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『君たちはどう生きるか』の食事描写

   

君たちはどう生きるかの、「食」描写についてまとめました。

宮崎駿監督は2001年の『千と千尋の神隠し』公開後のインタビューで
「飢餓を含めて『食べる』ということが大きなテーマになりうるでしょう」
と語っていました。
日本では戦後から長い間、人々が食うのに困ることがない時代が続いておりましたが、近年になり飲食料品の価格がじわじわと高騰していき、かつ商品の内容量が減るといった状況が進行しております。
また今年になって、食用コオロギを推進しようという流れも急激に進みましたね。
「食料」が貴重な物になりつつあります。
そういうわけで私は個人的に、宮崎駿さんが新作に、この食のテーマをどのように盛り込むのか気になっていました。
鑑賞した感想として、「食べる」ことについて若干触れており、主人公が「満たされた生活を送っていたことに気づき、食のありがたみを知る」といった展開になっていました。
食べることが感動のシーンになっているのは千と千尋以来のことかと思うのですが、あれの名シーンである号泣おにぎり喰らいはお腹が空いていたから泣いているわけではないので、君たちはどう生きるかでの描き方の方が重みがあるかなと思いました。

下記に、食に関する場面を時系列に沿って記載しますが、宮崎さんはしっかり「食べることのありがたみがわかる」構成を取っていることがよくわかります。

1.おばあちゃん達のリアクションから、食糧難であることがわかる
眞人の父が屋敷に持ってきた鞄に食料が詰まっていることに、おばあちゃんたちが「お砂糖舐めさせて」「コンビーフ、まだあるところにはあるんだね」とリアクションしていることから、普通に生活している人々にとって食料品が手に入りにくいことがわかります。
戦争の影響でしょう。
この時期にはすでに食料配給制度によって、各家庭に行き渡る食料は制限されていたもようです。
(でもこの大きなお屋敷勤のおばあちゃん達でも、砂糖を珍しがっているってことは、食料を得ることができるのはお屋敷ではなくて、父個人の特権ってことになりますね)

2.眞人はシベリアを食べない
眞人が自分の部屋に通されてすぐに昼寝を始めます。
なつこさんがお茶とシベリアを乗せた皿を運んできますが、眞人を起こすようなことはせずすぐに退出していく。
シベリアは風立ちぬにも出てきましたが、カステラに餡子を挟んだお菓子です。
おばあちゃん達が砂糖を超貴重品として扱っていたことを考えると、当然このシベリアも貴重な品なはず。
眞人となつこが住むことになる洋館は屋敷から離れのように作られていたので、洋館では別に食料管理をしていたって設定なんでしょうかね。
眞人は昼寝から目覚めますが、ベッドサイドのボードに置かれたままのシベリアとお茶には目もくれずに、外に出て行きます。
その後のお茶とシベリアの行方は描かれないので、眞人は手をつけずじまいだったんじゃないかと思われます。

3.眞人は出されたお茶に手をつけない
直人が塔に入ろうとした後に、なつこが塔の成り立ちを眞人に語るシーンです。
眞人の前にはお茶の入った湯呑みが置かれていますが、眞人がそれを飲んだ形跡はありません。
眞人は席を立つ時に「ご馳走様でした」と威勢よく(おそらくは他人行儀さの強調の意味で)言い、自室に戻ります。
この時、湯呑みを流しに片すようなことはしません。

4.白飯ご飯をかっこむお父さん
お父さんがサイパン陥落という戦局悪化と、それに伴う特需を語りながら白飯をかっこんでいます。
口に物入れたまま喋る人…
その隣で眞人は元気がなさそうに、ご飯をもぐもぐしています。
お父さんはお茶も一気飲みしてみせますが、ご飯は片付けないです。

5.家に飛行機の部品を運んできた工場職員達にお茶と何かの食べ物が振る舞われる
お父さんが職員たちに「一休みしたら工場に戻ってくれ!」と言う場面。
おばあちゃんがお茶と、布を被せたかごを運んできています。
何かしらの食べ物が振る舞われるものと思われます。
特別なシーンではないと思うのですが、食に関連する内容なので一応。

6..おばあちゃん達と大根飯を食べる
学校に行かなくなった眞人が、おばあちゃん達と一緒にご飯を食べています。
食べているのはおそらく大根飯です。
白米が手に入らなくなった時期の日本でよく食べられていたもので、白米に大根を混ぜただけのものです。
眞人が箸で摘んでいるものが大根っぽいのと、引きで映されたカットでは流しに大根の葉っぱがいっぱい残っている様子が確認できる。
あんまり美味しそうに食べていない眞人におばあちゃんが「眞人さんの口には合わんでしょう」と言い、眞人は「美味しくない」と思ったままの感想を返す。
おばあさん達も、眞人の父が持ってきた食料品への反応を見ると、美味しいものが好きじゃないってわけじゃないのは一目瞭然。
食糧不足を感じたことのない眞人が、持たざる者であるおばあちゃんの気持ちを想像できていない感じが出ていますね。
眞人がなぜおばあちゃん達とご飯を食べているのか、あんまりよくわからないのですが、学校に行かなくなり、眞人の分の昼飯を用意しなければいけなくなったけどなつこの具合が悪くてご飯が作れなかったとかでしょうか…。
でもおばあちゃんがこれだけの人数いるのだし、なつこは家事を何もしなくてもいい身分って気もする。
謎です…。

6.白米を糊付けに使う
眞人が弓矢を自作するシーンで、リビング?に虫除けのカゴの中保存されている白米を使って羽を糊付けしています。
他に糊の代用をできるアイテムがなかったとしても、この前のシーンで、おばあちゃん達が大根飯で飢えを凌いでいることが描かれているので、眞人はずいぶん贅沢をしていることがわかります。

7.目ん玉いっぱい魚を捌く
シーンが飛び、異世界に行った眞人が、キリコと一緒に大きな魚を捌く場面です。
眞人の捌き方が下手で魚のはらわたを出してしまいますが、「ハラワタ落とすなよ、ワラワラ達の大事な滋養なんだから」と叱咤されます。
獲った魚は隅々までいただくようにしていることと、眞人が食糧の生産過程を直に見ることでちょっと変化する兆しが見えます。

8.キリコがシチューっぽいものと小さいパンを食べる
キリコの食事シーンには特別な描写はないように思いますが、質素な食生活を送っていることがわかります。
でも食べてるのはパンであって、米ではないんですね。
インコの砦? に米俵が積まれているシーンがあるので、米がある世界ではあると思うのですが…。
キリコが着ているのは和服風の服ですが、部屋にはワンピースがかけてあったり、ちょっとエスニック? 風な敷物があったりとで、キリコの生活があんまり見えてこない。

9.キリコが「腹一杯食わせてやれてよかったよ」と涙を流す
ワラワラ達が空に上がっていくシーンで、キリコが涙を流しながらつぶやきます。
多分ここで眞人は、食べ物を得ることの大変さと、子どもに食べ物を与えることに責任と喜びを感じている大人に触れて、これまでの自分が人からの厚意を無下にしてきた自分を顧みることになるのだと思われます。

10.ペリカンがワラワラを捕食する
かわいいワラワラをバクバク食うペリカン達です。
ただ、ワラワラは可愛いし、キリコが愛情を注いで育ててきたことが伺えるので眞人や我々は感情移入しますが、ペリカンだって食うものがないからワラワラを食うしかないんですよね。
無情な世界。

この後の、部屋に戻った眞人は、おばあちゃんの人形に触れて「おばあちゃん達、ごめんね」と反省を見せます。
贅沢な暮らしを送らせてもらえていたのに、それに気づきもしなかった眞人。
宮崎さんの映画では、「主人公が(物理的に)低い場所にいて、世の中の過酷な現実や穢れを知って成長する」という構成がよく見られますが、この場面もそうだったのではないかと思います。

10.キリコがろくでもないお茶で仲直りさせようとする
一つの急須からお茶が注がれるので、「同じ釜のメシを食う」的な意味があるんかなーと思います。
ただ注がれたお茶を二人が飲むシーンは描かれないので、効果のほどは伺えません。

11.インコに食われそうになる
鍛冶屋を食っちゃったっぽいインコ達に、眞人も食べられそうになります。
後々のシーンだと、インコが農業をしていることがわかるので、食料には不足しているっぽい感じではないと思うのですが、肉が貴重なので人間を食べたいってことなんですかねぇ。

12.ジャムパンを食べる
ヒミがパンにバターとジャムをたっぷり乗せて眞人に振る舞います。
眞人は子どもみたいに顔をべちょべちょに汚してかぶりつきます。
作中で最も美味しそうな食事シーンです。
でも、キリコは漁業で糧を得ていることは想像できますが、ヒミはどうやってご飯をもらっているんでしょう。
庭で菜園をしているっぽい絵は見えますが、それにしても、バターを得るためには何か動物の乳を入手する手段があるはず。
そう考えたら、ヤギなり牛なり、肉を食べられる動物もどこかに存在しているってことなのでしょうか。

13.インコに食べられそうになる
ここからは眞人自身が食べる場面はないのですが、眞人が食べられそうになるシーンが続きます。
インコ達の寝ぐらを見ると、食材は野菜や果物が中心なので、農業が盛んであることが伺えます。
ただ、白いクリームのケーキがあるので、やはりどこかで乳業も行われているはず。
あと、眞人が食われそうになっている場面では、大きな骨が無造作に置かれており、それを武器にしてインコが打ち倒されます。
あれは何の骨なのでしょうか…。
人間の骨の中で一番長いのは大腿骨の骨で、およそ身長の1/4程度の長さになるのだそうです。
眞人が持った骨も、眞人の身長の1/3程度はあったように見えます。
大きめの成人男性の大腿骨であれば、サイズ的にはおかしくないだろうか。
となると、鍛冶屋だったり、あの世界に入り込んだ人間が調理された後、その骨が放置されていたということになるのでしょうか。
眞人とアオサギ、二人が同じくらいの長さの骨を持っていたし、両足分の大腿骨だと考えれば整合性もある。

全体的に、食べ物が「貴重なもの」として扱われている部分は共通しているように思いました。
宮崎さんなりに、前面には押し出さないものの、やはりこれまでと比べれば食べることに多くのシーンを割いているように思われました。
次に見た時は、インコの食文化をもうちょっとよく観察してみようと思います!

 - ジブリ作品, 君たちはどう生きるか

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