画として制作されていて、公開前から史上初の3Dポルノ映画として話題を集めていました。(史上初だったっけ……違うかもしれません)
僕はギャスパー監督の長編しか鑑賞できていないのですが、どの作品も大好きなのでLOVEの公開も心待ちにしていたのでした。
ちなみにギャスパー監督の好きな作品を順位付けすると、1位がアレックス、2位がカノン、3位がエンターザヴォイドとなります。

LOVEの概要。
結婚して子どもを持っている男のもとに、昔の恋人の母親から電話がかかってくる。
「彼女と連絡がつかない、あなたはなにか知っていないか」
その電話をきっかけに、男は、彼女と過ごした日々を回想しはじめる……というストーリー。
そして公開前から話題になっていたのは、濃密なセックスシーンの乱れ打ち、しかも3D!
ということでした。
僕は気になる映画については事前にほとんど情報を仕入れないで観賞に臨むほうなので、知っていたのはこの程度でした。
あと、
『愛は善悪を越える』
『愛は精液、体液、そして涙―――』
というキャッチコピー。
これは秀逸ですね!
日本の配給会社、良い仕事するじゃん! って思ったのですが、作中に台詞として出てきますね。
ギャスパー監督良い仕事するじゃん!

映画は4月1日公開開始で、僕が観に行ったのはその翌日の土曜日でした。
場所は渋谷ヒューマントラストシネマ、16時からの回。
めちゃくちゃ混んでるだろうなーと思っていたのですが、観客は20人程度……。
想像していたよりも少なかったです。
日本でギャスパー監督の知名度が低いのは知っていましたが、「史上初の3Dポルノ映画」という最強に近い惹句があったのでみんな観に来ると思ってた……。

3Dメガネをかけると画面がめっちゃくちゃ暗く見えました。
これがヒューマントラストシネマの設備およびメガネの問題なのか、フィルムがそもそも暗いのかは、断定できません。
しかし上映中、眼鏡をはずしてみると、普通の明るさ見えたので、多分メガネの問題だと思います……。
あとスクリーンが小さいのも原因だったかもしれない。

あとこの映画のパンフレットですが、公式サイトと内容の重複が多いです。
パンフでしか読めないのは、「ライターさんの寄稿」「松江哲明監督との対談」「監督インタビュー」だけですね。
公開が小規模の作品に多いですが、700円以上出してパンフレットを買ったのに、ほとんどの情報がネットでただで読めるという状況はつらいですね。
もちろん予算が少なく、興行収入をあまり見込めない映画のパンフレットにかけられるお金には限界があるのでしょうけど……。
僕は観た映画のパンフはほとんど買うようにしていますが……。
このブログでは今後も、「この映画のパンフレットは買いかどうか」について書いていきます。

公開前にちょっとだけ話題になった、LOVEのモザイク処理について。
この映画は日本では、モザイクが掛けられてしまっているのです。
なぜ日本では映像上で局部を映してはいけないのか」と憤っております。
日本製のアダルトビデオをおかずに育ってきた僕としては「言ってもまぁそんなに気にならないだろ」と思っていたのですが、気になりまくって死ぬかと思うレベルでした。
まず、モザイク濃すぎ&大きすぎ。
ペニスがどこにあるのか、わからないレベル。
アダルトビデオでは「ギリモザ」「薄モザ」などの技術が発展しており、他国の追随を許さないレベルで気にならないモザイク処理が可能なのです。
そんな科学の恩恵に浸りまくっていた僕には、映画業界のずさんなモザイク処理技術に我慢なりませんでした……。
もっと頑張れよ配給会社……。
もともとまる出しを映し出すことが前提で作られた映画に、モザイクを掛けないといけない。
配給会社だって好きでやってることではないでしょう。
しかし、AV制作会社とかに頼めば、限界まで小さい&薄いモザイク処理ができたかもしれないじゃありませんか。
ソフトオンデマンドに頭下げて、モザイク処理やり直してほしい。

ところで、中盤の、かなり重要なシーンで流れる楽曲について……。

ファンかデリックというバンドの『マゴット・ブレイン』という有名な楽曲です。
10分近くある曲ですが、ほとんどフルで流れていた記憶があります。
この曲はバンドの首謀者ジョージ・クリントンが、ギタリストのエディ・ヘイゼルに向けて
「お前のママが今ここで死んだと思って弾いてみろ!」
と言い放ち、弾かせたというエピソードがあります。
結果は聴いての通りで、まさに「泣き」のギターが展開されます。
LOVEは、ギャスパー監督の母親が亡くなってしまったことが色濃く反映されているといいます。
この選曲はおそらく偶然ではないでしょう。
それは物語の構造上でも、このセックスシーンではエレクトラがどこか母性的な振舞いをしていることからもわかります。
ギャスパー監督も音楽のチョイスのセンスは本当に素晴らしい。

ここから具体的な内容には触れないけどちょっとネタバレしていきます。

主人公の現在の生活と、過去の恋人と共に過ごす時間が交互に描かれるさまは、恋愛トラウマえぐり出し映画の金字塔として名高い『ブルーバレンタイン』に近いものがあるかもしれません。
具体的なストーリー展開よりも、登場人物の会話劇に重点を置いている部分もそう。
また、どちらも映画も役者の即興性が試されるかのように台本がほとんどない状態で撮影が進んでいったようですね。似てる。

前作エンターザヴォイド、前々作アレックスと、ギャスパー監督は映画の中で時間の概念を崩す構成を好みます。
エンターザヴォイドでは主人公が神の視点になり、自分にかかわる様々な場所と時を俯瞰していきます。
アレックスでは、物語のラストシーンから始まりのシーンへと移り変わってゆくという、僕たちが近くする時の流れの真逆の攻勢になっています。
LOVEもやはり、現在から未来への流れを道順通りに描く作品ではなかったのですが……正直な話、この構成が作品の面白さに貢献しているような感じがあんまりしなかったです。
エンターザヴォイドでは、ドラッグによるトリップを表現しようという意図を感じたのですが、それがあのクッソ狂ったカメラワークとも相まって効果を上げていたと思うのです。
そしてアレックスは、最初に絶望的なシーンを見せて、その会話から、遡っていっても悲劇しかないんじゃない……? と思わせたところに、どんどん恐ろしい事実をぶっこんでくるという巧みな構成だったと思うのです。
最初に「こいつらは全員どん底に落ちる」と分かっているから、どんなシーンを見てもめちゃくちゃ辛いわけですよ、観ている側は。
ていうか、映画の冒頭に前作の主人公を出して、結末の後に不幸せになったという独白をさせるという、鬼畜の所業としかいいようのないネタまであるわけだし……。
LOVE、観ている最中は、そんなテクニカルなことばかりしてきた監督が、シンプルなシナリオ作りに回帰したんだなー……とか好意的に捉えようとしたんですけど、無理でした!
シナリオに関しては期待を下回ってました!
すみません!
正直な話、一番最初の「彼女が行方不明だ」って出来事が一番ショックだと思うんですよ。
アレックスの場合、「平穏な生活」が最後に来ることが一つの悲劇なわけじゃないですか。
それが理不尽に、完膚なきまでに破壊されることがわかるから。
「時系列崩し」を用いたストーリーは古今東西様々なものがあるので、ただ「真逆に描く」というのは趣向を凝らした作品とは言えません。
けれどアレックスがすごいのは、真逆に描かれることで絶望が深まるし、(悪い意味で)盛り上がるシーンもちゃんとクライマックスに配置されているってところにある。
LOVEは、時系列順に構成していた方がドラマとしての精度が高まったのではないかと思います。
三人が初めて食事に行ったシーンとか、タクシーの中でケンカするシーンとか、短い台詞のやり取りなのに人物のバックボーンががっちり伝わってきて本当に凄いと思うのです……。
この構成を選んだ意味があまりわからない。
監督が「もっともメランコリックなもの」とLOVEを語っていますが、自分の描きたいものであると、かえって、ストレートに表現することに気後れしてしまうところがあるのかもしれませんね。
登場人物に自分の名前を付けていたり、自分が出ていたりするところを見ると本当に個人的な表現の多い作品なのかも。

3D映像について。
これもぶっちゃけ、僕は、そんなに面白いものとは思えませんでした……。
「あの天才ギャスパー監督が、3Dでセックスを撮るとかどんなんやねんな!」ってめっちゃ胸を膨らませていたわけですよ……多分この映画を観る直前の僕の胸はDカップくらいまで膨らんでいたと思います。
3Dで見るセックス、別に、特別すごいことは何もありませんでした……。
あと、映像の撮り方自体にも変化が生じています。
まず「3Dカメラが重いので動きの少ないゆったりした映像にした」と監督が語っています。
横の移動が多いと吐き気がするので、カメラを縦に移動させるシーンを多く作ったとのこと。
監督自身も、3Dでの映画製作は手探りで進めていったということですね……。
監督の必殺ともいえる、ここぞという場面でのトリッキーなカメラワークが今作ではほとんど見られませんでした。
縦の移動が多いというのは、ビフォア~シリーズを想起させました。
この「映像にびっくりしなかった」感は、メガネの質の悪さやスクリーンの小ささのせいかもしれません……。あとモザイクね。あれはマジで本当に辞めてほしい。モザイク濃すぎ&デカすぎ。あほか。

あとセックスシーンで、耳舐めシーン多くないですか? 対して、男が乳首を舐められるシーンはほとんどない。ただの監督の性癖なのでしょうか……。
男が乳首を舐められるという行為について、欧米ではどのようなこととして捉えられるものなのでしょうね。
乳首を舐められて喜ぶのは男らしくない、という考えはあったりするのかなー。

青年が、自分よりセックス経験の多い女性に恋して、嫉妬してしまう……というモチーフとか本当に好きなんです。
そして女性の要求がハードになっていってしまうというのも。
エレクトラは結局父親をはじめとする、家族との間にトラウマがあったということなんですかね……。

LOVE、以上です。

 - 映画

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