私的ベストアルバム邦楽編 150-121
2020/03/29
自分の生涯ベスト作品をランキングの形式でリストアップします。
固有名詞多めのエントリを作ることによって、サイトに検索流入してくる人を増やせるかなぁと思って……。
あと、自分という人間を知ってもらうためには、自分の好きなもののことを書いておくと効果があるかと思いました。
ランク付けの基準は、「好き」というものです。
この企画はSNOOZER誌の「日本のロック・ポップアルバムランキング」をパクっていますが、あちらとは違い僕は批評的な軸を持っていないので、シンプルに「好き」度の高さで決まります。
ただ、「好き」という感情も、それはそれで複雑なもので、「他の人がやってないことをやっているから好き」だったり、「他の人があんまり知っていないから好き!」になってしまうこともありがち……。
まぁ、完全主観で、「好き」が作られているわけです。
当たり前の話ですが……。
作品のどこが好きなのかは、紹介文の中で書いていきたいところ。
書いていて気づきましたが、音楽の「音が好き」「思想・言葉が好き」と、大きく分けて2パターンあるのですが、音が好きなアルバムと意味が好きなアルバムを並べようとすることに無理がありますね……。
文中における僕の「音楽ライター風に書きまっせ」的な文体はかなり痛々しいものがあるのですが、書き直している時間がもったいないので、そのまま公開します。
順位を決める作業が、始める前に思っていたよりも難しいものでした。
そもそも、スヌーザーのランキングに挙がっていた150枚のディスクも、すべてを聴くことはできていない。
しかし、いわゆる『名盤』を全て聴き終えることができるまで待っていたら、永久に終わらないです。(アキレスと亀ですよね)
というわけで、僕がこれまで聴いたことがあるアルバムの中で、好きなものをランキングにしてみました……ということになります。
雑ですね(笑)。
けどこうするしかなかったですね。
ただ、ポップ・ミュージックのリスナーになってから15年ほど経ちましたけど、良い音楽を見つけたい! と思いながらミュージシャン漁りをしてきたので、聴いてきた音楽の数はまぁまぁ多いほうかなと……。
自分自身、ランキング付けをするにあたって、好きなアルバムを丸ごと聞き返したりして見て、再発見することなどもあったりして、楽しめました。
また、オリジナルアルバムではなく、いわゆる『編集盤』をランクインさせるのはどうかとも思ったのですが、スヌーザーのランキングでも岡村靖幸さんの『早熟』が入っているし、ローリングストーン誌が作った史上ベストアルバム企画でもベスト盤が多く入っているので、まぁいいんじゃないですかね。
また、あくまでも個人的な愛好度数をランキングにしたものなので、今後新しく出会った作品を好きになったら、順位は変動すると思います。(けど一つ変動すると、数字を振り直さなくてはいけないので、だいぶ面倒です……(笑))
もちろん、せっかく紹介コメントを書くので、それを消すのはもったいないと思います。
ランク外へ行くアルバムについても、紹介コメントは残しておくなどの処置はします。
そういうわけで、そんな感じで捉えていただけるとありがたいです。
いくつかのアルバムでは、そのアルバムが好きな人が気に入るかもしれない他のアルバムを「おすすめ」として書いています。
しかし思いついたものだけ書いて、そのまま放置してあるので完成していません……。
そのうち思いついたものから書き足していくかもしれません。
これはもちろん、SNOOZER誌のムック本『あなたのライフを買えるかもしれない300枚のレコード』のマネがしたかったんです。
年間アルバムランキングの紹介と、そのアルバムに近いフィーリングを持つ他のアルバムを2~4枚くらい紹介するという、面白すぎる構成の本でした。
洋楽のアルバムに邦楽を紐付けたり、邦楽のアルバムに洋楽のアルバムを紐付けたりしていて、すごく参考になりました。
高校2年の時にあの本に出会ったことは、僕の人生にとって重要な出来事だったので、パクリたくなったわけですよ。
それぞれのアルバムについて、自分の感想や考察、未聴の人へ向けたおすすめのコメントなどを書きたいのですが、ランキングのページに載せてしまうとめちゃくちゃ長くなってしまいます。
なので、このページには『このランク付けをした理由』を書くのに留めておき、それぞれのアルバムの独立した紹介ページへのリンクを貼っておくことにしました。
ちなみに、まだ全てのアルバムのコメントは書けていません。
一枚につき千文字のコメントを書くとしたら、十五万文字ですよ。すげー。
ちなみにこのランキング企画、今回の『邦楽』に続いて、『洋楽』『邦画』『洋画』と続きます。
それぞれトップ100としているので、それぞれに千文字のコメントを書くとしたら、三十万文字になりますね。
完成まで何年かかるのでしょうね……(笑)。
そーいうわけで、頑張ります!
150 夏川椎菜/ログライン(2019)
声優アイドルグループのオーディションから業界に入り、アイドルゲームコンテンツで演技・歌唱を担う彼女が自身の名義でリリースした最初のアルバム。
ビリー・アイリッシュにも通じる、「抑圧されているのにどこにも発露できないティーンエイジャー」の生の声が表現されている。
主な詩のモチーフは、自ら望んで成ったものの、「アイドル声優」という偶像を演じることで生まれたフラストレーションと、うまくいかなかった十代に記憶と、それをバネにして成長しようという強い意志。
「本音を言えない」という生来の性格と、職業上の立場が、彼女に抽象的な詞を書くスキルを編み出させたはず。
音楽的には特筆すべき個性はないが、本作では夏川自身が作詞した曲と作家によって書かれた曲が混在しており、自作曲では「アニソンにありがちな」モチーフを周到に避けたような足取りが見て取れる。
輪の中に居心地の悪さを覚える若者の「ままならなさ」を歌曲で表現したものの中では、伝わってくるエモーションが非常に高い作品。
30代のおっさんであるところの僕などが書くと気持ち悪がられるだけだろうけど、アニソンリスナーよりも、普通に生活を送る十代~二十代前半くらいの女性のほうが刺さる歌になっていると思う。
(普通って言葉の存在が同調圧力的で嫌なんですけど)
たぶんSNSが当たり前の時代の若者にとっては、このアルバムでの夏川のように、「自分のしたいことってこんなんだっけ?」とふと我に返る瞬間があるだろうし。
ずっと真夜中でいいのにとか、ミセスグリーンアップルとかが好きな人は、本作に共感するところがありそう。
もっと活動の幅が広がると面白いですね。
149 バンプ・オブ・チキン/ジュピター(2002)
藤原基央さんはなぜ若い頃から、達観した視点から詞を書くことができたのだろう。
私は熱心なファンではないので、時には説教くさく感じてしまったりはするのだけれど、バンプのそういうところは本当に特徴的だと思う。
ちなみに田中宗一郎さんは『イマというほうき星 君と二人追いかけている』という歌詞がめちゃくちゃ嫌だったそうである。
藤原基央さんの、RPGなどのゲームっぽいファンタジー風の世界観と、日常の些細な風景を切り取って歌うフォークシンガーっぽい世界観の同居に時々困惑してしまうこともあるけど、本作はアルバムとしてのバランスは取れていると思います。
また、明らかに演奏は下手だけど的確なアレンジが施されていて、聴き飽きない。(バンドの力なのか、プロデューサーの手腕なのかは不明だが)。
00年代以降の文化(アニメや漫画なども含めて)の特徴として、作り手はとことん説明的であろうとすると、受け手もとことんわかりやすくされたものを好む傾向があるように思う。
そういう意味でも00年代以降を決定づけるかのような一枚。
おすすめ1 ザ・グルーヴァーズ/トップ・オブ・ザ・パレード
おすすめ2 シロップ16g/ディレイド
おすすめ3 グッド・ドッグ・ハッピーメン/4人のゴブリン大いに躍る
148 P-MODEL/アナザー・ゲーム(1984)
日本のロック史上類を見ない神経症的な傑作『パースペクティヴ』のあとに制作されたアルバム。
前作と比べると、どこか脱力している感がある。
名曲『フ・ル・ヘッ・ヘッ・ヘッ』収録。
ピンク・フロイドのカバー『BIKE』も必聴の出来。
演奏に関しては原曲そのままだが、平沢先生がオリジナルの歌詞を当てている。
シド・バレットに匹敵する夢遊病感・酩酊感が出ていてスゴい。
やっぱり平沢先生の作詞は天才的。
この曲の詞に関しては、ピンク・フロイド側のチェックも入ったらしい。
フロイドお墨付きの出来。
おすすめ1 ピンク・フロイド/夜明けの口笛吹き
おすすめ2 ジェームズ・チャンス
147 相対性理論/シフォン主義(2008)
相対性理論っぽさを確立するのは『ハイファイ新書』だと思うが、あのアルバムは聴いていると飽きてくる……なんかどの曲も同じに聴こえてしまいます。
この作品は5曲収録のいわゆるEPサイズだが、『LOVEずっきゅん』のような、シングルヒット化しそうな曲が入っているところもいい。
演奏能力のいっぱいいっぱいのところで曲を作っている感じもいい。
やくしまるえつこ氏が汗をかきながら歌っている姿が想像できる。
00年代後期から現在まで、フルアルバムではなくEPがバンドのディスコグラフィーに入ることが多かった。
ヴィレヴァンの広報か企画の人が「フルアルバムだと高い」と語っていたので、こういうところにも若者のお金のなさが問題化していたのだと気づかされました。
これからはサブスクが主流になっていくので、シングルを出しまくる人が増えるのか、それともみんなが心ゆくまでアルバム制作を楽しむのか……どうなるんでしょうね。
おすすめ1 パスピエ/わたし開花したわ
おすすめ2 アーバンギャルド/メンタルヘルズ
おすすめ3 プリファブ・スプラウト/スティーブ・マックイーン
おすすめ4 スティーリー・ダン/カウントダウン・トゥ・エクスタシー
146 サチモス/ザ・ベイ(2015)
彼らがスタジアムバンドを目指し始める前に作られたアルバム。
『STAY TUNE』のようなキラーチューンはないものの、アルバムそのものが湘南の海辺にピッタリのムード。
シティ・ポップでありつつサーファーライクな楽曲が並ぶという、10年代のシティポップリバイバルからは意外と出てこなかった発想は、山下達郎のDNAを受けつごうとする意志の賜物か。
メンバー本人達はイケイケな青年なのだが、歌詞の内容は意外と童貞男子っぽいのは奇妙な屈折である。
英語で歌われてはいるものの、「エロサイト見てる時に出てくるバナー、めちゃくちゃウゼェ」という貧乏青年のオナニーあるあるな曲もある。
あと、「かわいくない子にはモテる……」というかなり泣ける歌も。
リリカルスキルが稚拙な分、他のバンドマンたちが隠そうとする、現代的青年の悩みの吐露を聴くことができるという点は面白いところだろう。
(しかしリリカルスキルが一向に向上してこないのはどうかとも思うが……)
もしかすると、メンバーがサチモスを組む前の時期は、鬱ロックの残党や、女子の心に寄り添うようなリリックがもてはやされた時期だったのかもしれない。
だとすると、彼らのような、カッコよさを純粋に追及するタイプは、モテからあぶれてしまっていたのではないだろうか。
「バンドマンがモテる」という時代の終焉を告げるような、黄昏時に現れた最後のスタジアムバンド。
おすすめ1 山下達郎/ゴー・アヘッド!
おすすめ2 ニルヴァーナ/ブリーチ
おすすめ3 ジャミロクワイ/エマージェンシー・オン・プラネット・アース
おすすめ4 ドナルド・フェイゲン/ナイト・フライ
145 フジファブリック/LIFE(2014)
志村亡き後のフジファブリックの最高傑作。
アルバムのクライマックスに配置されている『カタチ』は志村がフロントマンであった時代を含めても、バンド史上二番目に偉大な楽曲。
三人体制のフジに「なんだかんだ言って曲が志村時代のものにソックリ」という意見があることは理解しているが、『カタチ』は彼ら新しいフェーズへと突入していることを告げている。
なによりメロディがいいし、バンドが志村や志村と共に離れていって元ファンへの気持ちをストレートに高らかに歌い上げていて、誰もが経験する「喪失」を喚起させる。
わがままを言うなら、小沢健二さんのカバー曲『僕らが旅に出る理由』もアルバムに収録してほしかった。
曲として「強すぎる」ので、あの曲が収まるようなアルバムを作ることは一苦労だろうが……。
あの曲が入っていたら、もっと上にランクインさせてます。嗚呼……。
(小沢健二さんが、自身のサイトにて、フジファブリックのカバーに触れた文章がある。短いものだけど、かなり泣けます)
おすすめ1 ピンク・フロイド/あなたがここにいてほしい
おすすめ2 ニュー・オーダー/『セレモニー』と『ブルー・マンデイ』が収録されたベスト盤であればどれでも。
おすすめ3 アジアン・カンフー・ジェネレーション/ホームタウン
144 サカナクション/シンシロ(2009)
1曲目から、4曲目の『ネイティブダンサー』までの流れは最高に好きです。
この次のアルバムからの大作志向的な部分にはあんまりついていけていないので、ポップ・ミュージックとしてバランスが良いのはこのアルバムなのだと思う。
全ての楽曲がウェルメイドに作られているのはわかるのだけど、歌詞もあんまり好きではないですね……。
その辺って結局僕自身が抱く、同世代の音楽リスナーに対する「洋楽もっと聴こうや」という苛立ちに端を発しているものなので、僕自身のそういうフラストレーションが解消されたらもっといい気持でサカナクションを聴けそうな気はしています。余談。
あと大根仁のことが好きじゃないので、そことつるんでいるところも苦手意識の原因かもしれません。余談の余談。
143 P-MODEL/ビッグ・ボディ(1993)
レディオヘッドの『ベンズ』とやたらジャケットが似ている。
P-MODELが90年代に入ってからの、2作目。
ソロ活動を挟んでから、初期にあったようなキチガイ感は薄れており、良くも悪くも曲も歌詞も安定を感じさせる。
しかしどの曲もメロディが素晴らしい。
どこかテクノ・ポップ感をセルフパロディしようとするような、リバイバル的なメカっぽいピコピコ音が面白い。
リバイバルという視点で考えると、渋谷系的なアプローチに近いものもあるかもしれない。時代的にも、そんな感じ。
P-MODELとしての活動の中で、平沢先生の歌メロの良さが最も際立っている作品である。
それにしても平沢先生が作る音楽はなぜこんなにもダンスミュージックの要素がないのだろう。
ブラックなにおいが全然しない気がする。
142 ブン・ブン・サテライツ/オン(2006)
調べていないので詳しいことはわからないけど、ブンブンのアルバムの中で最も売れた作品ではないだろうか。
『キック・イット・アウト』は様々なところで死ぬほど流れていた記憶がある。
ブックオフの500円コーナー巡りをしていた頃、よくこのアルバムを見かけた。(安売りされているってことは、それだけ売れたってこと)
ブンブンのクラブミュージックの要素とロックの要素が最も理想的なバランスで融合したアルバム。
そういったクロスオーバー性という点ではサカナクションと目指すところは重なる部分はあるのだが、ブンブンは実際にクラブの空気がムンムンに漂っている。
00年代の肉体的・快楽的な音楽の到達点。
141 浜田省吾/J.BOY(1986)
いわゆる「シンガーソングライター」像を作り上げた男であり、職人的なシンガーソングライターとしての仕事を全うする男である。
そんな彼が随分と歳をとってから作ったレコード。
完成したレコードを尾崎豊に聴かせたところ、彼は「僕のことを歌っているみたいだ」と感想を言い、ハマショーは「そうだ。君のことを歌っている」と回答したという。(ウィキからの引用です)
ハマショーのソングライティングのセンスとスキルは、やはり鉄壁だということ、時代を嗅ぎ取る嗅覚が優れていたことを物語るエピソードである。
クイーンの『地獄へ道づれ』のリズムを拝借したタイトル曲の、世代を切り取る上手さに酔いしれる。
2018年の感性で聴くと、このアルバムは今の時代には全くマッチしていないが、自分たちの親世代がどんな感情を抱いて生活していたのかを知る手立てとして面白いと思う。
ただ二枚組アルバムなので、とっつきづらさは否めない……ベスト盤から聴き始めるのもいいと思いますよ。
140 ザ・バック・ホーン/心臓オーケストラ(2002)
00年代という鬱ロック時代を全力で駆け抜けたバンド。
僕が鬱ロックという言葉を使う時は、基本的にそこをばかにしているのだけど、バックホーンは鬱っぽい「暗黒」「救い無し」な曲がめちゃくちゃ多いのだけど、よく聴いていた。
一曲一曲のアレンジが面白いうえに、曲をどんどん作っていく姿勢も好きだった。
演奏もとにかく重かった。
しかし本人たちはシャツがジーンズなど、グランジファッションを思わせるラフな格好で活動を続けた。
それは、どれだけ成功しても、ラフで気さくで熱い兄ちゃんキャラだったパール・ジャムのエディのような生き様を体現しようとしていたのではないだろうか。
苦しみを抱える人に寄り添おうとすることはあっても、決して媚びようとはしない高潔なまなざしも、ほんとに好きでした。
139 古明地洋哉/讃美歌Ⅰ(2000)
暗い。とにかく暗かった。
この人の作品は、2004年発表の現時点でのラストアルバム『夜の冒険者』が最も感動的ではあるのだけど、アルバムとしての完成度はこちらに軍配が上がる。
グランジ以降の、重く厚くノイジーなロックに、四畳半フォーク的な叙情とモチーフを載せた、ありそうで意外とない音楽。
しかし、音も歌も、90年代末期の閉塞感を伴っており、出口などどこにもないことを確信するかのように歌い上げられている。
『讃美歌Ⅱ』というEPと同時発売された。
本人曰く「重すぎるので二枚に分けて出した」とのこと。
しかし個人的には、『Ⅰ』に収録された楽曲のほうが好みなので、こっちをランクインさせた。
こんなに重いアルバム、よく正気を保って作れたもんだな。
スヌーザー誌では「闇が鳴っているとしか言いようがない」と評されていた。
スヌーザーは、ほんとに名文句が乱発していた。良い雑誌でした。大好き。
138 大森靖子/洗脳(2014)
いわゆる「アイドル戦国時代」の裏で精力的に活動する、シンガーソングライター。
御幣を恐れずに言えば「メンヘラ」である。
歌われるモチーフは性愛が多いが、それだけにとどまらず、社会のヒエラルキーの低いポジションから見た社会全体が歌われているように思う。
ただしかし、モチーフの扱い方や、光の当て方や、結論へ至る道筋のトリッキーさなど、ただのメンヘラでは到達できないクオリティに届いている。
歌声や歌い方などは純粋にアイドルとして売り出せるものになっているので、そのギャップも面白い。
やはり陰と陽は同時に存在するものだと確信させられる。
liveのパフォーマンスや、SNS上での本人の言動など、スキャンダラスな部分が取りざたされることが多いが、音楽の質はマジでいい。
プロデューサーの手腕も優れているのだと思います。
偏見を取り払って、一度聴いてみてほしい。
137 Shing02/緑黄色人種(1999)
タイトルからして笑える固有名詞のオンパレード『真吾補完計画』なんて、ただネタ曲かと思いきや、リリカルスキルは舌を巻くしかないレベルである。
アルバムのタイトルも最高。
アメリカで育ったShingo02の独特な視点から、確かなラップの腕で日本を切り取って見せた。
シリアスな活動も多いShingo02だが、このアルバムではコミカルなキャラクターで貫かれており、かなり聴きやすく仕上がっている。
11分に及ぶスペース寓話をラップしてみせた『星の王子様』などは、幼稚園生にも聴いてほしい意欲作。
136 山崎まさよし/ONE KNIGHT STANDS(2000)
弾き語りライヴアルバムである。
山崎まさよしにはトリオバンドによるもの、オーケストラ共演したものなど様々なライブ盤があるが、『ワン・モア・タイム、ワン・モア・チャンス』と『ある朝の手紙』が同時に収録されているのが、ベストアルバムを含めても、この作品しかなかった。
タイトル通り山崎さん一人による歌と演奏を録音しているので、氏の大きな魅力である抜群のリズムセンスを堪能することはできないが、その代わり、彼の歌の魅力にフォーカスが当たっているとも言える。
新海誠の映画に使われたワンモア~を筆頭に、山崎まさよしには、すでに離別した昔の想い人のことをよくモチーフにする。
その中で僕が一番好きなのが、『ある朝の手紙』で、この曲では、もう声すらも届かないところにいる相手を思い続けている自分自身を冷静に俯瞰している。
この妙にドライで冷めた感覚は、本当に独特なものだと思う。
なんか泣けます……。
曲単位でいえば、本作には収録されていない『全部君だった』などは山崎の、失恋総決算的な出来。泣けます……。
135 フリッパーズ・ギター/カメラ・トーク(1990)
フリッパーズ、衝撃の二作目。
英語のみで綴られた1stから一転し、日本語の歌が増える。
とはいえ、難解すぎて何を歌っているのかわからないセンテンスがほとんど。
それは僕が非東大卒音楽リスナーだからなのであり、東大卒の方々にとっては容易に理解できるものなのかもしれない。
非東大卒はつらいよ。
アルバムのクライマックスにある『午前3時のオプ』では、焦燥感や喪失感がうかがえるようで、この頃か ら小沢健二さんを駆り立てる感情はそこにあったのだなと感じる。
小沢健二さん、90年代の活動を通して、歌っているのはほとんど一つの風景だったんだな。
それにしても、すべての曲のクオリティの高さよ……。
フリッパーズの1stと2ndさえあれば渋谷系のほとんどは聴く必要がない。
134 モーサム・トーンベンダー/ライト・スライド・ダミー(2002)
モーサムは作品ごとに音楽性がだいぶ違う、日本においては珍しいタイプのバンドである。
打ち込みを大々的に取り入れた作品も魅力はあるが、本作における、3ピースのバンド録音のダイナミズムを追求したアプローチは、かなりの深度に達している。
めっちゃくちゃ重たいのに、遅くならない、絶妙なラインを攻めている。
日本ではあまり盛り上がらなかった感のあるオルタナティヴ・ロック/グランジではあるが、モーサムが孤軍奮闘で続々と傑作アルバムをモノにしていった。
真っ暗な高速道路を重戦車が突っ走っていくような、何物をも寄せ付けないアルバム。
133 平沢進/サイエンスの幽霊(1990)
平沢先生の、ソロ二作目。
一作目と三作目には、ともすればスピリチュアルな楽曲が並んでいるが、その中間にある本作では、闊達に多様な世界観が描かれている。
『世界タービン』の歌の気持ち良さときたら……。
現在でもライヴで演奏されると爆発的な歓声が起こる『夢みる機械』も収録。
『カウボーイとインディアン』という、ハリウッドの世界が描きたがらないアメリカの暗部の告発などもあり、やはり平沢先生の着眼点と詞に落とし込むセンスの良さに脱帽である。
やはり平沢先生の、ソロ初期三部 作は、どの曲も最高ですわ。
132 AL/心の中の色紙(2016)
全メンバーが、まだ本領を発揮できていない感がある。
しかし、マリファナ賛歌の『メアリージェーン』、ネトウヨ応援歌の『風のない明日』など、他のバンドは決して書けない秀逸な楽曲が入っているので、もちろん、10年代の凡百のバンドなどと比べれば崇高な価値を持つアルバムである。
ただ、小山田壮平ファンからしても、長澤知之ファンからしても、「前の作品の方がいいな」感は否めないだろう。
もっとすごい作品を期待してしまう自分の様なリスナーが酷なのだろうか……。
131 ミセス・グリーン・アップル/トゥウェルヴ(2016)
ラッドウィンプス以降の、「若いのに達観しまくった教祖的なリリックを書くバンド」群の中でも、アレンジのセンスがぶっちぎりに高いのがこのバンド。
また、達観した風のことを歌いつつも、カッコつけすぎない等身大の視線が、また絶妙でいい。
教祖的というよりは、クラスの中にいるちょっと大人びた男の子くらいのポジションをキープしているような感じだ。
かと言って、アイドルのように「僕がそばにいるから☆彡」みたいな安いオチをつけようともしないところには高潔さを感じる。
楽曲のフィーリングと、歌と言葉ががっちりと噛み合っている。
当たり前のことのようで、それをしっかりできている人はなかなかいない。
自己分析を他者に仮託する人の多い時代だが、このバンドのように、最初からうじうじせずにからっとしていてくれると、聴いていてとても気持ちがいい。
130 スチャダラパー/ワイルド・ファンシー・アライアンス(1993)
日本のヒップホップにおける偉大な功労者。
コミカルなキャラクターなので、ともすれば、ヒップホップっぽくなさを醸し出しているため手を出さない人も多いと思うが、彼らがラップにおいて土地をバチバチに耕していったことは誰も否定できない事実。
とにかく「わかりやすい言葉で」「ちゃんと聞き取れる言葉で」やるということがポピュラリティ獲得にどれだけ寄与するかがたいへんよくわかる名盤である。
ラップ特有の言葉の多さ=情報量の凝縮によって、笑いながらどんどん深いところまで潜っていく。
他ではちょっとできない体験が味わえる。
129 長渕剛/家族(1996)
長渕剛が大麻所持で逮捕された後に作ったアルバム。
一曲目は、自分を取り巻くコバンザメたちが、事件後に自分を売るような真似をしたということを怒っている。
正直な話、悲劇のヒーロー気取りも甚だしいのだけれど、それでも、長渕のギタリストとしての手腕がいかんなく発揮されているアルバムである。
長渕剛の暑苦しさにはついて行けない人も多いと思うが(僕も無理です)、それを理由に希代のギタリスト・アレンジャーの妙技に触れないでいるのはもったいないことである。
五十嵐隆や向井秀徳など、長渕の音楽のセンスに惚れている人は意外と多い。
128 ズボンズ/ダーティ・ボム(2000)
ローリン・ストーンズを崇拝するドンマツオを首謀者とするロックバンド。
ストーンズのまねごとに陥らずに、自分たちにとってのリアルタイムの音楽であるグランジとヒップホップを通過しているところは流石。
ファンクの追及は、日本における未曽有のファンク・チューン『モ・ファンキー』に結実する……のだが、個人的にはギターの鳴りが凄まじいこちらのアルバムを推す。
雑食的という意味では渋谷系とも共鳴しかけるところがあるが、本人たちは海外進出し盛んにライブ活動を行い、その後オーストラリアに拠点を移す。
このアルバムもほとんどライヴレコーディングだったはず。
二曲目から三曲目のその音圧の高さには圧倒させられるばかり。
127 SAKANA/リトル・スワロウ(2000)
紆余曲折を経て、男女デュオ体制になったさかな。
ギタリスト2名がコア・メンバーとなり、ときに弾語りで、ときに最小限の太鼓やベースが弦楽が入る。
基本的にはフォークやブルーズを基調とした静かな音楽が鳴らされるが、ボーカルのポコペンさんの性別不詳な声は絶対的な個性として刻印されている。
そして歌の世界観。他の人たちが歌わない世界。
前情報を何も持っていなければ、いつの時代の音楽なのか、想像できない。
孤高かつ高潔な世界観を完成させている。
ライブではポコペンさんの天然なMCに癒されます。
しかし、あんなに天然でユーモラスな女の人から、どうしてこんな詞が出てくるのかまったくわからない。天才だ。
(解散しちゃいましたね……お二人の今後の活動に注目したい)
126 田中フミヤ/アンノウン・ポッシビリティ Vol.2(2000)
日本のトップDJの最高傑作。
恍惚的なサウンドスケープ。
目をつむって聴いていると、脳内に、全く見たことのない真っ白な光景が開けてくる。
ミニマル・ミュージックの金字塔。
全然説明できないんですけど、永久に聴いていられる一枚です。
125 ザ・ジェリー・リー・ファントム/メランコリック・チューズデイ(2004)
このバンドも一枚ごとに音楽的参照点を変えてくるので、ランクインさせるアルバムを選ぶのは難しい……が、後のビーチズに繋がってきそうな曲が多く、かつ、パンク・ダンスバンドとしてのポテンシャルもいかんなく発揮されているこのEPを選んだ。
一曲目の『キル・ザ・ロック』のイントロは、ジェリーリーとビーチズ、両バンドの活動を通して見ても最高だと思う。
考えてみると、90年代後期に出てきたバンドってそういう人たちが多かったな。
日本の洋楽文化が花開いた90年前後に思春期を送ったリスナーが、実際にミュージシャンになった時に、海外のバンドのように、一枚のアルバムを作る時に音楽性を絞っているバンドがけっこういたのだなと思う。
00年代も後期に入ると、単調な音楽ばかりをやるバンドや、詰め込み過ぎて情報過多に陥るバンドのどちらかになりがちだった。
ビーチズの活動も休止に入っている今、パンクっぽい音楽しかやらないパンクバンドばっかりになってしまいましたね。
ビーチズでもジェリーリーでもよいので、早く復活してくれることを祈る。
124 アジアン・カンフー・ジェネレーション/君繋ファイブエム(2003)
ウィーザー、オアシス、ナンバー・ガール、イースタン・ユース……今では、録音技術やリズムの実験など、パワーポップファンを引き付けながら高度な音楽を探求する稀有なバンドだが、デビュー時は愛好した音楽家からの影響を隠すことのないストレートなギターロックを鳴らしていた。
「エモ」と呼ばれる潮流の先鞭をつけるようなバンドであったが、意外にも(失礼!)、社会人生活を経た後にデビューしている。
成人してからの方が「社会に居場所がない」という感覚が強かったのかもしれない。
00年代を「モラトリアム」という概念と強い結びつきを見せた時代であったように思うが、「好きでモラトリアムをやってるわけじゃない」という叫びがこのアルバムからは聞こえる。
123 沢田研二/A面コレクション
近年の老いさらばえた姿や奇行が目立つせいで、ミュージシャンとしてのジュリーの評価に陰りが出てはいまいか。
この、闇や苦悩と隣り合わせの人生を歌い続けた男はもっと評価されるべきだ。
昭和のポップスは押しなべてクオリティが高いのだが、やはり、ジュリーや松田聖子のようなスターは良い曲を引き寄せる。
プロデューサーが目利きなのか、本人たちが天才なのか……。
それにしてもジュリーの声の色気が尋常ではない。これはスターとしか言えないわ。
もちろん本作も、A面コレクションとは言え、何も面白みを感じない曲もあります。
ただ、当代一のスター歌手の軌跡に一度も触れずにいることは、もったいないこと。
全曲、井上陽水から提供を受けたアルバムも有り。
幸福になることへの罪悪感に囚われ続けた時代。
122 ラッドウィンプス/おかずのごはん(2006)
『有心論』『ふたりごと』など、後続のバンドへ甚大な影響をあたえる「ラッドっぽさ」の完成形が聴ける。
「キミとボク」と揶揄されるような、恋愛相手との関係性が自分の人生におけるすべて(もしくは世界のすべて)を決定してしまうという強い思い込みを、迷いなく歌にするという方法論。
僕はそういうのが本当に好きじゃないのだけど、ただしかし、ポップスからフックとなる音を引用してくるセンスは優れていたのだと思う。
でも、歌詞の内容も、プッチモニとか浜崎あゆみみたいな、ギャルが聴いてるような音楽家らの引用も多かったりするので、節操なしの音楽だという感じは未だにぬぐえないです。
素直な気持ちで聴けないバンドで す……すみません(笑)。
ラッドの特徴として、ツインギターによるアルペジオの演奏があると思うのだけど、「なんかわちゃわちゃ鳴ってるな……」と毎度思う。
けれどそれも一つの時代の転換点を示しているのかもしれないですよね。
フックを詰め込みまくらないといけない、曲の展開はめまぐるしくないといけないってやつ。
その点ではネット音楽の興隆ともリンクするところがあるかもしれない。
121 三上寛/ひらく夢などあるじゃなし(1972)
フォークなのかパンクなのか……解読できません。
「キンタマは時に抒情的だ」なんなんですか、この歌詞は。
それにしてもこのダミ声のミュージシャンは、高度な音楽性を持つ音楽家とのコラボも多い。
歌詞の世界観も、世の掃きだめを直視し続けているかのようで、非常にストイックに貫かれている。
120番から91番はこちら
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三月初頭に、友人と車でジブリ美術館に行った。この人とジブリ美術館に車で連れて行っ …
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【syrup16g全曲の考察と感想】HELL-SEE
『HELL-SEE』4thアルバム。2003年3月19日リリース。 定価1500 …
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はだしの女の人を観ると劣情を催す 220720
財布をまた見に行く。気になるメーカーの長財布は3パターンあり、フラップが付いてて …
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【syrup16g全曲の考察と感想】パープルムカデとMy Song
『ヘルシー』から『マウス・トゥ・マウス』の間にリリースされた二枚のEPについては …
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ヒプノシスマイクについて(5)快挙! 生ける伝説ZEEBRA(ジブラ)が参戦!
ファッキューメーン!一年以上前に、『ヒプノシスマイク-Division Rap …
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